僕と彼女

撫でたココ

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相談と彼女

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 あれはいつの頃だっただろうか。あんな出来事は一生かけても忘れられるはずはなかった。


 僕はその時、大学2年生だったから20歳くらいだろうか。その頃僕は将来、弱い人を助けられる人になりたいと思ってた。別にヒーローになるとかじゃなくて、心が弱い人の手助けがしたいと思ってたのだ。

 だから僕は相談室というサイトをなんとかして立ち上げ、人の悩みを聞いてみようとおもった。

 そんなサイトをどうにかこうにか作り上げ、大学の授業に出ながら連絡が来るのを待っていた。

 時は過ぎ、1ヶ月くらいたった頃だろうか、そこで初めて、掲示していたアドレスにメールが来た。

 その内容は簡素で、相談したいことがある。あって話がしたい。というものだった。

 僕はそのメールに返信をして後日会うことにした。

 そして当日。僕は初めてその人と顔を合わせた。

「はじめまして。豊永です。」

「・・・橋田です」

 僕たちは顔を合わせるのに、橋田さんの家の近くのカフェに来ていた。

「連絡してくれてありがとうございます。申し訳ないんですけど、橋田さんがはじめての相談者なので僕めちゃくちゃ緊張してます。」

「そうなんですね。でも聞いてくれる人がいて良かったです。」

「そういえば橋田さんは今、何をやられているんですか。」

「職業ですか?私は一応会社員です。」

「そうなんですね。会社とかってやっぱり大変ですか?」

「そうですね、場所によるかもしれないですけど少なくとも私のところは大変ですね。」

 なんとなく、相談室を持ちかける前に世間話をして、本題まで遠回りしながら会話を進めていた。

 とあるところで、会話の風向きが変わった気がしたのでそれとなく聞いてみることにした。

「最近何か大変なことはあるんですか?」

 彼女は視線を机に向け、しばらく固まってから

「・・・実は会社のことで」

 と切り出した。

「なんだか周りの人に避けられてる気がして、そしたら怖くなって、毎日、毎日、陰口が聞こえてくるみたいで、そしたら、誰とも会話できなくなって、」

「いつくらいから避けられてる気がしているんですか?」

「1ヶ月くらい前からです。ふとしたときに周りを見渡したら、こっちをチラチラ見ながら皆んなが話している気がして、自分だけ隔離されているみたいに、空気が私のとこだけ重いんです。このままじゃ、、、」

「直接なにか言われたことありますか?」

「・・・それはない気がします。でもみんなの口の動きとか、気になってみると、『橋田さんって・・・』って言ってる気がするんです。もう耐えられなくて、早くいなくなれって言われてるみたいで、」

 橋田さんは質問に対してきちんと答えてくれていた。それでもなにかに迫られているように、言葉を発しているのはなんとなく伝わって来ていた。

「大丈夫だと思いますから。落ち着いてください。」

「・・・・」

「・・・じゃあ、これが原因かなって思うことはありますか。」

「わかりません。でも、愛想がないとか、話が合わないやつだとか、面白くないとか、可愛くないとか、そういうことだとおもうんです。」

「僕がおもうことはですね、やっぱり気にしすぎなんじゃないかなって思いますよ。僕の話で申し訳ないんですけどね、僕も人と話すのが得意ではなくて、余計なことを言わないように会話しなかったり、邪魔になるからと思ってはなそうとしていたことをやめたりみたいなことがいまだに多くて。たけど、周りの人が僕のちょっとしたことを見て話してくれるんです。だから、人って意外とおおらかなんだとおもうんです。」

「そうですかね」

「そうだと思います。少なくとも、この短い時間で橋田さんは悪い人じゃないっていうのはすぐわかりましたし。だから気にしなくてもいいんじゃないですかね。」

「そうですかね」

「それでももしまだダメだったらまた話は聞きますよ。僕も話せる人が出来て嬉しいですし。」

「本当ですか。じゃあ少し頑張ってみます。」

「よかったです」

 なんとか、気持ちを持ち直すことができたみたいだった。結構話し込んでいたみたいだったから、外は少しずつ暗くなっていた。

「今日はありがとうございました。また明日から頑張ります」

「はい。ちょっとだけ頑張ろうっておもうくらいがいいと思いますよ。」

 カフェでの会計を済ませて、最寄りの駅が見えたところだった。

「すぐそこなんでここまでで大丈夫ですよ。駅まで送ってくれてありがとうございます。」

「そうですか。じゃあこの辺で。ほんとに今日はありがとうございました。」

「はい。また話しましょう」

 そういって僕が信号を渡ろうとしたときだった。

「あっ」

 声が聞こえて振り返ってみると、自分の進行方向に向き直ろうとして足がもつれたのか、橋田さんがつまずくところだった。

 体の重心が前へと傾き、身が車道へと乗り出した。

「あっ」

 聞こえるかもわからないかすれ声。

 次の瞬間、彼女は車に轢かれた。

「あっ」

 声が出ない。助けを助けを求めなきゃ。そうだ、とりあえず電話を。いや、先に助けに行かないと、その前に人を読んだ方がいいのか、でもそれだと助けが遅れてしまう。助けなきゃ。助けなきゃ、助けなきゃ!助けなきゃ?

 助けて。


 誰でもいいから早く。









 結局、僕は何もできなかった。






 彼女を助けることも、明日のことも。一緒にまた話すことも叶わない。



 僕は今でも彼女の幻影が焼き付いて離れない。
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