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第4章 エルセニム国のおてんば姫
第4章第010話 高速帆船クイーン・ローザリンテ
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第4章第010話 高速帆船クイーン・ローザリンテ
・Side:ツキシマ・レイコ
今は、エイゼル市の港に来ています。陽気はそろそろ春の雰囲気も感じられますが、海風はまだ結構冷たいですね。
ネイルコード国海軍所属 高速帆船クイーン・ローザリンテ…と日本語なら訳すところでしょうか。白い船体に三本マストのすらりとした帆船が帰港しています。ネイルコード国自慢の船だそうです。
ガレオンというよりは、カティーサークとか日本丸とかに見られる直線的な船ですね。幅も狭く、積載量よりは高速性を重視した帆船だそうです。三十メートル三百トンくらいかな? これでもこの世界の船としては大きい方です。
名前の通り、王族の御用船ですが。普段はその高速性を生かした交易や国家間の連絡に使っているそうです。
このほかにも、キャラック船ていうのかな? こちらは積載量の重視した幅広ずんぐりな感じの帆船ですね。ここからの見た目の大きさはクイーン・ローザリンテと同じくらいに見えますので。幅の分、排水量は向こうの方が上なのでしょう。
ネイルコード国の帆船は全て海軍所属で、商人は船の使用権を国から借りて交易をしているそうです。まぁ国法の及ばないところでは、海賊対策などで兵が不可欠ですし。他の国と対峙するという意味でも、国軍が前に出るべきなのでしょう。商会で船を持つことが禁じられているわけではないですが、大型船の建造や運用費を考えると借りた方が損がないそうです。用途によってサイズも選べますしね、無駄が無いです。
今回は船団でローザリンテ殿下の護衛の名目の兵員輸送を担います。ダーコラ国の港とは数日の距離なので、余裕分は編院輸送に。八隻で二千人ほど、けっこうギュウギュウですね。
今回の遠征には、アイズン伯爵も同行します。先方の経済状況の確認と。事が終わった後に経済的にどう手綱を握るかの検討のために赴かれるそうです。自動的にダンテ隊長にエカテリンさんも同行。ご苦労さまです。
船着き場では、丸太を打ち込んで砂利で埋めて…という感じで岸壁が整備されていまして。港に着いた船には、浮き桟橋からタラップで乗れるようになっています。
停泊しているクイーン・ローザリンテ。とりあえず現在は、ローザリンテ殿下の到着待ちです。
コロンブスのサンタマリア号が二十メートルくらいですので。それより二回りでかい船ですね。帆船なんて初めて…ってより、生前に船に乗った経験が水上バス程度だったので。なんかわくわくしています。
王都組からは、ネタリア外相やセーバスさんが同行します。
クライスファー陛下、カステラード殿下までもが港にお見送りに来ていますね。護衛の兵を含めると、結構な数の人が集まっています。
「レイコ殿。妻のことよしなに頼む」
さすがに周りの視線があるところで国王として頭は下げられないようですが。丁寧にお願いされました。。
「はい。尽力いたします」
「エルセニム国王女マーリア・エルセニム・ハイザートです。この度はご迷惑おかけしております、クライスファー陛下」
マーリアちゃんが、クライスファー陛下達にご挨拶です。
ん?陛下、マーリアちゃんを見てちょっと驚いているようです。うん、マーリアちゃんの美少女度はかなりな物ですからね。銀髪紅眼も、むしろ彼女の容姿を引き立てているように思います。
「ネイルコード国国王クライスファー・バルト・ネイルコードじゃ。お初にお目にかかる、マーリア姫。まぁダーコラ国との因縁は、今に始まったことでも無い。いずれは決着を付ける必要があったことだし。お気になされるな」
「…ありがとうございます、陛下」
「マーリア姫にはちと酷な言い方かもしれんが、マーリア姫が今回の遠征の大義名分でもあるし。エルセニム国との繋ぎを得るためにも重要な立ち位置におられる。ここで一気にダーコラ国を変えてしまうためにも、協力をお願いしたい」
