玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第012話 千年女神

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第9章第012話 千年女神

Side:ツキシマ・レイコ

 「あっはははははははは! はっはっはっ…だめお腹痛いっ。あっはっは」

 「…笑いすぎだよ、レイコ。くっくく」

 「だってさぁ赤井さん。あの二度見っ! テレビでもなかなか見られなかったわよあれはっ! あっはははは… あ~苦しい…」

 「レイコ、テレビって何?」

 …マナの体なら、息が苦しくなること何で無いでしょうに。
 笑っている大人のレイコを窘めつつ肩を揺らしているのは赤井さん。
 テレビって何?と"私"に聞いているのはマーリアちゃんです。

 「君だって、僕がこの姿で現れたときには似たようなもんだったよ」

 「…それは言わないでよ。いきなり歳取って現れたら、おどろくでしょ?」

 執事服で現れた赤井さん… 赤井さんと言えばもうレッドドラゴンの姿しか連想しなくなっていたというのもありましたが。…私が生前最後に見た"人"の姿より、プラス三十歳くらいの外見ですか。執事服も様になっています。

 「レイコ殿。赤竜神様は元はレイコ殿の御先輩とは伺っていましたが。まさかこちらの方がほんとうに…」

 「え?えっ? ここは跪くとこ? レイコっ?」

 「それには及びませんよ、お嬢さん。まぁそれなりに長く生きて、いろいろな力は持っていますが。神と呼ばれるような存在でもありません。普通に接していただければ十分です」

 「…もう普通が分からないです」

 お茶と菓子を配って、自分も空いているソファーに座る赤井さん。

 「まぁ今日はいろいろ節目だからね。補足が必要なら口を出すから、あとはご自由に」

 自分でもってきた緑茶を飲み始めた赤井さん。
 パンタ陛下のお子さんも、隣に座ってお団子食べ始めましたよ。



 「…さて。あなたが何を聞きたいのかは理解したわ。どこから話したものかしらね? ギャラリーもいることだし、いっそ最初からにしようかしら?」

 私の記憶から、私の疑念についても読み取ったようです。

 「あの…赤竜神様と巫女様と女神様、お三方のお話を我々も聞いて良い物なのでしょうか?」

 「構いませんよ。どのみち記録としてどこかに残る物ですから。まぁ恣意的に歪められるのは不愉快ですが、もう今更でしょう。」

 東の帝国を滅ぼした魔女なんて呼ばれていましたからね。また、正教国の初期に赤竜神とともに現れて窮地を救ったという初代聖女、こちらも大人のレイコでしょうし。
 「メモ取って良いですか?」というネタリア外相に、どうぞと薦める大人のレイコ。


 「さて。三千万年前。赤井さんがこの惑星にたどり着いたわけだけど」

 「そこからか?」

 「まぁまぁ基礎知識としてね」

 …前説だと思って、黙って聞いておくことにします。
 
 「ここはかろうじて大気と海があるだけの惑星で。分厚い二酸化炭素の大気と、濃密な金属イオンの毒の海。最初はマナのマイクロマシンで、続いてマナを組み込んだ人造プランクトンで、海と大気を浄化していって」

 初期の惑星なんてそんなもんでしょうね。

 「地磁気が弱かったから、両極…この惑星には、南北に大陸があったからね。そこにマナを集めてリング状に固定して地磁気を補強したりね。この星の太陽は少し小さいからスーパーフレアが起きやすいし。近くに星生成領域もあるから宇宙線も強いしね。地球と同じ程度でも足りなかったのよ」

 「北の大陸に感じたマナの反応はそれだったのね」

 「…レイコ、ほとんど理解出来ないんだけど…」

 「私もメモの取りようが… 赤竜神様がこの星を見つけたとき、人が住めるようにマナをもたらして浄化していった…というくらいしか…」

 「今はその程度で十分ですよ。えっと、ネイルコードの外務大臣さんね」

 「はい、ネタリアとお呼びください」

 「…肩書きがなかったら、ホームセンターの店長って雰囲気ね」

 分かるけど、同意求めないでください。

 「鉄や炭素質や水が足りなかったから、隕石の形で追加して。浄化の時に集まった金属資源やらをそのクレーター跡に貯めたりして。石炭や石油が出来るほどの時間をかけるのが大変だったから。文明必要な資源をバラまいて、環境操作に使ったマイクロマシンは、エネルギー資源のマナとして堆積させたりね」

