ウエディングベルは幸せの足音と聞いていましたが、私には破滅の足音に聞こえます。

ホタル

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思い出

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痛くて、寒くて、怖くて・・・どうして良いか分からない。

誰か・・・助けて・・・助けてお母様、もうワガママ言わないから、誰か助けて・・・。

いくら願っても、誰も助けてはくれない事を少年は知っていた。

『誰からも必要とされない。』これが少年の根底にある思いだった。

小さい頃から直ぐに熱が出してはベッドに横になる生活は、少年の心を蝕んで行った。
体がだるくて苦しいのに、誰も少年の部屋には近寄りもしなかった。


母ジョセフィーヌは元々心の弱い女性で、夫ローゼフォン公爵とは政略結婚の為か愛情ない事を嘆いていた。第一子が男の子で、跡継ぎが出来た事によりもう義務は果たしたと言ってローゼフォン公爵は事業拡大の為、滅多に家に帰らなかった。
滅多に家に帰らなくなったとは言っても、やる事はやっていたので、当然第二子の男の子が生まれた。
夫に会えない中ジョセフィーヌは1人で2人の子供を育てる事はとても大変だった。
然も二番目に生まれた子供はとても体の弱い子で、彼女の弱い心の負担は計り知れない、益々心を弱らせて行った。
そんな妻を心配するどころか、愛想を尽かした公爵は益々家にも寄り付かず愛人を作る様になった。
そして母ジョセフィーヌはサロンで知り合った占い師の言葉を鵜呑みにする様になっていった。

そして占い師はジョセフィーヌの耳元で毒を囁いた。
『負の瘴気が少年の体から溢れ出るから直ぐに熱が出ると!』
信頼していた占い師が言った事がきっかけで、それ以来、母親ジョセフィーヌは少年が熱を出すと嫌な物を見るかの様な視線を少年に送って決して少年の部屋には近付かなかった。

父親のローゼフォン公爵は、もともと仕事が忙しく滅多に家に帰ってくる事が無いので当然息子の熱くらいでは帰ってくるはずもなかった。

ただ、兄だけは夜中にこっそりと熱のある少年元へ来てくれた。
大好きな兄の訪問だけが少年が唯一必要とされているみたいに少年の寂しさ、苦しさを和らいでくれた。

そんな少年の心の隙を突いて、庭師が散歩に付き合ってくれると言う言葉にまんまと乗せられ、あっという間に誘拐されてしまった。

粗末な小屋の中には黒いローブを被ったままの男とさっきまで庭師だった男、そして部屋の片隅に手を縛られ、布で口を縛られていた少年が1人。

男達はテーブルに座り商談の真っ最中でたまに、小さい少年を見てはまた話し出す。


少年は男達の話しを聞いて、商品はどうやら少年の事だと理解した。

速く逃げ出さないと売られてしまう!いいや、売られるだけならまだマシかもしれない。

もしかしたら、少年の両親に身の代金を請求したら、男の顔を見ている少年は、殺される。

今まで、病弱でメイド達に傅かれて生活をして来た少年にとって、売られるのも、殺されるのもどちらもお断りだ。

でも逃げ出すには勇気が必要だったが、少年には逃げ出す勇気が無かった。

根底の思い。
『誰からも必要とされない。』
この想いが少年に逃げ出す勇気を吸い取っていた。


コンコンと壁を叩く小さな音と「ねぇ、貴方悪い奴に捕まってるの?・・・あそっか?返事したらバレるものね、貴方賢いわね 、それじゃこうしない?ハイは一回咳払いをするの、いいえは咳払い二回するの!どう?いい考えでしょう?」と少女の何処と無く緊張すら感じられない声がした。
少年は少し考えて一回咳払いをした。

「それじゃ質問、部屋には大人は一人?」
少年は二回咳払いをした。
「大人二人?」
少年は一回咳払いをした。

「・・・なら楽勝ね!」
少女の言葉を聞いて少年は驚いた。
何が楽勝なのか?

 この少女は一体何を・・・。
「ねえ、大人が出て行けば、貴方はここから出てこれる?」
また、少女がとんでも無い事を言い出す。
『出て来れる?だと?』どうやって?
僕だって命が惜しい!早く出て行きたいが!どうやったら出ていけるのだろうか?この小屋の出入り口は一つだけで、両手を縛られている更に僕の位置からは入口は最も遠い場所にある。然も、大人の男二人が障害として居る。

少年は二回咳払いをした。
「・・・無理か・・・困ったねぇ~・・・でも何とかなるでしょう?大人が出て行ったら自分で何とかして!」
そんな無茶な!
少年の心を読んだかの様に!少女は「いい加減人を頼るの辞めなよ!何処の王子様ですか?自分の道は自分で切り開かないと!いけない時があるのよ!って、私が良く弟のヨシュアに言ってる事だけどね!まぁ頑張って」
そう言って少女の声は聞こえなくなった。