「はい。微力を尽くさせていただきます」
カステラード殿下は、これからダーコラ国との国境へ出発します。軍本隊は既に国境へ動いているそうです。
海からと陸から、両方から圧力をかけるということのようですね。
クイーン・ローザリンテに皆が乗り込みました。
後楼とでも言うのでしょうか。甲板後部の上に部屋が設けられていて、そこが船長室や貴賓室になっています。私とマーリアちゃんは同室で部屋を割り当てられました。セレブロさんベットも健在です。
後楼の上が、船の指揮所いわゆるブリッジです。露天ですけどね。帆の張り方や向きの指示、あと舵も直接ここで操作します。
どうやって離岸するのだろう?と思ってましたが。数枚の帆を展開して風を上手いこと掴んで、桟橋から離れるように横に滑るように動き出しました。器用ですね。
十分桟橋から離れたら、残りの帆を展開して前進、出港です。
「うわーっ!うわーっ! すごいすごい!」
マーリアちゃん、はしゃいでいますね。セレブロさんは、海にちょっと警戒しているようです。
はしゃいでいるマーリアちゃんを、ブリッジの面々が微笑ましく見ています。
風に靡くシルバーなツインテールが、お日様の光を反射してキラキラしています。ほんと絵になる子ですね。日焼けとか大丈夫?とか聞きましたけど、どういう原理か日焼けしないんだそうです。
「私、海見るの初めてなのよ! 街からちらっと見えていたし、広いって聞いてはいたけど。見える範囲の向こうまで水なんて、想像できていなかったわっ! それになんか面白い匂いがするわよね~」
聞くと見るとでは別物…って感じですかね。
エルセニム国は森の中の国だそうですし。地平線っても普通に陸地を旅している分には森とか山とかがありますからね。視線の先まで見通せる水平線というものは、知識として知っていても想像したことがないそうです。
他の船はボルトの海軍基地から既に出航していて、それに追いつく感じで合流。クイーン・ローザリンテを中心に、周囲を六隻で輪形陣を組みます。 風しか動力が無いのに、みな見事な操艦ですね。
一隻は、水平線に見えるかな?という距離まで、斥候艦として先行しています。
クイーン・ローザリンテ号は、他の船と速度を合わせるためにいくらか帆を畳んでいます。既に結構な速度が出ているように感じますが、本気ならもっと速くなると言うことですね。高速帆船の名に恥じない性能のようです。
風をはらんだ帆。波を切る船体。ロープを操作する船員さん達。うーん、なかなか体験できませんよね。ブリッジにいさせてもらっていますが、見ていて飽きません。
レッドさんがマストの上に行ってみたいと言ったので、ポーンと放り上げてあげました。周囲の人がギョッとしていましたけど、レッドさんは飛べますので問題ありません。帆を支えている横棒、ヤードって言いましたっけ? そこに上手いこと飛び乗りました。
風と日光を浴びて、景色を楽しんでいるレッドさん。良いですね、私も登ってみたくなりました。
「あそこ、登れるんでしょ? 一緒に行かない?」
前のマストの中程には見張り場所があるようですので、マーリアちゃんと一緒に登らせてもらいます。見張りの船員さんがびっくりしていましたが。まぁ二人ともロープを握っている限り、落ちることは無いですよ。
左舷は海原。右舷には陸地が見えています。雲はそこそこ出てますが、陸地方向から良い風が吹いていますね。まぶしいくらいの景観です。
「こんな景色が見られるとは思わなかったわ… 世の中って広いのね」
「どうですか?この船は」
見張り台から降りてブリッジに戻ると、ローザリンテ殿下に話しかけられました。
陽射しはそこそこあるので、セーバスさんが日傘を差されていますね。
「帆船なんて初めてなので、凄く新鮮です。素晴らしい船ですね。」
「レイコ殿のいたところでは、帆船はなかったのですか?」
と、ネタリア外相。
「私の世界では、帆船はもう小型船だけでしたね。エンジンでスクリュー回して…って分らないか。船体も長さで十倍くらいの鉄だけで出来た船が世界中へ荷物運んで…ってのが海の上の主力でした」
