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29 サッカーその1

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 やるのは久しぶりの、ドッジボール。
 隣り合った四角を白線で描いて、その四角の中にいる相手をボールで攻撃。キャッチ失敗した相手をどんどん相手の方の四角より外へと追いやるゲーム。今回外野復帰は、外野を二人残していれば何度でも可能。
 そして、顔面セーフ。
 そういったルールを二人と、城の庭で兵士の皆さんに説明して、聞いてもらった全員に理解していただいた。
 そしてこう言われた。
「あの、しかし城内にボールはありません。城の外まで買いに行きましょうか?」
 面倒だったので、ボールはリンゴで代用。食べ物を粗末に扱ってごめんなさい。
 白線のかわりに兵士達の武器や兜等を点々と置き、大体の感覚で同じ大きさの四角を作る。そしてそれぞれの四角の枠内に兵士八人とクレバナさんとロリッチさんが入り、四角の外に二人ずつ兵士がスタンバイ。
 俺は審判。
 クレバナさんとロリッチさんは、それぞれ戦う形。
「なぜ私とロリッチが分かれているのですか」
「女性二人と女性0人より、女性も一対一になる方が良いでしょ。さあ、ドッジボールスタート。両者一人ずつ中央線に近寄って、じゃんけんして」
「じゃんけんぽん」
 クレバナさんとロリッチさんがじゃんけんをして、クレバナさんが勝った。
「はい、クレバナさん、リンゴ。これを大事に使って、相手に投げて当てて。キャッチされたらダメだよ」
「わかっています。では、まずはこちらから。さて、それでは皆さん。この中で一番レベルが高い者は誰ですか?」
 どうやらクレバナさんは、レベルが高い者が一番上手く投げられると考えたらしい。
 そして兵士の一人が、クレバナさんからリンゴを受け取った。
「さあ、投げてください。まずは確実に、レベルが低い相手から倒していきましょう」
「はい」
 リンゴを持った兵士ができるだけ中央線に近づく。
「お前たち、必ず私を守れよ。男なんだから、それくらいのことはできるだろう」
 ロリッチさんが腕を組みながらそう言う。でもロリッチさん、そこ四角い枠内の真ん中だよ。それより前に兵士を配置しようとしたら、ドッジボール的に超危険なんじゃないかな?
「それっ」
「うわっ」
 結局超至近距離からリンゴを投げられた兵士の一人が、足に当てられ外野行きとなる。
「ヒット。外野へ行って」
「くそー」
 あてられた人が外野へ行っている間に、リンゴはコロコロ転がってクレバナさんチームの方へと転がっていく。
「おい、リンゴをつかめ。このままやられっぱなしというわけにはいかないんだぞ!」
 ロリッチさん、中央から一歩も動かない。完全に言うだけである。あれはどう見てもお荷物だよなあ。
「だあ!」
 ロリッチさんチームの兵士がリンゴへとダイブし、つかみながらも即座にスロー。
 あまり速くないスピードだったけど、その分予想外だったのだろう。クレバナさんチームの一番レベルが高い兵士一人にヒット。その後リンゴは地面で止まる。
「ふむ。いいぞ、その調子だ」
 ロリッチさん、偉そうにほめる。
「ですが、このルールでは外野にリンゴを送り、彼にまたリンゴを投げさせればいいだけ。当たれば内野に復帰。こちらがリードをとれます」
 クレバナさんが自信をもってそう言う。確かにそうなんだけど、ゲームなんだし、楽しくやろうよ。俺はクレバナさんが、ドッジボールを楽しんでいる風ではないというのが、少し気になった。
「ぐぬぬ、クレバナめ、こしゃくな手を」
「お遊びだろうと、勝つためには全力になる。それが私です。さあ、あなた。外野にリンゴを投げてください」
「軍師さんよお、別にその作戦でもいいが、けど折角だ。ここで一つ、俺にチャンスをくれるってのはどうだい?」
 ここでリンゴを持った兵士が、余裕げに語りだした。
「ほう。では、その方が効果的とでも?」
「それを目の当たりにするのはこれからさあ。俺にこのリンゴを預けてくれたら、軍師さんに勝利の美酒をプレゼントするぜい」
