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第10章 レイコさんは自重しない
第10章第015話 戴冠式
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第10章第015話 戴冠式
Side:ツキシマ・レイコ
護衛騎士さんに案内されて、私も戴冠式の会場に入ります。順番は、リシャーフさんの一つ後、王様の一つ前という順番。
会場には招待客も勢揃いしていて、そこに後から入るのにちょっと気が引けますが。そのまま玉座のすぐ隣に案内されます。
最初は、「赤竜神の巫女様が最高位だから一番最後に」なんて言われましたけど、固辞しました。王様達のための式なんだから…と、さんざん説得しましたよ、はい。本日の主役は王太子です。
壇上の玉座の左側に王族の席。左側に重要貴賓席が並べられ。その他の参列者は、玉座の前の一段下がったところに座席が並べられています。
私の席は…その一番玉座のすぐ左隣…王族の席より近いですよ。?
正教国のリシャーフさんと各辺境候、そして同盟や友好国の順で、重要貴賓席に座っていますね。
マーリアちゃんも、壇上の貴賓席。辺境候挟んで向こう側にご両親と並んで座っています。マーリアちゃんのご両親は、警備のこともあってさすがに宮殿での連泊です。
あと、ダーコラ王も一緒に並んでいます。私がこの世界に来るまでは、エルセニム国を文字通り隷属させていた国ですが。当時の王と王太子がああなってしまいましたからね、その辺の因縁は飲み込んでるそうです。
まぁエルセニム国と因縁があると言えば、正教国のリシャーフさんは重要貴賓席の一番玉座に近いところに座っています。
ロトリー国の面々も貴賓席ですね。マーリアちゃんの隣に座っています。ただ、使節団全員というわけではなく、ネイト殿下と大使のカララクルさんだけ壇上です。アライさん達は宿泊施設の方でお留守番。
「…あれは…なんだ? 動物がどうして?」
「ご存じないのですか? 東の帝国の跡地に国を興しているラクーンという種族だそうです」
「巫女様と懇意だそうで。言葉はもちろん、頭も悪くないそうな」
「有用な資源が多いそうで。ネイルコードは早速交易を考えているとか」
「帝国の魔女に支配されているという噂も…」
招待客の噂が聞こえてきます。うーん。ロトリー国の詳細と交易の内容についてはまだ発表していませんし。帝国の魔女…ロトリー国のレイコについても、どのように話を広めるかは、正教国と折衝中です。今は、憶測が広がるのは致し方無しですか。
まぁ彼らを実際に見て、帝国の魔女をバックに持つ恐ろしい種族…なんて考える人はいないでしょうから。ここで人目に付くのは良いことかな?
私が正面にレッドさんを抱っこしていて、視線が集中しているのが感じられるのですが。ネイト殿下が半分くらい持って行ってくれます。それでも平然としてるネイト殿下。私も毅然としないといけませんね。
ラッパがメインの勇ましい演奏が奏でられ、式の始まりです。
「クラーレスカ正教国、我らが信仰の最高祭司にして今上聖女、リシャーフ・クラーレスカ・バーハル猊下!」
司会はザイル宰相さんですね。この号令で全員が席を立ちます。
玉座の前にリシャーフさんが移動し、クライスファー陛下とローザリンテ王妃殿下が玉座の前で膝をつきます。
リシャーフさんが錫杖…宝石バリバリの杖ですね。要はメイスなわけですが。強度とかは期待できない感じの錫杖を構えます。周囲の護衛騎士が条件反射で緊張するのが分かりますが。微動だにしません。
「汝、ネイルコード国国王クライスファー・バルト・ネイルコードよ。三十四年に渡る在位に悔いは無いか。この国の民らに恥るところは無いか」
「悔いるところ無し。恥じるところ無し。我が統治に憾み無し」
