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23 帝国その3

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16 古の魔法使いの修行

 ジュレイドラゴンは飛びながらも器用に俺を背中に乗せ、その後飛行スピードを全力にした。
 召喚状況を確認すると、やはり五人のドラゴンは全滅。皇帝の強さは圧倒的だった。
 もう辺りは暗くなっていくばかりだが、今は少しでも遠くへ逃げたい。
 だからジュレイドラゴンには、このまま全力移動を続けてもらった。
 けれどある時、ジュレイドラゴンが減速する。
「グオオーン?」
 ジュレイドラゴンが、休みますか? と訊いてくれている気がした。
 けれど俺は、首を横に振った。
「いや、ジュレイドラゴン。今から修行の場へ行ってくれ。そこで、ひとまずレベル上げをする」
 今の俺達は、もっとレベルを上げなくてはならない。
 皇帝は、百レベルと99レベルとの間には、大きな差があると言っていた。
 ならば、俺達もその壁をこえなければならない。
 きっと、99レベルではダメだ。同じ土俵にあがれなければ、例え30人、いや、俺も特攻して31人で挑んでも、皇帝が相手では先程と同様の結果が待っているだろう。
 なるんだ。百レベルに。
 そうでなければ、確実な勝利は俺にもたらされない。
「また全力で飛べ、ジュレイドラゴン。休息は一切無しでいい!」
「グオオーン!」
 こうしてジュレイドラゴンは再加速。再びマックススピードへ。
 そして俺は、現在の召喚状況を意識する。
「特殊能力終了。ジュレイドラゴン以外、休憩!」
 このタイミングで、ベイクトに残した仲間達も休憩させた。
 きっとこの夜の間だけなら、ベイクトにいるバウコン兵達も進軍はできないだろう。
 ならば、この時間を利用して仲間達の召喚可能数を元に戻す。
 そして、修行の場でレベルアップした後は、またベイクトへ戻って戦力を再召喚。後は残りの戦力で再びレベル上げにいそしむ。
 それしか、ない。
 早く百レベルになるしか、ないんだ。皇帝と会った今、それをハッキリと感じていた。
 ジュレイドラゴンの移動は速い。ベイクトからバウルコンまで、ほぼ半日だった。
 ならば、きっと夜明け前には荒野の、修行の場へと行けるはず。
 徹夜上等。速攻でモンスター達を倒してやる。
 99レベルのモンスターを、倒せればだけど。
 きっと倒せるはずだ。
 そのはずだよね?
 ちょっと、不安になる。
 けど、今の俺には挑む以外の選択肢を思いつかない。
 ひとまず、91レベル、90レベルのモンスター達と戦って、問題ないようなら、修行の場の最強モンスターに挑もう。
 99レベルものモンスターを倒せば、もらえる経験値も多いはずだ。
 そんな捕らぬ狸の皮算用をしながら、俺は超スピードによる風圧に耐え続けた。

 深夜。
 俺は若干の眠さと疲れと空腹と、そしてそれを上回る、皇帝に勝ちたいという気持ちを頭の中でグルグルさせながら、やっと着いた荒野の修行の場を見てホッとして、すぐにジュレイドラゴンの背から降ろしてもらった。
 修行の場の土人形達は、今はレベル1の姿。また最初からだ。けれど、再び挑めるんだから、とてもレベル上げ向きな場所だ。
「ヒロードラゴン召喚」
 目の前にカードが現れて、それがヒロードラゴンになる。大きさはビッグサイズ。今の俺が出来る限りの、マックスサイズだ。
 更に俺は、一分待っては次のドラゴンを。更に待っては新たなドラゴンを生み出す。
 そして十人のドラゴンが俺の前に並んだ時、俺は彼らに向かっておもいきり頭を下げた。
「皆、ごめん。無茶な戦いをさせて!」
「ガオオオーン!」
 皆はいつも通りだ。俺を責める様子はない。それが俺の自責の念を和らげてくれる。本当に良いドラゴン達だ。そしてすぐにでも他の子達にも謝りたいけど、申し訳ないがそれは後。今は修業の場に挑むメンバーだけ集めよう。
「俺は用心して、皇帝の強さを正しく見抜き、すぐに撤退すべきだった。それができなかった結果、女の子達とイルフィンをやられてしまった。後から助けにきてくれたドラゴンの半数も、守れなかった。俺は、本当に皆にすまなかったと思っている。あの時のことをつぐなえるなら、なんだってしたい気持ちだ」
「ガオオオーン!」
