玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第9章 帝国の魔女

第9章第013話 ラスターナ帝国興亡史

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第9章第013話 ラスターナ帝国興亡史

Side:ツキシマ・レイコ

 東の大陸の帝国が滅んだ原因は、天災だった。それも超新星爆発による致死量の放射線。
 大人のレイコが帝国を滅ぼしたというわけではないことにホッとしつつも。自分が育んできた国が目の前で死滅していく、その心持ちたるや…

 「…赤井さんは事前に連絡くれなかったのかな?」

 「一応、言い訳させてもらおうかな。ちょっと難しい話になるけど」

 と、ちらっとネイルコード組を見ます。理解出来ない長話になるということですか。

 「あ、お構いなく。分からないところは後でレイコ殿に伺いますので」

 ネタリア外相に促されて、軽くうなずいた赤井さんが続きを話します。

 「その災害の元になった恒星は、元々は巨星の三連星でね。太陽の二十倍ほどの主星に、十倍ほどの恒星の連星が互いに回っているという、まぁ珍しくはあるけど希というほどでもない星系だったんだ。僕がこの惑星に来てしばらくした頃に主星が爆発して中性子星になってね。今度は、連星系の方の周りを中性子星が回るような状態になっていたんだけど。一万年近く前、元主星が最接近したタイミングで、今度は連星の片方が超新星爆発。新しくできた中性子星は連星の軌道から飛ばされて、今度は元主星との中性子星連星になってしまったんだ。そして重力波を出しつつ接近していって、千年前に衝突して超新星化した。中性子星連星は、本当はもっと時間をかけて衝突するところなんだけど。三連星というのが悪さをしたね」

 なるほど…素養のある人にしかチンプンカンプンですね。
 同じ星系で短期間…といっても天文学的時間ですが、三度の超新星爆発ですか。昔よく見ていた銀河の写真。写真に写っている青白い部分は全部が寿命が短い星で、近いうちにすべてが超新星になる…とお父さんが話してました。
 銀河系を三千万年も観測していれば、その頻度はポップコーンみたいなものなのでしょうね。

 「パルサーからの電波観測で中性子星連星であることは分かっていたんだけど。前の二回の超新星爆発の残骸の中だからね、細かい軌道要素は不明確で。衝突寸前の重力波なんて百秒そこら前に観測できるのがせいぜい、こちらのレイコに警告が出せたのは、ほんと寸前だったんだ」

 「近くの爆発寸前の恒星は赤井さんも把握していたけど、予想できる時期はあくまで天文学的な時間で、正確な爆発時期を予測するのは不可能だし。ニュートリノで超新星化を検知したところでわずかな時間が稼げるだけ。知らせが間に合わなかったのは仕方はなかったのよ…」

 両手で顔を覆い、大きくため息をつく大人のレイコ。

 「その頃には、政治からは引退していて。聖女とか女神とか呼ばれていたこともあるけど、だいたい"国母"で呼称は落ち着いたけどね。国民にスマートフォンで警戒を促すなんて事は出来ないし、そもそも安全に避難できる先がまずほとんどないから。城内で声をかけられる範囲で、城の地下牢に入れた人しか助けられなかったわ」

 思い出したくないという体で首を振る大人のレイコ。辛そうです。

 「ギリギリまで誘導していた私自身は、数時間ガンマ線フリーズした程度で済んだけど。この惑星の表面の半分近くでは、数十分ほどガンマ線が降り注いで、広範囲でオゾン層も破壊されたわ。もう地獄の出現よ」

 「この星の半分…片面ですか…」

 メモ取りながら聞いていたネタリア外相とマーリアちゃん。

 「うちのレッドさんに偵察頼んだんだけど。この大陸は全滅だったわ。南の大陸でも北の方の森林地帯はやられたわね。ロトリー達のテリトリーは、そこから乾燥地帯を抜けてずっと南だったから、ほぼ無事だったけど」

 「たった千年前にそんな災害が…」

 マーリアちゃんとネタリア外相も、影響の甚大さは理解しているようです。

 「生き残ったのは、地下牢に逃げられた人、工事や鉱山でたまたま地下や洞窟にいた人、山の陰になった村。動物もほぼ死滅して、植物もどうなるやら」

 思い出したくないという表情で大きくため息をつきます。

 「…城の中の範囲の人たちを楽にしてあげて…遺体を埋めてね。死の大陸になるのは分かっていたからね。助かったわずかな人は、集めた物資や財貨と共に西方の島…今のセイホウ王国ね、当時は帝国の開拓地だったのだけど、そこへ船で送り出すのが精一杯」

 「…あなたはセイホウ王国に行かなかったの?」

 「生存者を船で送り返して。この城に戻ってきてね。誰も居ない宮殿で玉座に座ったところまで覚えているけど、多分そこで意識を失ったわ。レッドさんに眠らされたというのが正しいかしら」

 「クーク」

 「…」

 こちらのレッドさんが大人のレイコの精神的負荷を考えて"落とした"んでしょうか。
 ここから港町へ行く街道も死屍累々だったのでしょう。想像すると頭がおかしくなりそうです。
 このへんは、大人のレイコが記憶を渡さなかった理由の一つでしょう。

 「二百年かそこら経って。外から来た動物やら、鶏が種を運んだ森やらが再生しだしたころ。ラクーンの探検隊が南の大陸からこここにやってきた…らしいの。らしいってのは、そばにずっといてくれたレッドさんの記録なんだけど。何を考えたのか、私を見つけたラクーン達は、私とレッドさんを棺桶に入れてね、ここで祀ったのよ。」

 白雪姫の、毒のリンゴを食べた姫とドワーフたちを思い出します。レッドさんは寝たふりですか?