「承知!。赤竜教総祭司リシャーフ・クラーレスカ・バーハルが、この世界を創造せり赤竜神に代わり、ここに汝の退位を認める」
リシャーフさんが陛下の前で錫杖をX字に振ります。その後、お付きの人達が、陛下のゴルゲッド…金と宝石で出来ているようなこれまた超豪華なものを外します。
普段付けていたゴルゲッドも豪華に見えましたが。儀典用は数段上ですね。これが王位を示すゴルゲッドの本物ですか。…肩が凝ること必至ですね。
事前に儀式の段取りの説明は受けています。これで陛下は退位ということになります。譲位は亡くなってからであることが多いので。これで擬似的に亡くなったことにするんですね。
これで陛下とローザリンテ殿下は退場となります。
今度は、アインコール殿下とファーレル王太子妃殿下が玉座の前に立ち。リシャーフさんに膝をつきます。
「汝、ネイルコード国王太子アインコール・バルト・ネイルコードよ。先王の意志を継ぎ、ネイルコード国を治める覚悟は成ったか?」
「承知。赤竜神の御心に沿うよう、我が人生を赤竜教とネイルコード国に献げる覚悟なり」
シャリン!シャリン!シャリン!。リシャーフさんが錫杖で床を叩きます。
「善哉。クラーレスカ正教国総祭司長リシャーフ・クラーレスカ・バーハルが、この世界を創造せり赤竜神に代わり、汝の即位を認める」
さて、私の出番です。
先ほどクライスファー陛下…上皇陛下ですね。外された王の証であるゴルゲッドを、私が抱かえたレッドさんが持ちます。けっこう重たいけど、レッドさんも力持ちです。ただ、そのままでは背が届きません。
両手で私がレッドさんを支え、レッドさんはアインコール殿下…陛下にゴルゲッドをかぶせます。
本来はリシャーフさんのやることですが。今回はレッドさんが行います。抱っこされた子供がかぶせているように見えがちですからね。威厳があるような所作は練習しましたよ。
「ネイルコード国新国王アインコール・バルト・ネイルコードは、赤竜神の代理たる小竜神、並びに赤竜神の巫女からの祝福を得た。ネイルコード国の王位継承に同意するものは沈黙を持って是とせよ」
シーンとした会場。
緊張が走る時間です。…過去にはやらかした貴族なんてのもいるそうです。まぁ普通の専制君主国ではその後は生き残れないでしょうけど。物理的に。
「ネイルコードの新たなる王がここに誕生した! 敬虔なる赤竜神の信徒らよ。新王を讃えよ!」
「「「新王を讃えよ! 新王、万歳!!」」」
ネイルコードの貴族たちが立ち上がって喝采します。
ゲストとして参加している他国の要人らも、拍手を持って讃えます。まぁネイルコードが気に入らなくても、正教国主導の儀式で立たない手は無いでしょう。
この後、新陛下は会場から出られるバルコニーに出て。王都の脇の湖…王都自体がクレーターの内部にあるのはユルガルムと似たような地形ですが。中央丘には、ネイルコード王家の陵墓があり、それがちょうど正面に見えるようになってまして。王族の方達、参列した貴族達が並んでそちらに向かって祈りを捧げ。これにて戴冠の儀式は終了です。
さて。会場を移しての宴会です。
取れたての魚介類に、氷菓子やアイスクリーム。他国から慌てて昨日到着したとかでなければ、すでにエイゼル市や王都で饗されているとは思いますが。まだ秋の、海からは離れたこの王都でそれらが食べられるということに気がついている目聡い大使はいるでしょう。こういうところでもネイルコードの技術の宣伝となります。
クーラーくらいなら、聖教都へ…というよりリシャーフさんの執務室に輸出されているというのは聞いていますが。こういう機械類は、保守体制を含めての商品ですので、ただ本体を売れば良いというわけでも無く。本格的に販売ができるのはもう少し先でしょうね。いくつかの商会が協力して輸送、販売、保守と担当して事業を行う計画を薦めています。
