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『平凡令嬢』と、それぞれの事情
しおりを挟む「……やはり、ミランダ様はマルクス様があれ程夢中になるだけはあるお方ですわね。
……私とアロイスは、彼がこの公爵家に養子に入った時からお互い憎からず思っておりました。……ですから殿下の学園での『計画』の申し出は、私や我が公爵家にとっては『渡りに船』でしたの」
ツツェーリアは晴れやかにそう言った。
そして『我が家では殿下の身持ちの悪い噂がされている間、分かってはいても本気で怒る父とアロイスを抑えるのが大変でしたわ』と苦笑した。
……確かに、公爵は一人娘のツツェーリア様を溺愛してると有名ですものね。そしてアロイス様も本気でツツェーリア様を案じられているのね。
そう考えてミランダは少しほっこりした。
「侯爵令息ブルーノ様とそのご婚約者もそう。お互いに両思いのお方がおいででしたの。けれど2人が生まれた時に祖父である侯爵に決められた婚約でご両親にも取り消す事が出来なくて困ってらしたそうよ。なんでも侯爵がお若い頃の悲恋の相手のお孫様とか……。お互いの子供同士を結婚させよう、というアレですわね。けれど子供世代はどちらも男の子ばかりで、孫世代に夢を託されたそうですわ。
侯爵は侯爵家で絶対的権力を持ってらしてしかもまだまだご健在。……どれだけ想いを伝えても全く聞く耳を持ってくださらなかったそうですわ」
「……そうだったんですか……」
ミランダもパーティーで見た事がある。厳格そうなおじいちゃん侯爵とそれに振り回される息子達の様子を。……各家庭、色々あるものだ。
「私達はどれだけ足掻いてももがいても、自分たちの力では婚約を解消出来なかったのです。
……そして、マルクス様の想いはご存知の通り。ずっと初恋を大切に想ってらしたのね。けれど今回、マリアンネ嬢だけは頑なになってらしたので困っておりましたわ。彼女だけはこの計画はお話し出来ておりませんでしたの」
少しお可哀想ではあるのですが、と言いながらもツツェーリアはなんとなく苦い表情だ。
「…………それだけマリアンネ様はマルクス様がお好きだったのですね」
ミランダはマリアンネに対して罪悪感がある。……結果的にミランダがマルクスと婚約する事になったのだから。
しかしツツェーリアは苦い顔のまま堰を切ったように当時の事を話し出した。
「……そうでしょうか? マリアンネ様が一目惚れしたのは本当だとしてもマルクス様が自分に全く関心がなさそうだからといきなり侯爵家の力を使って強引に婚約者になられましたのよ」
そこまで言ってから、ツツェーリアは少し落ち着く為にふうと息を吐いてまた話し始めた。
「……そもそもあの方は昔王太子殿下の婚約者候補の1人でしたの。……私が選ばれましたけれど。ですからそれ以来あの方には随分と私は恨まれましたのよ。流石に筆頭公爵家の我が家に何かする事は出来なかったようですけれど、嫌味などは何度も言われましたわ。
当時から周りの方々もあの方の我儘には辟易しておりました。そしてマルクス様と婚約後は彼に近い女性は全て排除にかかられましたしね。本当にお好きだったのならもう少しなさりようがあったのではないでしょうか。あれではお気に入りを独占したいだけの子供ですわよ」
意外に辛辣なツツェーリア様の言葉に驚きつつ、マリアンネの我儘ぶりが子供の頃から結構有名だった事に驚いた。
そして軍務大臣で上司でもある侯爵家が伯爵家の騎士団長に強く婚約を迫ったのだからお義父様……ハルツハイム伯爵も断りづらかったのだろう。
あの後、マリアンネは隣国の伯爵家嫡男との婚約話が出ているそうだ。
「隣国……、ですか」
「……ええ。侯爵家では今までなかなかお話がまとまらなかったから、余計に本人が良いというマルクス様とのお話を侯爵家の力を使って強引に、という事だったようですから。……元々がそんな状況だったので流石に新たな婚約は国内では難しくて、殿下がお動きになられたらしいわ。
新たな婚約者のお力を借りて」
「……隣国の王女様、ですね」
王太子は数年前、隣国の王女と親善パーティーで出逢い恋に落ちたそうだ。
近く王太子達の婚約が発表されるらしい。
