僕と彼女

撫でたココ

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病気と彼女

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 身近な人の死はこれが初めてだった。
 僕が彼女と会ったのは高校の入学式の数日後。
 環境が変わったことでけだるさを感じた僕は保健室へと向かいベッドで休もうと思っていた。保健室に着き先生の許可も得たところでベッドで休もうとしきりとなっていたカーテンを開く。
 すると2つあるベッドのかたわらに先客がいた。その子が彼女ー椎名穂乃果だった。色白で端正な顔立ち、すらりと伸びる長い黒髪。身体は細く、いかにも病弱そうな女の子だった。そんな椎名穂乃果に一目ぼれし、恋をした。
 それでも出会いから数週間、結局彼女とは何も起こらないでいた。何せ僕は人見知りだし、話しかける勇気のないヘタレだ。特にイベントがあるわけもなく毎日を消化していった。
 だけどそんな平凡な毎日は突然と終わりを告げた。
 僕はその日、何のわけもなく叔母の付き添いとして少し大きめの病院に訪れていた。診察の順番待ちをし、しばらくして叔母の名前が呼ばれ診察室へと入っていく。そこで入れ違うように出てきたのが椎名だった。
「椎名さん?」
 僕は口ずさむように彼女の名前を呼んでいた。
「勇伊くん・・・」
「えっ?なんで僕の名前を?」
「それはこっちのセリフなのだけれど・・・」
 このとき僕たちは知り合いでも何でもなかった。少し目立つ彼女の名前を知っているのはいいとしても、彼女が僕を知っていることに驚きだった。
「少し話し相手になってくれる?」
 ここで僕は彼女に関するとある事実を知った。
・・・・
・・・・
・・・・・・・・・・・
「私、もうすぐで死ぬんだけどさ、やりたいこといっぱいあるんだよね。」
「今死ぬって言った?」
「うん、死ぬんだよ私。」
「・・・冗談でしょ?」
「冗談言ってる顔に見える?」
 とてもじゃないけど冗談を言ってるようには見えなかった。初恋の相手が死の間際だなんて信じられないし信じたくもない。
「それでさ、少し付き合ってくれない?」
「えっ?」
 この瞬間から、僕の幸せな生活は始まった。

 僕は彼女に言われるがままいろんなことをした。遊園地に行ったり、神社めぐりに行ったり、二人だけで旅行にだって行った。僕はこの楽しすぎる毎日の中で忘れていたんだ。迫りくる死を。本当の別れを。

その時は無慈悲にも訪れた。僕たちが公園で次はどうするか話し合ってる時だった。
「次はどこへ行こうか?」
「次か~いけるかな・・・・」
 きっと彼女は気付いていたのだろう。虫の知らせのように。自分の死が近いことを。
 彼女が言いよどんでいたときそれは起きた。
「もう、だめかも」
 そういうと彼女から全身の力が抜け、僕のほうへぐったり倒れる。
「ご、めん、ね」
「ま、まだ、大丈夫、だよね。またどっかいけるよね」
「もう、だめ、みたい」
「え・・・」
 彼女からはみるみるエネルギーがなくなっていく。声もかすれている。
「ごめん、ね」
「・・・・・・・・・」
「そし、て・・・・ありがとう」
 彼女から呼吸が聞こえなくなり、脈がなくなる。
「うぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 目から流れる大粒の涙。言葉にならない喪失感。今までの思い出。楽しかった日々。いろんな思いが、感情が、出来事が駆け巡る。
 なんで彼女なのだろう。あんなに楽しかったのに。起こるはずないと思っていたのに。不幸はいつだって突然とやってくる。
 

 彼女のことは一生忘れることはないだろう。
 僕は不平等な世界を恨みながら、彼女の分まで生きていくと誓った。 
 
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