暑い景色と冷たい温もり

序章

自己紹介とパラドックス

「私は嘘つきです」

　自己紹介の最中。僕の前の女の子、逢沢小香花がそう言い放った。

　すらっとした立ち姿にどこか可愛らしさを感じさせる顔立ち。決して幼い顔立ちではない。綺麗さと可愛らしさが相まったなんとも魅力的な彼女。そんな目の前にいる女の子が一言だけ言い終わると静かに座った。

　シーン

　なんと連携のとれた静けさだろうか。目に見えるくらいに鎮まった教室。

　次は僕の番。ちなみに僕は出席番号に2番だから、さっきのは最初の自己紹介だったわけだ。

「彼女は嘘つきじゃないです。だけど僕は嘘つきです」

　とこんなことを言ってみた。

　ザワザワ

　なんと結束のあるざわつきだろうか。初めましての人たちが多いはずなのに席の前後でこそこそと話を始める。友達作りに一役買ったのならなによりだ。

　周りを確認し、そっと座った。

「面白いね、君」

　逢沢小香花が後ろに振り向いてきた。

「その言葉は本当なのかな」

「あはは、やっぱり面白いね」

「ありがとさん」

「んで、私は嘘つきなのかそうじゃないのか。どうでしょうか。」

「嘘つきのパラドックス。でしょ？」

　パラドックス。正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から受け入れがたい結論が得られること。

　彼女が言った「私は嘘つきです」という言葉。もし言葉通りに嘘を言っているとするとその言葉が嘘となるから、「私は嘘つきではないです」となり矛盾する。
　また、「私は嘘つきです」が本当だとすると、その言葉に嘘はないことになる。嘘つきではないことになるのだ。

　よって、全てにおいて矛盾、パラドックスが起きる。

「正解。やっぱり君は面白い。これからもよろしくね」

「よろしく」

　教室内のざわつきは収まることはなかった。