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しおりを挟む王立学園では、生徒に何かしらの役や委員が割り当てられている。
それは学園に通っている以上は身体の弱いシルビアも当然割り当てられた。
ちなみに兄エドガーは社会科の係。婚約者クレール侯爵令息や王族などの高位貴族は生徒会になる事が多いそうだ。
そしてフィーネは図書係。週に何度か図書館で担当のシェンケル先生の元で仕事をしている。
シェンケル先生は金髪よりも白髪が多くなった年配の先生だ。フィーネが図書委員となってから気の良い先生にはかなり目をかけてもらっていると自負している。
シェンケル先生は相手をよく見る。体調が悪そうなら無理を言われる事はない。だからか、身体の弱い生徒は図書係か保健係になる事が多い。
───そんなある日の図書室で。
「───シルビア嬢。君には婚約者がいると聞いているが、仲良くやっているのかい?」
他の生徒達がいない時、本の整理をしながら不意に先生に尋ねられた。
どう答えたものかと悩みつつ、ポツリと呟いた。
「───普通、です」
仲良くなどしていないが、仲が悪いという事もない。何せ一度も会っていないのだから。
……だから、普通。
「普通、か……。喧嘩などはしないのかい?」
「───しないですね」
そもそも会っていないのだから、喧嘩などしようがない。
「ほう、一度も? きちんと相手に言いたい事は言えている?」
「───言えないです」
そう、会っていないのだから。
「それは……。君たちは意見など言い合える関係を築けているのかい?」
「───築けてません」
築けるハズがない。
「!? いや、年寄りから言わせてもらえばいずれ夫婦となるならば、ある程度の喧嘩や意見の擦り合わせなどはしておいた方が……」
シェンケル先生はフィーネの答えに次第に心配になって来たようだ。
そして先生の言う事は尤もだ。フィーネだって結婚するなら相手とそんな関係を築きたい。けれど───。
「───したくとも、出来ないのです。……だって一度もお会いしていないので」
つい、何だか全部面倒くさくなって口にしてしまった。
「……は? 一度も? 入学してから一度も会ってない?」
シェンケル先生は驚きで作業をしていた手を止めフィーネを見た。
「───いいえ」
「ッああ、そうだろう。いくら何でもそんな……。クレール君は今大学部生でもあるし侯爵家の仕事も始めているそうだから忙しくて───」
「───婚約前から、一度もお会いした事がありません」
シェンケル先生はガチリと固まりフィーネの顔を凝視する。
「───ですから人生で一度もクレール様とはお会いしてません」
先生はついには持っていた本をバサリと取り落とした。
「───はぁっ!???」
図書準備室に、シェンケル先生の叫びがこだました。
「いやいやいやいや……。それっていったいどういう事? 婚約自体は家同士で決められた話だろうけれど、普通どんなに気に入らなくても……いや、そもそも一度は会わないと気に入るも何もないでしょ」
先生は余程動揺しているのか早口で捲し立てた。……それをフィーネに問われても困るのだが。
「私も何故かは分かりません。……というか、そもそもこの婚約は仮初のものでいずれあちらが本当に愛する方と婚約をする迄の隠れ蓑の様なものではないかと考えてるんですが。
───先生はどう思われますか?」
シェンケル先生は今まで会った大人の中でもかなり信用のおける方で、入学してからフィーネもたくさん助けられて来た。おかしな噂話などしないし人の悪口を言うのを聞いた事がない。
一般論としてどうなのか、知識人で信用できる先生に尋ねてみようと思った。
「う───。それは何と言うか、……確かにそう考えるのが妥当というか……。うーむ……」
シェンケル先生は腕を組み、考え込んでしまった。……なんだか変な話をして悩ませて悪い事をしてしまったと気付く。
「申し訳ありません、先生。こんな話をして。……ただ、私も宙ぶらりんで……。普通こういった話がどう考えられるのかを、一般論として知りたかっただけなのです」
「いや、そもそも私が君に根掘り葉掘り聞いたのが原因だ。……申し訳ない。
……それにしても、一度も会わず解消しようという流れはどうも、う~~む……」
それからシェンケル先生は暫く悩んでいて、フィーネは余計な話をしてしまったと大いに反省するのだった。
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