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花嫁の控え室
しおりを挟む「───あら? 外が騒がしいわね」
無事に学園を卒業しユリアナは結婚式当日を迎えていた。花嫁の控室にはユリアナに昔から仕えてくれた侍女たちが今日のめでたい日の主人を誰よりも美しく着飾っていた。
「なんの騒ぎでございましょう。この良き日に」
侍女達も不審に思い外の様子を見る為に扉に近付こうとしたその時、扉が乱暴に開かれた。
「ユリアナッ!!」
礼儀も何もなく、飛び込むように入って来たのは元・婚約者のルードヴィヒだった。……勿論、今日の式に彼は招待していない。
「───あら。懐かしい方がいらしたのね。私貴方に招待状を出したかしら?」
今ここに来るのは想定外だったが、いつかは自分の所に文句を言いに来るのだろう事は分かっていた。おそらく卒業式にでも誰かから話を聞いたのだろう。
「ユリアナ……君は! 僕に黙っていた事があるだろう! いや、君は僕を騙したんだ!!」
見目麗しいルードヴィヒはまるで悲劇の主人公を演じるかのように大袈裟に身振り手振りをしながらユリアナに言った。
「───はて? 私が貴方を『騙す』? どういう事かしら」
「しらばっくれるなッ! ユリアナ、君は僕に言わなかったじゃあないか。生前に伯爵がキルステン伯爵の次代の後継者は君だと王家に正式に届けてあった事を!」
「あら。そうだったかしら」
「僕は聞いていない! 君が僕にきちんと話をしてくれていたのなら……」
「…………両親が亡くなってから、貴方が私の所に来てくれた事ってあったかしら。キルステン伯爵である父がいなくなって、成人していない私に継承権がないと思い込んだ貴方はさっさと私を切り捨ててマヌエラに乗り換えたんですものね」
ルードヴィヒは怒りか恥ずかしさか分からないが顔を赤くした。
「何を言ってるんだ! 当然だろう? 僕はキルステン伯爵となるべく君と婚約したのだから、君に継承権がないなら継承権を持つ者の所にいくのは当然なんだ!
問題は『成人すればキルステン伯爵家を継ぐ』と僕にきちんと伝えなかったユリアナ、君なんだよ!」
「随分と勝手な理屈ね。だけど婚約破棄をしたのは貴方よ」
「───だって仕方がないだろう! 知らなかったんだから!」
そう言ってルードヴィヒはユリアナに突っかかってきた。
『だって仕方がない』
ルードヴィヒの、昔からの口癖。
ユリアナは内心『ああまたか』と思った。
「───ええそうね。仕方がないわよ。貴方は知らなかった。……知ろうともしなかった。……だから今こうなっているの」
美しいウェディングドレスを身にまとったユリアナは憐れむようにルードヴィヒを見た。
「ッそうだ、知らなかったんだ! だからあの『婚約解消』は無効だ! 君と結婚するのは婚約者であるこの僕だ!」
身勝手にそう叫ぶルードヴィヒを横目にユリアナはため息を吐いた。
「『解消』でなく『破棄』でしょ。……貴方がそう言ったのよ。そしてそれはもう覆らない。そもそも親が亡くなれば例え成人していなくても子に相続がいくのは当たり前でしょう。……貴方のご両親であるシュレーター子爵もその辺りをよくご存知なかったようね」
あの『婚約破棄』後、一応家同士の契約でもあるのだからとルードヴィヒの両親であるシュレーター子爵夫妻にも確認はしたのだ。彼らは表面上は親を亡くしたユリアナに同情しつつ、息子の結婚相手は爵位のある者でないとと言ってけんもほろろにユリアナを追い返した。
ユリアナはその時にはルードヴィヒとは別れる決心をしていたので、彼らのその対応に情をかける必要はないとむしろスッキリしたのだが。
「───どんな事情であれ貴族同士の婚約なのだから、勿論正式に王家に届けが行っているのよ」
「……そんなもの……ッ! 君が僕を選ぶと言ってくれたらそれで済む話で……」
「───それで済む訳がないだろう」
今まで聞いたことのない程の低い声を出して部屋に入って来たのは、ユリアナの新たな婚約者であり今日夫となるランベルト フリーマン侯爵令息だった。
「何やら騒がしいようなので来てみたら……。僕の花嫁に何をしている?」
ランベルトは昏い低い声でルードヴィヒに尋ねた。その後ろの入り口付近にはルードヴィヒが来てすぐにランベルトを呼びに行った侍女が息を切らせて立っていた。
ルードヴィヒは思わずその迫力に後ずさる。
「……ひ……ッ。……ランベルト? まさか貴方がユリアナの新たな婚約者!?」
「そうだよ。君がユリアナと別れてから、僕たちはお互いを知り想いを深めて来た。もう君が入り込む隙間なんて1ミリもないよ」
そう言いながらランベルトはユリアナの前に行き彼女の上から下までを嬉しそうに眺めた。
「……綺麗だ。ユリアナ。こんな男がいるのは気に食わないけれど式の前に君の美しい姿を見れたのはラッキーだったな」
「……ランベルトったら。ルードヴィヒにはそんな風に言ってもらえた事がないから恥ずかしいわ……」
思わず顔を赤らめる花嫁にランベルトはクッと笑う。
「ああ。僕は真に大切な人を放ってあちらこちらに目移りするような(クズな)男ではないからね」
ランベルトはルードヴィヒに当て擦りのように言ったのだが、ルードヴィヒは将来の自分の立場や爵位の事しか考えていなかった。
「ちょ……ちょっと待てッ!! 僕は、僕は本当に知らなかったんだ! だから仕方ないじゃないかッ! 僕は、知ってたらユリアナと別れたりなんかしていないッ!」
ルードヴィヒはその美しい顔を歪ませて必死に彼らに向かって叫んだ。
ユリアナとランベルトはそんなルードヴィヒに冷えた視線を移す。……それを見たルードヴィヒは思わずびくりと震えた。
「───『だって仕方がない』じゃない。ルードヴィヒは私を無視していて話が出来なかったのだもの」
「…………ッ!!」
ユリアナが冷たく言った言葉は、いつも自分が言う口癖で。ルードヴィヒは思わず言葉に詰まる。
「……ルードヴィヒはユリアナを無視していたのか。それでは話せる筈がない。じゃあ『仕方がない』よね」
追い打ちをかけるようにそう冷たく言ったランベルトの言葉にルードヴィヒが茫然としていると、やがてやって来た警備員達に彼は連れ出されて行った。
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