玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第10章 レイコさんは自重しない

第10章第014話 戴冠式の準備、そのニ

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第10章第014話 戴冠式の準備、そのニ

Side:ツキシマ・レイコ

 まだ戴冠式まで一ヶ月あるのに。正教国からリシャーフさんがエイゼル市に来ました。
 クラーレスカ正教国祭司総長リシャーフ・クラーレスカ・バーハル猊下。国としての政の方は他の重鎮を揃えて一歩下がっていますが。それでも赤竜教の象徴的トップ、すなわちこの大陸の最重要人物と言って良いのがリシャーフさんですが。
 …ファルリード亭で連泊しています。

 最初に我が家で一泊して貰い。先月生まれたタロウ・アイリさん一家の第三子、タカシ・ランドゥークちゃんの祝福をして貰いました。
 はい、無事生まれましたよ。三人目ともなると慣れたもん…とか言ってましたけど。それなりに大変なイベントではありました。
 タロウさんのご両親、ケーンさんとリマさんも泊まりに来てまして。家の中にいる人だけにリシャーフさんの正体を明かしました。もう感涙のご両親でしたね。

 「この新たな命の道程において、赤竜神の導きと加護が照らしてくれますように。苦難や試練に出会ったとき、それらに打ち勝つ強さを。共に生きる者に出会えたとき、それらを包む愛を…」

 リシャーフさん自身は普段気さくな方ですが。タカシちゃんに祝福を与えるときの威厳にはちょっとびっくりしました。さすが本業です。
 ちなみに。タカシという名前は、赤井さんの名前です。赤竜神が人だった頃の名前…ってのは、まぁアイリさん達とリシャーフさんには伝えてありますが。大げさに騒ぐことも無いでしょう。ほら、英名で天使の名前を付けている人って一杯居ましたしね。その程度の感覚です。マイケルなんて何人居たことやら。

 お礼というわけでもないですが、戴冠式の日までファルリード亭を拠点に提供します。エイゼル市と王都を行ったり来たりで、観光を楽しんでますね。
 王都までは汽車ですぐですから。たまに王宮への打ち合わせついでに遊びに行っています。早く教都にも汽車が欲しい…とぼやいてますが。向こうも鉄道の敷設は時間の問題でしょう。

 「朝寝坊して。お風呂入って。美味しいもの食べて。お買いものして。スイーツ食べ歩きして。夜はお酒なんかも戴いたりして…ファルリード亭の食事は美味しいし。 はぁ、ネイルコードは悪魔の国ね。この私を堕落させるなんて…」

 着ている物もランドゥーク商会の既製服、目立たないようにシンプルなワンピースです。なんか遊んでいるお姉さんって感じで、ほんとのんびりしていますね。

 「クーククッ」

 「ああ小竜神様、お酌までしていただいて…ありがとうございますっ! っとと… ん~おいしいですねぇ~」

 レッドさんもノリが良いですが。良いんですか? この子、一応信仰の対象でしょ?

 「リシャーフさん、ネイルコードにはお仕事しに来たんじゃ無いんですか?」

 お忍びでの休暇…では在るんでしょうが。影さんたちが常駐して安全度が高いとは言え、ちょっと緩みすぎに思います。

 「貴族街に泊まったりしたら、毎日挨拶だの祝福だのと、遊ぶ暇なんて無くなるわよ。教都でも、催事やら周辺国や貴族との調停やら、祭司総長としてずっと気を張っているのよ。こんなときくらいダラダラさせてよ…」

 正教国からの従者さんも苦笑しています。
 タルーサ・ザオクスさん、トゥーラ・プシノさん。リシャーフさんと初めて会ったときの従者さんです。
 タルーサさんは聖騎士団長。トゥーラさんは護衛騎士の隊長さんに出世しています。

 「私達も戴冠式までは休暇申請していますので。今は休暇中です。っと、小竜神様恐縮です」

 「…ってのはタルーサの冗談よ。ちゃんと私達は護衛してますからね。あぁ、ありがとうございます小竜神様っ!」

 足を卓下に下ろせる座敷部屋みたいなところで座椅子付き。のんびり出来るとけっこう好評です。レッドさんもここならお酌して回れます。
 ちなみにリシャーフさんは今二十八歳。タルーサさんは三十三でお子さんいます。トゥーラさん二十二歳。ぱっと見、観光に来た三姉妹で通じそうですね。

 「…特許庁の立ち上げね、ほんと忙しいのよ、あれ。レイコちゃんから回されてきた奉納ね、扱っている案件の精査を始めると、やれ信仰にそぐわないとか、やれこれは神を否定するとか、そういう嘴を突っ込んでくる輩が多くてね。ネイルコード経由の申請だとなおさらよ、あの老害共が…」

 お酒のせいか、口悪くなってますよリシャーフさん。
 司祭が受け取れるような物ならともかく。美味しい思いが出来るわけでもない科学に基づくような奉納に関しては、旧来の奉納のシステムでは扱いかねているようですね。

 「まぁレイコちゃんの目的ってのは、教会が知識を管理すべきなのかという辺の意識改革もあるんだろうけど。やっぱ今のままでは仕事が進まなくてね。奉納という仕組み自体をなんとか教会から国政の方に移したくて、いろいろやっているんだけど。職権にこだわる奴らが多くてねもう」

 国政と宗教の分離。科学と信仰の分離。リシャーフさんは難航しているみたいに言いますが、それでもここ数年の成果はかなりな物です。正教国ではネイルコードは田舎だとバカにされがちですが。だからこそ、ネイルコードは邪魔されずに成果を上げているわけで。正教国とその周辺国にこのへんを宣伝するってのも、今回の戴冠式招待の目的の一つでもありますが。

