『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん

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卒業の挨拶

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 ───王立学園卒業式の前日。

 ユリアナは久しぶりにキルステン伯爵邸の叔父に挨拶に行った。
 出迎えた叔父一家は満面の笑顔だった。


「卒業後、すぐに結婚してしまうなんて寂しいわ、ユリアナお義姉様」

 ……お顔が笑ってるわよ? 
 ユリアナは勝ち誇るマヌエラに静かに微笑みを返す。

「ユリアナ。本当に新たな婚約者は存在するのかね? 寸前になっても相手を我らに紹介すらしないとは」

 ……そりゃあ、ね。
 ユリアナは叔父に少し困ったように微笑む。

「あなた。あの美しい婚約者ルードヴィヒ様と別れて次の婚約者なんて、恥ずかしくてこちらに紹介なんて出来ないのでしょう。察しておあげなさいな」

 ……恥ずかしいのはあなた達ですけれどね。
 ユリアナは叔母にはにかむように微笑んだ。


 まあ明日の卒業式を終えればすぐに結婚式ですし。挨拶だけは済ましておかなければね。


「……結婚すれば、叔父様達とはお別れですもの。式が終わればもうお会いする事もないでしょうし、私からの最後のサプライズですわ」


 ユリアナが少し目を潤ませてそう告げると、3人はそれは嬉しそうにニヤリとした。


「そうよね。ユリアナお義姉様はこれから私達とは離れて辛い暮らしをするんだろうから頑張ってね。あ、私とルードヴィヒ様の結婚式は私が来年卒業してからになるから招待状をお送りするわ」

「……うむ。しかしここからはお前には援助は無いから我が家をアテになんかするんじゃないぞ」

「ここはもう貴女の実家ではありませんから、帰って来ようなんて考えない事ね」

 そう告げた3人に、ユリアナは少し悲しい気持ちになった。

「……はい。よく覚えておきますわ」


 ……その言葉、絶対に忘れないわ。そっくりそのままをお返しします。


 ◇


「ははははは!! こんなに上手くいくとは思わなかったぞ。これで名実共に私がキルステン伯爵だ!」

「嫌ですわ。義兄上様が亡くなった時点で貴方がキルステン伯爵だったでしょう?」

 高笑いするユリアナの叔父アルノーに同じく笑いを抑えきれないその妻。

「一応嫡子であるユリアナが居たからな……。兄さん達が死んだのがユリアナの成人前で良かったよ。女神は私達に微笑んだのだ!」

「本当よね! 兄弟なのに伯父様は伯爵でお父様は男爵だったなんて……。そんなのずるいもの! これまでユリアナだけこんな素敵な暮らしをしていたんだからこれからは私が貰って当然よ。……ふふ、素敵な婚約者もね」


 いとこであるマヌエラも昔から伯爵令嬢であり美しい婚約者のいるユリアナが妬ましかった。


 ユリアナが屋敷を出た後、『全てを手に入れた』と確信した彼らは高笑いをしながら祝杯をあげた。


 ───そこに控える使用人達の冷たい視線に気付かずに。



 ◇


 ユリアナの結婚式当日。

 ……前キルステン伯爵の弟であるユリアナの叔父アルノーは、親を亡くしたたった1人の姪の卒業式に行かなかった。
 しかしそのユリアナが名実共にキルステン伯爵家から出ていく事になるこの結婚式には一家でホクホク顔でやって来た。


 彼らが教会に到着し入っていく参列者を見ていると、たくさんの立派な貴族達がいた。

「……なんだ? 何故こんなに沢山の貴族が……。ユリアナはキルステン伯爵家を出ていくというのに」

「あなたこれは……もしやユリアナの結婚相手が貴族、という事なのでしょうか、それもかなり高位の……」

「……ッ! あの方、殿下だわ! まさかユリアナと仲が良かったの?」


 彼らは今更ながらユリアナの結婚相手を聞いておかなかった事を悔やんだ。しかしとりあえず中に入れば相手は分かるのだろう。

 彼らは当然のように花嫁側の一番前の席に座ろうとして……止められた。
 止めたのはキルステン伯爵家の親戚達だった。
 親戚達はにこりともせず親戚の中では一番後ろの席を指し示した。
 何故か親戚たちに冷たくあしらわれ、アルノー一家は渋々指定された席へと座る。
 