「私は軍師補佐です。ですが、自信があるのならどうぞ。失敗しないかぎり、チャンスは何度でもあなたに与えましょう」
「心得た」
「ふん。王国の一兵士ごときが私に勝つだと? ぬかしおる。その自信、真正面から叩き折ってくれるわあ!」
 ロリッチさんは、楽しそうだなあ。
「ではいくぜえ。くうらえっ!」
 兵士はそう言って、別に中央線に近付かないまま、それ程速くないスローを行った。
 相変わらずロリッチさんの前で横に並ぶ兵士の一人が、相手からのリンゴを足で打ち上げる。そのまま右手でキャッチ。
 しようとしたのだが。
「何!」
 リンゴの回転はなぜか止まらず、スルリと右手からこぼれ落ち、地面についた。
「ヒット。外野に行ってください」
「なんだこのリンゴは、ありえん!」
「回転に敬意を払え」
 そのリンゴを投げた兵士が、決めポーズをとる。
「ほう。何やら小細工を使うのか。おい、男共。今度はあの男を狙え」
 ロリッチさんは相変わらずの態度で残った二人に指示。その二人は転がり続けるリンゴを手に取ろうとするが、どういうわけかリンゴは二人の手を避け、無事投げた兵士の元まで戻ってしまう。
 そしてその兵士は普通にリンゴをつかみ、ぽーんと一度上に放ってから、豪快に投げた。
「もいっぱーつ!」
 この一投でも、ロリッチさんチームの兵士にヒット。
「ヒット。外野へ行って」
「なんだこれ、全然とれねえ」
「これ以上やらせるな。体で止めろ!」
 ロリッチさんの指示に従い、最後に残った兵士がリンゴにおおいかぶさる。
「無駄だ。回転に隙はない」
 すると一拍おいて、腹ばいになった兵士の腹の下から、ギュルギュルギュルッと回転するリンゴがとびでて、すぐに兵士の手元に戻る。
 そして相手が起き上がる前に、背中へ投げる。
「ヒット。外野へ行って」
「な、何が起こってるんだ!」
 男はすぐさま駆けて外野へ直行。
「ええい、役に立たない案山子共め。やはり王国兵等あてにならん!」
 ここでやっとロリッチさんが動いた。
「私の祈りは神へと通ずる。神のご加護は私への祝福となる」
「な、ロリッチあなた、信仰心でレベルを上げましたね。卑怯です!」
「戦場に卑怯などないわー!」
 ロリッチさんは全力でリンゴを拾った。
 リンゴは逃げようとしたり、手の中を強引に転がろうともしたが、しかし今のロリッチさんの前ではささやかな抵抗だった。ロリッチさんは完全にリンゴをつかまえ、ニヤリと笑う。
「遊びとはいえ、私が戦うのだ。敗北などいらん。私が得るべきなのは勝利という二文字のみ。最後に勝つのはこの私だあ!」
 そう言ってロリッチさんがリンゴをクレバナさん達に見せた時。
 ぐしゃあああっ。
 ロリッチさんの握力でリンゴがつぶれた。
「リンゴを壊してしまったので、ロリッチさんとロリッチさん側チーム、反則負け!」
「そ、そんなはずわああああああああ!」
 ロリッチさんが一歩、二歩と歩いて、俺へと近づく。
「い、今のはちょっとしたうっかりだ。取り消せ、反則負けという不名誉を、取り消してくれ!」
「ロリッチさん。食べ物は大切にね?」
「お前が言うなあああああああああ!」
 というわけで、第一回ドッジボール対決が終わったのだが。
「皆、どうだった。やった感想、面白かった?」
「作戦通りとまではいきませんでしたが、なかなか熱中はできました。ただし、そう何度も繰り返し遊ぶ遊戯ではありませんね」
 これがクレバナさんの感想。
「リンゴでなければ、リンゴでなければ勝てていたのだ。リンゴなんて嫌いだ!」
 これがロリッチさんの感想。
「良いリフレッシュになりましたよ。遊びなんて子供の頃以来でしたからね。またやりたいか、ですかあ。うーん、たまにならありじゃないですか?」
 これが大体の兵士の感想。
「あのお嬢ちゃんに、俺の回転は止められちまったぜ。完敗だ。黄金二等辺三角形への道のりは、まだまだ遠いなあ」
 これが謎のリンゴ投げ兵士の感想。
 まあ、そんなこんなで。
「ロリッチさん、クレバナさん。人はスポーツに熱中できる魂を持っているんです。これで証明できましたか?」
「まあ、多少は」
 二人とも、良い返事である。