「けど、メソメソ気分にひたるのは今ではない。バウコン帝国の脅威に打ち勝つことが、今の俺達のやるべきことだ。よって、今からお前達に、ここのラスボス、99レベルのモンスターに挑んでほしいと思っている。もちろん無理そうならやめるが、やるからには30人態勢で、全力で戦いたい。皆、覚悟してくれるか!」
「ガオオオーン!」
 ドラゴン達の返答は、一切退かぬ雄たけびのみ。正直、そうだろうとは予想していた。君達はいつも、どんな時でも恐れない。
 それが頼もしくもあり、同時に申し訳なく思う。
 君達はただ戦うだけの戦士ではない。この戦いが終わったら、それを証明させてあげよう。
 けど今は、彼らの勇気にあまえる。
「皆、ありがとう。それでは今は、時を待て。もう20人の仲間が集まったら、その時、全員でこの修行の場に挑もう。今回は、最後まで戦い抜くぞ。99レベルのモンスターを倒して、少しでも百レベルに近づくんだ!」
「ガオオオーン!」
「俺達は、次こそ皇帝に勝つ!」
 次に、ジャイアント達を十人召喚した。
 その次は、ワイバーン十人。今回人型クリーチャーは、休憩だ。
 やはり戦闘となると、人型よりもモンスター型の方が向いていると思う。そんな印象がある。
 それに、彼女達は皇帝に斬られたばかりだ。
 そんな彼女達が、更にやられるようなことになれば。その時俺は、申し訳なさすぎて大きな悲しみを感じてしまうだろう。
 では、この皆ならやられてもいいのかといえば、決してそんなこともないのだけど。
 彼女達のために、そして自分のために、今回はこのメンバーで戦いたい。
「皆。焦らず、集中して挑もう。まずは90レベルのモンスターを99体まで倒してくれ。そのうえでなお余力があれば、99レベルのモンスターを呼ぶんだ」
「ガオオオーン!」
「それでは、戦闘開始!」
「ガオオオーン!」
 こうして俺達の、三回目となる修行の場での戦いが始まった。
 最初の内は、余裕に敵を倒す。1レベル、11レベル、10レベルの土人形達を、瞬殺していく。
 前回倒した61、60レベルの土人形達も余裕で撃破。更に71、81レベルの土人形達も倒していき、すぐに、91レベルの土人形が現れる。
 それは、翼を生やしたシャチだった。
 ドラゴン達と負けず劣らずの大きさをしたシャチが、翼を羽ばたかせて夜空を舞い、俺達を睨みつける。
 ドラゴンとワイバーン達は、八方から囲んで攻撃をしかけた。ジャイアント達は地上から魔法攻撃を放つ。
 これに対してシャチは、茶色いバリアを身にまといつつ、口から土砂を放出して反撃する。
 敵のバリアは、攻撃を一回二回あてれば穴が開く、その程度の強度だった。ただし、壊れたバリアはすぐに再生され、また攻撃を防ぐ厄介な防壁となる。更に土人形が口から吐く土砂は、バリアをすり抜けて仲間達に浴びせられる。
 その敵の攻撃は、全員なんとか回避できた。
 素早さの能力値が、相手よりもこちらの方が数段上だったためだ。ジャイアント達ではどうかわからないが、土人形はずっと空中にいるドラゴンやワイバーン達を狙っていた。
時折してくる土人形のたいあたり攻撃も、こちらを危うくする脅威とはなりえなかった。やはりこちらの動きの方が、速い。結果、バリアは厄介だったが、それ以外は格下の、ただ体力が大きいだけの、格好の獲物となった。
「グオオオオーン」
 数分後、シャチが断末魔をあげながら、全身を崩壊させる。
 俺はそれを見て、ホッと一息ついた。そして次の瞬間、戦いはまだ終わっていないことを思い知らされた。
 一瞬にして目の前の空域に、百体の翼シャチ土人形が現れる。土人形達はすぐに皆へと狙いを定め、攻撃してきた。
 喜ぶのはまだ早かったのだ。俺の方にも二本、小型翼シャチの土砂吐き攻撃が迫る。
 全力で走って、なんとか回避に成功した。完全に油断していた。そう、俺だって狙われることはある。十分注意しないと。
 ドラゴン達が俺を狙った翼シャチを真っ先に始末し、ウッドワイバーンの一人が俺の元まで飛んできてくれる。俺はウッドワイバーンが伸ばすツルにつかまり、そのままその背に乗せてもらった。
「ありがとう、ウッドワイバーン。このまま、戦いを続けてくれ。やっぱり今の攻撃のことをふまえると、俺だけ見ているだけというのは、違うと思うから。まだ攻撃を防いでくれるターゲットは9枚残っている。俺に構わずこのまま戦ってくれ、ウッドワイバーン!」
「ウボオオーン!」
 こうして俺を乗せたウッドワイバーンも戦いに戻る。相手の数は多いが、こちらも30人いる。いや、俺も合わせれば31人か。とにかく、数の差で押し切られることはないはずだ!
