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33 サッカーその5

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 バラックスと話をした後、夕方。俺は戻ってきた木属性、土属性、そして水属性の皆に、荒野に村の建造をお願いした。
 もし帝国から、王主国に移住したいという者が現れたら、すぐに受け入れられるようにするためだ。
 もしかしたら、村は町になるかもしれない。ひとまず村を作った後、その周辺は手を出さないようにしておこう。
そして申し訳ないが、開発計画はとっ君に丸投げする。ごめんねとっ君。でも俺は専門外だから。
 そして村を作るとなると、すぐに皆、屋敷に帰りたくなくなってしまった。俺は皆に無理しないでね。と言いつつも、ウェルカムドアとイルフィン君だけを護衛に屋敷に戻る。
そして翌朝。
「おはようございます、マスター」
「うん、おはよう。って、あれ。とっ君、村から戻ってたの?」
「はい。私だけ姿を消すだけでマスターの中へ一瞬で戻れるので、新クリーチャー創造の件もあるので、戻ってきました。ちなみに村の大体の設計図は、既に仲間達に伝えたので、後は私がいなくても村建造は順調に進みます」
「そうか。なるほど。それじゃあとっ君。今日もよろしく頼む」
「イエスマスター」
 そんな話をして、ひとまず朝の準備と食事を終えた後、俺は意を決して新クリーチャー召喚を行った。
「新クリーチャー、ソセイルを創造!」
「マスターのイメージ通りに、無属性クリーチャー、ソセイルを生み出せるようになりました」
 よし。とっ君からのお墨付きももらったぞ。
「イルフィンとソセイルを、チェンジ!」
 俺の目の前でイルフィンの姿が消え、かわりにそこに、禿げ頭の男性が現れる。
 白い神官服を着ているが、首には数珠をさげている。そんなクリーチャーだ。
「マスター、お呼びでしょうか」
「ああ、ソセイル。君は生物を生き返らせることに特化したクリーチャーのはずだ。例えば今、俺が頼んだ生物を蘇生できるか?」
「イエスマスター。私の力でどんな生物も生き返らせることができます。ですが、それにも制限があります」
「なんだ、言ってくれ。あ、待って。紙に書くから、ちょっと準備させて」
「イエスマスター」
 紙とペンを用意してえ。さあ、いざ。
「で、ソセイル。制限とはなんだ?」
「はい。まず高レベルな生物程、蘇生するのに力が必要になります。そして、死後の時間が長ければ長い程、蘇生が難しくなります。力を無理矢理多く使って強制蘇生もできますが、基本、まだ転生していない、あるいは転生後も現世の未練が無く、前世への未練が無自覚でも強い魂を、生き返らせることができます」
「なるほど」
 本当に注意事項だ。よくメモしておこう。
「もちろん蘇生をする際に消費する力は、時間が経つ毎に回復します。ですが、無理のない蘇生を続けるのなら、一日に百人が上限とさせてもらいたいです」
「わかった。ソセイル。君の言葉を受け入れよう。よし。メモもオーケー。それでは早速だが、今から城に行って、蘇生する人がいるか聞いてこよう」
「イエスマスター」
「ああ。クレバナさんとロリッチさんも、つれていこう」
 こうして俺とソセイル、そしてクレバナさんとロリッチさんは、ウェルカムドアを通ってお城の庭へと瞬間移動した。

 いつもの通り、来訪した理由を伝えると、ロイヤルスイートルームに通される。
 そこで俺は、前にもあった貴族達の挨拶を受けながら、待ち人を待つ。
 そして待つこと十数分くらいで、俺達の前に一人の文官が現れた。
「こんにちは、サバク様。私が蘇生依頼を担当することになりました、ヨーミンです。以後よろしく」
「こんにちは、ヨーミン。俺がサバクです。で、彼が死者を生き返らせてくれる、ソセイルです。こちらが移動専門のウェルカムドアに、俺の補佐の、クレバナさんとロリッチさん。どうぞよろしく」
「はい。では、早速死者の蘇生をおこなってもらいます。一応、簡単ではありますが、蘇生するための部屋もご用意いたしました。よろしければそちらをお使いになられますか?」
「いえ、二、三人ならこの場で十分です」
「一万人です」
「はい?」
「サバク様、即ちソセイル様にお願いしたい死者の蘇生は、先の戦争で失われた、騎士団の命です。その数およそ一万人。ぜひ蘇生をお願いしたく思います」
「そ、それは一万世帯の家族が皆、蘇生をオーケーしたということですか?」
「はい。流石に昨日の今日でそれだけの許可はいただけませんでしたが、今持っているこの紙に書かれている騎士の数、五百人は、既に家族、親族からの蘇生の許可をいただいております」
「あ、あの、ソセイルの力はそこまで万能じゃなくて、一日百人くらいが限界なんですが」
「マスター」
「はい、ソセイル」
「折角の蘇生の願いなのです。増やしましょう。私を」
「あ、うん」
「それと、現世に呼び戻されたくない魂は、私も蘇生を断念します。それでよろしいですね?」
「はい。お願いします。では、早速蘇生用の部屋へとご案内します」
 こうして俺達は、いや、ソセイルは、死者一万人を生き返らせることになった。
 大変なことになってしまったかもしれない。いや、それだけ戦争で悲しんだ人がいるってことだ。俺達は、少しでも彼らに救いの手をさしのべよう。