「けど、やっぱりドッジボールで大会とかは難しいかなあ?」
「ボールを二つや三つにすればもっと面白くなるのではないでしょうか?」
「それだと審判が大変だろう。見ている方だってこんがらがるぞ」
 こうして、俺達はああだこうだと話しながら、ひとまず用は済んだとばかりに荒野まで戻ろうとする。
 その時、兵士の一人が大急ぎでこちらまで走って来た。
「ああ、サバク様。丁度良かった。たった今昨日の果物の代金が計算できたとのことで、領収書だけ先にお持ちしました!」
「ああ、ご苦労様です。ええっと、代金って?」
 兵士から渡された紙を見る。するとそこには、数字がいっぱい並んだ計算式と、お支払い金額に、0が、いっぱい?
「あ、あの、ちょっとこの数字、もらいすぎな気がするんですけど」
「ですが、適正価格です。それと、先日我らに賜ってくださった、聖水の方もいただけたらうれしいとの伝言を預かっております」
「いや、それは、わかった。けど」
 俺の屋敷にはまだ、お金がいっぱい、山となって積まれているままだ。
 それなのに、更にこんなにもらっても、こちらとしては心苦しいよ。
 ていうか、こんなにお金がもらえるってことは。
「ねえ、兵士さん。俺達が用意した果物って、めちゃくちゃ高価な値段つけられてない?」
「はい。質も鮮度も良いですからね。このくらいの値段になるのも当然かと」
「それじゃあ高すぎる」
「へ?」
「より良い品をより安く、王都中の皆に食べてほしいんだ。やっぱりこんなには受け取れないよ」
「とおっしゃられましても」
 こうなったら、よし。折角城にいるんだから、言いたいことは言ってこよう!
「この領収書を書いたのは誰だあ! って感じで、クレバナさんもロリッチさんも、ついてきて。お願い。それとなく俺のサポートをして」
「はい、いいですよ」
「金など、もらっておけば良いと思うがな」

 ひとまず俺達は、いつものごとくロイヤルスイートルームで待機した。
 そして客が来たかと思えば、貴族の挨拶。また来たかと思えば、また貴族の挨拶。って感じで時間がすぎ、しかしそれ程待ってもいない時間。
「大変お待たせいたしました。サバク様の果物の売買を担当しております、デナサンです」
 まんまると太ったおじさんが、凄くかしこまりながら俺に挨拶してくれた。
「どうも、俺はサバクです。こっちはクレバナさんと、ロリッチさん」
「よろしく」
「私と言葉を交わす栄誉を許す」
「は、はい。それで、果物の料金のことですが、どこかご不満でしたでしょうか?」
「高すぎます」
「はい?」
「こんな高いお金を俺が受け取っていたら、王都の皆に果物が行き届かないのでは? それどころか、ベイクトやスフレンといった都市に行く分も怪しいです」
「し、しかし、サバク様からいただいた果物は大変甘く、質がよろしくてですね。とても国民の誰もが利用できるような市場には出荷できないのですよ。果物の運送には兵士を使ったというコストもございますし、それらを利益が上回るには、この価格が自然なのです」
「うっ」
 そっか。果物が皆の口に運ばれるまでに、人件費等がかかっているのなら、値段を爆安にしろ。とも言いづらい。
 けど、それでも俺は、商売をするために果樹園を作ってもらったわけじゃない。平和利用のために皆に頑張ってもらったんだ。
 そのことは、きっと皆もわかってくれるだろうし、王国の人達にもわかってもらいたい。
「それでも、どうにか果物の原価を下げてください。それか、この俺の利益の何割かを利用して、王主国の理念に沿うような使い道を一緒に考えてください」
「お、王主国サーバーク、本当にやるのか。い、いえ、失礼しました!」
 デナサンさんは、なぜかここで急に頭を下げる。
「しかしですね、私はあくまでサバク様の果物を管理し、お金に変えるだけの者です。それが売りつけ以外のことをしろというのは、とてもではないができるものではありませ」
「王主国に属する国は、王主国と共に世界平和を考え、追求する。それがサバクさんとこの国の王が交わしたルールです。あなたはそのルールに従い、王国の民として王主国、そして王主であるサバクさんに従う義務があります。しかもそれが平和に関することならなおのこと。それをあなたが拒むというのなら、あなたは王主国のルールの違反者となります。すなわち、罰則を受ける必要が出てきます」