 早速アルノーの妻は不満を漏らした。

「何故私達がこんな後方の席なのです?」

「分からんが……、まあユリアナは我がキルステン伯爵家とはもう関係がない、という事なのだろう」


 アルノー一家が不満に思いつつ席で式の開始を待ちながら周りを見ていると、花婿側に次々に現れるのは高位の貴族達ばかり。
 そして一番前の花婿の両親の席に座ったのは……。

「あの方は……フリーマン侯爵……! まさかユリアナの結婚相手はそのご子息なのか! マヌエラ、どういう事なのだ! 同じ学園なのに知らなかったのか!?」

「そんなの私も知らないわ! フリーマン侯爵の子息はユリアナと同じクラスだったかもしれないけど、まさかそんな仲だったなんて……!」

「クッ……! 侯爵家と縁続きになるのであればそうと言えば良いものを、ユリアナめ……! ……ふん、まあ良い。それならそれでこれから我が家の格も上がるというものだ」


 アルノーはそう良いように考え直した。姪が侯爵家に嫁ぎ、自分は侯爵家とも縁付いたキルステン伯爵として大きく飛躍する姿を想像する。


「───失礼。貴方は確か、ユリアナ嬢の叔父君では?」

 不意に声を掛けられアルノーがそちらを見ると、そこには立派な紳士。

「───は! フリーマン侯爵閣下! 如何にも、私はアルノー キルステン伯爵でございます。この度は……」

「貴方がキルステン伯爵だって? ははは……、面白い事を言う。貴方はユリアナ嬢が成人するまでのただの中継ぎ人であろう」

「は? ……いえ私は亡くなった兄の跡を継ぎまして」

「───キルステン伯爵家の正式な後継者は一人娘であるユリアナ嬢だよ。基本的に成人までに親に不幸があった場合は後見人を付けて成人すれば子が跡を継ぐ。それは当たり前の話なのだが、貴方は何を言っているのだ?」


 叔父アルノーの言葉を聞いたフリーマン侯爵が不機嫌そうな低い声で話し出したので、周囲の貴族達も何事かと彼らを見た。
 アルノーは焦りつつそんな筈はないと言い返そうとした時、前から声が掛かった。


「───ああ。アルノーは昔から空想癖がありましてな。ユリアナが成人するまでの間、『キルステン伯爵』となった夢でも見ていたのでしょうな」 


 現れたのはアルノーやユリアナの父の母親の弟である、ヘリング辺境伯。アルノーが昔から苦手な人物だ。


「叔父上……! 何を仰るのです? 兄が亡くなれば弟にその爵位がいくのは当たり前で……」
「……アルノー!!」


 苦手ではあるがこれは譲れないとアルノーは言い返そうとしたが、普段から軍を纏め隣国と対峙する辺境伯である叔父の低く太い声で遮られた。


「常識で考えよ。その兄に子がいるのに弟に爵位がいくはずがないだろう。
……しかもお前達は伯爵家の管理どころかその財産を良いように散財していたそうだな。今後お前達はその散財した分をきっちり返還せねばならないぞ」

「───え……」

 アルノーは血の気が引く。

「当然だろう。……私はお前の兄イーヴォ達の葬式の後このような事になっているとは知らず、今回この話を聞いた時には余りの怒りで兵を率いてお前を討ち取ってやろうかと思うたわ、このたわけ者が! ……穏便に事を済ませてくれと願ったユリアナ達に感謝するのだな」

「ヘリング辺境伯殿。……これからは我が息子ランベルトがユリアナ嬢を守りこのキルステン伯爵家を盛り立てる事でしょう。勿論私も不穏な動きが無いよう彼らを監視させていただきます」


 王家の信頼の厚いフリーマン侯爵とヘリング辺境伯に睨まれ、叔父アルノー一家は小さくなるしかなかった。


 
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