「長さで十倍ですか?しかも鉄製? そんなものが作れるのですか?」
「全世界で年間億トン単位で鉄を作ってましたからね。大型船は全て鉄製でした」
うーん、ディーゼルにスクリューは無理でも、マナを熱源として蒸気機関はいけるかも? 井戸のポンプが成功したなら、次の目標は蒸気機関です。
「億トンですか…。ちょっと想像が出来ないですね。そんな巨大な船で人と物が世界中を行き交っていたのですね」
「あっ、船で運ぶのは主に荷物だけです。ほとんどの人は空を行きますので」
「空? 飛ぶって事ですか? どうやって?」
「私が生まれる百年以上前は、他の大陸に行くには船しかありませんでしたけど。飛行機という空を飛ぶ乗り物が発明されて、それがあっという間に発達して、私が生きていた時代には他の大陸に行くにはみな飛行機でした。音の速さに近いくらいの速度が出ますからね。世界中どこへ行くにも一日かからないのです」
「音の速さで人を乗せて空を飛ぶ…想像できないというか、原理を詳しく聞きたいところですが。おそらく私では理解が難しいんでしょうね…」
残念そうな顔をしています。
「…将来この世界でもそこまで文明が発展するのでしょうか?」
水平線にまだ見えてるエイゼルの港を眺めながら、ネタリア外相が感慨深そうに呟きます。
「時間の問題かなとは思います。それでも数百年はかかるでしょうが」
原理的な話はともかく。冶金とか材料に関しては、どこから手を付けて良いのか分らないくらいです。
模型のグライダーくらいは作ってあげても良いかな? 紙飛行機が作れるほど上等な紙が無いんですよね。
「レイコもその"ヒコウキ"で飛んだことあるの?」
マーリアちゃんも興味を持ったようですね。
「うん。旅行で何回か乗ったことあるよ」
「ほんと? どんなんだったの?ねぇ?」
「私が乗ったのは二五〇人くらい乗っている飛行機だったかな。その日はあいにく雨で、旅行に出かけるのに付いていないなと思ってたんだけど。雲の上に出たらお日様が照っていて、空なんか黒いぐらい澄んでいたなぁ。ただ、下は一面雲だったから、地上が見えなくてガッカリしたけど」
「雲の上。雲を下に見ての旅。…すごいわね…」
「なるほど。雲の上なら地上の天気は関係ないのですね」
マーリアちゃんとネタリア外相が感心しています。ちなみに、沖縄旅行の時の話です。
夕食は港サンドとかフライサンドでした。
船内でもマナコンロは使えますが、揺れる船内では出せる物が限られます。それでも、今夜のサンドの材料くらいはエイゼル市で用意しておけますからね。ダーコラ国に着いたら、補給がどの程度出来るかは不明です。新鮮な魚に新鮮な野菜は今のうちかも。
王妃殿下もサンドを手掴みで召し上がっておられますが。王族がサンドを召し上がるというのも、船の中ならではかもしれません。
レッドさんは、なぜかローザリンテ殿下の膝の上でサンドを食べています。こぼさないでくださいね。
セレブロさんは、もうしわけないけど甲板でお食事です。単に食堂が狭いのです。
夜です。
日が暮れた海を船は進みます。他の船には、カンテラが各所に付いていて、互いの位置が分るようにしているのですが。今夜は月と神の玉座も明るく出ているので、隣の船もはっきり見えています。これは偶然ではなく、当然今夜を狙っての出航です。ローザリンテ殿下御座の航海ですからね、安全第一。
マーリアちゃんは夜の海にも興味があるようで、一緒ににブリッジにおじゃましています。
護衛と共に、ローザリンテ殿下も海を眺めておられます。
「私が陛下の元に嫁いできたときも、こんな月と神の玉座が綺麗な船旅でした」
ローザリンテ様が語ります。
「当時のダーコラ国国王の王弟である父が亡くなって。その娘でも一応王位継承権はありましたから、疎まれて母の出身地だったの領地の隅に押し込められたんです。そこが実は、ダーコラ国の諜報を司る影と呼ばれる人の里でしてね。その村の村長だったのが、あのセーバスです」
少し下がったところでローザリンテ殿下の護衛をしているのでしょう、セーバスさんがお辞儀します。