 目標、一人3体キル。それを競い合うように、仲間達は空中を飛び回る翼シャチを狩った。
 シャチが吐く土砂がいくつも合わされば、それは驚異の連携攻撃となった。しかし、ドラゴン、ワイバーン達は華麗に射線を回避し、ジャイアント達は頑丈なボディーで耐え、足元が砂山で埋まってもすぐさま出てきて復活する。敵達は明らかに、こちらに通用する攻撃手段をもっていなかった。
 流石に翼シャチ達は90レベル。体力と防御力はなかなかのものだった。皆も何度も攻撃を重ねて、やっとの思いで倒している。だが、翼シャチ達の力はその程度。相手は少しずつ数を減らしていき、一方こちらは全員無事。
「レベルが上がりました」
 翼シャチの群れを半分以上倒した時、とっ君からそのような報告を受けた。
 これで俺は93レベル。百レベルまで、あと7レベル。
 皆の動きも、更に良くなった。
 これなら、いける。99レベルのモンスターを、相手にできる。
 そう思った俺は、叫んだ。
「このまま戦いを続ける。99レベルのモンスターに、挑むぞ!」
「ガオオオーン!」
 俺の意思は皆に伝わった。あとは、最後の難敵をぶち壊すだけだ。
 99レベルの土人形がどんな強さか知らないが、絶対に倒してやるぞ!
 やがて、俺達は時間をかけて、翼シャチ達を倒しきった。
 すると、修行の場の中心に、どんどん土が集まっていく。
 土は盛りあがり、形をなし、時間をかけて、一つの巨大な土人形を作りあげた。
 それは、9つの首をもつ蛇。
 ヤマタノオロチのような、一か所から首を多方向へ伸ばしているわけではない。まるで木や草の枝葉のように、一か所一か所、右へ左へと蛇の頭が伸びていた。
 その蛇達が植物のように胴体を上下に伸ばし、それぞれ思い思いの9方向を向いている。
 それは、はっきり言って異様。
 その最後の土人形が、俺達を見て一斉に大口を開けた。
「シャララララルルワー!」
 まるで生き物のような多重咆哮。目までらんらんと輝いている。
「全員、総攻撃ー!」
 俺達と最後の土人形は、同時に攻撃を開始した。
 まず、土人形の攻撃。それぞれ口から、ブレスを吐き出した。
 ただし、それぞれの頭ずつ、属性が違う。
 水。木。土。金。火。氷。雷。光。闇。
 9つの光が、それぞれ俺の仲間達をおそう!
 けれど、俺達だって負けてはいないぞ!
 ドラゴンやワイバーンは、同じくブレスで相手のブレスを相殺しつつ、回避行動に移り、無事難を逃れる。ジャイアント達は全力で防御魔法の盾を作って、なんとか耐えしのぐ。
 そしてブレスを受けていない21人のクリーチャーが、魔法や物理攻撃で土人形にダメージを与える!