 案内された場所は城の一室だった。その部屋の前に、ズラリと神官服を着た集団が集まっていた。
「おお、お会い出来て光栄です、王主様。我らはこの国で命神ルム様の教えを布教しております、ルム教の者です」
 その中で、一番目立った服を着た男が俺の前に出て、挨拶する。
「こんにちは。けど今は忙しいので、お話しならまた後で」
「いえいえどうかお待ちください。我らはサバク様の死者を生き返らせる奇跡を一目見ようとやって来た次第でございます。もし叶うならば、死者を生き返らせるその瞬間を、この目で見させていただけますか?」
「いえ、申し訳ないが、今回の件は見世物ではありませんので」
「これは失礼しました。では、何かご用があった際は、どうぞ我らルム教をお便りください。王主様が迷われた時、必ずや我らが王主様の力となりましょう」
「はい。その時はよろしくお願いします」
 少し面倒そうな人たちがいたが、なんとか目的地に来る。扉を閉めると、ロリッチさんとクレバナさんが言った。
「なんとも偉そうなやつらだったな。腹の裏に一物も二物も抱えているのが容易にわかったぞ」
「わざわざ蘇生用の部屋の前で待っていたのですし、おそらくはそれ目当てですね。自力で蘇生魔法も習得できない生臭共が、目を光らせていたようです」
そこでヨーミンが言った。
「申し訳ありません、サバク様、ロリッチさん、クレバナさん。彼らルム教はこの王都、王国で一番の宗教団体なのですが、何かと国政にも顔を出す始末で。ご不快な思いをさせてしまいましたら、お詫び申しあげます」
「いや、大丈夫。ちょっと話をしただけだし。それよりソセイル、思ったより生き返らせる人の数が多いけど、ひとまず今日の分、いけるね?」
「はい。お任せください」
「では更に、ウェルカムドアをソセイルと交換!」
 こうして、この場にソセイルが二人になった。ただし、後から呼んだソセイルは黄色い服を着ていた。
「私が2Pカラーです」
「よし。それではヨーミン。生き返らせる死者の名前を」
「あ、はい」
「お待ちください、マスター。死者を生き返らせるのはかまいませんが、この場に死者と知り合いの方は、呼ばれないのですか?」
「死者を生き返らせた直後は、現状をすぐに理解できず、混乱してしまうでしょう。生き返った魂を安心させるためにも、事前にできうる限りの配慮を心がけたいのですが」
 二人のソセイルにそう言われる。
「なるほど。ヨーミン、そういった用意の方は?」
「すみませんが、今回は我らのみによる蘇生でお願いします。場所も今回の蘇生もすぐに決まったことですし、そういった準備ができなかったのです。後日改善を重ねますので、今回はご了承ください」
「はい。二人共、そういうわけで、いい?」
「イエスマスター」
「さて。それじゃあ死者の蘇生、始めてくれ」
 俺は早速、死者の蘇生を開始してもらった。
「では、まず。第三騎士団団長、ガレオ、レイーグル。第三騎士団副団長、ジノー、リバーテルの蘇生をお願いします」
「承知した。私、ソセイルが旅立った魂、ガレオ、レイーグルをお呼びいたす。どうかこの場に招かれ、その姿を今一度現世へと現したまえ」
「私、ソセイルが旅立った魂、ジノー、リバーテルをお呼びいたす。どうかこの場に招かれ、その姿を今一度現世へと現したまえ」
 二人のソセイルが祈りを捧げる。すると二人の前に青白い光が発生し、それが人型になると、突然光が人間に変わった。
 その男達は裸のまま、局部を隠すこともせず周囲を見回す。
「きゃー!」
「きゃー!」
 クレバナさんとロリッチさんが叫んだが、これはどうしようもない事態なので、放っておくしかない。というかロリッチさんは顔をおおったのに、クレバナさんはガン見だな。それでいいのだろうか?
「ここは?」
「俺は確か、今までミミズだったはず」
 全裸の二人が言う。
「せ、成功した。蘇生に成功したー!」
 唖然とする俺達をよそに、ヨーミンがめっちゃ興奮した。
「やった、流石ですサバク様。素晴らしい。本当に生き返りました。間違いなくガレオ様とジノー様です!」
「いや、あの、服。ヨーミン、彼らに服を!」
「ええ、そうですね。ですが、まずは死者の蘇生が先決です。この勢いでどんどんよみがえらせてください!」
 そう言ってヨーミンがいきなりドアを開ける。そこにはやはりというか、まだルム教の面々がいる。
「サバク様の蘇生魔法が成功しました。あなた方、暇ならば蘇生された方の衣服を調達してください。そしてガレオ様、ジノー様。このままお部屋にいられても後がつかえます。まず部屋を出てください!」
「な、本当に死者が生き返りなされたか!」
「きゃ、きゃーっ、殿方が、殿方がフルフロンタルモードよおー!」
「大変だ。フルフロンタル様方が城の通路を徘徊なされる。ここは皆で結束して大事なところを隠さなくてはー!」
 あろうことか、死者の蘇生部屋、更にその扉の前までもがてんやわんやの大騒動になり。
 その後も死者の蘇生は続けられ、この日は生き返ったばかりの全裸の騎士様が、二百人程城の廊下を徘徊するという珍事が起きた。
 お、俺のせいじゃないよ。例えそうだったとしても、俺だけのせいじゃないよ?

