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一年後の、その日に
そしてやって来た、アルフォンスがレイラに愛を告白してからちょうど1年経つ記念すべき日。アルフォンスがレイラにこの1年で変わらぬ想い、いや更に深くなった愛を告白する日なのだ。
その日は朝からブレドナー公爵家は緊張感に包まれていた。
……何せ相手はあのレイラ。相手が貴族だろうが何だろうが、自分の嫌な事を受け入れる事などしないだろう。いや、相手が貴族だからこそレイラの心は頑なになる。
そんなレイラがアルフォンスに対して設けたこの1年という期間。アルフォンスはずっとレイラに愛を表現して来たつもりだ。そしてブレドナー公爵家も王妃も、勿論ヴェルナー王子もレイラを囲い込み……いや可愛がって来たつもりだ。
アルフォンスの想いは通じるのか? そしてこの1年でレイラの貴族や公爵家に対する嫌な気持ちは取り払う事は出来たのか?
ブレドナー公爵一家は異様な緊張感に包まれていた。朝早くから王妃も本邸にやって来て共に緊張している。
朝食も早くに済まし皆がまんじりとしていると、その緊張感に耐えかねたブレドナー公爵がアルフォンスに告げた。
「……あー、アルフォンス。……そろそろレイラ嬢の所に出発してはどうか?」
早くこの緊張感を解きたい一心の言葉だなとアルフォンスは苦笑した。
「いえ父上。あまり早くに到着してもレイラは嫌がります。昨日は急ぎの仕事の依頼もあったと聞きますので」
「うむ……。そうか、まああのレイラ嬢だからな……」
ブレドナー公爵はレイラのあの媚びない様子を思い出し、今彼女の機嫌を損ねる事は得策ではないと納得した。
「……けれどレイラならばその辺の『呪い』など直ぐに解呪してしまっているのではないの? やはりより早い時間に行った方がお前の待ち切れない熱い想いを分かってもらえるのではなくて?」
思わず王妃も口を挟んだ。やはり王妃も早く話が決まって欲しいのだ。
「……いえ。レイラには10の刻に訪ねると言ってあります。5分前に、彼女の家の前に立つつもりです」
アルフォンスとて、早くレイラの顔を見たい。そしてこの1年の変わらぬ想いを彼女に伝えたい。
しかしこの1年何度か約束よりも早く到着する事があったが、その度にレイラに「え。○時の約束でしたよね? あまり早くに来られても困るんですけど」と冷静に返された。まあ彼女は仕事をしているのだから仕方ない事は分かっているのだが……。
しかし今回の一世一代の勝負所で最初から間違えたくはない。
バンッ!
アルフォンスは両手で頬を叩いて気合を入れた。
……絶対に、レイラを捕まえる!
その気合いの入ったアルフォンスを家族は心配そうに見ていたのだった。
◇
……あ。来たみたい。
レイラは外の馬車の音を聞いて思った。この1年何度もこの家を訪れたブレドナー公爵家の馬車の音。レイラはすっかり聞き分けられるようになっていた。
そして今まで何度も約束よりも早くやって来たアルフォンス。今回も彼の大好き? な30分前に来るのかもと今日は早くから準備をして待っていたのだが。
約束の10の刻の5分前に馬車が到着。……うん、非常に常識的な時間だ。けれどこんな大切な日に時間ピッタリだなんて……と思いかけて、今まで自分が散々早いと彼に言ってきたからだわと思い直す。
今日はアルフォンスの告白からちょうど1年経つ日。彼からも今日は自分の為に空けておいて欲しいと以前から言われていたし、レイラもそれなりに考えていた。
アルフォンスからは近くの湖畔を散策してから領都のレストランで食事をと言われているので、今日はレイラにしては少しお洒落をしている。……前回アマンダと買い物に行って冷やかされながらも一緒に選んでもらったのだ。
……ふう。
心を落ち着けようと、レイラはゆっくりと息を吐いた。
そう、レイラもこの1年、アルフォンスへの想いを深めていた。
……本当は、相変わらず貴族は苦手だ。
けれどアルフォンスや彼を取り巻く公爵家の人々は、とても暖かい人達だ。そして、王妃や時々会いに来てくれる兄ヴェルナーも。
コンコンッ……
「レイラ? アルフォンスだ。開けてもいいかい?」
レイラが色々と考えていると、アルフォンスが扉の前までやって来た。
「っはいっ! ……今、開けるわ」
緊張で少し声が上ずってしまった。急いで扉を開ける。すると目の前には、いつもよりきちんと正装した緊張気味のアルフォンスが立っていた。
彼はレイラを見ると微笑んだ。
「……綺麗だ、レイラ。ありがとう。待っててくれたんだね」
レイラもアマンダお見立てのいつもより綺麗目なワンピース。一目で自分の為だと分かったアルフォンスは嬉しくてたまらなかった。
……だからアルフォンスは考えていた予定は全て抜けて、思わずレイラに告げていた。
「レイラ。……約束の1年が経った。私はずっと変わらずレイラを愛している。いや1年前よりも更に君を愛しているんだ。最早レイナの居ない私の人生は考えられない。私の、妻となって共に生きて欲しい」
……本当は、湖畔を歩きながらか領都で評判のレストランで告白をするつもりであったのに。レイラの家の玄関辺りで会ってすぐに告白してしまうとは!