「ツツェーリア様。……非常に言いにくいのですが……お辛くはなかったのですか? ツツェーリア様が婚約者として横にいらっしゃった時、お2人は恋に落ちたと聞きしました」
ツツェーリアはミランダの言葉に最初少し驚き、それから少し嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとう、ミランダ様。
でも、私もその時にはアロイスの事を慕っておりましたから。だからこそお2人が恋に落ちた瞬間のご様子にすぐに気付いたのですわ。むしろ、その時私から殿下に婚約の解消を持ちかけたのです」
「ツツェーリア様から?」
「ええ。殿下も私の話を聞き、それを承諾して下さいました。そして2人で国王陛下に婚約の解消をお願いしましたけれど……、答えはノー。
お互いなんの瑕疵も無いのに王家と筆頭公爵家が婚約を解消すれば、国内の貴族達の均衡が崩れる、と。『お互いに好きな相手が出来た』では理由にならぬと却下されましたの」
「……そうでしたか……」
確かに国王の言う事は一理ある。2人はただの貴族では無い。この王国の要となるべき方達なのだ。
国内の貴族の微妙なバランスは、何がきっかけで崩れて大きな事態に陥ってしまうか分からない。
「私達はそれでも諦められず、なんとか機会を窺っておりました。そして、殿下のご友人のお2人も意にそぐわない婚約をしていると分かり……それから私達は悩みつつなんとか突破口を探しておりました。
……けれど、初め殿下からあの計画の内容を聞いた時は本当のところそれはどうかとは思いましたけれどね」
ツツェーリアは苦笑する。……セイラ嬢と一緒になって世間の悪評を買った事だろう。……アレは、ツツェーリアは反対だったのか。
「あの計画は、どなたが……?」
「……セイラ嬢が余りにも何度もしつこく言い寄って来るので、『それならこの状況を利用しよう』と結果的には殿下が決断されたと聞きましたが……。
成功したとはいえ、余り……いえとても褒められた方法ではなかったとは思いますわ」
「……そうですわね」
ツツェーリアは、まともな感覚で良かった。アレをツツェーリアが計画したと言われたら驚く所だった。
「でもまあ、他にどんな方法があったかと聞かれても何も思いつきませんのですけれどね。
……セイラ嬢も、ある意味自業自得とはいえ学園を辞めてしまわれたそうですわね」
「……はい。誰も庇って下さる方もいらっしゃらないようでしたし……。ご家族である男爵家の方が早々に退学届を出して領地に連れ帰られたと聞きました」
王太子や高位の貴族の子息と懇意だと散々他の貴族達に傲慢な態度を取ったセイラ嬢は、王太子達から手を離されどうにもならなくなったようだった。
マルクスからは、セイラには初めから『婚約解消の為の手伝いで友人として側にいる事』と約束していたと後から聞いたが……。
「虎の威を借る狐、状態でしたものね。……殿下達のそばで余りにも調子に乗り過ぎたのですわね」
ミランダは頷いた。
ツツェーリアとミランダは、セイラに対してはそうとしか思いようがなかった。
セイラは王太子達の愛を確信し、ツツェーリアにも随分と失礼な態度を取っていた。そして『計画』と分かっていたとはいえ、想定以上におかしな噂が流れた事でツツェーリアも内心穏やかでは無かったのだ。
「結果的には私は望み通りに婚約の解消も滞りなく済んだので、彼女に対して何もするつもりはありませんわ。……けれど、そうは思わない者もいるでしょう。そしてその者達からセイラ嬢を守る程、私は彼女を許している訳ではないのですもの。
……ご実家の領地に帰られるのは賢明なご判断だと思いますわ」
普通は高位の貴族は面目を潰される事を許さない。ツツェーリアの判断は高位の貴族としては随分優しいのだ。
「そうですね。これまでのことを反省し、領地で静かにお暮らしになるのは良い事だと私も思います」
そうしてミランダとツツェーリアはその後も色々と話に花が咲き、また会うことを約束した。
将来公爵夫人とハルツハイム伯爵夫人となる2人は、これからも仲良く付き合っていくこととなるのである。
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