「ローザリンテ様の祖母妃様が我らの統括をしていたのですが。祖母妃様が亡くなって組織を引き継ぐまもなくローザリンテ様の父君も亡くなり。さて我らもどうしたものだと思っていたら、里に流されてきたのがローザリンテお嬢様でした。まぁその後は波瀾万丈いろいろあった後、われらの主となりまして。お嬢様がネイルコード国に嫁がれるのに合わせて、我らもこちらに移ってきたわけです」
「ってことは、影ってダーコラ国の組織じゃ無かったんですか?」
「いえ。私共はあくまで先王妃様その人にお仕えしていましたので。まぁその辺の話もいろいろあるのですが。後継者としてお嬢様を選んだ以上、現在もこれからもお嬢様のために働く所存でございます」
ローザリンテ殿下に最敬礼しています。うーん、出来る執事って感じで様になっていますね。
「こんなおばあちゃんに、お嬢様は止めてくださいな」
「いえいえ。お嬢様があの村に来た日のことは、まだはっきり思い出せますよ。おてんば度で言うのなら、レイコ様やマーリア様より上でしたな」
照れるローザリンテ殿下に、ニコニコしているセーバスさん。
この二人にも歴史があるようです。いつか聞いてみたいですね。
風を切って船は進む…ではないんですね。動力で進んでいるわけでは無いので、風は横から吹いています。それが一番速度が出るんだと、ネタリア外相が教えてくれました。
「ねぇレイコ。あれ、海が光っているわよね? 月明かりとかが反射しているんじゃなくて」
後ろを向けば、この船の建てる波が夜光虫で青く光っています。まだ登りはじめで天空の低い位置にある神の玉座が海にも映っていて、凄く幻想的な光景です。
「私がいたところでは夜光虫って名前なんだけどね。砂粒より小さい生き物が波とかの刺激を受けると光るんだって」
地球では、夜光虫のプランクトンは赤潮の元だったりしますが、昼間見た分にはそのような兆候は見られなかったので、また別の種類の生き物かもしれませんが。
「へぇ~。光る虫ならエルセニムにもいたわよ、緑色だったけどね。この波の中にいるのは青く光って綺麗よね~」
マーリアちゃんがうっとりするように見ています。
…この旅がダーコラ国関係で無ければと、残念でしかたないですね。
・Side:ツキシマ・レイコ
今は、エイゼル市の港に来ています。陽気はそろそろ春の雰囲気も感じられますが、海風はまだ結構冷たいですね。
ネイルコード国海軍所属 高速帆船クイーン・ローザリンテ…と日本語なら訳すところでしょうか。白い船体に三本マストのすらりとした帆船が帰港しています。ネイルコード国自慢の船だそうです。
ガレオンというよりは、カティーサークとか日本丸とかに見られる直線的な船ですね。幅も狭く、積載量よりは高速性を重視した帆船だそうです。三十メートル三百トンくらいかな? これでもこの世界の船としては大きい方です。
名前の通り、王族の御用船ですが。普段はその高速性を生かした交易や国家間の連絡に使っているそうです。
このほかにも、キャラック船ていうのかな? こちらは積載量の重視した幅広ずんぐりな感じの帆船ですね。ここからの見た目の大きさはクイーン・ローザリンテと同じくらいに見えますので。幅の分、排水量は向こうの方が上なのでしょう。
ネイルコード国の帆船は全て海軍所属で、商人は船の使用権を国から借りて交易をしているそうです。まぁ国法の及ばないところでは、海賊対策などで兵が不可欠ですし。他の国と対峙するという意味でも、国軍が前に出るべきなのでしょう。商会で船を持つことが禁じられているわけではないですが、大型船の建造や運用費を考えると借りた方が損がないそうです。用途によってサイズも選べますしね、無駄が無いです。
今回は船団でローザリンテ殿下の護衛の名目の兵員輸送を担います。ダーコラ国の港とは数日の距離なので、余裕分は編院輸送に。八隻で二千人ほど、けっこうギュウギュウですね。
今回の遠征には、アイズン伯爵も同行します。先方の経済状況の確認と。事が終わった後に経済的にどう手綱を握るかの検討のために赴かれるそうです。自動的にダンテ隊長にエカテリンさんも同行。ご苦労さまです。
船着き場では、丸太を打ち込んで砂利で埋めて…という感じで岸壁が整備されていまして。港に着いた船には、浮き桟橋からタラップで乗れるようになっています。
