玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第10章 レイコさんは自重しない

第10章第018話 正教国につきました

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第10章第018話 正教国につきました

Side:ツキシマ・レイコ

 とくに天候が荒れることも無く。島や半島を避けた航路を安全優先で取りつつ、正教国の港町セネバルへ到着しました。

 まずは沖合の島に近づくと、小型の船がやってきました。

 「ネイルコード国船団旗艦キング・アインコール号ですね。連絡は受けております。ようこそ、クラーレスカ正教国へ」

 乗り込んできた役人が挨拶します。

 「接岸は三隻、残りは洋上停泊ということでよろしいですね。八番、九番、十番の桟橋を使っていただくことになります」

 正教国に寄る船が増えましたからね。それに合わせて港の整備も進みつつあります。
 最初のころは、せいぜい船桟橋だったのですが。浚渫と合わせて、石を四角に沈めて中を砂利で埋めた本格的な桟橋も整備されつつあります。蒸気船三隻は、その新造された桟橋に着けられます。水先案内人の指示で、指定の桟橋に向かいます。

 甲板には、縛った竹束がいくつも置いてあります。これは、いざというときに人がしがみつくための救命用具にもなりますが。接岸するときに船体にダメージが入らないように、船舷に吊しておくのです。地球では、タイヤがよく使われていましたね。港によって整備の度合いが違うので、船側でこういった者を用意しています。それらが吊され、接岸です。
 帆は畳んで、蒸気推進で桟橋に近づき。最後は逆進させて停止します。ぴったりですね、さすがです。舫いが投げられ、船員さんが手際よく固定していきます。
 これまた甲板に置かれていたタラップが設置され。両国の役人さんたちと警備の船員さんが最初におります。私達が降りられるのはもうちょっと後ですね。


 「レイコ。あれ、ネイルコードの船かしら? 旗が違うようだけど。」

 「よく見る形の船だと思うけど。旗はネイルコードじゃないよ」

 停船している船は、それぞれの国籍の旗を立てておくのがルールとなっています。
 隣に泊まっている船。ネイルコードで使われている輸送用ガレオン船という感じで、ダーコラにローザリンテ殿下が赴かれたとき、兵員輸送船としても使ってましたが、それよりは一回り小さいかな。確かに、意匠的にはネイルコードの船という感じです。
 今ではクイーン・ローザリンテ号のような快速船が旅客の主流となりましたが。従来の帆船も多く就役しているはずです。

 「ネイルコードで作った船のようだが。あの旗は…リシャイマだったか?」

 「リシャイマ王国の旗ですね。ほら、眼鏡の件で問題になった大使がいたでしょ?。あそこの一つこちら側の国ね」

 アインコール陛下が答えて、ローザリンテ殿下が答え合わせ…ですね。アインコール殿下は、正解して良かったって顔しています。…お母さんに勉強厳しく見られていた口かな?
 眼鏡の件…カーラさんの眼鏡を取ろうとした大使ですね。…そんな事件でも、なんかもう懐かしいです。
 あのときの眼鏡は…レンズ以外は作り直しましたが、ファルリード亭の受付の後ろの棚に今でも飾られています。

 「ネイルコードの中古船をいくつか他国に売却しているはずなので。その一隻でしょう」

 決済した記憶がある…と、執事モードのクライスファー陛下です。
 快速帆船やら蒸気船やら、つねに新造船が就役しているネイルコードです。ネイルコードも大陸にあると言っても、西との接続は三角州あたりだけで、そこから北は山地となっています。一応、北岸のユルガルム側からエルセニムに通じる陸路は模索中ですが、まだ探検中と言って良い状態。
 三角州の開発と架橋はまだ工事中なため、渡し船で通るような状態で、ここを完全な陸路と言うにも無理があり。こういう立地から、ネイルコードはなにげに正教国側から隔離された海洋国家でもあります。田舎と呼ばれるゆえんでもあります。


 隣の桟橋に停泊しているそのリシャイマの船。…船上でなんか偉そうな人が…身なりからして太った貴族という感じの初老の男性が、こちらを指差して騒いでいますね。
 癇癪を起こしているらしいその貴族をなだめるように。これまた船員とは違う身なり…まぁ鎧を着て船に乗る人も居ないので、側近か護衛なのでしょうか、そんな青年と言って良いくらいの男性が宥めています。
 風と波の音で、何を話しているかまではよく聞こえませんが。なんかこちらの船がデカいことに腹を立てているような内容ですか?

