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『平凡令嬢』と公爵令嬢
しおりを挟む「……本当に良かったですわ。私、あなた方の事がとても気になっておりましたの」
華奢な長い手足に妖精のような容姿のツツェーリア嬢はそう言ってミランダに微笑んだ。
───ここはアルペンハイム公爵邸。
学園の新学期を迎えミランダは王都の屋敷に戻って来た。
マルクスと両思いとなり両家で内々に婚約は決まった。しかし王太子とその側近達の婚約解消というある意味スキャンダルな出来事の直後であり、発表は世間が落ち着いてからという事になった。
新入生も入り学園内もあの騒ぎからやっと落ち着きを取り戻しかけた頃、卒業したアルペンハイム公爵家のツツェーリアからミランダにお茶のお誘いがあったのだ。
今まであの『平凡令嬢』の件で庇われた以外に特に交流もなかったのでミランダは大いに驚いた。
しかし公爵家からの誘いを無碍に断る訳にもいかず、(ミランダがツツェーリアの話を聞きたかったのもあるが)こうして招待を受ける事となったのだ。
……が、結局はミランダがマルクスに口説き落とされ新たに婚約するまでの全てのいきさつ(馴れ初め?)をツツェーリアに白状させられた所だった。
「それで? お2人はやっと想いが通じ合えたのに、まだ婚約はされませんの?」
「……婚約は内々でするのですが、ハルツハイム伯爵が私が学園に通う間はまだ公表しない方が良いだろうとおっしゃいまして。今回の関係者の方々は皆卒業されましたし、学園で1人残された私が周りからあれこれと噂されたり詮索されるのも面倒だろうからと」
「確かに、そうですわね。皆様何かと噂好きでいらっしゃるから……。それは社交界でも同じですけれど、学園ですと毎日色んな方と顔を合わせる事になりますものね。せっかくの学園生活が大変な事になってしまいますわ」
ツツェーリアは頷きながら美しい所作でカップに口を付けた。
ミランダはそれを見ながら、恐る恐る尋ねた。
「…………あの。ツツェーリア様は、大丈夫なのでございますか? 私などより余程貴女さまの方が大変であったとお察しいたします」
それを聞いたツツェーリアは嬉しそうにミランダを見て言った。
「……ふふ。私の事など。
……マルクス様よりお聞きになられたのでしょう? 元々殿下と私は互いに婚約を解消したいと願っておりましたの。なので結果万々歳ですのでお気になさらず」
ツツェーリアは今までの王妃教育の賜物か、非常に洗練された所作。
それでいて、確かに彼女は今日ミランダを迎えてくれた時から非常ににこやかで機嫌が良い。とてもではないが少し前に王太子との婚約を解消した悲劇のヒロインには見えなかった。
「……万々歳、でございますか? では本当にツツェーリア様も、ご婚約を解消したいとお思いだったと……?」
ミランダは未だ半信半疑で尋ねた。……マルクスから王太子達の事情のあらましは聞いたものの、まだどこか信じられない思いだったのだ。
ツツェーリアはそれには答えず、しかし満足げに笑って見せた。
「……私は、今は公爵家の一人娘ですしね」
「『今』は……?」
ミランダはツツェーリアのその言葉に引っかかる。アルペンハイム公爵家には確かミランダと同学年のご嫡男アロイス様がいたはず……?
するとツツェーリアは一度目を閉じ、悲しげに笑った。
「……殿下と私が婚約したのは8歳の頃。その時の私には、2歳下に弟が居たのです。
……ですが、弟は私が13歳の時に───」
「……ッ!!」
ミランダの顔色が変わったのを見てツツェーリアは目を伏せて頷いた。
「……私達は2人姉弟でした。そして母は身体が弱くそれ以上子供が望めなかったのですわ。父は悩みました。一人娘となった私を王家に嫁がせたくは無いと。
けれど、まさか健康であった弟が早逝するような不幸が起こるなどとは思ってもみなかった父は、私と王太子殿下との婚約をまとめる時には王家に随分と強引に働きかけたようでして……。今更それを辞退する事は許されなかったのです。
それで仕方なく、公爵家の縁戚で見所のある子供を養子とし跡取りとして教育していくと決めたのです」
「……それがアロイス様、なのですね」
ツツェーリア様の一つ年下の弟アロイス様。タイプは違うが美形のとても仲の良い姉弟だと思っていたのだけれど……。跡継ぎの為のご養子だったのね。
……でもそれでは今回の婚約解消でアロイス様のお立場は……?
心配そうな顔のミランダを見てツツェーリアは微笑んだ。
「……私、この度アロイスと婚約することになりましたの。発表はもう少し先になる予定ですけれど」
ツツェーリアの爆弾発言にミランダは驚く。
「ええ! ……ツツェーリア様と、アロイス様がですか? ……まさか、無理矢理?」
ミランダは、一人娘としてのツツェーリアと跡継ぎの為の養子であるアロイスの問題を一気に解決する為の無理矢理の婚約なのではないかと想像して、ツツェーリアを心配そうに見た。
するとツツェーリアは一瞬キョトンとした顔をして、そして笑った。
「まあうふふ。……無理矢理ではございませんわ。前々から決まっていたのかと話がややこしくなってはいけないので、世間の方々もそう考えてくだされば良いのですけれど」
「無理矢理、ではないのですね? 良かった……。あ。……失礼な事を申し上げて申し訳ございません。
……あの、ご婚約おめでとうございます」
そう言って安心したように祝いを述べるミランダを、ツツェーリアは微笑ましそうに見つめた。
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