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最終話 ヤ、じゃない。
「……まったく……! 可愛い甥の目出度い席で、いったい貴方は何をなさっていらっしゃるのかしら!? 『魔除け』をワザと外しこのような事態を引き起こすだなんて! 呆れてモノも言えませんわ!」
「全くです。一国の王ともあろうお方がなさる事とは思えません。一つ間違えばお命を失っていたのですよ!」
国王があの『呪い』を解呪された後、ヒース卿から今回国王が『魔除け』を外した為に呪いにかかったのだろうと言われた王妃と息子ヴェルナー王子は大いに呆れた。
そして妻と息子から容赦なく叱られた国王は酷く落ち込んでいた…………、訳ではなかった。
「……お前たち、知っていたのだろう!? あの娘、レイラが私の娘だという事を! 私が若かりし頃街へ出て不意打ちで食らった『呪い』から救ってくれたルイーズの娘だと!」
国王は、妻や子から叱られ呆れられているにも関わらず大変興奮して言った。
「……知っておりましたよ。……なんですか、父上はレイラに何度か会った事があるにも関わらず、今までお気付きにならなかったのですか!?」
ヴェルナーは少しイライラして父に問いかけた。
……レイラは髪や瞳の色は全く違うが、顔はどことなく父に似ている。ヴェルナーも1年前あの騒ぎで王妃から聞いて知っただけだが、兄妹と聞いてストンと腑に落ちたのだ。
それにレイラがあれだけの魔力を持つのは、やはり王家の血を引いているからだろう。今日のレイラの『祓い師』としての力を見て改めてそう感じた。
「う……。いや、しかしッ! それならばあの娘を正式に我が子と認めてやらねばこの公爵家に嫁ぐに苦労するであろう!?」
「それはございません。あの娘は既にトルドー侯爵家の養女となっておりますが故に。今更貴方の娘と認知される方が騒ぎになりあの娘は苦労いたしますわ」
王妃は淡々と事実を話す。
「いやだが……! 私は父親なのだぞ!? きっとあの娘もこの父に声をかけられるのを待っていたはず……」
「あ、それはないです」
必死に言い募る国王の言葉を遮って入って来たのは、その娘本人であるレイラ。そしてその横には夫となったアルフォンス。2人はこの後のパーティー用の衣装に着替えてからここに来たのだ。
「……私が父親の事を知ったのは、母が死んでからです。遺品の整理をしていたら昔の日記が出てきて……。そこには母と貴方との出会いから別れまでが書かれていました」
レイラが淡々と話し出すと、国王は感極まったように言った。
「そうか……、ルイーズが私との事を日記に……。もう大丈夫だ。これからは私がお前を娘として保護しようではないか!」
しかしレイラはアッサリと言った。
「いえ。ですから必要ありません。……私は3年前には何故自分がこれ程の魔力を持っているかの理由を知りました。そして1年前、偶然にも貴方様と会う機会がありましたが、この事を言うつもりはありませんでした」
……しかし娘であるレイラを見ても気付く素振りもなかった父親に、少し落胆していた事をアルフォンスは知っている。アルフォンスはそっとレイラの手を握った。
レイラはアルフォンスを見てフワリと笑ってから、国王に向き直る。
「そして私は、もう成人し結婚もいたしました。愛する夫と新たな家族となった公爵家の方々、そして大切な人達に囲まれています。……今、私には離れていた父親の保護は必要ないのです」
「ッ! そんな……」
国王はガクリと肩を落とした。
この国の成人年齢は16歳。貴族は政略でもっと早くに結婚する事もある。
「父上。貴方は本当にご自分の事ばかりなのですね。今回の『呪い』を祓ってくれたレイナに真っ先に礼を言うべきでは?」
ヴェルナー王子は至極尤もな事を国王に告げた。
この父は国王としては立派にやり遂げていたようだったが、こういう当たり前の事は全く分からないのか。
今までも自分の『愛妻家』の体裁だけ整えて影では自由を謳歌していたのだから。周りの側近達に随分と助けられていたのかもしれない。
「陛下。貴方は感動の親子の再会とでも考えていたのでしょうが、相手にしてみれば貴方は1人の女性を弄びその子供も放置し続けた酷い加害者。憎むべき相手でもあるのですよ。レイラには今までの謝罪と今回の礼を述べるべきでしょう。
そして、離れて見守るのも親の愛情ですわ。……いい加減ご自分の都合の良いお考えを押し付けようとするのはおやめなさいまし」
妻である王妃からもそう諭され、国王は項垂れつつもレイラに謝罪と今回の礼を述べた。
妻と子に言われてからのやっとの謝罪だったのでレイラはそう心に響くことはなかったが、まあこれで自分の中で何か一区切りがつくのかしらと考えながら一応それを受け入れた。
◇
その後は、公爵家で披露宴があり沢山の招待客への対応で大変だった。