食事会が終わった後は、毎度の立食&お酒で懇談会となりますが。新国王陛下に挨拶に伺う貴族で列ができています。
…私も付き合わされました。けっこうこちらにも秋波な視線を送ってくる人が多いですね。私に阿っても、利益誘導は難しいですよ。
たっぷり二時間ほどの挨拶タイムが終わって、やっと一息つけます。
辺境候やリシャーフさん達が寄ってきてくれて、これが壁になってくれています。重鎮連中が会談中に割り込むことは、そうそうできませんからね。
こちらは、豪華なソファーと軽食が提供されているテーブルで雑談となりました。ふぅ。
ちょっと離れたところでは、マーリアちゃんらエルセニム組とロトリー国組が固まっています。大きな銀狼セレブロさんは今日は付いていませんが、マーリアちゃんはけっこう有名です。大陸一の美少女ですから。
さらにそこに、立って喋るアライグマ…ロトリー国一行が集まってますので。目立つこと目立つこと。
私は黒髪黒目で地味ですし。レッドさんは膝に乗るサイズですし。大人しくしていればそんなに目立ちません。
マーリアちゃんの方には護衛騎士も付いていますし。あ、エカテリンさんもいますね。申し訳ないですが、注目は集めて貰いましょう。
「陛下は…陛下と上皇陛下…で呼び方は良いでしょうかかね?」
「わしはそれで構わんよ、レイコ殿」
「私はまだ陛下と呼ばれるのは慣れないが。まぁおいおいだね」
アインコール陛下、アインコール陛下。こころのなかで復唱します。
「今後、上皇陛下はどう過ごされるのですか?」
「まぁ退位したからと言って公務から完全に解放されたわけではないが。まずは妻と共に旅行がしたいな。エイゼル市には自由に行けるようになるし。ユルガルムやテオーガルも…アマランカの姉上の所にも一度顔を出しておくか。正教国は来月行くのだから。…やはりセイホウ王国やロトリー国にも行ってみたいものだな」
今回の正教国訪問は海路となりますが。船は東の大陸に行った船と同型船です。
「「…父上(お爺さま)ずるい」」
アインコール殿下とカルタスト殿下がぼそっと呟いたのは、気がつかないふりをします。
「いま設計中の大型船が完成すれば、セイホウ王国やロトリー国訪問も安全性に不安はなくなるのだろ?」
「三隻が三倍の大きさの船に…単純に同じ安全とは言いませんし。上皇陛下らが渡るとなれば数隻の船団は必須でしょうが。さすがにもう反対する者はいないかと思います」
船の建造は、カステラード殿下の指揮下となっています。
まぁ運ぶ物はいくらでもあるでしょうから。船団が無駄になることもないでしょう。一隻単独での渡海は、電信の開発が成功してからですね。
「カルタストはまだ、飛行機に乗るのを諦めてはおらんぞ。即位したら絶対に無理だとは理解しているだろうから、王太子の内にやらかしそうだ」
「地球では、飛行機はむしろ安全な乗り物とされていました。要人も皆、飛行機で移動していましたし。カルタスト殿下もそのうち乗れるくらいの安全性は確保できるんじゃ無いかなと」
「ほう…ほう… となると、わしも乗れるのかな?」
あ。やはり陛下もそちらに興味がありましたか。
「前にも検討したことはありますが。四人乗り飛行機で正教国との定期便を作り、往復を一定期間無事故で行えるようになったのなら…くらいの条件で、カルタストを乗せてやっても良いのではと考えています。」
カステラード殿下が助け船を出します。安全運行の実績が成ったのなら…ってことですね。
「カステラード。お前が乗りたいだけだろ」
「…叔父上、ずるい」
「そりゃ、王太子より先に私が乗りますよ?」
陛下と王太子殿下から突っ込まれます。近くに立っているラコールさん、護衛騎士団の団長さんの眉が動きます。心配事増やすな…って感じですか?