 「というわけでレイコちゃん。教都に来たときにはよろしくね。あいつらにガツンと」

 …丸投げしてたら投げ返された。



 王都では、アライさん達にも会うようにしています。使節一行は、王宮内の迎賓館に泊まっています。

 「ひゃー。大使補佐の仕事がこんなに忙しいとはおもいませんてした。毎日会議てすよ」

 「戴冠式の後は、正教国での認定式に付き合ったあと、ネイト殿下は帰国されるんだよね? アライさんも帰るの?」

 「いいえ。カララクルさんかネイルコーとに常駐することとなりましたのて。私と残ります。エイせル市に大使館を建てることになりましたのて。ネイト殿下と入れ替わりて、ロトリー国から次の外交官と護衛が派遣される予定てす。あと今度は、学者や留学生も来ることになるとおいます。」

 本格的な交流の為の下準備や、条約の草案など。ネイルコードの外務省と毎日折衝しているようです。

 「ネイルコーとは素晴らしいですね。真似したいところ、購入したい物、たくさんありますか。先立つものとして、ロトリー国から売れる物を確保してからてすね。かんはらないと」

 ネイト殿下は興奮気味です。
 ロトリー国から持ち帰ったボーキサイトの精錬は、実験室レベルではすでに成功しています。今は効率を上げる研究中です。
 鉄よりはるかに軽い金属ができて、皆がびっくりししているところです。飛行機にまでするのなら、ここからさらにジュラルミンを作らないといけないですけど。

 「ユルかルムにも行きました。あんなに大量の鉄は初めて見ました。鉄道もつくれるわけてすね」

 それでも地球の製鉄所に比べればかなり小規模ですが。ユルガルムの製鉄所は重工業の先駆けです。鉱山排水用蒸気機関ポンプとか、蒸気機関で動くワイヤー式トロッコなんてのも、量産しつつあります。
 ただ、ユルガルムの産鉄量だけでは、大陸の需要全部を満たすのにはぜんぜん足りないので。他の鉄鉱石と石炭…炭素質隕石鉱床の鉱山捜索を計画中です。この辺も正教国に丸投げしたい案件ですね。
 東の大陸とその南の大陸も、まだ資源探索という面では未踏なところがありますから。その辺も追々とです。

 「ネイルコードがロトリー国に求めている物は大体分かりました。国に戻ったら、早速南の大陸の鉱山と港湾の開発を計画せねは」

 ネイルコードに追いつき追い越せと言わんばかりのネイト殿下です。
 ネイルコードのここ五年ほどの発展度合いの説明もされたのでしょう、ロトリー国でどこまで出来るのかの計算はしているはずです。

 ネイルコード側も、新しい輸送船の建造を急ぐ必要がありそうです。海軍造船所の技師さんが張り切っていますよ。
 今回の船団に使ったタイプの船は、私達の航海中にさらに三隻が就航していまして、さらに三隻建造中ですが。
 設計中の新型船は三千トンを目標にしています。さすがにいきなり一万トンは難しい用ようが、それでも一気に三倍です。ただ、ドックは一万トン級が建造できるサイズを用意するそうです。
 竜骨と主要構造に船首船尾部が鉄製で、他の部分は木製のハイブリッドとする予定で。やはり全部を鉄にするには、製鉄業の拡大待ちになりそうですね。



 さて。戴冠式当日です。
 私もマーリアちゃんは、アイズン伯爵の王都邸に泊めていただきました。王宮の方にどうぞ…とは言われましたが。さすがに一番忙しい前日にお邪魔するのもなんですから、打ち合わせだけ済ませて引き上げました。
 戴冠式モードの式場も見せて貰いましたが。いやまぁ豪華絢爛、国威を詰め込んだ感じですね。こういう時用の玉座なんかも出されていまして。…まぁ言っちゃ何ですが、飾りは凄いですが座り心地はいまいちっぽいです。


 アイズン伯爵邸では、伯爵と今後の予定も話しました。
 来月に行われる正教国での王位認定式…昔は正教国との仲も万全とは行かず、今上陛下の時にはそうとうボラれたそうですが。今回は歓迎ムードで恙なく行われそうだとほっとしている様子です。
 レッドさんだけではなく、私も赤竜神の巫女として引っ張り出されるわけですが。同時期に認定式を行う国々からも私たちに参加要請が来ているそうで。中には、去年やったけど小竜神と巫女が来るくるのならもう一度…なんてところもあるそうです。

 「今度はわしらがボれる番じゃな。クックック」

 とアイズン伯爵… まぁ冗談ですけどね。往復の船の手配以外は全部正教国が持ってくれることになっていますので。特にギャランティーは発生しません。というかさせません。
 立場上、目立つことを求められるのは仕方在りません。もうそういう影響力がある物だと割り切って利用するつもりですが。宗教的なシンボルになるつもりもありません。
 この辺の要望というか目的は、リシャーフさんにも伝えてはあります。まぁ赤竜神が実在することは知られている世界、神とあがめる対象が実在する宗教は、現実的な運営が求められる…というのは、赤竜教のトップであるリシャーフさんも理解しているようです。
 宗教としての求心力と、世界を変革していくための原動力。

 「レイコ殿の目指す世界は知っておるがの。一人で全部やろうとする必要はないぞ。そのための正教国利用じゃろ?」

 政教分離ならぬ科教分離とでもいいますか。…とはいえ、リシャーフさんもその辺の必要性はきちんと分かっていると思います。神様がいて願えば叶う…なんて都合の良いことを考えていては、組織のトップなんて出来ませんからね。
 宗教のために科学を使うなんて事になると、かつてのマナ研のようになるでしょうから。その辺はしっかりとした組織改革をして欲しいところです。


 さて。私達も準備が出来ました。王宮に向かいましょうか。
 
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