《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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危険な『賭け』

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「ッ!? アルベルト殿下!? 何を仰っているのかお分かりですか!? 自ら評判を落とされるなど……。下手をすれば殿下の王位継承権にも関わってくるやもしれませんのよ!?」


 アルベルトには7つ歳の離れた弟がいる。
 アルベルトがよく出来たのでそれを覆し弟を王太子になどとは今まで話にも上がってはいなかった。……しかし、アルベルトが明らかな失態を犯せばあり得ない訳ではない。


「……分かっている。これはあくまでも学園内での事だけのつもりだ。本当に私が失脚してしまえばエディット王女との縁談自体があり得ない事になるからね」


 アルベルトは側近達に相談して、エディット王女に気持ちを伝え2人は両思いとなっている。
 ……そしてアルベルトとツツェーリアの卒業までに婚約解消が成り立たなければ結ばれることはない事は王女も理解している。エディット王女は彼の卒業まではなんとか他の縁談を避けると言ってくれているのだ。


「それならば、何故そのような危ない賭けを……」


 ツツェーリアは思わずそう呟く。


「賭け、か……。確かにそうだ。私は『賭け』に出るのだ。もうこの位の事をしないと婚約を解消するなど無理なのだ。それにこの方法ならば貴女を……婚約者側の傷を最小限に抑える事が出来るはずだ」


 男性側が評判を落とし世間的に『婚約解消やむなし』と思わせる。明らかに女性側には非はないと思わせるということなのかとその考えに驚く。
 しかし、セイラはどう出るだろうか? 彼女は明らかに王家か高位の貴族と恋愛関係となりたいのだ。『ただの協力者』でいてくれるとは思えない。


「しかしながら、セイラ嬢はどうされるのです? 彼女はおそらくは貴方の妃、もしくは愛妾になるのが目的でしょう。その願いを叶えてやるというのですか? そのような事はきっと王女は望まれないはずですわ」


「私とてそのような不実な事をするつもりはない。私の妃はただ一人。……もし婚約の解消が出来ずツツェーリアと共に生きる事になっても、妻は一人だけだ」

 
「それは……! ……素晴らしいお考えだとは思いますが……。けれどもおそらくセイラ嬢は殿下との既成事実を作ろうとなさりますわよ。セイラ嬢は男性好みの可愛いらしさをお持ちですもの。殿下は彼女と共に過ごしながらそれを跳ね除ける事が出来ますかしら」


「それが出来なければ、私は全てを失うということだ。ツツェーリアやエディット王女と共に居る資格も無い。そんな愚かな私ならば王位も弟に譲ろう。……それならばツツェーリアだけでも自由になれる」


 アルベルトのその思い詰めた様子にツツェーリアはなんとか思い留まってもらおうと懇願した。


「ですが殿下……! どうか、どうかお考え直しくださいませ。このような事、もし上手くいったとしても世間ではとても褒められた話ではありませんわ!」


「それでも……。今までどのような方法をとっても成し得なかったのだ。……私は、最後の『賭け』に出る。
……勿論、これはブルーノとマルクスの同意を得られればだが」


 アルベルトはそう言いながらも、既にもうそれをやり切る気でいるのは明らかだった。


 ツツェーリアはそんなアルベルトを見ながら、これから吹き荒れるだろう嵐の予感に身震いするのだった。


 ◇


「アルぅ~! 何処へ行くのぉ?」


 甘ったるい声に呼び止められたアルベルトは一瞬無表情になってから笑顔を貼り付けた。


「……ああ。今から図書館に今度の課題の調べ物にね」


「ええ、そうなのぉ? ふふ。……ねぇ、セイラも行ってもいい?」


 セイラは男子から絶対に高評価のあざと可愛い笑顔で擦り寄った。


「…………勿論だよ。ブルーノ、マルクス、セイラ嬢の鞄を持ってあげて」


 ブルーノとマルクスも無表情に必死で微笑みを貼り付ける。

「さぁ、荷物を持つから貸して」

「……さあ行こう」


 
 ───あれから、アルベルトとブルーノとマルクス、そしてセイラは一緒にいる事が増えた。

 ツツェーリアと話をした後に側近2人と話し合い、皆でアルベルトの言う所の『賭け』に出る事に決めたのだ。


 そこには卒業するまで学園でセイラの非常識な振る舞いに付き合い、3人の評判を落とす事。……しかし周りからおかしな疑いをかけられないように各家や王宮などではセイラと関わらない。
 そして護衛を増やし3人共絶対に1人にならない事や、評判を落としつつ後々彼らに出来るだけ不利な話にならないような様々な事を取り決めた。


 そして、彼らはセイラにも最初にある程度の話をしておく事にした。


「──私達は、詳しい事情は話せないが今の婚約者との婚約の解消を考えている。
彼女達から離れそして諦めさせる為に、セイラ嬢、私達と暫く共にいて協力をして欲しい。君が私達のこの条件をよく理解し『周囲に敬意も払いつつ』力を貸してくれるなら、後々は悪いようにはしないつもりだ。そして『普通にしていたら』、その後に王族の友人としての強い立場は手に入る」


 この計画が上手くいけば、セイラは今は他の貴族達に嫌われてもその後で王子達の協力者として認められ強力な後ろ盾も出来て本人も子爵家の将来も有望。その後良い縁談にも恵まれるだろう。


 ……しかしこれはセイラ側からすれば、どうとでも受け取れる頼みだ。

 この場合、彼らが婚約者が嫌いで別れようとしていると思うかもしれないが、どう考えるかはセイラ次第。本当の彼らの想いを明かすつもりはない。セイラにはあくまで婚約解消の為の『協力者』となってもらうだけ。

 そして『王子の友人』として行儀良く相手となっていればセイラの行く末は明るいはずだが……。
 欲を掻けば身を滅ぼす事にもなる。


 それを理解しているのかは分からないが、彼女はその話を二つ返事で引き受けた。
 いつもの、あざとさを感じる笑顔であったから自分に都合の良く考えたのかもしれない。


 アルベルト達は、決してセイラを信用している訳ではない。しかし今回の計画に協力してもらう以上、この契約期間はセイラに都合良く振る舞うつもりであるしその後も悪いようにはしないつもりだった。
 ……しかし彼女がそれを履き違えたなら───。


 アルベルト達はセイラに『周囲に敬意を払う事』『貴族として普通に過ごす事』を最初の条件に挙げている。セイラは入学当初からそれが出来ていないから何度もそれを念押しした。セイラはその度にそれを分かっていると答えていたが……。
 しかし『その時』の状況がそれに当てはまらなかったなら……。セイラの未来は暗く辛いものになる事だろう。
 
 とにかく、セイラに忠告はした。今までの非常識を考えるとどう動くかはかなり未知数だが、彼女の未来が決まるこれからをどう行動するかは彼女次第でもある。


 基本的には事を成し得た後はセイラを『友人として』守る行動をしようと考えていたアルベルト達だったが───。



「ねぇ、アルぅ? この後2人で抜け出さない?」

「───私は警備の都合上誰かが側に居なければならない」



「ねぇ~ブルーノ? 2人きりでお話ししたいの」
「マルクスぅ~。2人で一緒に……、ね?」

「「殿下を差し置いて2人になどなれない」」



 ……やはりというかなんというか、セイラはやたらと2人きりになりたがった。


 ……やはりこれは、ツツェーリアが言っていた通り『既成事実』とやらを作ろうと考えているのだな。

 そう悟った3人はとにかく学園では1人にならないように徹底した。



 そしてこのままいくとセイラは最初の忠告を無視し、自滅する事になるのだろうとも思うのだった。

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