「ラコール。馬車や船だから飛行機より安全と断ずるのも早計だろう?」
「は。もちろん警護に油断はいたしません」
護衛する側としては、移動自体反対って感じではありますね。固い護衛騎士に苦笑する陛下達。
まずは安全証明。まぁ陛下達が乗る乗らないに関わらず必須な課程ではあります。
「はっはっは。この歳で、世界すらいろいろ見て回れるようになりそうだな。今から楽しみじゃ。これもレイコ殿のおかげだな」
Side:ツキシマ・レイコ
護衛騎士さんに案内されて、私も戴冠式の会場に入ります。順番は、リシャーフさんの一つ後、王様の一つ前という順番。
会場には招待客も勢揃いしていて、そこに後から入るのにちょっと気が引けますが。そのまま玉座のすぐ隣に案内されます。
最初は、「赤竜神の巫女様が最高位だから一番最後に」なんて言われましたけど、固辞しました。王様達のための式なんだから…と、さんざん説得しましたよ、はい。本日の主役は王太子です。
壇上の玉座の左側に王族の席。左側に重要貴賓席が並べられ。その他の参列者は、玉座の前の一段下がったところに座席が並べられています。
私の席は…その一番玉座のすぐ左隣…王族の席より近いですよ。?
正教国のリシャーフさんと各辺境候、そして同盟や友好国の順で、重要貴賓席に座っていますね。
マーリアちゃんも、壇上の貴賓席。辺境候挟んで向こう側にご両親と並んで座っています。マーリアちゃんのご両親は、警備のこともあってさすがに宮殿での連泊です。
あと、ダーコラ王も一緒に並んでいます。私がこの世界に来るまでは、エルセニム国を文字通り隷属させていた国ですが。当時の王と王太子がああなってしまいましたからね、その辺の因縁は飲み込んでるそうです。
まぁエルセニム国と因縁があると言えば、正教国のリシャーフさんは重要貴賓席の一番玉座に近いところに座っています。
ロトリー国の面々も貴賓席ですね。マーリアちゃんの隣に座っています。ただ、使節団全員というわけではなく、ネイト殿下と大使のカララクルさんだけ壇上です。アライさん達は宿泊施設の方でお留守番。
「…あれは…なんだ? 動物がどうして?」
「ご存じないのですか? 東の帝国の跡地に国を興しているラクーンという種族だそうです」
「巫女様と懇意だそうで。言葉はもちろん、頭も悪くないそうな」
「有用な資源が多いそうで。ネイルコードは早速交易を考えているとか」
「帝国の魔女に支配されているという噂も…」
招待客の噂が聞こえてきます。うーん。ロトリー国の詳細と交易の内容についてはまだ発表していませんし。帝国の魔女…ロトリー国のレイコについても、どのように話を広めるかは、正教国と折衝中です。今は、憶測が広がるのは致し方無しですか。
まぁ彼らを実際に見て、帝国の魔女をバックに持つ恐ろしい種族…なんて考える人はいないでしょうから。ここで人目に付くのは良いことかな?
私が正面にレッドさんを抱っこしていて、視線が集中しているのが感じられるのですが。ネイト殿下が半分くらい持って行ってくれます。それでも平然としてるネイト殿下。私も毅然としないといけませんね。
ラッパがメインの勇ましい演奏が奏でられ、式の始まりです。
「クラーレスカ正教国、我らが信仰の最高祭司にして今上聖女、リシャーフ・クラーレスカ・バーハル猊下!」
司会はザイル宰相さんですね。この号令で全員が席を立ちます。
玉座の前にリシャーフさんが移動し、クライスファー陛下とローザリンテ王妃殿下が玉座の前で膝をつきます。
リシャーフさんが錫杖…宝石バリバリの杖ですね。要はメイスなわけですが。強度とかは期待できない感じの錫杖を構えます。周囲の護衛騎士が条件反射で緊張するのが分かりますが。微動だにしません。
「汝、ネイルコード国国王クライスファー・バルト・ネイルコードよ。三十四年に渡る在位に悔いは無いか。この国の民らに恥るところは無いか」
「悔いるところ無し。恥じるところ無し。我が統治に憾み無し」
