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結婚式と呪い
そして、レイラとアルフォンスの結婚式が始まる。
レイラは数日前に顔合わせしたばかりの新たな義父であるトルドー侯爵と挨拶した。侯爵夫妻はとても優しい方々でレイラを温かく迎えてくれた。そして以前の王妃の『呪い』の解呪の件をレイラにとても感謝された。
そんな侯爵にエスコートされレイラは教会の中に入る。ヴァージンロードの先にはレイラを見て微笑むアルフォンスが待っていた。
2人は侯爵に礼をし、司教の元へと歩き出す。
アルフォンスを見ると微笑まれレイラは少し照れてしまった。恥ずかしくて思わず視線を招待客の方にやる。
そこで、ある男性に目が留まった。
……ん? アレってまさか。
招待客の中でも1番前の一際良い席に座る、あの男性は。
レイラはパッとアルフォンスを見ると、彼も困ったような顔をした。
どうやら、特に招待した訳ではないのにやって来たようだ。ブレドナー公爵夫妻も時折視線をやっている。
……いや、一国の国王が突然参列するってどういうこと。
ブレドナー公爵家は筆頭公爵であり国王がその嫡男の結婚式に来ても不思議ではないのだが、明らかに隣の席の王妃は嫌そうな顔をしている。
……そうか、もしかするとここならば王妃は逃げられないと踏んでやって来たのか。
……人の結婚式をダシにするのはやめて欲しい。
そう思って見ていたのだが、レイナはふと気になって国王をもう一度よく見た。何か、黒いモヤが見える。
え。あれって……。国王が何やらおかしな『呪い』に捉われてる……!
レイラはチラとアルフォンスを見るが、流石に緊張で気が張っている彼は異変に気付いていない。
……仕方ない。とりあえず式が終わってからアルフォンス様に話して別室で国王の解呪を……。
そう思ったレイラはとりあえずは国王をそのままに、式を続行する事にした。
2人で神の前で愛を誓う。……が、やはり集中出来ず、レイラはとりあえず無事に式を終えたいとばかり考えてしまっていた。
そして次は誓いのキスへ。
アルフォンスがレイラのヴェールを上げ、微笑んでキスをしようとした。……流石にこの時点で彼も国王の周りの不穏な空気に気付いていたようだ。
王妃は隣にいる国王の様子に怯えながらも、結婚式に水を差してはいけないと我慢しているようだ。
レイラとアルフォンスは目を合わせ、頷いてから軽くキスをした。……初めてのキスは、半分心ここに在らずの軽いものだった。
そして大司教はこの結婚が成立した事を宣言する。
……その時、国王の黒いモヤが更に広がった。周囲の人々が騒ぎ出す。
王妃も式が成立した事もあり、慌てて立ち上がりその場を離れようとした。が、それを止めるように国王が手を伸ばす。王妃の悲鳴が響いた。
騒然となった教会の中で、レイラは国王の前に立つ。そしてその横にはアルフォンス。
この結婚式の主役2人が『呪い』にかかった国王の前に立ち塞がった。
人々は恐怖に震えながらも、その場に立ち止まりこの3人の様子に見入る。
そして公爵家などの高位貴族は周りに被害が及ばぬよう結界などの魔法の処置を行う。
「レイラ。陛下と私たちの間に結界を張る。思う存分やってくれ!」
「ッ! 分かりました、アルフォンス様!」
夫となったアルフォンスはやって欲しい事を言わずとも分かってくれた。レイラは少し驚きつつも、これが夫婦というもの? と感じ入りながらも国王に向き合う。
そしてレイラはアルフォンスが国王の周囲に結界を張った事を確認してから、国王に対して解呪の為の魔法を展開させる。
レイラの周りに繊細な光の糸が渦巻き、国王の黒いモヤを絡み取っていく。
そしてレイラは改めて父でもある国王を見た。
母を弄び王妃を傷付け続け、他にも沢山の女性達を傷付けてきたであろう国王。今、自身の周りから人が離れて初めて自分が不遇な身であるとでも考えているのだろうか。
レイラは、何故か可笑しくなった。
……ああ。この人は、とても弱い人だ。
恵まれた王国の美しき王子として生まれ育ち、魔力や政治能力も持ちそれ程努力無しに何でも手に入れてきたであろう人生。
それが最近、こぼれ落ちるようにほぼ何もかもが無くなった。王妃が出て行きそれまで固めた『愛妻家』という嘘の評判も崩れ落ちた。子供たちも成長して自分をアテにはしてはくれない。
……今、この人は自分の存在価値自体が大きく揺らいでいるのだ。
……それで。ワザと『魔除け』を付けなくなったのね。
一国の国王という者は、いつも誰かに狙われている。そこで『魔除け』などの護りが無ければ『呪い』にかかるのはあっという間だろう。
そして王妃が必ず来るだろうこの場で、その彼女の目の前でどうにかなってしまおうと? それともただ心配して欲しかった?
