緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 緑の塔の扉にヴィーネが触れた瞬間、ヴィーネ、シリウス、ディンの三人の世界は暗転した。

 驚きつつも、ヴィーネに寄り添い、警戒を強めるシリウスとディン。
 当のヴィーネは正気に戻ったらしく、瞬きを繰り返して、状況をつかもうとしていた。

 油断なく辺りを窺う三人。すると、薄暗がりの中、前方の淡く輝く巨大な球体に気付く。
 それに自然と三人の眼は引き寄せられると、――その球体の内部には、胎児のように丸まり浮かんでいる美しい女性の姿が見えた。

「母様!」

 突然、ヴィーネは悲痛な声で叫び、其処へ走り寄ろうとした。が、しかし、すかさずシリウスに抱き留められる。

 シリウスはヴィーネを腕の中に囲いつつも、冷静に辺りを見回し、分析を続ける。

(此処は――周りを囲う壁や床にも様々な文様が刻まれている――この紋様、見覚えがある。これは、風の塔と同じ、いや、……ごく淡く緑の属性を放っている? ならば、此処は緑の塔の継承の間か?!)

 驚愕しつつも、次にヴィーネが向かおうとする巨大な球形を眺める。そして、シリウスは其処から繋がるごくごく細い六色の線を発見した。

(あれは、六つの属性? 光の金、闇の黒、水の青、火の赤、風の銀、大地の茶そして此処は最後の属性、生命の緑の塔の継承の間――)

 シリウスがその思考をまとめる間もなく、目前の女性――リーシアがゆっくりと目を開ける。

――ヴィーネ=レオナ、こちらに近寄ってはなりません! あなたには、この苦痛と悲しみが分からないの?

 突然、頭の中で響いた母リーシアの声に、ヴィーネの目は輝いた。

(懐かしい、母様の声――わたし、今度こそ母様を救いに……! 近寄っては、いけない? なら、どうすれば……先ほどまで心が痛むほど感じていた、ううん、今も感じる苦痛と悲しみは、誰のものなの?)

 身体中の力を抜いたヴィーネに、シリウスは拘束を解いて、そっと右隣に寄り添う。すると、すっとディンが前進して、ヴィーネの左隣に同じく立った。

「分かる、分かるわ! 母様、どうすれば良いの? どうすれば、救えるの?!」

 ヴィーネは祈るように、そして感じた心痛を和らげるかのように、両手を胸に当てる――いつの間にか、母から貰った珠が、燃えるように熱くなっていた。

――ヴィーネ=レオナ、私のヴィー。……どうか、許してね。あなたに苦痛を与えることになるけれど、もう、言葉を紡ぐ気力も尽きそうなの……。珠を額に当てて――どうか直接、受け取って。後ろの二人には、しっかりと其処から動かぬよう、支えてもらってね……!

 今にも力尽きそうな母の様子にヴィーネは焦り、両隣の二人を見上げて頼んだ。

「母様が――どうか、お願い! 母様の言う通り、これから何が起きようとも、わたしがここから動かないように、支えていて……!」

 切羽詰まったヴィーネの様子に、二人は力強く頷いた。

 言われずとも、ヴィーネを離す気など毛頭ない二人――シリウスは右腕に、ディンは左腕に手を添える。
 そうして、ヴィーネは服の下から珠を取り出し、額に当てた――

 その瞬間、ヴィーネは心と身体に凄まじい衝撃を受けた。

 あっという間に巨大な意識の波に浚われそうになる――苦痛と嘆きと悲しみと――何処から何処までが自分のものだったのかさえも、分からなくなった。

――たすけて、たすけて! いきたい、いきたい!

 それは、遥かなる昔にこの地へと落ちてきたという、星だった。
 けれど、それは、生きていた。
 何処か異世界の、とてつもなく大きな力を持ち、この世界とは流れる時さえも異なる、悠久の時を生きる生命体――その卵ともいえるものだった。

 生まれ出る前の卵の状態でさえ、この世界を破壊できる程の力を持つそれは、元の世界に戻りたいと、生まれたい、生きたいと悲嘆にくれて、この世界を破壊しかけた。自らをも巻き込んで―― 
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