 「伝承ては。女神様とレット様、どちらもみたことのない生き物たけと。お二人とも、城のような建物の中て腐りもせすに眠るようにしていたのて、何か神聖な存在たろうとおもたそうてす」

 一緒に話を聞いていたパンタ陛下が、自分たちが関わる部分だと言うことで補足してくれます。
 椅子からベットに移されたようなものかしら? 椅子に座りっぱよりは良いと思うけど。

 「ラクーン達はここに住み着くことにして、この街を再開発したわ。残されていた街道と上下水道を整備して、街割りや石材は再利用して。今も城壁の内側に当たる部分は、当時の街並みをそのまま流用してわ」

 「河を整えたり土地を馴らしたりされていたので。開発はすこく楽たったと伝わっています」

 「帝国時代に、大人のレイコバスターで土木工事やりまくったからね。将来を見据えての大がかりな工事は済ませちゃったから」

 …私と同じことしていますね。道路や鉄道や空港まで見越した開発は、やはりあなたのせいですね。

 「そして八百年くらい前。セイホウ王国から人間の探検隊がやってきて、ロトリーの国を"発見"したわ」

 二百年前に滅んだ宗主国…母国だから…ですかね?
 セイホウ王国から出て国を拡大するのなら、やはり東の大陸が最有力候補でしょうが。一度滅んだところに再入植するのに抵抗はなかったのでしょうか?…まぁ、その辺を含めての調査でもあったんでしょうね。
 ところがその頃には、大陸に人は残っておらず、ラクーン達が国を作っていたと。

 「男女差はあれど、ロトリー達は探検隊と私が同じ種だという認識はしたんでしょうね。最初は歓迎して、平和的にこの街まで案内したようだけど。私を見た人達がね、力尽くで私を奪取しようとして、ここで戦闘になったらしいわ。私が目を覚ましたのはそんな宮殿での戦闘の真っ最中」

 セイホウ王国の人達にとっては、大人のレイコは"国母"のままだった…ってことですか。伝承としてそちらにも残っていたんでしょうね。もしかしたら、探検隊の目標そのものだったのかも。

 「私を迎えに来たという人間。お守りしますと盾になろうとするラクーン。さらに起きた私にびっくりしている双方。もう大混乱よ。私を守ろうと覆い被さるラクーン、それに斬りかかる人間。思わず素手でその剣を掴んだわ」

 そのときには「国母じゃ無いっ! 魔女だっ!」って叫ばれたわよって、苦笑する大人のレイコ。伝承が、国を作った国母と、国を滅ぼした魔女に分裂したようです。

 「私が目を覚ましたことで戦闘は中断。双方に死者が出る惨事だったけど。そもそもラクーンは私を祀っていただけで、攻撃を始めたのは人間。セイホウ王国の兵士は、ラクーンが私を利用しようとしてたとか言っていたけど、寝ている私に何か出来るわけでも無し。まぁどう見てもセイホウ王国の方が悪いわよね」

 「セイホウ王国の兵士は、馬車を奪って港町まで撤退。まぁ出て行くのなら追いかけるだけで手を出すなとロトリー達にお願いしてね。船に乗り込んだところを、二度と来るなとレイコバスターで脅かして」

 その辺はセイホウ王国でも聞きましたけど。原因は初めて聞きましたよ。

 「ところが、置いてきぼりにされた負傷兵で生き残ったのが七名ほどいてね。治療するとと同時に何人かにロトリーの言葉を覚えてもらって。三年後に回復した彼らを船でセイホウ王国に帰したわ。帰還兵の証言とともに、現場責任者の暴走で他勢力に戦闘を仕掛けたということで、探検隊のトップは処断されて。それで一旦納めたわけ。」

 没交渉は、暴発の危険があるからね…と。当時のロトリー国に、生き残りを連れてセイホウ王国とコンタクトを取るように指示したのは、大人のレイコだそうです。

 「セイホウ王国の方は、私を国に招こうとしたけど。まぁここがラクーンたちだけになったら、セイホウ王国から侵略を受けるのは目に見えているからね。この子達の保護のために私はここの残ることにしたの。この大陸の詳細とラクーンたちのことが広く知られると、他のところから侵攻しようとする国は必ず出るだろうから、出来るだけ秘匿し続けてね。」

 セイホウ王国が西の大陸…ネイルコードや正教国のある大陸への入植を聖女として助けたのも、その頃だそうです。 珍しく赤井さんが手伝ってくれた…そうで。

 「ラクーンたちはそんな私を女神とか呼んでくれてね。農耕や鉱山の開発を進めて、国としてやっと安定しだしたって感じね。火筒も私の知識からよ。かれらの工業力…というか、鍛冶の技術力では、まだこの辺が限界ね」

 日本で火縄銃が作られたころでも、鉄の加工と言えば、をハンマーで叩いて伸ばしてとか、鋳造が多少出来る程度だったかな。


 東の帝国から、セイホウ王国とロトリー国、これらのことを淡々と語ってきた大人のレイコですが。疲労が見て取れるのは、精神的な物でしょうか。

 「ごめんなさい。メンターの頭だとね、どうしても記憶が薄まり辛いのよ。ここに来てから幸せな時間もあっけだと。嫌なことも忘れられないからね。…今日はこのくらいにして、また明日にしても良いかしら?」

 「女神様…」

 パンダキングが心配そうにしています。

 「まだ聞きたいことあるでしょうから。明日はセレブロさんに、アライさん、ここに来た人は皆連れてらっしゃい。あとあれ、面白い物作ったんでしょ? 綿飴機ね。ちょうど良いわ、エイティーンス達にお披露目しましょう」

 もともと献上品の一つとして持ってきたので。ちょうどいいですか。
 後宮…位置的にも余人禁制なあたりも後宮がぴったりなように思いますが。私たちはその日は、そこを後にしたのでした。

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