 「赤竜神は、我々のために資源まで…」

 ユルガルムでいろんな鉱床が見つかるのはそのせいですか。

 「まぁこれで晴れて生物が住める惑星になったわ。生物がいない惑星だったから、いろいろ大胆にやったみたいだけど。そこからまずは、海洋の微生物から初めて。植物、小動物、哺乳類、そして最後に人間を。この大陸が、この惑星で最初に人間のコロニーが作られた場所がここね」

 と下を指さします。
 この大陸のこの街が、この惑星の最初の集落…ということですね。

 「農耕とそれを支える基本的な文明を与えられて。人が増え。国が出来て」

 「その辺までは、僕がこの姿で指導したよ。もう五千年くらい前かな?」

 「い…いいんですか? そんなことまで話して」

 「ここにあった帝国の宗教組織には、そのへんも伝承として残っていたみたいだけど。千年前に失伝したみたいだね」

 本来なら正教国の聖典に書かれているような内容が、授業のように流れてくることに、ネタリア外相がうろたえていますが。

 「僕は神ではないし、信仰も必要としていないからね。理解されないから話さなかっただけで、秘密にしていたわけじゃない。事実は知識として素直に受け入れてもらえれば良いよ」

 まぁどう丸めても、創世神話にしかならない内容ですしね。

 「自給自足が可能な自治体としてコロニーが完成した後、僕はそこを離れたんだけど。それから五世代くらいで、もう戦争が起きてね。離合集散しながらもこの大陸に生活圏が広がって。そんな中でも比較的まともな国が出来て、こっちのレイコを送ったのはそんな国だね」

 赤井さんが説明を始めました。

 「…あそこのどこが比較的まともよ」

 「日本に比べれば、そりゃどこでも酷かろうさ。宗教や王侯貴族の牽引で文化も花開き始めていたけど。…地球で言うとギリシャ時代くらいかな。ただ、このまま南下したら、酷いことになりそうだったからね。…南の大陸で、ロトリーが知性体として進化したのは、僕も想定外だったんだ」

 赤井さんが、隣に座ってお団子食べているキングの子供を眺めます。串、気をつけてね。

 「最悪の事態を避けるため、"比較的まともな国"にレイコを送ったってわけさ」

 まぁたしかにまともな"方"だったわね…とため息付きながら、大人のレイコが続きを話します。

 「"降臨"して最初は一悶着あったけど。好きな人が出来て結婚をして、彼になんとか大陸を統一させて。子供が出来ない…のは知っているようね。それでも私は彼を愛していたし。養子に取った子も我が子のようにかわいがっていたわ。それでもね…寿命の差はいかんともしがたかったわ。夫が、子が、孫が先に死んでいく。それでも平和になったこの国を守りたい、場合によっては実力行使で。…いつしか私を魔女なんて呼ぶ人もいたわね」

 結婚してたんですか?びっくり。…まぁ私よりも年上だし…年上に見えるし。恋愛もありなのかしらね?
 私自身は…このサイズでは、政略以外に秋波送ってくるところはなかったけど。

 「ほんと、夫は優秀だったわよ。子供達もね。さすがに皆がいなくなってからは精神的に疲れてきてたけど。人類としては、後は科学と産業に全振りして他の大陸にも乗り出し、いずれは宇宙へ…とか思っていた頃。だいたい千年前のある日…」

 …いよいよ核心です。

 「天園…あなたたちは神の御座と呼ぶのね。この惑星にかなり近い位置にある、星の生成が活発な散開星雲。そこで起きた中性子星連星の衝突による超新星。運が悪いことにその爆発によるガンマ線バーストの直撃を受けたのよ」

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