そう少し後悔したものの、しかし自分の為にお洒落をして待っていたレイラを見たらもうアルフォンスは止まれなかった。
一方レイラは。
今日はアルフォンスから1年前の告白からの答えを聞けるとは思ってはいた。
……彼の心が変わったのかそうでないのか。
おそらくアルフォンスや彼の家族の様子から良い方になるとは思っていたが、……実をいうと、かなり不安だった。
レイラとは『良い友人』若しくは『専属祓い師』としてにしてくれ、やはり貴族同士でないと一緒にはなれない、などと言われる可能性もゼロではないと思えて最近は少し憂鬱でもあった。
それが、アルフォンスから「愛してる」と言ってもらえた。
レイラは現実主義者ではあるが、当然人を愛する気持ちはあるのだ。物語みたいな恋はイマイチ信用していないけれど、彼の事は信じていたい。
母のように騙される事になったとしても、この気持ちを信じていたい。
「アルフォンス様……。私も、貴方が好き、です……」
レイラは顔を赤らめながらもアルフォンスの顔を真っ直ぐに見て言った。アルフォンスは目を見開き、泣き笑いのような顔をした。
そしてレイラを引き寄せ、そっと抱きしめた。
レイラは今日は1年前のように彼を押し除ける事はせず、アルフォンスの背中に恐る恐る手を回して頬を彼の胸に寄せた。
レイラは、アルフォンスの鼓動を感じていた。……すごく、ドキドキしている。この方も、緊張してたんだわ……。そう思うとレイラは少し安心して微笑んだ。そして思わず言った。
「アルフォンス様。……私、貴方が私の父のように騙しているのだとしても、今は貴方を信じます」
……アルフォンスは、思わず仰け反りそうになった。
「……レイラ? 私は叔父上とは違うから! あの方は、ある意味特殊だから! あれだけマメに浮気出来る男はそうそう居ない!」
若い頃から相当あちらこちらの女性に手を出してきた国王。暇さえあれば街にお忍びに行きレイラの母とも頻繁に会っていた程に。思わず叔父である国王をディスってしまったアルフォンスだったが。
「……え? イヤイヤ、そんな事ないですよ? ここに仕事を依頼される『呪い』の依頼の約8割の男性はそういう人達でしたから。男性の少なくとも8割は父みたいな人なんです」
レイラは真顔で否定した。……『祓い師』に依頼をするような男性は女性とのトラブルが原因である事が多い。実の父と、仕事上そんな男性ばかりを見てきたレイラ。彼女の男性への評価は恐ろしい程底辺になっていたのだ。
アルフォンスは思わず頭を抱えた。
……しかし考えてみれば世の中そんな男ばかりと思いながらも騙されていても自分を好きと言ってくれたレイラ。
それがどれだけ貴重な事なのかに気付いたアルフォンスは喜びでどうにかなりそうになった。
「……レイラ。覚えておいて。私はレイラだけを愛している。いつかレイラのその認識を変えてみせるから」
そう言ってアルフォンスはレイラの髪を優しく撫で、おでこにキスをした。
レイラは真っ赤になった。……いつもの『ヤ』は出なかった。
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