 相手の攻撃はすさまじく、対してこちらの攻撃はまだ大したダメージを与えていないが、初手を撃ち合っての結果は両者健在。ならば、俺はこのまま様子見しよう。
 この戦いは長期戦になるかもしれない。俺がやられれば皆消えてしまうわけだし、チャンスカードは温存しておくべきだ。
 地力は土人形の方が上だったが、数の差でこちらの方が押していく。
 皆慎重に、攻撃の瞬間を見極める。相手の攻撃は、ブレスと頭突き。そして自身の体に数秒間属性魔法をまとわせる、攻撃的なバリアとでも言うかのような接触攻撃。
 相手の攻撃パターンは少ない。その一つ一つに皆が注意して、わずかずつであるが与ダメージを重ねていく。
「いけるぞ。このままいけば、こいつを倒せる!」
 俺はウッドワイバーンにしがみつきながら、最後までこの戦いを見届けようとした。
 だがある時、土人形の動きが変わった。
 土人形は空を無視し、地上に目を向けた。
 まず目をつけたのが、フレイムピラージャイアントの一人。
 土人形の9つの口が、ただ一人に向かって開かれる。
 そして、圧倒的なビーム照射。9本の光線が、フレイムピラージャイアントを押しつぶした。
「そんな!」
 一瞬のことだった。即座に召喚状況を確かめて、フレイムピラージャイアントの消滅を確認する。
99レベルの攻撃が9つ重なれば、93レベルの強さであっても、あっという間にやられてしまうということか。
それがわかった瞬間、俺は叫んだ。
「ターゲットを7つのチャンスカードに変えて、ヒロードラゴン二人、ゴールドラゴン二人、ジュレイドラゴン、サガンドラゴン、スプラッシュドラゴンをパワーアップ!」
 このままジャイアント達を一体ずつ倒されるのはまずい。確実に戦力が、一人ずつ減らされてしまう。そうなる前に、ここで勝ちをつかみたい!
 ドラゴン七人が光を発して強化される。チャンスカードを8つ全部使わなかったのは、万が一俺にダメージが当たったら、一度で皆が消えてしまうからだ。これが今の俺ができる、最大限の支援だ。
「皆、攻撃重視でかかれー!」
「ガオオオーン!」
 ドラゴン、ワイバーン達は警戒をやめ、こちらを向けとばかりに攻める。しかしそれでも土人形は、ジャイアント一人ずつへの集中攻撃をやめなかった。
 ジャイアント達が、一人また一人と、9つのビームの前にやられていく。
 やがてジャイアントの数が残り半数となった頃、相手の体に変化が生じた。
 土人形は、一つの体から9匹の蛇に分裂した。
「シャララララルルワー!」
 9匹に分かれた蛇は、太く短く見える胴をくねらせ、もの凄い勢いで俺達に迫る。
「ガオオオーン!」
 後はもう、大混戦だった。
 9匹の蛇は、俺達よりも素早く、力強く、頑丈だった。特に早くにかまれたジャイアントは、噛みつかれながらブレスを受け、その連続攻撃でボロボロになってしまう。
 ドラゴンもワイバーンも、スピードで負ける。回避に専念しても、やがて捕まってしまう。唯一、パワーアップしているドラゴン達だけは五分に戦えているが、それも長くは続かないだろう。
 格上の敵が、同時に9匹も相手となる。それはとてつもない脅威だった。
 だが、これに勝てなければ、皇帝に勝つことなど不可能。
 相手がどれだけ危険でも、こちらはその上をいくしかない!
「皆、まずは一体集中して倒せ! 狙われている者は全力で抵抗しろ!」
「ガオオオーン!」
 俺がそう言い始めた途端、皆のパワーアップが終わった。
 そして更に、俺を乗せたウッドワイバーンは蛇達を警戒して、なかなか攻撃をできずにいた。そこで俺は、言う。
「ウッドワイバーン。俺を置いて戦え。あと一度だけなら攻撃を耐えられる。俺のことは気にするな!」
「ウボオオーン!」
 ウッドワイバーンは即座に俺を地上に降ろす。あとはもう、皆の勝利を祈るしかない。
「勝ってくれ。頼む。この試練を乗り越えてくれ!」
 八人の仲間がやられる頃、皆はなんとか一匹の蛇を倒した。
 次は新たに、八人の仲間が狙われるだろう。今仲間の数は、17人。
 このままではまずい。見ているだけでは、信じるだけでは負けてしまうかもしれない。
 何か手は、何か手はないのか。
 いや、手ならあるはずだ。今の俺には武器がある。
 戦え。少なくともあと一度だけ、ターゲットで攻撃を防げる。俺も、あの蛇達に挑むんだ!
「うおー!」
 ハンドレッドジェムを抜く。そして全速力で助走をつけた後、力の限り剣を投げた。
 狙ったのは一番近くにいるように見えた、光属性のブレスを吐く蛇。そいつの軌道を読んで、ハンドレッドジェムが吸い込まれるように突き刺さる!
