『仕方がない』が口癖の婚約者

本見りん

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良い方を紹介してくれる?

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「───という訳でね? どなたか良い方を紹介してもらえないかと思って」


「───は? 昨日婚約を解消したばかりなんだろう? 随分と切り替えが早いんだな」


 ここはユリアナが通う王立学園。王国の貴族達は余程のことがない限りはこの学園に15歳から3年間学ぶ事が義務とされている。


 ユリアナは3年生。あと約一年で卒業だ。


「……そりゃあね。ルードヴィヒにはもう愛想が尽きてたし、執事からも彼がキルステン伯爵家に足繁く通っていると聞いていたしね」


「!? ……ユリアナ、君は今学園の寮に住んでいるんだよね? 彼は婚約者のユリアナが居ない屋敷に通い詰めていたのかい?」


「そうらしいわ。……分かりやすいわよね」


 ユリアナは一つ小さなため息を吐いてからお茶を飲む。
 ここは学園のカフェテラス。先生が休みで自習となったので、他のクラスが授業中でほぼ誰も居ないだろうここに彼を連れてやって来た。……秘密の話をするにはもってこいだった。


「あー……。目当てはマヌエラ嬢って事だね。確かに最近学園でも一緒のところを見かけるな。……ほんと分かりやす……、ああごめん」

「いいのよ。本当に面白いくらい分かりやすいわよね。まあ元々彼はキルステン伯爵家の爵位が目的だって事は分かってたけど」


 ユリアナはそう言って肩をすくめた。



 ───分かってはいたのだ。ルードヴィヒの考えなんて。
 出会った時はまるで王子様みたいだと思ったルードヴィヒは、その人となりを見ればただの思い上がったダメ男だった。

 彼は努力というものをしない人間だった。『努力? ナニソレ美味しいの?』とばかりに勉学も身体を鍛える事も『それなり』だった。大概の事は『それなり』に出来てしまう才能があったが為に、『それなり』で済ませて終わらせる、そんな残念な人だった。

 そしてルードヴィヒは自分の美しさが周りからどう見られるかをよく分かっていた。黙っていてもその魅力で人(女性)が寄ってくる。将来はキルステン伯爵家に婿養子に入る身でありながら、随分と気楽に遊んでいるようだった。婚約者であるユリアナを『それなり』に扱って。


 ユリアナもそれをヒシヒシと感じていたし、流石に父であるキリステン伯爵もそれに気付いていた。そして何度か彼に注意もしてくれていた。……が、


「僕も困っているんですよ。……でも、周りが僕のこと放っておいてくれなくて。こちらから何もしないのに寄ってくるんですから、仕方がないですよね?」


 全く悪びれなく、巷で女性達が見惚れると噂の笑顔で言ってのけた。……父は『こりゃダメだ』とため息を吐いていた。


『仕方がない』


 ……それは、ルードヴィヒの口癖だった。







 昔の嫌な事を思い出し小さく首を振ってそれを振り払い、ユリアナはもう一度目の前にいるクラスメイトのランベルトを真剣に見た。
 ……黒髪に青い瞳の美青年がこちらを少し警戒しながら見ている。彼とは2年生の時文化祭で同じ役員になってからから仲良くなった。


「ランベルトは生徒会の書記に選ばれる位みんなの信頼も厚いし人脈も広いでしょう? 遅くても1年後には結婚してもオッケーな、思慮深くて誠実な男性を紹介して欲しいのよ。……出来ればそう歳の離れていない方がいいのだけれど」


 ちなみに学園の生徒会長はこの国の王子殿下、副会長その他も高位貴族の子弟達だ。まあランベルトだって侯爵家の令息なのだけれど。


「───は? 1年後? 学園卒業してすぐに結婚希望なの?」

「ええ。私の18歳の誕生日が卒業の翌日なのよね。だから出来れば良い方を見つけて成人後すぐに結婚したいのよ」


 この国の成人年齢は18歳である。貴族はこの歳から結婚が出来るし、色んな権利も手に入れられる。


「……はー……。そりゃまた急な話だね。けど貴族の結婚って普通は婚約して準備期間が1年位じゃない? 政略結婚でもないのに、紹介したらすぐに婚約、かー。そりゃ相手も余程結婚を焦ってる奴じゃないと難しいよね。僕を信頼いただいて光栄だけど、そんな奴周りにいるかなー」


 大半の貴族は学園に入る前に婚約者がいる。……すぐにとなると年寄りじゃなきゃ余程領地が遠方だとか借金抱えてるかとかで条件悪くて女性が寄って来ない奴位になってしまわないか? とランベルトが考えていると、


「……あ。条件付けて悪いんだけど、借金とか浮気性とかの人はちょっと……」


「……うん。そりゃそーだよね」


 ……危うく口にするとこだったよ。早まらなくて良かったとランベルトは胸を撫で下ろす。

 そしてその次にユリアナは他の諸々の相手への条件などをランベルトに告げた。


「───え? それって……」


 その条件を聞いて驚くランベルトにユリアナは困ったように頷いた。


「───そうなの。だからこの条件は譲れなくって」

「そりゃ、……まあそれが普通なんだよね。でも、その事ってアイツ分かってるの? 分かっててそんな馬鹿な事───」


 ランベルトは隣のクラスのルードヴィヒを思い出しながら聞いた。とびきりの美青年でありながら目先の事しか見えていない残念なヤツ、というのがランベルトの彼への印象ではある。


「……分かってないと思うわ。私も敢えて伝えていないし。だけど彼が少しでも婚約者の事を気にかける誠実な方だったらきちんと説明出来ただろうし……そもそもこんな馬鹿な事しないはずですものね?」


 ───もしも両親を急に亡くした婚約者を、支えるべく声を掛けてくれていたのなら。たとえ彼が今まで良い婚約者といえなくても事実をきちんと伝えただろう。

 ランベルトはその話に深く納得し同意した。


「───それはそうだ。全てアイツの自業自得だ」



 それからユリアナはランベルトに『良い男性』を紹介してもらえる事になった。

 ……驚いたのは、紹介するからと指定された場所へ行くとそこにいたのはランベルト一人。やっぱりあの条件に合う人は居なかったのかと少し落胆しつつ尋ねると、

「───僕では不満?」

 と返された。

 ランベルトにはそれなりに……いや結構好意を持っていたし、不満なんかはあるはずがなかった。しかし侯爵家の三男であり学園でも優秀で人望も人気もあるランベルトと自分が釣り合うのかとユリアナは不安になった。


「僕がユリアナが良いんだから仕方がない。絶対後悔させないから」


 と結構強引に押し切られてしまった。

 ユリアナは驚いたけれど、そんな少し強引なランベルトも素敵……。なんて思ったのは秘密だ。


 
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