勇者さまは私の愚弟です。

ホタル

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私の彼は、愚弟でした

過去

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一花が消えた日、ラヴィニスは母親の事を思い出した。
何故こんな時にラヴィニスに冷たかった母親を思い出すのか分からない。


母親との思い出は嫌な思い出しかない。

思い出したくも無い!あんな女!散々振り回され挙げ句の果てに父親の死の枕元で、俺を殺し損ねて、自分の腹を刺して死んだ女だった。

・・・・ただ、切なそうに俺を見つめる母親の顔が今頃になって鮮明に思い出される。
ラヴィニスは思い出を忘れる様に頭を左右に振った。


物心ついた頃には、母ニースはラヴィニスを無視し続けていた。そこには誰もいないかの様に。
実際ニースの目には小さなラヴィニスは写っていなかったのだろう?

彼女の心はすでに壊れていた。

毎夜蹂躙する夫を憎んでいる筈だった。心は拒絶したいのに、体は歓喜し夫を受け入れる。
そんな己が憎くてたまらなかった。
浅ましい自分に吐き気すら覚えていた。

そして、お腹を痛めて産んだ我が子すら憎しみの対象でしかなかった。

いらないはずのラヴィニスが憎くてしょうがない、愛おしくて堪らない!こんな思いがニースの心を更に蝕んでいった。


ニースは逃げようとして捕まったその日から、ラヴィニスを産むまでベッドに鎖で繋がれる生活を強いられた。

幾ら産みたくないと懇願しても聞き入れては貰えず。
地獄の苦しみの中ラヴィニスを出産した。



時が経ちラヴィニスは5歳に成った。

5歳の小さなラヴィニスは母親に愛されたいと思うのは当然の流れで、母親の気をひくために、何でもやった。
良い子にしていれば、振り向いてくれると侍女に聞けば、母親の為に良い子になった。
だが、ラヴィニスをいっさ見ない母親が気付く事は無かった。

そんな母親に絶望したラヴィニスは、人を寄せ付けなくなっていった。まるで感情の無い人形の様に。

心配した父親のラヴィスは、親衛隊のセドリックにラヴィニスの世話を任せる様になった。

6賢者よりも魔力が強く、剣の腕はセドリック直伝でみるみる上達し、10歳になる頃にはラヴィニスの相手になる者は居なくなっていた。

そのうちに、父親の王族の血と母親譲りの美貌がラヴィニスを、まわりが放ってはおかなかった。

筆下ろしはニース付きの侍女を手始めに、貴族の娘から未亡人まで、履いて捨てる様に次から次へと女の体を渡り歩いた。その行動は、女と言う生き物に復讐している様だった。
母ニースが死んでもラヴィニスは変わらない。その行為は、一花に出会うまで続いた。

小さな一花に出会って、心の隙間が埋まり初めて幸せの意味を知った。

一花と共に、この世界に戻ってからのラヴィニスは人が変わった様に一花だけを見て、一花だけを欲した。

欲しくて!欲しくて!!幾ら手を伸ばしても手の入らなかった母親の愛情を、必死に手に入れる様に、今は一花の愛情を欲しくて堪らないという風に!

好きすぎて、感情のコントロールが効かずに一花に嫌な思いをさせてのは、星の数ほどある。

セドリックに言わせると、父親の先王ラヴィスが母ニースを手に入れるときと同じ目をしていると言われたっ時は背筋が寒くなった。

賢王と言われた父が、母ニースにだけは獣のように覆いかぶさっている姿を何度も見て来た。普段は温厚で優しい父だが父は母の前だと子供が目の前に居ようが、母を貪る行為を止めはしなかった。

初めて、その行為を見た時は父親を狂人だと思った。

俺も一花を、母ニースと同じ目にあわせるのだろうか?
一花の気持ちを踏みにじり、子供が生まれるまで一花を蹂躙して、そして、一花の心を壊すのだろうか?

・・・・それだけは、出来ない。一花が一花でなくなってしまう。
俺は、一花の体も心も全て!が欲しい。

だから・・・・我慢をする。
一花を失いたくはない。

一花にもう一度好きだと言わせる。
この思いだけで、今は何とか荒れ狂う精神を落ち着かせている。
早く帰ってこい一花!

腕の中ですやすやと寝ている悠馬を見つめていた。

必ず一花は悠馬に合いに来るその時が待ち遠しい。


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