 そのダメージの程は、この距離からではわからなかった。
 けれど、直後光属性の蛇がこちらを向いて、俺に向かってまっすぐにビームを照射しようとした。
 次の瞬間、ダイヤモンドワイバーンがたいあたりして、ビームの軌道をそらす。
 間一髪、俺はダイヤモンドワイバーンに助けられた。
 そして一方では、二つの大きな光が夜の荒野を照らしていた。
 蛇に噛まれていたジャイアント二人が、大爆発を起こしたのだ。その衝撃でジャイアントの破片が俺の近くまでとびちり、更に二匹の蛇も爆砕された。
 すぐに、俺を狙っていた蛇も皆が倒してくれる。
 これで、相手の数は残り5体。こちらの数は15人。
 この勢い、逃す手はない!
「ヒロードラゴンにチャンスカードを使用して、パワーアップ!」
 強化されたヒロードラゴンを先頭に、ドラゴンとワイバーンの混合勢力が一匹の蛇に突っ込む。
 そして蛇の方達も、ジャイアント達の自爆を警戒して、そちらにはビームを吐くだけにとどめ、空中戦力に集中しようとしている。
 この調子なら、いける!
 ここでウォーターワイバーン、ロックワイバーン、ダイヤモンドワイバーンが一体ずつやられて、消えた。
 けれどこちらも、更に蛇を一体倒す。
 これで、4対12。
 残り二人となったサガンジャイアントとスイボツジャイアントが、同時に大きなビームを発射して蛇一匹の動きを止めた。
 それに呼応して、空を駆ける味方も特攻。蛇はそれに耐えられず、更に消える。
 残る蛇3匹は、一か所に集って連携しながら空での戦いを続けた。
 だが連携はこちらの得意分野だ。俺達の方が上手く互いをかばい合い、隙を突きまくる。
 99レベルの蛇は更に、ワイバーンを全滅させ、ドラゴンの数も半数にまで減らしたが、俺達はそれ以上の消耗を許さず、最終的には最後の一匹まで倒してつくす。
結局、この激戦の勝利をつかんだのは、こちら側。
「レベルが上がりました」
 そのとっ君の声を聞くと、いつも安心する。
「ガオオオーン!」
 9匹の蛇を全て倒し終えて、残ったドラゴン達が雄たけびをあげた。
 俺はそんなドラゴン達とジャイアント達に向かって、走り出した。
「ありがとう、皆!」

 今の俺のレベルは、96レベル。
 まだ99レベルにも至っていない。
 けれど、これは大きな前進だ。
 生き残った皆が俺の元に集まる。俺は皆に声をかけた。
「よく勝ってくれた。次は、またここのモンスターの再発生を待ちながら、再び雪山に戻ろう!」
「ガオーア!」
 ここでヒロードラゴンが、顔である方向をさし示した。
「ん?」
 そちらを見ると、修行の場にある石が光っていた。
 なんだあれ?
「なんだあの光は」
 あの光、ただ光ってるだけではないよな?
「ゴオーン!」
「シュレアー!」
 皆も石の光を気にする。俺達は石の近くに寄ってみた。
 すると丁度その時。石の隣に、宝箱が出現した。
「宝箱だー!」
「ガオオオーン!」
 そういえば、最後の土人形を倒したら景品がもらえるんだっけ?
 一体どんな景品なんだろう。俺は宝箱を開けてみた。
 すると、宝箱から大量の青い光がとびだした。
 青い光の正体は、大量の光る石だった。それが開いた宝箱からあふれ出て、あっという間に小山を作る。
「な、ほ、宝石?」
 いや、輝くどころか、光を強く発する宝石なんて、聞いたことがないけど。
「これは、宝?」
 俺は光る石を一つ手に取った。
 すると、どうしたことだろう。
 持った光る石はみるみる小さくなっていき、それと同時に俺の中に温かな力が入り込んできた。
「あ」
 驚いている内に、宝石が消える。
 そして。
「レベルが上がりました」
 えっ。
「え?」
 今、97レベル?
「えー!」
 どういうことだ、どういうことだ!
「この石は、ただの石じゃない?」
 けど、今起きたレベルアップが、この石が起こした現象なら。
 俺は、もう一度光る石を手にした。
 その石がすぐに消え、また俺の中に力が溜まり、それを繰り返す。
 そうするとやはり。
「レベルが上がりました」
 やった。98レベルだ!
「この石を使えば、簡単にレベルが上がるぞ!」
「ガオオオーン!」
 俺は、夢中になって石を手に取った。
 そして、99レベルになり、更にもっと光る石を使うことで、更にレベルアップ。
「レベルが上がりました」
「やった」
 百レベルだ。光る石はこれ以上吸収できなくなった。
 すると、次の瞬間。皆の姿が光り輝き出した。
「え、皆。どうした、の」
 俺が見ている間に皆はどんどん姿が小さくなり、いや、人型になっていく。
 ていうか人になった!