「え?」
 クレバナさんの言葉を聞いて、デナサンさんの顔から表情が消える。
「そういえばサバク、さん。王主国の属国がルールを違反した場合、どのような罰を与えるのだ?」
 ロリッチさんが底意地の悪そうな声を出す。
「え、ええっとお」
 そういえば、まだ王様に王主国のルールをまだ説明してなかったなあ。言ったのはとっ君だったし、帝国でだったし。
「さ、サバク様に逆らおうという気は一切ありません。私はただ、仕事をこなす者として、仕事以外のことをしてしまっては時として本業に支障が出ると、そう申しただけです。決してサバク様に逆らったわけではございません!」
「ああ、わかった。わかってる。デナサンさんは、悪くない。ただちょっと、俺からの話は都合が悪いだけだ。そうだろう?」
「は、はい」
「俺はただ、平和のために、誰かのために何かをやりたい。その具体的な案を、この場で考えたり、果物の値下げとかをしたりしたかっただけだ。そうだね、確かに、デナサンさんに言うべきことではなかったかもしれない。ここは俺の方が悪かった。そういうことで」
「は、ははあーっ。ご理解いただき、ありがとうございます」
 デナサンさんがまた頭を下げてくる。
「確かに、こんな小者に何かを言っても時間の無駄なだけかもしれんな。サバクさん。ここは国王に王主国のルールを周知させるついでに、更に今回の策も話してみるべきではないか?」
 ロリッチさんがそう俺に言う。
「そうだね。王様に伝えに行くのは当然だ。でも、今回の策って?」
「決まっているだろう。スポーツだ。ことが上手くいくにしろ失敗するにしろ、早い方が良い」

 というわけで、今度は王様に会うことになった。今回も謁見の間でご対面。リキュア王女様もいる。
 ただそこで、俺のイスがいつもより豪華になっていた。その両隣にクレバナさんとロリッチさんがスタンバイ。
「ごほん。王主様。本日はお会いに来てくださり、真にありがたくぞんじます」
「王様。そういう態度はやめてください。いつも通りで」
「何。立場が変われば、全てが変わるというものです。王主様はお慣れください」
「ああ、ええっとお。今日は、王主国のルールと、そして平和政策のための一案をお持ちしました」
 先に、王主国と属国は平和のために頑張る。的なことを言って。
 その後は、今日新しく考えた計画、スポーツで皆をハッピーに計画を語った。
 それを聞いた王様は、うなずく。
「うむ、なるほど。要するに剣闘士のような仕事を増やしたいというのじゃな。しかし、肝心の催しはいかがいたす。まさか何も無しでは、人を集めることもできませぬぞ」
「そこは、いろいろ考えたんですけど、まずはサッカーをするということで」
 俺はここで、サッカーの説明をした。サッカーなら元の世界でも大人気だし、ドッジボール以上に集客効果が望めるだろう。
 サッカーとは。大体ボールをけって得点を競い合う。そんな感じのざっくりした説明。
 ルールは正確に憶えているわけではないが、まあ異世界だし、形になればいいだろう。
「なるほどの。それが神の使いがもたらした、神の使いの遊戯か」
「いえ、決してそういうわけでは。でも、これなら必要な設備が整いやすいと思うんですよ。まずやってみるとしたら、これが良いかなあと」
「わかった。じゃが、サッカーをやるには広い場所が必要じゃろう。兵達の訓練場を使う手もあるが、そうなるといちいち設備の準備をし直さなければならないし、第一兵以外の者が来にくい。集客効果も望むなら、何か他に良い案がないかのう」
 確かに。ここで計画を練ったところで、それを全部王国任せにするというのも酷い話だと思う。失敗すれば、それだけ損失につながるし。
 とここで、クレバナさんが言った。
「集客を望める、広い場所ならあります。それは、荒野です。サバクさんに、サッカーコートを新しく作ってもらえばいいのです」
 確かに。荒野にならスペースはいくらでもある。でも、集客率はよくないような?
