緑の塔とレオナ

岬野葉々

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「あと、半年で念願の十五歳だわ」

 薄汚れた茶色の髪、丸い眼鏡をかけた痩せた小柄な少女が呟いた。
 周りはまぶしいほどの緑。木々は風に囁きながら歌い、木漏れ日がきらきらと輝きながら降ってくる。

「ねえ、ヴィーナ。その恰好、おかしいよ。何とかならないの?」
「人が訳の分からないことをするのは慣れてるけど、せっかくの綺麗な髪をそんな風に汚して……」
「へんなものを顔にかけたら、大好きなヴィーナの瞳がよく見えないよ」

 不服そうに口々に訴える、森に棲むもの達。
 見た目はただの森の動物達だが、ヴィーネは彼らの背後に精霊の気配を感じた。

 そもそも動物たちがこんな感じに明確な意思を伝えてくるのは、稀なこと。
 ヴィーネの名を、母から受け継いだ緑のレオナと絡めてヴィーナと呼ぶのは、主に精霊達なのだから。

「分かってるでしょ? これもあと半年の辛抱なのよ」

 ヴィーネは右手をぐっと握りしめた。

 脳裏によぎるのは、館や学び舎で繰り返される気の滅入るような出来事。
 母の療養のため、母と別れ、母方の伯父に引き取られてから、碌なことはない。
 目をつけられぬよう自らを偽り、人目を欺いているのだから仕方のないことかもしれないが、母からくれぐれも、と頼まれてさえいなかったら、誰がこんなこと――

 無意識にぎゅっと唇を噛みしめたとき、慰めるように柔らかな笑いを含んだ風が渡っていった。

 伯父一家の住む、特異な文化を育む商人の街ルルス。ここへ来てから、ずっと張りつめていた心が少しずつ緩んでいく。
 細心の注意を払って本来の自分を隠す日々で、救われる時間は森にいるときだけだ。
 いや、厳密にいえば、違う?

 ヴィーネはルルスへ来てから初めて出来た、三人の友達の顔を思い出し、微笑んだ。同時に、館でただ一人自分を姉のように慕ってくれる、従妹のルシアーナの顔も。

「うん。わたし、今日も頑張る」

 気を取り直し、明るい表情で告げたヴィーネを見て、周りはわっと喜びの声をあげた。

「歌って」
「歌って、ヴィーナ」
「生命の歌を」
「喜びの歌を」

 

 澄んだ綺麗な声が辺りに響き渡る。声にあわせて辺りの輝きが増していく。
 新緑の季節を祝う、風と大地の歌――木々を渡るそよ風さえもしばし留まり、惜しみながらそっと去って行く。

 そして、歌と一体となったヴィーネの心も段々と晴れていく――この光輝く季節、あるがまま自由に歌うのは、何時だって楽しい。

 ヴィーネの弾けるような笑顔と共に、さらに伸びやかに力強く歌声は広がっていく。

 精霊達は輝きに満ちた森を見渡し、そっと笑みをこぼす。
 少女を中心に広がっていく、浄化と守護の波動。
 少女は自らが成した輝きの行方を、何も知らない。

(無自覚というにも程がある――)


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