祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん

文字の大きさ
19 / 23

レイラ、日常へ?

しおりを挟む


 そうしてレイラは思っていたよりも多額の報酬を王家からもトルドー侯爵からももらい、アルフォンスと共に故郷に帰った。

 そこからレイラはいつもの日常に戻れるかと思っていたのだが……。


 
 レイラは王都から街に帰ってから、実家に帰った王妃からなにかと公爵家の別邸に呼び出されるようになった。用向きとしては美味しいお菓子や珍しい物が手に入ったからなどというどうと言う事のない事ばかりであっのだが。

 そしておそらく王妃やアルフォンスから全ての話を聞いたブレドナー公爵夫妻からも公爵邸に呼び出され、下にも置かないもてなしを受けて可愛がられた。

 アルフォンスは公爵家の1人息子。そして貴族の男性は20代前半が結婚適齢期であるのに、25歳の今になっても全くその気配もなかった事で周囲から随分と心配されていたらしい。
 ……であるからして、初めて出来た息子の本気の意中の女性であるレイラに対して公爵家の人々は非常に好意的だった。ちなみに女性の適齢期は貴族ならば15歳~20歳位だ。


 ……恋人でも無い私を、こんなに歓迎されても困るのだけど……。
 レイラはそう思うのだが、周囲はそうは思ってはいないようでどんどん外堀は埋められていった。

 そしてアルフォンスはレイラが公爵家を訪れる際には出来得る限り同席する。レイラの家にももはやお忍びにならない頻度で何度もやって来ていて、アルフォンスの本気度を表していた。


 ◇


 ある日の、小さな街での昼下がり。


「えーと……。レイラはブレドナー公爵家の方とお付き合いしているの?」

 レイラは自宅兼店舗で学生時代からの友人アマンダからチラチラと様子を窺われながら質問された。横では近所に住む仲の良いハンナも興味ありげに見ている。

「え。……して、ないわよ? 以前の仕事の関係で知り合ってそれからやたらと呼び出されるようになっただけで……!」

 少し動揺しつつ、それを否定するレイラ。

「えーー……。でも、ご嫡男は何度もこの家に訪ねてみえてるわよね? そしてレイラとよく一緒に出かけたりしてるじゃない?」

「違う違う! 凄い『呪い』関係のモノがあるって言うから連れて行ってもらっただけなの! そうしたら何故か、その後に演劇やお食事もセットになってただけで……!」

 必死に否定するレイラに、ハンナが更に追撃する。

「……レイラ。それは世間ではデートというのよ」

 『デート』。……そう聞いて絶句するレイラにアマンダとハンナは笑った。

「まぁ、以前にレイラが話してくれた『1年後』。それを待つまでも無く周りから固められてる感じよね。ブレドナー様の本気を感じるわ」

 以前にハンナやアマンダには王家の事は除いてアルフォンスとの事は話している。

「え。……でも……まだ1年経ってみないと分からないわよ? ……昨日だってアルフォンス様は綺麗な女性に囲まれていて……」

 少しムクレながらそう呟いたレイラをハンナは優しく見詰める。

「……でも、ブレドナー様はその女性達の相手をされていた訳ではないでしょう? あれ程頻繁にレイラの所に来ていて他の女性まで相手は出来ないわよ。公爵家ご嫡男としてお忙しい立場なのだし」

 ハンナはそう言ってレイラを慰める。

 ……が、忙しい国王という立場を持ちながらあちこちの女性の相手をしていた実の父の事を知っているだけに、レイラは苦笑するしかなかった。

 マメな人はいるものだ。ただそのマメさをもっと国政や王妃や家族の為に使えば良かったのにと思わずにいられないレイラなのだった。



 ◇


 ……そして、あの王妃への『呪い』の事件からもうすぐ1年が経つ。


 王妃殿下は相変わらずブレドナー公爵家の別邸でお暮らしで、側にはヒース卿が控え仲良く過ごされている。
 そしてそこに偶に国王陛下が訪ねてくるようになった。王妃は国王をすぐに追い返しているようだが、これからどうなるかは誰にも分からない。


 そんな訳で王国では第一子であるフィリップ王太子がほぼ国政を担うようになっていた。

 第二王子のヴェルナーは兄王子を支えつつ、国王と共にブレドナー公爵家を訪ねていた。国王が王妃に早々に追い出されても、ヴェルナーは公爵家に残って母と会い、そして更に可愛い妹レイラに会いに行く。
 ……実は国王一家でレイラが妹だと知っているのは王妃とヴェルナーだけ。

 父はともかく兄フィリップが知らないのは悪い気もするが、兄は王太子として厳しく育てられた為か共に育った妹フェンディにもそれ程関心を示していない。おそらく知らせた所で「そうか」で終わりだろう。
 そして兄には既に妻と子供達がいる。レイラが今後王家の権力争いに巻き込まれない為にもこの事は秘密にしておこうと王妃とヴェルナーは話し合っていた。

 それにきっと、いずれレイラはアルフォンスと……。


 王妃とヴェルナーは、2人が幸せになってくれればと期待しているのだ。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

侯爵令嬢は追放され、他国の王子様に溺愛されるようです

あめり
恋愛
 アーロン王国の侯爵令嬢に属しているジェーンは10歳の時に、隣国の王子であるミカエル・フォーマットに恋をした。知性に溢れる彼女は、当時から内政面での書類整理などを担っており、客人として呼ばれたミカエルとも親しい関係にあった。  それから7年の月日が流れ、相変わらず内政面を任せられている彼女は、我慢の限界に来ていた。 「民への重税……王族達いい加減な政治にはついて行けないわ」  彼女は現在の地位を捨てることを決意した。色々な計略を経て、王族との婚約を破断にさせ、国家追放の罪を被った。それも全て、彼女の計算の上だ。  ジェーンは隣国の王子のところへと向かい、寵愛を受けることになる。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

処理中です...