真夏の館

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前原清美6

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「うわ、うわ、うわあああ!」
 この声は、一夢?
「そんな、一夢まで」
 けど、呆然としている場合ではない。今視界では、廊下で長い髪の毛が動いていて、丁度、一夢が入った部屋から、一夢と思わしき形の物を引っ張って、下の階へと持っていっている。
 もし、イスに座れなければ、私がああなっていたのだ。そう思うと、ゾッとする。そしてそれ以上に、これで今無事でいるのが、私と一夜だけになったという事実が、私の中に恐怖心を呼ぶ。
 そして、髪の毛が3階から去って。
 しばらくした後、この階のイス全てが壊れ、私はよろよろと立ち上がった。
 今この場には、私と、一夜のみ。
 私と、一夜しかいないんだ。
 たった、二人。五人だったのが、今は二人。
 なんということだ。少し、いや、思った以上に、つらい。
「どうして。このままじゃ、このままじゃ私達」
「まだ全部終わったわけじゃないぞ。清美、気をぬくな」
 一夜が、カメラをかまえたまま近づいてくる。
「俺達は、なんとしても助かるんだ。そして、おそわれた三人を助ける。必ず」
 一夜が、そんなことを言う。
「じゃあ、一夜はできるの。それを」
 私は、思わずそう訊いていた。
 すると一夜は、すぐにうなずいた。
「できる。もちろんできる。清美だってできる」
 そう言う一夜の声は、なぜか自信に満ちていた。
 それに、少し救われた。
「そうだね。私があきらめちゃ、ダメだ。だって、まだこうして出口を、友達を探せるんだから」
「その通りだ。よし、それじゃあ探索を再開するぞ。おそらく、この階にはもう何もないだろう。2階がそうだったからな。だから、1階まで戻ろう」
「もし、1階に何もなかったら?」
「その時にまた考える」
 今だけは、この一夜の自信を頼りにできる。
「それじゃあ、行こう。きっと、何か見つかる」
 私と一夜は、1階へと下りていった。

 そして、1階に変化はあった。
 けど。
「ドア」
「ドアだな。開けてみよう」
 1階にあった、もう一つの鎖でふさがれていたドアが、解放されて、私達を待っていたというのは、なんとなく、新たな試練を想像させた。
 一夜がドアを開けると、その先は地下へと続く階段となっていた。天井には明かりがついていて、明るい。けど、不気味だ。
「地下だな。行くぞ」
「地下とか、初めて行く」
「俺もだ。撮りがいがあるな」
「このドア、閉まってとじこめられたりしないよね」
「その時は、また何かなぞをとけば開くだろ」
「そう願っとく」
 階段を下りると、地下は予想以上に広かった。左右に伸びる通路と、それらの通路の先に3つずつ、合計6ある部屋。
 やはり各部屋の近くには、人形が乗ったイスがある。ここの人形は、カブト虫、クワガタ、セミ、カマキリ、ホタル、トンボみたいだ。
「ここもやっぱり、好きなところに入れるのかな」
 一夜が言う。
「そうなんじゃない?」
「ならせっかくだから俺は、カブト虫の部屋を選ぶぜ」
 そう言って一夜が、カブト虫の人形が近くにある部屋の前に行く。
「じゃあ私は、カマキリの人形が近くにある部屋で」
 私はできるだけ、地上への階段に近い部屋を選ぶ。こういうのは、気分だ。できるだけ早くここから脱出したいのだ。
「じゃあ、やられるなよ。清美」
 一夜がそう言って私をカメラで撮った。
「そっちこそ。ドジらないでよ、一夜」
 私は、笑って言ってやった。
「さっさと行こうか」
 そう言って一夜がドアに手をかける。
「そうね」
 私もドアに手をかけて。
 そして、覚悟して開けた。
「!」
 また何かの力で強引に部屋に入れられる。直後、閉まるドア。
 部屋の中には、正面に壁にかけられた雲の絵。絵の下には積み木。左側の壁際に花瓶が置かれたテーブル。部屋の真ん中にも一つのテーブル。そして右側には、上皿天秤と箱が置かれたテーブル。最後にドアの近くに金庫があった。
 花瓶には花が飾られていて、花瓶のテーブルにだけクロスが敷かれている。上皿天秤があるテーブルの箱は、既にふたが開いていた。
 まずは、真ん中のテーブルだ。迷わず真ん中のテーブルに近づく。
 するとやはりテーブルの上にはメモが置いてあり、私はすぐにそれを読む。