停泊しているクイーン・ローザリンテ。とりあえず現在は、ローザリンテ殿下の到着待ちです。
コロンブスのサンタマリア号が二十メートルくらいですので。それより二回りでかい船ですね。帆船なんて初めて…ってより、生前に船に乗った経験が水上バス程度だったので。なんかわくわくしています。
王都組からは、ネタリア外相やセーバスさんが同行します。
クライスファー陛下、カステラード殿下までもが港にお見送りに来ていますね。護衛の兵を含めると、結構な数の人が集まっています。
「レイコ殿。妻のことよしなに頼む」
さすがに周りの視線があるところで国王として頭は下げられないようですが。丁寧にお願いされました。。
「はい。尽力いたします」
「エルセニム国王女マーリア・エルセニム・ハイザートです。この度はご迷惑おかけしております、クライスファー陛下」
マーリアちゃんが、クライスファー陛下達にご挨拶です。
ん?陛下、マーリアちゃんを見てちょっと驚いているようです。うん、マーリアちゃんの美少女度はかなりな物ですからね。銀髪紅眼も、むしろ彼女の容姿を引き立てているように思います。
「ネイルコード国国王クライスファー・バルト・ネイルコードじゃ。お初にお目にかかる、マーリア姫。まぁダーコラ国との因縁は、今に始まったことでも無い。いずれは決着を付ける必要があったことだし。お気になされるな」
「…ありがとうございます、陛下」
「マーリア姫にはちと酷な言い方かもしれんが、マーリア姫が今回の遠征の大義名分でもあるし。エルセニム国との繋ぎを得るためにも重要な立ち位置におられる。ここで一気にダーコラ国を変えてしまうためにも、協力をお願いしたい」
「はい。微力を尽くさせていただきます」
カステラード殿下は、これからダーコラ国との国境へ出発します。軍本隊は既に国境へ動いているそうです。
海からと陸から、両方から圧力をかけるということのようですね。
クイーン・ローザリンテに皆が乗り込みました。
後楼とでも言うのでしょうか。甲板後部の上に部屋が設けられていて、そこが船長室や貴賓室になっています。私とマーリアちゃんは同室で部屋を割り当てられました。セレブロさんベットも健在です。
後楼の上が、船の指揮所いわゆるブリッジです。露天ですけどね。帆の張り方や向きの指示、あと舵も直接ここで操作します。
どうやって離岸するのだろう?と思ってましたが。数枚の帆を展開して風を上手いこと掴んで、桟橋から離れるように横に滑るように動き出しました。器用ですね。
十分桟橋から離れたら、残りの帆を展開して前進、出港です。
「うわーっ!うわーっ! すごいすごい!」
マーリアちゃん、はしゃいでいますね。セレブロさんは、海にちょっと警戒しているようです。
はしゃいでいるマーリアちゃんを、ブリッジの面々が微笑ましく見ています。
風に靡くシルバーなツインテールが、お日様の光を反射してキラキラしています。ほんと絵になる子ですね。日焼けとか大丈夫?とか聞きましたけど、どういう原理か日焼けしないんだそうです。
「私、海見るの初めてなのよ! 街からちらっと見えていたし、広いって聞いてはいたけど。見える範囲の向こうまで水なんて、想像できていなかったわっ! それになんか面白い匂いがするわよね~」
聞くと見るとでは別物…って感じですかね。
エルセニム国は森の中の国だそうですし。地平線っても普通に陸地を旅している分には森とか山とかがありますからね。視線の先まで見通せる水平線というものは、知識として知っていても想像したことがないそうです。
他の船はボルトの海軍基地から既に出航していて、それに追いつく感じで合流。クイーン・ローザリンテを中心に、周囲を六隻で輪形陣を組みます。 風しか動力が無いのに、みな見事な操艦ですね。
一隻は、水平線に見えるかな?という距離まで、斥候艦として先行しています。
クイーン・ローザリンテ号は、他の船と速度を合わせるためにいくらか帆を畳んでいます。既に結構な速度が出ているように感じますが、本気ならもっと速くなると言うことですね。高速帆船の名に恥じない性能のようです。
