『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん

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叔父アルノー一家

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「ユリアナ義姉様! 来てらっしゃったのね」

 ……自分の家に帰っただけですけどね。
 ユリアナは一つ歳下のいとこであるマヌエラに無言で微笑んでみせる。


「聞いたぞ。学園を卒業したらすぐに結婚するそうじゃないか。まあそういう事ならば我が伯爵家から少しは援助してやろう」

 ……そのお金はあなたのものではありませんけどね。
 完全に当主気取りの叔父に少し苛立ちつつも、ユリアナは笑顔を崩さない。


「ルードヴィヒ様がうちの可愛いマヌエラを選んでしまったから……。御免なさいね、ユリアナ」

 ……熨斗のし付けてくれてやりますわよ。
 男爵家出身の叔母はユリアナの母の宝石を身に付けてニヤリと品なく笑う。ちっとも悪いとなんか思っていないのだろう。ユリアナは笑顔のつもりだけど、少し引き攣っているかもしれない。


 どれも口には出来ないのでユリアナはとりあえずもう一度ニコリと微笑んでおいた。


「……まあユリアナは、もうキルステン伯爵家とは関係のない人間だから好きにすれば良い。とりあえず我が家に迷惑さえかけなければ目をつぶってやる」


 叔父達は兄のたった一人の忘形見である娘ユリアナがキルステン伯爵家に婿養子に入るはずだったルードヴィヒと婚約破棄、その後学園卒業後すぐに他の男性と結婚すると聞いて喜んでキリステン伯爵家代々の教会で結婚式を行う事を許した。
 世間的にも正々堂々とユリアナを家から追い出せると思ったからだろう。

 キルステン伯爵家の娘であるユリアナがこの教会で結婚式を挙げるのは当たり前で叔父達の許可がいる筈はないのだが、邪魔をされるのは困るので話は通しておいたのだ。


「───ええ。きっとお父様もお母様も、何処かで見てくださっているでしょうから」



 
 ───今から3ヶ月前。ユリアナの両親が亡くなった。馬車の事故だった。


 この国には女性にも継承権はあるけれど、それは成人していないと認められない。

 そんな訳で、このキルステン伯爵家の権利はいったん後見人に預けられる事になったのだが───。

 余りにも突然の両親の死にユリアナがショックを受けて茫然としている間に、親切を装って伯爵家にやって来たのが父の弟であるアルノー一家だった。


「兄が死んだ以上はキルステン伯爵家は弟である私が跡を継ぐ」


 そう言い張り、アルノーは伯爵家に家族で居座った。
 我が物顔で屋敷で好き勝手し始めた弟一家に初めは抵抗していたユリアナと使用人達だったが、執事セバス達と相談してとりあえずユリアナは学園の寮に住む事にした。


 セバスからの報告によると、当然のように両親の部屋だった部屋にはアルノー夫婦が、そしてユリアナの部屋にはアルノーの一人娘マヌエラが住み出したそうだ。

 悔しいけれども、特に大切な物だけは持ち出しそれと分からない場所に隠してある。



 そして、本来ならば頼りにすべきユリアナの婚約者であるルードヴィヒなのだが───。



「ユリアナ。……僕は『真実の愛』を知ってしまった。僕の妻になるのはマヌエラだ」


 ユリアナの両親が亡くなって3ヶ月後の事だった。

 その頃には叔父家族は当たり前のようにキルステン伯爵家で暮らしていた。領地の仕事などは元からいる執事や秘書達がなんとかしてくれている。
 ……要するに、叔父達は伯爵としての仕事を何もせず伯爵家の財産を奪いそれでいて伯爵を名乗り貴族社会に出ているのだ。

 ユリアナは彼らの魔の手から逃れる意味もあり学園の寮に早々に居を移した。しかし屋敷の執事セバスからの定期連絡ではユリアナの婚約者であるルードヴィヒが以前よりも足繁くキルステン伯爵家の屋敷に通っているとは聞いていた。
 ……マヌエラや叔父夫婦に気に入られるべく手土産を持ちその美しい王子スマイルを彼らに大盤振る舞いしていると聞いた時には、ルードヴィヒはいずれ必ずユリアナに『婚約の解消』を申し出てくるだろうとは思っていた。

 ……いや、ユリアナの気持ちとしては複雑ではあった。以前から自分も両親もある程度彼を見限ってはいたとはいえ、一応8年も婚約者だったのだ。急に両親を亡くした婚約者に対しルードヴィヒにも多少は『情』というものがあるのではないかと……。信じていたのかそう信じたかっただけなのか……。

 とにかくルードヴィヒから『婚約破棄』と言われた時には、やっと彼から離れられると思う安堵感と少しは信じていたかった失望感がないまぜになって……。とにかく複雑な心境だった。

 ───が、結果としてはそういう事だ。ルードヴィヒはやはりそれだけの情の無い人間で、ユリアナの爵位だけが欲しかったのだ。両親と話していた通りだった。
 ……彼とは、別れるべくして別れるのだ。


 婚約破棄を告げられた夜、ユリアナは色々考え過ぎて眠れなかった。しかし翌日は眠いはずなのに何故だか妙に目が冴えきっていて、気持ちもルードヴィヒを切り捨てる気持ちに全振りしていた。……所謂、アドレナリンが出過ぎている状態だったのだろう。


 ───もう、迷わない。
 成人したら、然るべき人とすぐに結婚する。

 そう決意したものの、しかしユリアナには今から個人的に新しい婚約者を見つける『アテ』が無かった。ここでまた外面だけが良いダメンズを婚約者にする訳にはいかない。
 そこでちょうどその日の授業が自習になったのを幸いに、同じクラスの『男女共に信頼度・人気No. 1』(学園新聞部調べ)のランベルト フリーマン侯爵令息に婚約者斡旋をお願いしたのだった。



 ───そうして周りにユリアナの婚約者の存在を知られる事なく日々は過ぎた。



 
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