「承知!。赤竜教総祭司リシャーフ・クラーレスカ・バーハルが、この世界を創造せり赤竜神に代わり、ここに汝の退位を認める」
リシャーフさんが陛下の前で錫杖をX字に振ります。その後、お付きの人達が、陛下のゴルゲッド…金と宝石で出来ているようなこれまた超豪華なものを外します。
普段付けていたゴルゲッドも豪華に見えましたが。儀典用は数段上ですね。これが王位を示すゴルゲッドの本物ですか。…肩が凝ること必至ですね。
事前に儀式の段取りの説明は受けています。これで陛下は退位ということになります。譲位は亡くなってからであることが多いので。これで擬似的に亡くなったことにするんですね。
これで陛下とローザリンテ殿下は退場となります。
今度は、アインコール殿下とファーレル王太子妃殿下が玉座の前に立ち。リシャーフさんに膝をつきます。
「汝、ネイルコード国王太子アインコール・バルト・ネイルコードよ。先王の意志を継ぎ、ネイルコード国を治める覚悟は成ったか?」
「承知。赤竜神の御心に沿うよう、我が人生を赤竜教とネイルコード国に献げる覚悟なり」
シャリン!シャリン!シャリン!。リシャーフさんが錫杖で床を叩きます。
「善哉。クラーレスカ正教国総祭司長リシャーフ・クラーレスカ・バーハルが、この世界を創造せり赤竜神に代わり、汝の即位を認める」
さて、私の出番です。
先ほどクライスファー陛下…上皇陛下ですね。外された王の証であるゴルゲッドを、私が抱かえたレッドさんが持ちます。けっこう重たいけど、レッドさんも力持ちです。ただ、そのままでは背が届きません。
両手で私がレッドさんを支え、レッドさんはアインコール殿下…陛下にゴルゲッドをかぶせます。
本来はリシャーフさんのやることですが。今回はレッドさんが行います。抱っこされた子供がかぶせているように見えがちですからね。威厳があるような所作は練習しましたよ。
「ネイルコード国新国王アインコール・バルト・ネイルコードは、赤竜神の代理たる小竜神、並びに赤竜神の巫女からの祝福を得た。ネイルコード国の王位継承に同意するものは沈黙を持って是とせよ」
シーンとした会場。
緊張が走る時間です。…過去にはやらかした貴族なんてのもいるそうです。まぁ普通の専制君主国ではその後は生き残れないでしょうけど。物理的に。
「ネイルコードの新たなる王がここに誕生した! 敬虔なる赤竜神の信徒らよ。新王を讃えよ!」
「「「新王を讃えよ! 新王、万歳!!」」」
ネイルコードの貴族たちが立ち上がって喝采します。
ゲストとして参加している他国の要人らも、拍手を持って讃えます。まぁネイルコードが気に入らなくても、正教国主導の儀式で立たない手は無いでしょう。
この後、新陛下は会場から出られるバルコニーに出て。王都の脇の湖…王都自体がクレーターの内部にあるのはユルガルムと似たような地形ですが。中央丘には、ネイルコード王家の陵墓があり、それがちょうど正面に見えるようになってまして。王族の方達、参列した貴族達が並んでそちらに向かって祈りを捧げ。これにて戴冠の儀式は終了です。
さて。会場を移しての宴会です。
取れたての魚介類に、氷菓子やアイスクリーム。他国から慌てて昨日到着したとかでなければ、すでにエイゼル市や王都で饗されているとは思いますが。まだ秋の、海からは離れたこの王都でそれらが食べられるということに気がついている目聡い大使はいるでしょう。こういうところでもネイルコードの技術の宣伝となります。
クーラーくらいなら、聖教都へ…というよりリシャーフさんの執務室に輸出されているというのは聞いていますが。こういう機械類は、保守体制を含めての商品ですので、ただ本体を売れば良いというわけでも無く。本格的に販売ができるのはもう少し先でしょうね。いくつかの商会が協力して輸送、販売、保守と担当して事業を行う計画を薦めています。
食事会が終わった後は、毎度の立食&お酒で懇談会となりますが。新国王陛下に挨拶に伺う貴族で列ができています。