「そして、サバクさんには果物で稼ぎ、現在その扱いに困っているお金があります。であるならば、サバクさんはそのお金で、自らのサッカーチームを設立、王主国チームと王国チームを戦わせることができます」
 ここで俺、え。となる。
 同時に周囲で、おー。という声があがる。
「王主国対王国の戦いか。知らぬ遊戯とはいえ、その行方は見てみたいものじゃな」
 しかも王様が乗り気になった!
「サバクさんは、その国家同士の戦いが、良い集客ポイントになるとおっしゃっていました」
「う、うん」
 確かに、言ったけど。なんかここでだと自信なくしちゃうなあ。
「ふむ、よいじゃろう。では、王主様。ここで確認をしたい」
「は、はい。なんでしょう」
「王主様はレキの大荒野にサッカーコートを作り、更にサッカーチームも作ることは可能か?」
「な、なんとか頑張ります」
「あいわかった。では王主様の2チームの用意ができ次第、ワシらはその試合を観戦し、サッカーというものを生の目で理解した後、観戦者の意見も交え、王国サッカーチームを作るか協議。それが上手くいき次第、こちらもサッカーチームを正式に作るとする。それでよいか?」
「えっ、は、はい」
 2チーム?
 俺が、監督、いや、スポンサー?
 なんだか、どんどん大変なことが巻き起こっている気がするけど、自分が言いだしたことだ。やった方が、いいだろうなあ。
「任せてください。準備ができ次第、王様達にサッカーというものを見せてやります!」
 どうせ後悔するのなら、後悔するその時まで突っ走れ。
 バラックスと交わした夢のような世界を目指すためにも、とにかくがむしゃらにやってやる!
 そして、お願い皆。どうかこんな俺を、最後まで見捨てずに助けてくれ!

 21 サッカーをやろう

 その後、昼ごはんのため一度屋敷に戻って、サンドウィッチをもらって荒野で食べる。
皆お昼ごはん時に戻って来ることはないが、それでも荒野で活躍してくれてるから、ちょっとでも皆の近くにいたい。
 そして食後。近くにいた水属性と火属性の皆に、俺はこう告げる。
「皆。俺、急遽サッカーチームを用意することになったんだ。だから、至急サッカー選手の募集をするために、ひとまず屋敷へ戻るよ」
「イエスマスター。しかしサッカーなら、私達でもできますよ」
 カメトルにそう言われる。
 カメトルにそう言われた。
 そう言われてしまったかあ。じゃあ。
「皆、やってくれる?」
 皆に一斉にうなずかれた。
「ありがとー皆ー後はサッカーコートとボールをなんとかするだけだー!」
「イエスマスター!」
 早速俺達は、場所を少し移動してサッカーコートの広さを決める。果樹園から適度に離れてさえいれば、なるべく王都の近くがいいだろう。
 といっても、俺は正確なサッカー場の広さを知らないし、サッカーを生で見に行ったこともない。なので本当に、適当に決めた。
 サッカーコートの正式な広さは、後で王様達と話し合って決めよう。クレバナさんとロリッチさんとも、そう伝えておく。
「サッカーコートのライン引きなら、私達の燃え移らない火で代用しましょう」
「だったら私達が溶けない氷でボールとゴールを作ります」
「大丈夫、皆。普通の白線とボールじゃなくて危なくない?」
「イエスマスター。少なくとも私達には危険ではありません」
 皆にそう言われる。いや、誰でも安心安全なのが一番なんだけどなあ。
 そう思いながら皆の頑張りを見ていると、あっと言う間に氷と火と荒野な地面のサッカーコートが出来た。幻想的だ。
「さて。それでは私達で、試しに一試合してみましょう」
「うん。お願い。確か、5対5のフットサルっていうルールがあったよね。余った人は審判で。それと俺も審判をやるよ」
「へえ、そうなのですか」
「十人の選手と、プラス審判か。意外と多いな」
 クレバナさんとロリッチさんが感心しながら皆の作業を見守る。何はともあれ、二人にサッカーを知ってもらう折角の機会だな。
 俺は審判の一人ということで、間近で観戦することにする。
 今、氷のボールを中心において、火属性チーム対水属性チームの試合が、スタート!
