『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん

文字の大きさ
3 / 6

叔父アルノー一家

しおりを挟む



「ユリアナ義姉様! 来てらっしゃったのね」

 ……自分の家に帰っただけですけどね。
 ユリアナは一つ歳下のいとこであるマヌエラに無言で微笑んでみせる。


「聞いたぞ。学園を卒業したらすぐに結婚するそうじゃないか。まあそういう事ならば我が伯爵家から少しは援助してやろう」

 ……そのお金はあなたのものではありませんけどね。
 完全に当主気取りの叔父に少し苛立ちつつも、ユリアナは笑顔を崩さない。


「ルードヴィヒ様がうちの可愛いマヌエラを選んでしまったから……。御免なさいね、ユリアナ」

 ……熨斗のし付けてくれてやりますわよ。
 男爵家出身の叔母はユリアナの母の宝石を身に付けてニヤリと品なく笑う。ちっとも悪いとなんか思っていないのだろう。ユリアナは笑顔のつもりだけど、少し引き攣っているかもしれない。


 どれも口には出来ないのでユリアナはとりあえずもう一度ニコリと微笑んでおいた。


「……まあユリアナは、もうキルステン伯爵家とは関係のない人間だから好きにすれば良い。とりあえず我が家に迷惑さえかけなければ目をつぶってやる」


 叔父達は兄のたった一人の忘形見である娘ユリアナがキルステン伯爵家に婿養子に入るはずだったルードヴィヒと婚約破棄、その後学園卒業後すぐに他の男性と結婚すると聞いて喜んでキリステン伯爵家代々の教会で結婚式を行う事を許した。
 世間的にも正々堂々とユリアナを家から追い出せると思ったからだろう。

 キルステン伯爵家の娘であるユリアナがこの教会で結婚式を挙げるのは当たり前で叔父達の許可がいる筈はないのだが、邪魔をされるのは困るので話は通しておいたのだ。


「───ええ。きっとお父様もお母様も、何処かで見てくださっているでしょうから」



 
 ───今から3ヶ月前。ユリアナの両親が亡くなった。馬車の事故だった。


 この国には女性にも継承権はあるけれど、それは成人していないと認められない。

 そんな訳で、このキルステン伯爵家の権利はいったん後見人に預けられる事になったのだが───。

 余りにも突然の両親の死にユリアナがショックを受けて茫然としている間に、親切を装って伯爵家にやって来たのが父の弟であるアルノー一家だった。


「兄が死んだ以上はキルステン伯爵家は弟である私が跡を継ぐ」


 そう言い張り、アルノーは伯爵家に家族で居座った。
 我が物顔で屋敷で好き勝手し始めた弟一家に初めは抵抗していたユリアナと使用人達だったが、執事セバス達と相談してとりあえずユリアナは学園の寮に住む事にした。


 セバスからの報告によると、当然のように両親の部屋だった部屋にはアルノー夫婦が、そしてユリアナの部屋にはアルノーの一人娘マヌエラが住み出したそうだ。

 悔しいけれども、特に大切な物だけは持ち出しそれと分からない場所に隠してある。



 そして、本来ならば頼りにすべきユリアナの婚約者であるルードヴィヒなのだが───。



「ユリアナ。……僕は『真実の愛』を知ってしまった。僕の妻になるのはマヌエラだ」


 ユリアナの両親が亡くなって3ヶ月後の事だった。

 その頃には叔父家族は当たり前のようにキルステン伯爵家で暮らしていた。領地の仕事などは元からいる執事や秘書達がなんとかしてくれている。
 ……要するに、叔父達は伯爵としての仕事を何もせず伯爵家の財産を奪いそれでいて伯爵を名乗り貴族社会に出ているのだ。

 ユリアナは彼らの魔の手から逃れる意味もあり学園の寮に早々に居を移した。しかし屋敷の執事セバスからの定期連絡ではユリアナの婚約者であるルードヴィヒが以前よりも足繁くキルステン伯爵家の屋敷に通っているとは聞いていた。
 ……マヌエラや叔父夫婦に気に入られるべく手土産を持ちその美しい王子スマイルを彼らに大盤振る舞いしていると聞いた時には、ルードヴィヒはいずれ必ずユリアナに『婚約の解消』を申し出てくるだろうとは思っていた。

 ……いや、ユリアナの気持ちとしては複雑ではあった。以前から自分も両親もある程度彼を見限ってはいたとはいえ、一応8年も婚約者だったのだ。急に両親を亡くした婚約者に対しルードヴィヒにも多少は『情』というものがあるのではないかと……。信じていたのかそう信じたかっただけなのか……。

 とにかくルードヴィヒから『婚約破棄』と言われた時には、やっと彼から離れられると思う安堵感と少しは信じていたかった失望感がないまぜになって……。とにかく複雑な心境だった。

 ───が、結果としてはそういう事だ。ルードヴィヒはやはりそれだけの情の無い人間で、ユリアナの爵位だけが欲しかったのだ。両親と話していた通りだった。
 ……彼とは、別れるべくして別れるのだ。


 婚約破棄を告げられた夜、ユリアナは色々考え過ぎて眠れなかった。しかし翌日は眠いはずなのに何故だか妙に目が冴えきっていて、気持ちもルードヴィヒを切り捨てる気持ちに全振りしていた。……所謂、アドレナリンが出過ぎている状態だったのだろう。


 ───もう、迷わない。
 成人したら、然るべき人とすぐに結婚する。

 そう決意したものの、しかしユリアナには今から個人的に新しい婚約者を見つける『アテ』が無かった。ここでまた外面だけが良いダメンズを婚約者にする訳にはいかない。
 そこでちょうどその日の授業が自習になったのを幸いに、同じクラスの『男女共に信頼度・人気No. 1』(学園新聞部調べ)のランベルト フリーマン侯爵令息に婚約者斡旋をお願いしたのだった。



 ───そうして周りにユリアナの婚約者の存在を知られる事なく日々は過ぎた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

妹に全てを奪われた私、実は周りから溺愛されていました

日々埋没。
恋愛
「すまないが僕は真実の愛に目覚めたんだ。ああげに愛しきは君の妹ただ一人だけなのさ」  公爵令嬢の主人公とその婚約者であるこの国の第一王子は、なんでも欲しがる妹によって関係を引き裂かれてしまう。  それだけでは飽き足らず、妹は王家主催の晩餐会で婚約破棄された姉を大勢の前で笑いものにさせようと計画するが、彼女は自分がそれまで周囲の人間から甘やかされていた本当の意味を知らなかった。  そして実はそれまで虐げられていた主人公こそがみんなから溺愛されており、晩餐会の現場で真実を知らされて立場が逆転した主人公は性格も見た目も醜い妹に決別を告げる――。  ※本作は過去に公開したことのある短編に修正を加えたものです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約者に裏切られた私が幸せになってもいいのですか?

鈴元 香奈
恋愛
婚約者の王太子に裏切られ、彼の恋人の策略によって見ず知らずの男に誘拐されたリカルダは、修道院で一生を終えようと思っていた。 だが、父親である公爵はそれを許さず新しい結婚相手を見つけてくる。その男は子爵の次男で容姿も平凡だが、公爵が認めるくらいに有能であった。しかし、四年前婚約者に裏切られた彼は女性嫌いだと公言している。 仕事はできるが女性に全く慣れておらず、自分より更に傷ついているであろう若く美しい妻をどう扱えばいいのか戸惑うばかりの文官と、幸せを諦めているが貴族の義務として夫の子を産みたい若奥様の物語。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない

有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。 魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。 「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

処理中です...