レイラは国王にかかった『呪い』を解呪しながら、その憐れな男の姿を見た。
アルフォンスはレイラが国王を祓っている途中から、憐れむような目で国王を見ている事に気が付いた。
……本当の、父と娘。
それなのに、あまりにも遠い。
父はその娘の存在を知っているのかも怪しいし、娘もそんな父を居ない者と考えている。
……どう考えても、叔父上が悪いが。彼は余りにも沢山の女性や子供を苦しめてきたのだから。
アルフォンスとしてはレイラが存在する事だけは国王に感謝するが、その生い立ちや国王の行動を考えると怒りの気持ちの方が強い。国王に嫁いだ叔母の気持ちを考えても勿論そうだ。
しかし国王は1年前のあの事件から、急速に力を失くした。
ザマアミロという気持ちもあり、そのまま放置してきたが……。国王なりに、かなり悩んでいた所を『呪い』につけ込まれたといったところか。
そうこうしている内に、レイラの丁寧な魔法で国王の『呪い』は取り払われようとしていた。
魔法の光の糸が、少しずつ解れ無くなっていく。そしてそこからは先程までの黒いモヤの取れた国王が居た。
そして残った光の糸は国王の身体を静かに椅子の上に横たえた。
◇
……ブレドナー公爵家嫡男の結婚式に招待された沢山の人々は、聖なる儀式のような奇跡のようなその光から目を離せないでいた。
「……アルフォンス殿は身分違いの『祓い師』と、周りの反対を押し切って結婚したと聞いていたが、コレは……」
「これだけの力は、平民ではあり得ない……! 本当はどこぞの貴族の落とし胤なのでは?」
「確かに。これは王侯貴族に匹敵する力だぞ」
教会内からチラホラと声が上がる。
レイラの光の糸は国王の身体から少しずつなくなった。そこに、今は王妃の専属の祓い師であるヒース卿が近寄り、国王の容態を診る。
「……国王陛下は完全に、『解呪』されております。レイラ様。お見事でございます」
そう皆に宣言するように述べた。
おおっ……!!
静かな教会に人々の感嘆の声が響いた。
「……私は『祓い師』ですので。陛下がご無事で良かったです」
いつもならここで報酬の話をするのだが、この場で言うのは流石にダメだと分かったので、これ以上はレイラは何も言わなかった。……のだが。
「う……」
「!! 陛下! 目覚められましたか!」
ヒース卿初めブレドナー公爵やトルドー侯爵などの高位貴族達が近くに駆け寄る。
「う……む。何やら、夢を見ていた……。ルイーズが、私を助けてくれた時の、あの時の夢を……」
国王はそう言ってその周囲の人々に視線をやり、そしてその中の1人に目を留めた。
「ッ! ……ルイーズ……! ああ、私は夢を、まだ夢を見ているのか……?」
国王はそう言うなり、レイラに向かって手を伸ばす。
…………何を、言い出すんだ、この人は!?
レイラは分かりやすく非常に嫌な顔をした。
『ルイーズ』とはレイラの母の名。……一応、覚えてはいたんだと感心しつつも、こんな人の多い所でしかも今更何を言い出すんだ! という怒りの方が大きい。
「今回の、『呪い』の後遺症で混乱されているのやもしれません。アルフォンス様、どうか陛下を安静に休ませて差し上げてください」
平坦な声で夫アルフォンスにそう願い出た妻レイラの、心の中の静かな怒りを確かに感じたアルフォンスは早急に動いたのだった。
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