ウエディングベルは幸せの足音と聞いていましたが、私には破滅の足音に聞こえます。

ホタル

文字の大きさ
30 / 42

君が恋しい8

しおりを挟む
月明かりが照らす食堂の入り口で二人の重なる影とピチャピチャと卑猥な水音が響く。

ひと通りが少ないと言っても宿の入り口で口付けをする二人を通りがかる人々は好奇の目で通り過ぎる。

マリアは口付けに夢中になり目の前のクロードに翻弄されていた。

「あらあら情熱的です事・・・」
「これはこれは大胆ですな・・・」
「最近の若い人って・・・」
中には揶揄する言葉をかけてくる人も男女問わずいた。

マリアの微かに残る理性が耳の奥に口付けのリップ音の他に揶揄する声を拾うと、自分が宿の入り口でクロードと抱き合い口付けを交わしている事に気が付いた。

「クッ・・クロード・・やッ・やめ・・・」

「・・・・・・」

慌ててマリアがクロードから離れようとしてももクロードがマリアの腰から手を離すどころか更に逃がさないと断言する様にマリアの腰を抱く手に力が入る。

クロードは決してマリアの言葉を聞くことは無く、己が満足するまで口付けは続いた。

クロードがマリアから唇を離す頃にはマリアは息をするのがやっとで立っていられずその場に崩れる様に座り込むと、放心しているマリアを抱きかかえて宿の中に入っていった。

宿の中は月の光がかろうじて窓から入ってくるだけで、窓の近くのテーブルの位置がわかるくらいだった。

クロードは食堂を見渡すと近くのをテーブルの上にマリアを座らせる。
マリアの顔がクロードより少し高い位置になりクロードを見下ろす。

意識がハッキリしてくるとクロードが何かを訴えている様な視線でマリアを見上げていた。

二人の視線が一瞬交差する。

クロードを見下ろすマリアの顔は真っ赤に染まった。

たった一瞬、目があっただけ。

それだけでマリアには何時間も見つめられてる様な錯覚に陥ってクロードに愛されていると勘違いをしそうになる。


クロードの指がマリアの胸の谷間に有る赤い痣に触れた。

「マリア・・・俺に言う事はない?」

上から見下ろすマリアは下を向いているクロードの表情が見えない。ただ分かるのは感情を抑えた声。

「・・・・」
離婚した元妻に何を求めているの?泣いて捨てないでと言えば良いの?クロード。


「・・・俺なんかに話す気が無い?」
マリアがどう答えて良いか迷っているとマリアの沈黙を肯定ととった。

「イッ」
クロードは爪で胸の痣をえぐり引っ掻いた。
「痛い?マリア。俺も・・・心が痛いよ。いつから?いつから、そんな関係になったの?」

クロードの声が震えている。

「クロード・・・関係ってどう言う事?それに痛いってどこかぶつけた?」
痛いとの言葉にマリアは怪我でもしたのかと心配した。

「はぐらかすんだ」
マリアを見上げたクロードの顔が歪んでいた。
クロードにはマリアの言葉は心に届いていなかった。

マリアはこんなクロードを見た事が無かった。

クロードはいったいどうしてしまったの?マリアの頭の中は疑問だらけになった。

まさか離婚がクロードを変えてしまったのだろうか?

まさかそんな事は無い。だってマリアとの結婚はアナベルとのカモフラージュではないか。

クロードはそんなにアナベルとの事を秘密にしたいのか?
義理で結婚した私とは違うのだから、堂々とアナベルに求婚すれば良いではないか!

やり場の無い怒りがマリアの心を黒く染め上げていく。

友達のままだったら、心から祝福出来たのに、クロードを好きになってしまった今となっては醜い感情しか溢れてこない。

クロードを憎まないと、一歩が踏み出せない。

マリアは知らずにクロードを睨んでいた。


さっきクロードには合わないと決めたはずなのに、会った途端に心が震え、口付けに嬉しくなり夢中になってクロードの口付けに答えた。

口内を自分以外の舌が動き回る事が不自然に感じるが、嫌悪していない事に驚いて『この時間がもっと続けば良い』とさえ思う自分の浅ましさに怖くなった。


そんな自分も嫌い。

「大っ嫌い」
マリアは無意識に呟いた。


マリアの口から一番聞きたく無い言葉がクロードの心を砕いた。 

目を見開いて瞬きせず見つめるクロードの視線に居た堪れずマリアは顔を背けると、クロードは何かを言おうとして口を開いて直ぐに閉じ、クロードの手がマリアの首を掴みグッと引き寄せる。

啄む様な口付けではなく最初からダイレクトにマリアの唇を貪り始めた。

唇が離れるとクロードは言った。
「心が手に入らないのならばせめて体だけでも手に入れる」と。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

処理中です...