「それでは、皆。正々堂々と戦おう。勝敗は、夕暮れになるか、5点先取ということで。用意、スタート!」
 次の瞬間、カメトル君がけった氷のボールが光となって、音速を超える勢いでぶっとんだ。
 そして8人の皆が、高速バトルアニメみたいな動きで光と化したボールをけり合う。
 俺は百レベルだからかろうじて目で追えるけど、それが限界だ。もはやサッカーなのかバトルなのか、判別がつかない。
 というか、もはやサッカーじゃない。今皆が行っているサッカーは、常人では理解が追いつかないスーパーアクションだ。
 ある時、片方のゴールの網状氷がパリーンと砕けた。どうやら火属性チームがゴールを決めたらしい。
「火属性チームに一点。タイム、一旦壊れたゴールとボールを直します!」
 俺以外の審判役が冷静でいるのが、ひどく違和感ある。
「いや、タイム。本格的にタイム。ていうか終了。皆、速すぎ。一旦集まって!」
 俺はとっさに、ゲームの中断を提案。
 どうやら、皆にサッカーは合わないらしい。いや、皆のサッカーは常人では理解できない。それはとても大きな難題に思えたのだった。
 ひとまず皆集まる。そして皆不安そうな顔をした。
「マスター。ひょっとしてお気に召しませんでしたか?」
「いや、そんなことはない。それより、皆はどうだった、楽しかった?」
「イエスマスター。マスターからの命令がつまらないわけありません!」
「うん。たぶん俺が聞きたい言葉はそれじゃない」
「ですが、点を取られたのはくやしいです。次は、点をいれ返してみせます!」
 イルフィン君がそう言い、水属性の皆がうなずく。
「そうだね。でも、今は、クレバナさんとロリッチさんの感想を聞こう。皆、少し移動するよ」
「イエスマスター!」
 皆でぞろぞろと歩くと、クレバナさんとロリッチさんもこっちへと歩いてきてくれた。
「サバクさん。今のがサッカーですか。しかし、正直なところ私の目では、何が起こったのか理解できなかったのですが」
「私も同感だ。あれを私達にもやらせて、理解するというのは、かなり無理があるぞ」
「ああ、クレバナさん、ロリッチさん。今のは違うんです。というか、もはやちょっとした事故です。サッカーはもっと見ごたえがあります。皆、次は手加減してプレイしてくれないか。手を抜いたら勝負にならないこともわかるが、まずはクレバナさんとロリッチさんにサッカーのことを理解してほしいんだ。頼む、ランニング程度で、ドリブルやって、パスして、シュートして、それをキーパーが止めたり止めなかったりしてほしい。やってくれるか?」
「イエスマスター!」
 こうして、皆に今度は、手加減フットサルをしてもらい、その試合運びの様子をクレバナさんとロリッチさんに見てもらった。
「どう、二人共。これがサッカーだ。大体こんな感じ。いける気するでしょ?」
「なるほど。確かに勝負にはなりますね。しかし、盛り上がるかどうかは、どうでしょう?」
「少なくとも、サバクさん達の仲間には誰も勝てないだろうことは、理解した」
「あはは、だよね」
 仕方ない。二人の感想は微妙だが、既に賽は投げられた。ここからちゃんとサッカーチームを2チーム用意して、試しに試合してみよう。
 手持ちのお金で足りるかなあ?
 いや、今は果物代金と、聖水の要望もある。お金の心配は、今はいらないな。本題は、サッカーチームを作れるかだ。頑張るぞ。

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