風をはらんだ帆。波を切る船体。ロープを操作する船員さん達。うーん、なかなか体験できませんよね。ブリッジにいさせてもらっていますが、見ていて飽きません。
レッドさんがマストの上に行ってみたいと言ったので、ポーンと放り上げてあげました。周囲の人がギョッとしていましたけど、レッドさんは飛べますので問題ありません。帆を支えている横棒、ヤードって言いましたっけ? そこに上手いこと飛び乗りました。
風と日光を浴びて、景色を楽しんでいるレッドさん。良いですね、私も登ってみたくなりました。
「あそこ、登れるんでしょ? 一緒に行かない?」
前のマストの中程には見張り場所があるようですので、マーリアちゃんと一緒に登らせてもらいます。見張りの船員さんがびっくりしていましたが。まぁ二人ともロープを握っている限り、落ちることは無いですよ。
左舷は海原。右舷には陸地が見えています。雲はそこそこ出てますが、陸地方向から良い風が吹いていますね。まぶしいくらいの景観です。
「こんな景色が見られるとは思わなかったわ… 世の中って広いのね」
「どうですか?この船は」
見張り台から降りてブリッジに戻ると、ローザリンテ殿下に話しかけられました。
陽射しはそこそこあるので、セーバスさんが日傘を差されていますね。
「帆船なんて初めてなので、凄く新鮮です。素晴らしい船ですね。」
「レイコ殿のいたところでは、帆船はなかったのですか?」
と、ネタリア外相。
「私の世界では、帆船はもう小型船だけでしたね。エンジンでスクリュー回して…って分らないか。船体も長さで十倍くらいの鉄だけで出来た船が世界中へ荷物運んで…ってのが海の上の主力でした」
「長さで十倍ですか?しかも鉄製? そんなものが作れるのですか?」
「全世界で年間億トン単位で鉄を作ってましたからね。大型船は全て鉄製でした」
うーん、ディーゼルにスクリューは無理でも、マナを熱源として蒸気機関はいけるかも? 井戸のポンプが成功したなら、次の目標は蒸気機関です。
「億トンですか…。ちょっと想像が出来ないですね。そんな巨大な船で人と物が世界中を行き交っていたのですね」
「あっ、船で運ぶのは主に荷物だけです。ほとんどの人は空を行きますので」
「空? 飛ぶって事ですか? どうやって?」
「私が生まれる百年以上前は、他の大陸に行くには船しかありませんでしたけど。飛行機という空を飛ぶ乗り物が発明されて、それがあっという間に発達して、私が生きていた時代には他の大陸に行くにはみな飛行機でした。音の速さに近いくらいの速度が出ますからね。世界中どこへ行くにも一日かからないのです」
「音の速さで人を乗せて空を飛ぶ…想像できないというか、原理を詳しく聞きたいところですが。おそらく私では理解が難しいんでしょうね…」
残念そうな顔をしています。
「…将来この世界でもそこまで文明が発展するのでしょうか?」
水平線にまだ見えてるエイゼルの港を眺めながら、ネタリア外相が感慨深そうに呟きます。
「時間の問題かなとは思います。それでも数百年はかかるでしょうが」
原理的な話はともかく。冶金とか材料に関しては、どこから手を付けて良いのか分らないくらいです。
模型のグライダーくらいは作ってあげても良いかな? 紙飛行機が作れるほど上等な紙が無いんですよね。
「レイコもその"ヒコウキ"で飛んだことあるの?」
マーリアちゃんも興味を持ったようですね。
「うん。旅行で何回か乗ったことあるよ」
「ほんと? どんなんだったの?ねぇ?」
「私が乗ったのは二五〇人くらい乗っている飛行機だったかな。その日はあいにく雨で、旅行に出かけるのに付いていないなと思ってたんだけど。雲の上に出たらお日様が照っていて、空なんか黒いぐらい澄んでいたなぁ。ただ、下は一面雲だったから、地上が見えなくてガッカリしたけど」
「雲の上。雲を下に見ての旅。…すごいわね…」
「なるほど。雲の上なら地上の天気は関係ないのですね」
マーリアちゃんとネタリア外相が感心しています。ちなみに、沖縄旅行の時の話です。
夕食は港サンドとかフライサンドでした。