 「レイコ、あの人、何怒っているんだろ?」

 「…どのみち、トラブルの予感しかしないけど」

 そうこうしていると。宥めていた暫定護衛の人が、向こうの船を降りて桟橋を走ってきます。一旦陸の方まで走るので、大変そう。
 どうもこちらの船に用があるらしいということで、ラコール団長がタラップを降りて待機します。
 暫定護衛さん、タラップのところまで来て団長になにか説明してますね。

 「リシャイマ王国の護衛騎士がお話ししたいそうなのですが…こちらで対応しておきましょうか?」

 戻ってきたラコール団長が報告しますが。この船の一番偉い人と話をしたいそうです。
 一番偉い人?…船団の司令はオレク司令。船の指揮権を持つ人ならミヤンカ艦長ですが。…この船に乗っている一番偉い人と言えば…ねぇ。

 「おもしろい。話を聞こうではないか」

 …本当に面白がっていますね、アインコール陛下。


 「リシャイマ王国護衛騎士、キリルロク・ヴィテラと申します」

 いきなり直答はさせられませんので。まずはラコール団長が対応します。

 「先ほどお話ししましたが。其はネイルコード王国護衛騎士隊長ラコール・ジスキーと申します。…ヴィテラというと、リシャイマの王族の名前でしたかな」

 「側姫腹の四男で、名を名乗ることは許されても継承権はありませんが、近衛を拝命しております。まぁ、身内だからと便利に使われているだけですが」

 見た目二十代前半といった感じですが。なんか苦労人という感じですね。

 「ところで…この船はネイルコードの新造船ですかな?」

 「就航は去年ですな。この船でセイホウ王国と東の大陸まで往復しました」

 「それほどの旅ができる船ですか…素晴らしいですね」

 千トンクラスではありますが、今のところは最大級と言って良い船ですね。キリルロクさんは船上を見回します…が。意を決したように本題に入ります。

 「あそこにおられるのは…我が国リシャイマ王国の国王カルポジリ・リシャイマ・ヴィテラ陛下であらせられます。我が王の言うには、…その…非常に言いにくいのですが」

 隣の船でいつの何か用意したのか椅子に座ってこちらを睨んでいる派手な衣装のおっさん。そちらをチラ見して、

 「大金を払ったのに、中古の小さい船を売りつけるとは何事だ。謝罪としてこの船を寄越せ…だそうです。」

 無茶な要求だというのは、この人も分かっているようなので。大きなため息を一つ。

 「あれでも、あの船に最初に乗ったときには、近隣で一番でかい船だとはしゃいでいたんですけどね。この港に来て、ネイルコード製の快速船をみて不愉快になって。さらにこの船を見て癇癪破裂したようです」

 見られている分、きっちりとした姿勢は続けますが…向こうから見えないと思ってか、情けない顔になってます。

 「この船の名前ですがな。キング・アインコール号と申します」

 「え?」

 …船名は、外海に面した真後ろに書かれているので。目に入らなかったようです。

 「アインコール陛下の名前はご存じでしたか」

 「貴国で今年、新たに即位された国王…だったかと」

 ここで、少し離れたところで護衛に囲まれているアインコール陛下に気がついたようです。

 「キング・アインコール号… あの…あちらにおられる方は…もしかして」

 「ネイルコード国国王アインコール・バルト・ネイルコード陛下であられます」

 びっくりして慌てて膝をつくキリルロクさん。要人の船だとは思っていたようですが。まさか国王自身の乗船だとは思わなかったようです。

 「しっ!失礼いたしました! アインコール・バルト・ネイルコード陛下!」

 「まぁあなたも苦労されているようだし。今回の正教国訪問は、戴冠の認証式が目的ですからな。慶事に際して、先ほどの妄言は聞かなかったことにしますので。そなたの主をよく言い聞かせよ」

 「はは! ご寛恕感謝いたします」

 敬礼してタラップを降り、来るときより5割増しくらいの速度で船に戻っていきます。



 「レイコ殿。あの船、沈められるか?」

 隣の船の様子を見ていたアインコール殿下が呟きます。

 「レイコバスター…でなくても。穴開ければ十分だから。バラストの石でもぶん投げるのなら、マーリアちゃんでもやれそうだけど」

 「水面ギリギリの所を狙えば良いのよね? 水密隔壁だっけ。三カ所くらい穴を開ければ確実かな?」

 東の大陸に一緒に航海したマーリアちゃんは、船の構造にも詳しいのです。…まぁ、すでにネイルコードの持ち物ではないにしても、ネイルコードの職人さん達が作り上げた船です。物には当たりたくないですね。

 キリルロクさんが、カルポジリ王のところにたどり着いたようです。
 肩で息をしながら、説明しているようで。多分、ネイルコード王の座乗船だと説明されたのでしょう。ぐぬぬという表情でこちらを睨み付けてから、船室に入っていきました。

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