玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
250 / 384
第7章 Welcome to the world

第7章第023話 知性の可能性

しおりを挟む
第7章第023話 知性の可能性

・Side:ケール・ララコート

 「…そうだ、蟻の専門家と見込んで一つ聞きたいことがあるんだけど…」

 満天の神の御座の下。会話の末に赤竜神の巫女様…巫女様から逆に質問された。

 「蟻に知性ってあると思う?」


 虫に知性? 考えたことも無かった…が。

 正教国での研究中。観察のために何度か普通の蟻の巣を掘って調べたこともある。蟻はそれこそそこらに当たり前にいる虫だが。詳しい生態となると詳しい人間が全くおらず、書物も見つけられなかった。

 そこからわかったのは、爪先に乗る程度の虫にもかかわらず、感心するような社会性があると言うことだった。巣穴は役割毎に部屋が分かれており、女王蟻が卵を産み、子を育て、餌を蓄え、水害にも対策しているし、外敵にも集団で対応する。餌を見つければそれを巣まで集団で手分けして輸送する規律も持つ。
 ただ。それでもまだその行動は本能や条件反射の範疇にすぎないと思っている。常に同じような反応をして特に学習しているとも思えないこれらに、人間のような何かしらの意思があるようには思えない。

 「蟻は、その行動から見て社会的に見える機能を持つ生き物ですが。魔獣の蟻に人のような…せめて獣くらいの個の意思があるのか?となると、疑わしいとは思います。私も観察はしましたが、虫の蟻がそのまま大きくなっただけの行動様式しかないと思います」

 「人と全く同じである必要は無いんだけど。個々の蟻はともかく、蟻の群れ全体で統一した意識みたいなものは無いのかな? 何というか、他の巣の蟻と共栄…でなくとも戦争でもいいから、なにか交流や学習しているような兆候はないですか?」

 「虫の蟻の場合、地形や餌の情報なんかは仲間内でやり取りしているようですけど、同種の蟻でも他の巣なら単なる外敵として扱って、反応も画一的です。やはり本能の範疇で行動しているだけでは? 魔獣の蟻にしても、彼らの中心は自分たちの女王蟻であって、巣と女王を守ることが全てのようです。集団としての知があるとしても、中心は女王だと思いますが。私も魔獣の女王蟻については分からないとしか…」

 私が観察したことがあるのは、卵を産むように変化した働き蟻程度だ。小ユルガルムで巫女様が見たという巨大な女王、虫の蟻の巣で見つけたそれをそのまま巨大にしたような女王蟻は見たことが無いし。仮にマナ研でそんなものが誕生していたら、配下の蟻の数から考えて大騒ぎになっただろう。

 「前に小ユルガルムに出た蟻もそんな感じではあったんだけどね。一斉に襲いかかってくるような直断的な行動は感じられたけど。周囲の状況を判断して連携した行動とかは取っているようには思えなかったし…」

 「…どうしてそのようなことを考えられているのです?」

 「もし蟻にも、人間が理解し辛いと言うだけで独自の知性とか感情があるとしたら。それを人の都合で一方的に殺してしまうのは単なる虐殺なんじゃないかって思って…」

 「しかし…向こうはこちらを餌としか見ていません。蟻を殺すのも生存競争の内ということで仕方のないのでは?」

 「そうなのよね… それでも共存の可能性があるかは考慮すべきだとおもうのよ。まぁ私も見込みは少ないと思っているし、もし赤井さんが臨まない展開になるのならなにか干渉してくるかなとは思うけど。私が今ここにいるってことも承知だと思うし…」

 後半は何を言ってるのかよく分からなかったが。話に付き合ってくれてありがとうと言って、巫女様は砦を下りていきました。
 蟻に知性か…それを言い出すと、知性とはなんぞやというあたりから考えないといけなくなる。

 知性とは…考えること? いや、考えるとは何だ? 周囲の状況に応じて対応を判断する? 学習した結果を行動に反映する? 蟻にはそれは出来ないことなのか? 蟻と人間の決定的な差はなんだというのだ?
 巫女様は蟻をただ殺すことに抵抗感があるようだ。 人を超えた立場ともなれば、そういう視点もでてくるのか…

 そろそろ就寝時刻だと思っていたが、これはなんか眠れなくなりそうだな。



・Side:ツキシマ・レイコ

 さて。蟻の集団の先頭が、明日ムラード砦に到着する見込みです。到着ってのも変ですけどね。
 とは言っても、先頭が砦に接触するのが明日というだけで。その集団の長さは何十キロにも及んでいます。これらが全部砦に来るまで十日はかかると推測されています。もちろん、全部がここに来ると仮定してのことですが。

 蟻の集団は現在、地峡を埋め尽くしているようで。レッドさんの上空からの探知でも、全体がぼやっとしています。地面が三分、蟻が七分ですか。地峡の低い部分が反応で真っ白に見えます。

