勇者さまは私の愚弟です。

ホタル

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私の彼は、愚弟でした

父と母

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○月○日
このままここにいれば、私は飼い殺しだ。
愛してもいない男の子供を身ごもってしまったのだから・・・。
誰も助けてはくれない・・・・。
自分で逃げ出さないと・・・・。

幸いまだ、誰にも子供が出来た事は気が付いていない。
逃げるなら明後日の、誕生の女神イシス神を祝う式典の時に逃げよう。
皮肉なものだ、元、終焉の女神ラシスの筆頭巫女の私が、誕生の女神イシス神の式典に、あの男から逃げる計画を立てるなんて・・・・。

ふふふふふ。
だって、仕方がないじゃない、誰も助けてはくれなかった。終焉の女神の神殿の者たちさえ私を見捨てた。
いいえ、違うわ・・・・あいつらは私を売ったのよ。

1年前、終焉の女神ラシスの筆頭巫女として、初めてラヴィス陛下に挨拶をしたとき、あの男の捕食者の目が恐ろしくて目伏せた。この男に食べられると思った。

噂では6賢者と共にこの国を繁栄に導いた。賢王と称えられている。
そんな彼が、まるで飢えた獣の様な目で私を見るはずは・・・・見るはずは無い、それとも私は何か間違いでも犯したのだろうか?
教わった通りの手順で陛下のご挨拶もした。間違ってはいないはずだ。

「巫女殿お名前は何と?」
声をかけられとっさに陛下の顔を見上げると、さっきまでの身のすくむ様な眼差しは消えており、慈愛に満ちた目をしていた。
さっきのあれは私の勘違いだったのではないかと思うくらいに、穏やかな瞳をしていた。

「巫女殿?」
「もっ、申し訳ございません陛下、わたくしは名は、ニースと申します」
「ニース・・・殿ですか?とても素敵なお名前ですねニース、そして緊張をしていますね、かわいらしい人だ。私の事は、ラヴィスとお呼びください。ニース」
「・・・・は・・い。陛下、有りがたきお言葉」
「ニース、ラヴィスですよ」
間違ってはいけないと、陛下自ら窘められた。

「申し訳ございません。ラヴィス陛下」
陛下は、誰にでも親しげに、名前を呼ばせるのだろうか?

「・・・まあ、いいでしょう名前の方は少しずつ慣れてもらいますから」
「え?それは一体どう言う・・・」
「長旅でお疲れでしょう、晩餐の用意が出来るまで、お部屋でおくつろぎください」
陛下は私の言葉が聞こえなかったのだろうか?
首をかしげて部屋を出てすぐに、侍女に呼び止められた。
「申し訳ありません、筆頭巫女のニース様はこちらへ」
筆頭巫女の私は別の部屋へと案内された。

案内された部屋は、とても豪華な作りで、神殿住まいの質素な部屋しか見たことが無かった私の口からため息が漏れた。

「気に入ってくれましたか?これから私たちの部屋になるのですよ」
突然腰を抱かれ、声のする方へ向くと、腰を抱いていたのはラヴィス陛下だった。

「・・・・」
あまりの驚きに声が出なかった。
「本当に、かわいらしい人だ。私を虜にしてどうするつもりですか?ニース」
ラヴィス陛下は何を言っているのだろうか?私たちの部屋?虜?分らない。

「・・・陛下、申し訳ありませんがどういう事でしょうか?私にはさっぱり何のことか」
「なに、簡単な事です。あなたはこのままここに住んでもらうのですから、愛しい私のニース」
「・・・陛下なんの御冗談ですか?私は明日、供の者と一緒に、終焉の女神ラシス神殿に筆頭巫女として戻らなければいけません」
陛下は何か勘違いをしているのでしょう。

「ニース聞こえませんでしたか?あなたは今から私と、ここで寝食を共にするのですよ。神官長にはもう言ってありますし、了解も取り付けています。」

「・・・そんな・・・バカな事って・・・」
「バカな事ではありませんよ、愛しいニース」

「陛下?何の冗談ですか?」
足が震え出して止まらない。

「冗談ではないですよニース、一目見た時から私はあなたの虜です。さぁ、あなたの体に快楽を刻んであげましょう」


「陛下、私は神に仕える巫女です、如何かお許しください。今ならまだ引きさえせます。どうか!」
震える声で、目に涙をためて、ニースはラヴィス陛下に懇願した、その行為がラヴィス陛下の自虐心に油を注ぐ行為とも知らずに。

「貴女が私を受け入れてくれるなら、どんな事でもしましょう・・・ですが、巫女に戻る事は許しません、あなたは私の物にすると決めたのだから」
ニッコリと笑うとニースの服を引き裂いて、露わになった赤い胸の頂に吸い付き。赤い頂を唇でしごき始めた。

「陛下ーーーーーー!!いやーーーーーーーー!!放して!!」

この日からニースの地獄が始まり。

その地獄はラヴィニスが生まれた後も続いた。

結局、ニースは逃げ出す事が叶わなかった。

ラヴィニスが生まれた頃から、ニースは少しずつ壊れていった。

最後にラヴィニスが母ニースを見たのは、父先王ラヴィス陛下の死の枕元に腹を掻っ捌いて、死んでいた母ニースの遺体だった。

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