 カマキリをどかす玉を手に入れるためには、てんびんのつりあいがとれるようにしなければならない。ただし、重りは全て使うこと。

「つまり、ここは天秤の部屋というわけね」
 私は早速、天秤があるテーブルへと近づいた。
 今、天秤には何も置かれていない。なので、天秤の隣にある、箱の中を見る。
 すると、中には重りが6つあった。30グラムが3つ、20グラムが3つだ。
 れいせいに、すぐに6つの重りの重さの合計を計算する。重りは6つで150グラムだ。
「この数では、重りは2つに分けてもつりあわない。あと、10グラムか、30グラムの重さの物があればいいんだけど」
 私は急いで、積み木の元に行った。
 積み木は全部で4種類あった。
 丸い形、三角形、正方形、長方形。
 この4種類を一度に持って、天秤のテーブルに置く。
 そして、天秤の片方に30グラムを置いて、もう片方に丸い積み木を乗せる。
 すると天秤は、30グラムの重りよりも丸い積み木の方が重いことを示した。
「お願い、50グラムであって!」
 私は更に、20グラムの重りを30グラムの方に追加する。
 すると。
 今度は、積み木の方が上に上がってしまった。
「くっ、違うか。ううん。けど、もしかしたら他の積み木と組み合わせれば、なんてこともあるかも。もう少し、ちゃんと計ろう」
 私は30グラムの重りをどかして、かわりに20グラムの重りを乗せる。
 すると合計40グラムの重りと、積み木がつりあってしまった。
「40グラム、ダメだ。使えない」
 丸い積み木をどかして、かわりに三角の積み木を乗せる。
 すると、これも重さがつりあってしまった。
「これも40グラムなの。じゃあ次は」
 次は三角の積み木のかわりに、正方形の積み木を乗せる。
 これも40グラム。
 最後に、長方形の積み木。
 これも40グラム。
「積み木は、ただのひっかけ?」
 そこで、あの音楽が聞こえてきた。私は焦りながらも、この部屋を出るための道を模索する。
 ここで急いで、部屋に何があるかを再確認だ。
 壁にかけられた絵と、花瓶が乗ったテーブル。花瓶は天秤に乗せるには大きすぎる。
「絵の裏に、何かあるとか」
 試しに絵を動かしてみる。しかし、そこには何もなかった。
「あとは、花瓶、あ!」
 私は急いで花瓶をどかして、テーブルのクロスもどかす。
 すると、このテーブルだけガラス製のテーブルであることがわかり、更に上の面が引き戸になっていて、テーブルの中には大中小の3つの魚の人形と、同じ大きさのおはじきが3つ入っているのが見えた。
 全部、右から引き戸を開ければ取れるようになっていて、左の引き戸の方には、紙が置いてあった。
 紙には、大きな字でこう書いてある。
 必ず元に戻すこと。
「見つけた。きっと、これが重りになるんだ」
 前の部屋もそうだった。隠された物が、この部屋にもあった。
 これを使って、私はこの部屋を出るんだ!
 まずは小サイズの魚の人形と、あとおはじきを3つ全部持っていく。
 そして、今片方に40グラム乗っている方ではない、何も乗っていない皿に、魚の人形を置く。
 すると。
「40グラムより、軽い!」
 すぐに20グラムの重りを一つ、天秤からのける。そうしたら今度は、魚の人形の方が重くなった。
「これはひょっとしたら、ひょっとするかも」
 ドキドキする心臓の音を聞きながら、皿の上の20グラムの重りを30グラムに変える。すると、魚の人形が乗った皿が上に上がった。
 どうやらこの小サイズの魚の人形は30グラム未満で、20グラムより重いようだ。私はここで、おはじきに期待する。
「まだまだ。ここにおはじきがある」
 おはじきの1つを、魚の人形の方が乗っている皿に乗せる。それでも天秤は動かない。なのでおはじきをもう1つ乗せ、続いて最後の1つも乗せる。
 すると、天秤がかたむき、魚の人形が重くなった。だめだ。30グラム丁度じゃない。
「く、後は、他の魚も乗せて、いや、まずは魚とおはじきの組み合わせを全部調べるべき!」
 魚の人形3つとおはじき3つを組み合わせるパターンは百通り以上あるだろうが、人形1つずつとおはじき3つまでを使うなら12通りだ。だから、まずはそっちをしらみつぶしに試す。
 とにかくガラスのテーブルまで戻り、残り二つの人形も持って天秤までまた戻る。
 そして、小サイズの魚の人形のかわりに、今度は中サイズの魚の人形を乗せた。
 すると、30グラムの重りの方が、上になった。更におはじきも全部のけて、この魚の人形が完全に30グラムより重いことを確かめる。
「30グラムより重い。じゃあ、50グラムなら?」
 30グラムの重りが乗っている皿に、20グラムの重りを1つ乗せる。すると、魚の人形の方が軽くなった。
「あとは、おはじきで調整できれば!」
 魚の人形の方に、おはじきを1つ乗せる。続いてもう一つ乗せる。
 そこで天秤が動き、両方の皿の重さがつりあった!
「やった、50グラムだ!」
 あとは、えーと、えーと。
 重りが全部で150グラムだから、それとこの50グラムを合わせて、200グラム!
「100グラムずつで、つりあう!」
 私は更に、30グラムの重りを1つ、20グラムの重り1つを魚の人形が乗った皿に乗せる。そして残った重りを全部反対の皿に乗せる!
 すると!
「つりあった!」
 重りが乗った二つの皿がつりあい、その直後天秤から鍵が出てきた!
「よし、これで金庫を開ければ!」
 鍵で金庫を開けて、玉を手に入れる。
「よし、よし、っ」
 そこで、ドアに向かったところで、思い出した。
 花瓶とクロスで隠された、ガラスのテーブルの中にあった紙の文。
 必ず、元に戻すこと。
「思い出したから、セーフ!」
 きっとこれも、罠の一つに違いない。
 足元に玉を置いて、天秤のテーブルに戻る。そして、まずは大と中の魚の人形を持って、ガラスのテーブルに戻す。あとは、小サイズの魚の人形と、おはじき3つもガラスのテーブルに戻す。
 そして、戸を閉めて、ついでにクロスと花瓶も上に置く。
「これで、元通りのはず!」
 すると。
 ガチャン。
 部屋のドアが、開いた!
「これで、本当にクリア!」
 私は玉を拾いながら、部屋を出た。
 そして、玉をカマキリの人形に向ける。
「お願い、どいて!」
 すると、カマキリの人形はイスの上から落ちて、持っている玉も砕け散った。
 早く、イスに座って、セーフ!
「ふうう、一夜、一夜は!」
 慌てて一夜が入ったドアの方を見る。けれど、まだ一夜の姿はない。
「一夜、来てよ、絶対。一夜!」
 私は祈りながら、一夜の姿が見えるのを待った。
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