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彼女の手を取る者
しおりを挟むルードヴィヒが連れて行かれた扉を見た後、ユリアナとランベルトはゆっくりと互いの顔を見た。
そして、お互い苦笑する。
「……はあ。……うん、彼は想像以上だったね。でもここまでやればもうユリアナを諦めるかな?」
「私を、というより『キルステン伯爵家』を、だと思うけれどね。どちらにしても私が成人してランベルトと結婚したらもう彼にはどうにも出来ないわよね」
「そりゃそうだ。僕は正式にランベルト キルステンになると王家に届けは出してあるし、ユリアナは成人して正式にキルステン伯爵位を受け継いだ。他の誰にもどうにも出来るはずないね。……そういえば、ルードヴィヒはマヌエラ嬢とはもう正式に婚約を結んであるの?」
「いいえ。届を出す時にマヌエラが『伯爵家の後継ではない』と気付かれてはいけないから執事が長引かせて、その後は止めているとヘリング辺境伯……大叔父様が言っていたわ。大叔父様は今回のこと、随分お怒りでしたもの。今頃叔父達は大叔父様に叱られて全て事実を知ったのではないかしら」
後で大叔父に話を聞くとその通りだったそうだ。叔父一家はまず最初にランベルトの父フリーマン侯爵にピシャリと事実を突き付けられ、動揺している時にダメ押しで大叔父様に叱り付けられた。……ちなみに大叔父は父達の母方の叔父でヘリング辺境伯である。
遠方の親戚なのでこちらの味方になってもらえるか分からずすぐに声を掛けられなかった。しかし正義感の強い方で次からは何かあればきちんと相談するようにと言ってもらえた。なんとも心強い。
「───全て解決したようで良かった。だけど、僕との結婚はやめさせないよ?」
「勿論よ。そんな事絶対にしないわ。……今回の事、屋敷を奪われたり色々仕方がないと諦める事もあったけど……
ランベルトとこうなった事だけは彼らに感謝しなければならないわね」
「……そうだな。そしてあの時、君が僕に婚約者の相談をしてくれて本当に良かったよ。他の奴に相談して君をとられていたらと思うとゾッとする。僕はもうユリアナを手放すなんて考えられない」
───ランベルトが婚約者探しの相談を受けたあの時、ユリアナは結婚相手の条件として『嫡男でない事』を挙げた。つまりユリアナのキルステン伯爵家に婿入り可能な人間、という条件だったのだ。
世の中に次男以降の貴族は多い。そして皆出来るならば貴族の婿入りを希望し探している。それが『伯爵家』となれば喉から手が出る程良い条件だ。
一方ランベルトは侯爵家の三男だが婚約者は居なかった。彼自身王子や高位貴族と仲が良いので将来的には文官か殿下の側近として働いて上を目指し、結婚はその時に都合の良い政略でと考えていたのだが……。
好意を待ってはいたが婚約者がいて諦めていたユリアナがフリーになり新たな相手を探していると分かればそれに乗らない手はない。
ランベルトは改めて愛しい人を見つめる。
……元婚約者が馬鹿な男で良かったよ。お陰で僕は愛しい女性も爵位も手に入れた。これから僕は愛する人を元婚約者や愚かな身内から守り、愛し抜いて生きていく。
「……さあ、そろそろ式の時間だ。行こうか、愛しい人」
ランベルトはそう言って恭しくユリアナに手を差し出した。ユリアナはこみあげる喜びを抑えつつランベルトの手をゆっくりと取る。互いの手の温度を感じて2人は少し照れたように微笑み合い、新たな道へと歩み出した。
◇
───その後、叔父一家はユリアナの結婚式が終わると大慌てて屋敷に戻ったが……。戻った『キルステン伯爵』の屋敷前には、叔父一家の荷物が使用人達により既に纏められていた。すぐにでも出て行かなければならず、行き先はそれまでに住んでいた約一年放置していた小さな王都の外れの屋敷。……まずは掃除をしなければ寝ることも出来ないだろう。
彼らは約一年『後見人』として一人娘のユリアナが学園を卒業するまでの間、屋敷を管理するという立場にいただけ。その管理費として考えられる額以上に使った生活費は後で全て返還しなければいけない事になっている。
そしてルードヴィヒとマヌエラは正式に婚約はしておらず、やはりというかルードヴィヒはマヌエラを捨て新たな婿養子先を探す事にしたようだ。
しかしルードヴィヒの遊び癖に生活態度、そして『爵位』だけを求め立て続けに女性を捨てたという事実は皆の知るところでありその後婿養子どころか普通の縁談も纏まることはなかった。
その後未亡人の所で愛人として暮らしていたらしいが、年月を経てその美しさが損なわれ更にそのいい加減な態度が改まらなかった為に何処かに放逐されたという。……その後の彼の行方は誰も分からない。
マヌエラはその後母方の男爵令嬢に戻ったが、一年間『自分は伯爵令嬢』と名乗っていた為周囲の冷たい対応に晒された。その中で新たな結婚相手を探したが、今回の件を知っている者も多く更に一年贅沢をして借金まで出来ていた為かなり難航したようだった。
その後は真面目な文官と知り合い、慎ましやかに暮らしたという。
───そしてユリアナは、叔父達に乗っ取られていた間に屋敷を守り続けてくれた大切な使用人と、何より得難い愛する夫ランベルトと共に手を取り毎日を大切に暮らした。
《完》
最後までお読みいただきありがとうございました!
本見りん
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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