「百レベルおめでとうございます、マスター」
 皆普通に喋ったー!
「ど、どういうこと?」
「百レベルボーナスの力の一つです。私達はもう、自由に人の姿に変われます。これでマスターと完全に意思疎通がとれます」
「そ、そうか。それは凄い」
「それだけではありません。百レベルになった途端、全身に力がみなぎるのを感じました。確かに、今までの私達の力の比ではありません。これならば、あの皇帝ともまともに戦うことができるはずです」
「そうか。そう思うか。なら、俺も自信がつく」
 ここで百レベルになるのは予想外だったが、これは、良い流れだ。あとは、再び皇帝に挑むのみ。
「マスター。もしよろしければ、今ここで他の百レベルボーナスの説明をしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。お願いとっ君」
「イエスマスター。まずは、召喚クリーチャーの入れ替えです。現在召喚しているクリーチャーを、別のクリーチャーに召喚し直すことが可能になりました。ただし、一度入れ替えたクリーチャーは、消滅扱いとなって再び召喚し直すことはできません。一度の特殊能力発動を機に、召喚できる同じクリーチャーの数は、以前と同じく二人のままです」
「それは凄い。召喚可能数が許す限り、何度でも召喚し直すことができるのか。これは戦術の幅も広がるぞ」
「次に、新たなクリーチャーの創造です。マスターはイメージすることによって、新しいクリーチャーを創造することができます。ただし、一度新クリーチャーを創造した後は、再び創造するために十日間時間をあける必要があります」
「新クリーチャーの創造?」
 新しいクリーチャーっていうと、まさか。最初の頃に想像してみた、家クリーチャーも召喚できちゃうってこと?
「新クリーチャーには、どんな能力ももたせられるの?」
「イエスマスター。実際に召喚するまでどのような効果になるかはわかりませんが、ほぼマスターが思い描いた通りの効果を与えることができます」
「それは凄い。ほぼ全知全能じゃないか」
 それじゃあ、俺の願いは可能な限り、なんでも叶えられてしまうのか。
 やばい。俺の力、チート能力になっちゃった。
「それと、これが最後のボーナスの力です。私が召喚可能になりました」
「え、とっ君?」
 それってどういうこと?
 と思っていると、突然俺の中から力が抜けていくような感じがして、同時に目の前に、一人の男が現れた。
 黒髪に、執事服。ピンと伸びた背中に、日本人的な顔。
「これが私の、召喚された姿です」
「そ、その声はとっ君ー!」
 なんということだ。というかとっ君、こんな人だったのか。
「これは、凄い。本日は驚きっぱなしだ」
「非戦闘員ではありますが、私も百レベル相当の戦闘力となっております。そして私は、特殊能力を終了している間でも召喚可能です」
「なんと」
「しかしデメリットもあります。私が召喚されている間、マスターは召喚能力を自由に使うことができません。私自身が能力ですので、私が自由に活動している間は私のみが召喚能力を使うことができます。ただし、ターゲットやチャンスカードの活用、各クリーチャーへの命令権や新クリーチャー創造等の力は以前同様マスターのみがそのまま使えますので、ご安心ください」
「そ、それって、とっ君が敵になって俺が葬られることがないってことだよね。良かった。ちょっと安心する」
 そんな未来はありえないと信じたいけど、皆俺より優秀なので、ちょっと心の中で不安が生まれていたかもしれない。
「また、私が傷を負った場合、召喚能力に問題が生じます。問題は時間が過ぎれば自然と無くなっていきますが、もしもの際は十分ご注意ください」
「ああ。わかったよ、とっ君」
 つまり、とっ君は大切に。ということだな。
「百レベルボーナスについての説明は以上です。では私は一度、マスターの中へと戻ります」
 とっ君がそう言って、光になって俺の中に入ってきた。本当、とんでもなく強化されたな、俺の特殊能力。
 でも今の状況なら、どれだけ強化されたって問題ない。むしろ大歓迎だ。
 これで、皇帝を倒す力がそろった。はず。
「よし。これでやっと皇帝とバウコン帝国軍を止められるぞ。遂にその時がきた!」
「イエスマスター!」
「やるぞ、皆。皇帝を捕まえて、それで戦争も終わりだ!」
「おー!」
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