 今回は数が数ですからね。砦では、虎口の追加作業が行なわれていました。
 従来は二段の虎口でしたが。その外にさらにもう一段。材木による急造の柵と、土を盛った土塀です。蟻が登ろうとしたら登れてしまうでしょうが。柵の隙間から腹を見せた蟻を攻撃できるようになっています。
 いざという時には、水も流せるようになっているようですね。ただその場合、土塀は長くは保たないでしょうが。

 それと、倒した蟻の処理場が作られています。
 蟻に食べるところはありませんので。殻を剥いでマナ塊…蟻の場合、両目の間、脳そのものに取り付いているそうですが、中身は少し離れたところに掘った穴に全部捨ててしまいます。前回討伐した蟻をいろいろ試した結果、肥料としては使えそうだとのことですので。刈った草やら木の葉と混ぜて土を被せて何年か放置する必要がありますが。まぁこの辺の処理は事が終わってからですね。
 ともかく、虎口から倒した蟻を順次除去していかないと、蟻の死体の山を乗り越えて奴らはやって来てしまいます。

 日が暮れてからも、各所で確認と補強の工事が進んでいます。
 徹夜はお奨めしないなとか思ったりしたのですが。レッドさんの正確な偵察のおかげで、本番までに一眠りは出来そうとのことです。
 今夜は、神の御座を眺めて悦に入るわけにはいかないですね。
 この体だと、夜は年相応に眠たくなります。まぁいざという時には徹夜でも何とでもなりますが。まだその時ではありません。

 「今日はそろそろ寝ちゃいましょう。明日どうなるかわかんないし」

 「クーッ」

 寝間着に着替えて、宿舎でレッドさんと一緒にベットに入ります。
 まだ工事をしているのでしょう、遠くで槌を打つ音が夜の街に響いています。日本にいた時に聞いた、火の用心の拍子を思い出し、ちょっと懐かしくなりました。



 次の日の昼。いよいよ蟻の先頭集団が砦までたどり着きました。
 レッドさんのイメージだと、マナの反応で蟻は白かったのですが。目視だと真っ黒です。
 うーん、谷を埋め尽くす蟻の集団。ちょっと鳥肌が立つ光景ですね。

 「ケールさんの前ではああ言ったけど。仮に蟻に知性があったとしても…これは決定的にわかり合えない気がするわね。」

 「クー…」

 レッドさんも賛同してくれます。
 こういうレッドさん、彼には知性があるのか。赤井さんは、レッドさんをAIだと断じています。
 それでもあの蟻に、レッドさん以上の知性があるとは思えません。

 うーん。もやもやしやがりますね。
 例えばセレブロさんやバール君。彼らに知性はあるのでしょうか? 日本にいた頃に見た牧羊犬の動画、犬の頭の良さに感心してました。でも、彼らに知性を感じるのは…彼らが親人間的な生き物だからという贔屓目? 人に馴れているから知性を投影する?

 思考で沼っている私を、レッドさんが見つめています。

 「クゥ?」

 目が合ったレッドさんが、何?とばかりに首をかしげます。

 もしにレッドさんが無力な存在で、レッドさんが人に襲われていたとしたら。迷わず私はレッドさんを助けるでしょうね。
 私にとっては、知らない人の知性なんかより、例え疑似であってもレッドさんの知性の方を尊重します。レッドさんが作り物かどうかなんて、私には関係ないです。
 そもそも。私自身が月島玲子の生前のデータを元にして再構築された人工物です。私の知性も、模倣品にすぎません。
 …所詮、他者の知性の正当性なんて主観でしか判断できないのでしょうか?


 生前、他者を認知する仕組みについて議論したことがあります。人は本当の意味で他者を認識しているわけではない…という話です。
 他人と話す時、こうだろうと推測した他者のイメージを脳内に作り、そのイメージに対して話しかけているに過ぎず。本当の意味で他者とコミュニケーションを取ることは出来ないと。

 他人という存在を物理的に把握しているわけではなく。脳内他者を予めシミュレートして、それと違う反応があったそれをフィードバックして脳内他者の更新をする。意識にとって他人とは、実はその脳内他者のことである。
 実際、脳内の働きを推測するのなら、それは正しい解釈です。脳内の人の意識は、各種器官によって投影された五感を脳の奥から"感じている"だけで。意識が実際に見聞きしたり触ったりできるわけではないのですから。
 自分以外の存在とは、他人も世界も含めて、全部カメラを通してみる映像みたいなものなのです。

 さて。蟻との戦闘が開始されます。
 人は、あの蟻たちに知性を"見る"ことはできるのでしょうか?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?

サクラ近衛将監
ファンタジー
 神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。  転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。  「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。  これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。  原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...