僕と彼女

撫でたココ

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シャッター音と彼女

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 カシャ

 夕暮れ時の丘の上でシャッター音が響いた。

 僕は空を眺めることが好きだ。いろんな色に変化し様々な表情をする空を見ることが。

 もう6時過ぎであるこの時間に僕は一人で家から少し離れたこの丘の上にいる。

 別に僕だけが知っているわけではなく、この辺の人なら知っているこの場所だけど今日は人がいない。好き好んでこの場所に来る人が少ないだけかもしれないけど。

 僕は空が好きであると同時にこの場所も好きだ。落ち着けるし時の流れがゆっくりになる気がするから。

 今日も一人で丘の上から頰を真っ赤に染めたような色をした夕日を見ていた。

 すると後ろの方から

 カシャ

 シャッター音が響いた。

 僕は音のする方を振り向いた。

「いい写真撮れたよ」

 いきなりシャッターを切った少女は僕にそう言った。

「僕写ってるの?」

「もちろん」

「写真は嫌いだ」

「でも君の後ろ姿は綺麗だった」

 そういって今さっきの写真をカメラの画面越しから見せてくれた。

 真っ赤に染まる大きな空。周りをも染め上げているその夕日と僕の後ろ姿は自然と溶け合っていて本当に綺麗な一枚だった。

「たしかに綺麗」

「だよね」

 画面から目を離し少女の方を見る。

 初めてあった視線を前にどきりとする。肩まで伸びた髪の毛。口角があがり微笑んでる口元。目だけでもわかる優しい瞳。その全てからなるきれいな表情。そして彼女を染め上げる真っ赤な夕日。

 僕は彼女に恋をした。

「君はいつもここにいるの?」

 彼女は僕に話しかける。

「いつもではないかな。でも空見るの好きだから」

「そっか」

「君は?」

「私はただの通りすがり」

「どうしてこんな丘まできたの?」

「そこに丘があったから?・・・っての冗談として、なんでだろうねここから見る景色はきっといいものなんだろうなと思って。
 それできて見たら君がいたってわけ」

「そっか」

「私はさ、写真を撮るのが好きでさ、いろんなところに散歩しながら写真をとりにいくんだよね。景色の写真とか子どもが遊んでる写真とか、自分じゃなくてもいいんだ。この前はここにいったな~とか、これってあそこだっけなとか自分の1日が無駄じゃないってことがわかるから。」

 夕日に魅せられてか彼女の顔はなんだか憂いを帯びているように見えた。

「たのしそうだね」

「うん。こうして写真を撮っている時が1番幸せ。ここにいることを直に感じていられる時間だから。」

「じゃあさ貸して」

 僕は首に下げていたカメラを彼女から受け取った。そして彼女に僕がさっきいた場所へと移動してもらった。

「後ろ向いててね」

「うん」


 カシャ

 静寂な時間を押し留めるようにしてシャッター音が響く。

「はい」

 借りていたカメラを彼女に返す。

「僕と君がここにいた証明。同じ写真には移れないけどこれなら一緒にいたことがわかるから」

「僕も君も似た者同士かもね」

「あり、がとう」

 受け取ったカメラの上に大粒の涙がぼたぼたとこぼれ落ちた。
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