船内でもマナコンロは使えますが、揺れる船内では出せる物が限られます。それでも、今夜のサンドの材料くらいはエイゼル市で用意しておけますからね。ダーコラ国に着いたら、補給がどの程度出来るかは不明です。新鮮な魚に新鮮な野菜は今のうちかも。
王妃殿下もサンドを手掴みで召し上がっておられますが。王族がサンドを召し上がるというのも、船の中ならではかもしれません。
レッドさんは、なぜかローザリンテ殿下の膝の上でサンドを食べています。こぼさないでくださいね。
セレブロさんは、もうしわけないけど甲板でお食事です。単に食堂が狭いのです。
夜です。
日が暮れた海を船は進みます。他の船には、カンテラが各所に付いていて、互いの位置が分るようにしているのですが。今夜は月と神の玉座も明るく出ているので、隣の船もはっきり見えています。これは偶然ではなく、当然今夜を狙っての出航です。ローザリンテ殿下御座の航海ですからね、安全第一。
マーリアちゃんは夜の海にも興味があるようで、一緒ににブリッジにおじゃましています。
護衛と共に、ローザリンテ殿下も海を眺めておられます。
「私が陛下の元に嫁いできたときも、こんな月と神の玉座が綺麗な船旅でした」
ローザリンテ様が語ります。
「当時のダーコラ国国王の王弟である父が亡くなって。その娘でも一応王位継承権はありましたから、疎まれて母の出身地だったの領地の隅に押し込められたんです。そこが実は、ダーコラ国の諜報を司る影と呼ばれる人の里でしてね。その村の村長だったのが、あのセーバスです」
少し下がったところでローザリンテ殿下の護衛をしているのでしょう、セーバスさんがお辞儀します。
「ローザリンテ様の祖母妃様が我らの統括をしていたのですが。祖母妃様が亡くなって組織を引き継ぐまもなくローザリンテ様の父君も亡くなり。さて我らもどうしたものだと思っていたら、里に流されてきたのがローザリンテお嬢様でした。まぁその後は波瀾万丈いろいろあった後、われらの主となりまして。お嬢様がネイルコード国に嫁がれるのに合わせて、我らもこちらに移ってきたわけです」
「ってことは、影ってダーコラ国の組織じゃ無かったんですか?」
「いえ。私共はあくまで先王妃様その人にお仕えしていましたので。まぁその辺の話もいろいろあるのですが。後継者としてお嬢様を選んだ以上、現在もこれからもお嬢様のために働く所存でございます」
ローザリンテ殿下に最敬礼しています。うーん、出来る執事って感じで様になっていますね。
「こんなおばあちゃんに、お嬢様は止めてくださいな」
「いえいえ。お嬢様があの村に来た日のことは、まだはっきり思い出せますよ。おてんば度で言うのなら、レイコ様やマーリア様より上でしたな」
照れるローザリンテ殿下に、ニコニコしているセーバスさん。
この二人にも歴史があるようです。いつか聞いてみたいですね。
風を切って船は進む…ではないんですね。動力で進んでいるわけでは無いので、風は横から吹いています。それが一番速度が出るんだと、ネタリア外相が教えてくれました。
「ねぇレイコ。あれ、海が光っているわよね? 月明かりとかが反射しているんじゃなくて」
後ろを向けば、この船の建てる波が夜光虫で青く光っています。まだ登りはじめで天空の低い位置にある神の玉座が海にも映っていて、凄く幻想的な光景です。
「私がいたところでは夜光虫って名前なんだけどね。砂粒より小さい生き物が波とかの刺激を受けると光るんだって」
地球では、夜光虫のプランクトンは赤潮の元だったりしますが、昼間見た分にはそのような兆候は見られなかったので、また別の種類の生き物かもしれませんが。
「へぇ~。光る虫ならエルセニムにもいたわよ、緑色だったけどね。この波の中にいるのは青く光って綺麗よね~」
マーリアちゃんがうっとりするように見ています。
…この旅がダーコラ国関係で無ければと、残念でしかたないですね。
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ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
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