勇者さまは私の愚弟です。

私の彼は、愚弟でした

逃亡は計画的に！

「セドリック、一花は何処に行った」
ラヴィニスの手には一花が書いたメモが握り潰されていた。

「・・・・・・・」


「何処に行ったかと聞いている」
腹立たしげに更にメモを握っている手に力を入れる。


「申し訳ございません今!屋敷の者総出で奥様をお探ししております、今しばらくお待ち下さい」


「探せ！」
ラヴィニスは部屋の窓見ながら、後ろに立っているセドリックに乱暴に言葉を投げる。

セドリックは一礼をして、部屋を出て行った。
セドリックが居なくなると、ラヴィニスは深々とソファーに座り、握っていたメモを開こうとしたが、強く握りすぎた様で、思うように手が開かなかった。どれだけ力を入れていたんだ。

そして思う事は1つ。
どうしてこうなった？何がいけなかった？どんなに考えても一花が出て行く理由が分からない。

いや・・・・・一つだけ気になる事があった。いや、しかし、そんなはずは無い。
初めて一花に会った日の事を聞かれて、俺は真摯に答えただけだ。


俺が『紅蓮』に成りすまして会った時よりも、随分前だった事に驚いていただけだと思っていたが、どうやら俺の勘違いだったのかもしれない。

実際に「地獄へ堕ちろ！」と書いてあるメモを残して消えた。
あの時は頭の中が真っ白になった。


いつの間に俺はそこまで、そこまで嫌われていたのか？

最初は誘拐かと考えたが・・・・どう見ても一花の筆跡だった。

逃げ出した。と言うのが・・・・認めたくないが、正しい！


今回は本気で行方をくらませている。悠馬まで行方が分からない。

魔力を使って探したが・・・・見つからなかった。

何かが邪魔をしている。

「旦那様」
セドリックがドアをノックして部屋に入ってきた。
「セドリック、一花が見つかったのか？」
「いえ紅蓮様がお越しです」
「今は会いたく無い、それよりお前も一花を探せ」
「畏まりました」
「会いたく無いと言われても来ちゃったよ！おじさん！少しくらい話し相手になってもいいでしょう？」

セドリックを押し退けて紅蓮がラヴィニスの部屋に入ってきた。

「悪かったねセドリック、下がっていいよ」
紅蓮はセドリックの声をかけると、ラヴィニスの対岸のソファーに座った。


「はい紅蓮様、それでは失礼いたします」
セドリックは紅蓮が座るのをみ届けると、一礼をして部屋を出て行った。


セドリックが居なくなった部屋で、ラヴィニスと紅蓮はお互いを見つめていた。
初めに口を開いたのは紅蓮だった。
「おじさん！単刀直入に言うよ、一花と何があったの？」

「何しに来た、俺は忙しい！帰れ！」
ラヴィニスは吐き捨てる様に言った。
今の不安をぶつける様に！

「やっぱり、逃げられたのか・・・・」
紅蓮は顎に手を当ててラヴィニスを見た。
何故か余裕のある素振りでラヴィニスを見る。

紅蓮の言葉に一瞬、ラヴィニスの目が見開きそのまま細くなった。
「何を知っている？紅蓮！」
不愉快極まりない態度で紅蓮を睨む。


「教えて欲しい？ラヴィニス」
ニヤリと紅蓮が笑った。

「・・・・言え！紅蓮」
ラヴィニスはの目は益々細くなった。