…私も付き合わされました。けっこうこちらにも秋波な視線を送ってくる人が多いですね。私に阿っても、利益誘導は難しいですよ。
たっぷり二時間ほどの挨拶タイムが終わって、やっと一息つけます。
辺境候やリシャーフさん達が寄ってきてくれて、これが壁になってくれています。重鎮連中が会談中に割り込むことは、そうそうできませんからね。
こちらは、豪華なソファーと軽食が提供されているテーブルで雑談となりました。ふぅ。
ちょっと離れたところでは、マーリアちゃんらエルセニム組とロトリー国組が固まっています。大きな銀狼セレブロさんは今日は付いていませんが、マーリアちゃんはけっこう有名です。大陸一の美少女ですから。
さらにそこに、立って喋るアライグマ…ロトリー国一行が集まってますので。目立つこと目立つこと。
私は黒髪黒目で地味ですし。レッドさんは膝に乗るサイズですし。大人しくしていればそんなに目立ちません。
マーリアちゃんの方には護衛騎士も付いていますし。あ、エカテリンさんもいますね。申し訳ないですが、注目は集めて貰いましょう。
「陛下は…陛下と上皇陛下…で呼び方は良いでしょうかかね?」
「わしはそれで構わんよ、レイコ殿」
「私はまだ陛下と呼ばれるのは慣れないが。まぁおいおいだね」
アインコール陛下、アインコール陛下。こころのなかで復唱します。
「今後、上皇陛下はどう過ごされるのですか?」
「まぁ退位したからと言って公務から完全に解放されたわけではないが。まずは妻と共に旅行がしたいな。エイゼル市には自由に行けるようになるし。ユルガルムやテオーガルも…アマランカの姉上の所にも一度顔を出しておくか。正教国は来月行くのだから。…やはりセイホウ王国やロトリー国にも行ってみたいものだな」
今回の正教国訪問は海路となりますが。船は東の大陸に行った船と同型船です。
「「…父上(お爺さま)ずるい」」
アインコール殿下とカルタスト殿下がぼそっと呟いたのは、気がつかないふりをします。
「いま設計中の大型船が完成すれば、セイホウ王国やロトリー国訪問も安全性に不安はなくなるのだろ?」
「三隻が三倍の大きさの船に…単純に同じ安全とは言いませんし。上皇陛下らが渡るとなれば数隻の船団は必須でしょうが。さすがにもう反対する者はいないかと思います」
船の建造は、カステラード殿下の指揮下となっています。
まぁ運ぶ物はいくらでもあるでしょうから。船団が無駄になることもないでしょう。一隻単独での渡海は、電信の開発が成功してからですね。
「カルタストはまだ、飛行機に乗るのを諦めてはおらんぞ。即位したら絶対に無理だとは理解しているだろうから、王太子の内にやらかしそうだ」
「地球では、飛行機はむしろ安全な乗り物とされていました。要人も皆、飛行機で移動していましたし。カルタスト殿下もそのうち乗れるくらいの安全性は確保できるんじゃ無いかなと」
「ほう…ほう… となると、わしも乗れるのかな?」
あ。やはり陛下もそちらに興味がありましたか。
「前にも検討したことはありますが。四人乗り飛行機で正教国との定期便を作り、往復を一定期間無事故で行えるようになったのなら…くらいの条件で、カルタストを乗せてやっても良いのではと考えています。」
カステラード殿下が助け船を出します。安全運行の実績が成ったのなら…ってことですね。
「カステラード。お前が乗りたいだけだろ」
「…叔父上、ずるい」
「そりゃ、王太子より先に私が乗りますよ?」
陛下と王太子殿下から突っ込まれます。近くに立っているラコールさん、護衛騎士団の団長さんの眉が動きます。心配事増やすな…って感じですか?
「ラコール。馬車や船だから飛行機より安全と断ずるのも早計だろう?」
「は。もちろん警護に油断はいたしません」
護衛する側としては、移動自体反対って感じではありますね。固い護衛騎士に苦笑する陛下達。
まずは安全証明。まぁ陛下達が乗る乗らないに関わらず必須な課程ではあります。
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