突然!さっきまで庭師だった男が大声をだし始まった。
「オイ、どうなっているんだよ!あのガキを連れて来れば金をたんまりくれると言ったじゃねぇか!金をよこせよ!金を!」
「確かに子供を連れて来いとは言いましたが・・・まさか、こんなひ弱な子供では無く、もう少しマシな子供が欲しかったですね」

「そんな事言ったって連れて来ちまったもんはしょうがない、だったらよ!こいつの親にでも金を払って貰えればいいじゃねぇか?」


「・・・貴方はバカですか?そんな事をしたら直ぐにバレて、貴方も私も絞首刑ですよ!・・・本当に困りましたね~」

「・・・金にもならねぇガキなら・・・殺しちまおうか?」
男二人が少年を同時に見てさっきまで庭師だった男が、ナイフを手に持つと少年に近付いて来た。

少年はもう殺されると思って目を瞑った時、小屋が揺れだした。
男二人は、揺れに驚いて急いで小屋を出ると小屋の目の前に大きな落とし穴に落ちた。
這い上がろうにも足を痛めて這い上がれないのを確認してから、少女の仲間の一人に少年は助けられた。

「ざまぁ見ろ!私達の秘密基地を取り戻したわよーー!みんなーー!それからヨシュア!叔父様を連れて来て此奴ら人さらいよ!」
「わかったマリア直ぐに叔父様を連れて来るね!」
一人の子供が何処かへ走って行った。

他の数人の子供達はエプロンドレスの少女を中心にして穴に落ちた男二人を見下ろして喜んだ。

少年の手に巻いてあった布を解いていた少年も「流石はマリア!!やっぱり俺たちのリーダーだ」と言ってマリアと呼ばれた少女の輪に走って加わった。

あの子がさっき話していた女の子?
マリアって言うんだ。



少年はマリアと呼ばれた少女の元へ行こうとして、穴からの這い出て来た男を見つけて、少年は「危ない!!」と叫んだ。

その声にマリアは直ぐに反応をし「みんな逃げろーー!!」と叫んで子供達は散りじりに逃げ出した。
少年はマリアが逃げない事に驚きマリアの手を引っ張ったがマリアはニヤリと笑って「貴方一人で逃げて」と言って、少年の背中を押した。
そしてバイバイと手を振って少年が走って行くのを見守った。

「この糞ガキ!よくも!よくも!邪魔をしてくれたな!首をへし折ってくれる。」

「やだ!怖いこっち来ないで!」と言うとマリアは一歩後ろに下がった。
頭に血が上った男はマリアが下がった事に喜んで、男は一歩前に進んだ。

「お嬢ちゃんにはお仕置きが必要だな?」ニタリと笑ってまた一歩前に進んだ。
そして、さっきよりも更に深い落とし穴に落ちていった。
もう一つの落とし穴には、子供が乗っても崩れないが大人が乗ると崩れる様にマリアは計算して、作っていた。

「バカねぇ~落とし穴が一つな訳ないじゃ無い?そこで大人しく待ってなさいおバカさん」
極上の笑顔で穴に落ちた男を見下していた。
「この糞ガキ降りてこい!殺してやるーーーー!」
「嫌ぁ~よ!ば~か!!」
さらに追い討ちを掛けるマリアはとても楽しそうだった。

遠くから蹄の音がしたと思ったら剣を携えた男がマリアの目の前に馬から降り「こら!マリア今度は何を仕出かした。姉さんが嘆くぞ!」と言ってマリアの頭を撫でながら言うと「叔父様!ヨシュアの伝言聞いてくれたの?私!悪い奴を捕まえたの?」といって花がほころぶ様な笑顔で長身の男に抱きついた。


少年はその姿を見た時、マリアの笑顔が自分に向かない事に腹を立てた。
僕には逃げろと言って、あの男にはあんな笑顔で抱きつくなんて・・・。

マリアに何かあってはいけないと思い、遠くに逃げたふりをした少年は近くの木蔭に身を隠して一部始終見ていた。

勇敢で、恐れを知らない!マリア。
マリアの笑顔は自分に向けられるべきだと、体が丈夫だったら、きっとあの笑顔は自分に向けられるはずだと少年の本能が叫んだ。

少年は自分の屋敷に向かって走りだした。
このまま弱い体ではマリアと一緒にいられない。

早く丈夫な体を手に入れる。

少年の生きる希望が出来た瞬間だった。

屋敷に着くと少年を探し出す兄を先頭に捜索隊が門を出る所だった。

少年は兄に向かって「強くなりたい」と叫んだ。

少年の兄は一瞬驚いたが「それなら俺がお前を鍛えてやるよクロード」と言ってクロードの汚れた頭を力強く撫でた。

これがクロードとマリアの初めての出会いだった。
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