しかも結婚式で呪いを発症させた国王への『祓い師』としてのレイラの実力と仕事ぶりに皆感心したようで、何か有れば是非に仕事を頼みたいとたくさんの貴族達から随分熱心に言われたのだった。
『元平民』という事で何かあるかもと思ったが、ブレドナー公爵家や王妃やヴェルナー王子、トルドー侯爵一家にも守られ、そしてレイラ自身の『祓い師』としての高い価値もあり、これもなんとか上手くやっていけそうだった。
そうしてブレドナー公爵家嫡男の結婚を祝う盛大なパーティーは佳境を越え、花嫁であるレイラは退出した。
「ふわぁ……。流石に今日は疲れたわ。結婚式だけでも緊張状態だったのに、まさかの『仕事』まで入るんだから……」
湯浴みをしながらレイラがそうボヤいた。
「ですが、その呪いを祓うレイラ様はとても神々しかったと、皆様方そう口々に仰ってましたわ!」
「そうですわ! 公爵家の方々はあのアルフォンス様を射止めただけでもレイラ様を凄いと仰っていたのに、今回の事でご家族皆様鼻高々でいらっしゃいましたよ!」
公爵家に入るにあたりレイラ付きとなってくれた侍女達はそう口々に誇らしげに言った。
「……いえ、一応それは私の仕事だから……。貴女達がこうして仕事をしてくれてるのと同じ事だから」
そう、このブレドナー公爵家の人々並びに使用人達は何故か最初からレイラに随分と好意的だ。公爵夫妻は王妃から1年前のアレコレを聞いたからかなぁと思うのだけれど、使用人達は自分達よりも身分的には低いだろうレイラを主人とするのはイヤじゃないのだろうか?
「まあレイラ様はなんてお優しい可愛いお方でしょう!」
しかしやはりレイラ付きの侍女達はレイラを可愛がり続けるのだった……。
「……さ。レイラ様。こちらでございます」
そう言って侍女に連れてこられたのは。
公爵家の、とても豪勢なお部屋。
「え、と……。ここは?」
レイラが戸惑いながら聞くと、侍女にとても良い笑顔で答えられる。
「ここは、公爵家御嫡男の夫婦のお部屋でございます。今日からここがレイラ様のお部屋になります」
「え。……そうなの? ヤ、もうちょっと小さなお部屋で良いんだけど……。広過ぎてなんだか落ち着かない」
レイラがそう不安そうに呟くと、侍女はふふと笑う。
「お2人のお部屋ですから、広過ぎるという事は御座いませんわ。……それでは私どもは失礼いたします。おやすみなさいませ」
そう言うと彼女達はさっさと部屋を退出してしまった。
この広過ぎる部屋で1人残されたレイラはハタと思い至る。
……そうか……! 今日からはアルフォンス様と一緒……!
プロポーズから結婚式までの怒涛の2週間。そして結婚式での国王の『呪い』騒ぎ。余りにバタバタ過ぎて今夜の事をきちんと考えてなかった。
うわぁどうしよう! ……隠れちゃう?
部屋に隠れられそうな場所がないかと挙動不審にキョロキョロとしていると、扉がノックされる。そしてレイラが返事をするまでにアルフォンスが入って来た。
「ちょっ……! アルフォンス様! 私まだ入っていいって返事してないのに……!」
レイラが慌てて言うと、アルフォンスは困ったように笑って言った。
「レイラ。……逃げるか隠れるかしようと思ってただろう?」
「ッ!? ……なんで……?」
「分かるよ。レイラの事は」
そう言ってアルフォンスはレイラの側にゆっくりと近付く。思わず後退りしようとしたレイラをアルフォンスは素早く手を取り掴まえる。
「……今日は、逃してあげられないよ」
「ッ! ……逃げようなんて……」
ちょっと、隠れようとしただけで。
なんて言い訳にならない事を言いかけてやめた。
……アルフォンスが、その緑の瞳で真っ直ぐにレイラの事を見つめていたから。
「レイラ。今日から私達は夫婦だ。私はレイラを愛している。そして、レイラのレイラらしいところも。今までのように嫌なことは嫌と、そう言ってくれていい」
「アルフォンス様……」
レイラは外見と中身の印象が全然違うと、今まで散々そう言われてきた。けれどこの愛しい人はレイラのそのままを愛してくれる。
「……私も。アルフォンス様の油断ならない所も意地悪な所も。……案外好きですよ」
レイラはそう言いながら少し恥ずかしくて目を逸らす。
アルフォンスのクスリと笑う声が聞こえた。
「……レイラ。キスをしても?」
「……え」
レイラの顔が赤く染まる。
……え。そんなことを聞いちゃうの?
「……ヤ……」
そう言ったレイラにアルフォンスは少し残念そうな顔をする。
プロポーズから結婚までの怒涛の2週間。レイラを逃がしたくない一心からとはいえ、余りにも急で彼女に無理を強いてしまった事はアルフォンスも自覚している。
「…………ヤ、…………じゃ、ない……」
もはや真っ赤な顔になっているレイラにアルフォンスは優しく微笑みキスをした。
《完》
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