 死者二百人の蘇生が終わったので、俺とソセイル二人、そしてクレバナさんとロリッチさんが馬車で城を出る。
 今日は、大変な日になった。でも、きっとこれも平和への一歩といえよう。
 ソセイルが生き返らせられない魂も、何人かいた。その数は少なかったが、彼らは今、この世界や別の世界で新しい人生を歩んでいるらしい。
 もし、生き返らせられなかったことで文句や不満を言われても、俺にはどうすることもできない。でも、生き返らせることができたとしても、救えない命だってある。個人的には、そう思っておこう。
 屋敷でお昼ごはんを食べたら、また馬車で王都外の建造中の村に行ってもらう。皆頑張ってくれてるんだろうな。
 するとサッカー場の周囲に石壁が出来ていて、立派な門も出来ていた。そこを警備員の二人が守ってくれている。
「すまないが、ここから先はサバク様の領土だ。ここへは何用か?」
 警備員にそう言われる。
「どうも、沙漠です」
「こ、これはサバク様。失礼いたしました!」
 警備員二人に頭を下げられてしまった。
「いや、そうかしこまらないで。ただ、ちょっと馬車を通してほしい」
「はっ。かしこまりました。しかし、今日はどういった理由で馬車に乗られているので?」
「サバク様はいつも、いつの間にかサッカー場等に来ておられますよね」
「ああ、うん。実は移動を頼むクリーチャーを消してしまっているんだ。それで今回は、普通に移動してきたというわけ。明日以降はまた、普通に瞬間移動するはずだから。よろしく」
「はっ。かしこまりました」
「ただいま門を開けます。サバク様、どうぞお通りください」
 二人にそう言われ、門を開けてもらい、俺達は門をくぐる。
 そしてしばらく移動した後、ロリッチさんがぽつりと呟いた。
「こうして馬車から見ると、とんでもないな。サッカー場は。コロシアム規模の建物が、二つ並んでいる。寮という二回建ての長屋も、ずばぬけた発想だ。これらを一日で作ってしまったのだから、サバクさんの仲間は凄い」
「ほめてくれて、ありがとう。ロリッチさん」
「あとは、サッカーが成功するのを祈るだけですね。失敗したら、それこそコロシアムにでも変えますか?」
「いや、そういう予定はない。ダメだったら、残念だけど取り壊して、別の会場を建てるよ」
 もしその時がきたら、俺は皆に盛大に謝らないとな。
 そうならないためにも、頼むぞサッカー。必ず盛り上がってくれ。

 サッカー場を通り過ぎると、石で舗装された一本道の左右に、家がズラーっと並んで見えてきた。ところどころ見える緑色の芝が、荒野の荒れた土を完璧に消している。もはや荒野とは違う、完全に別の場所だ。
 いや、ていうか、あれ家か?
 ちょっと看板とかつけられそうだし、どちらかというと店っていう感じな気が?
 そう思っていると、仲間達が集まってきた。
「マスター、どうされましたか!」
「いや、ちょっとこっちの不手際で、ウェルカムドアを返してしまってね。折角だから、馬車で移動してきたんだよ。皆、この二人はソセイル。新しい仲間だ。よろしくね」
「皆さん、よろしくお願いします」
 ソセイルが同時に言って、同時に頭を下げる。すると、皆も声を合わせて言った。
「よろしく、ソセイル!」
「ソセイルは人を生き返らせられるクリーチャーだ。皆も、そういう事態が起こったら、ソセイルを頼ってほしい。ソセイルは王国と帝国で仕事があるはずだから、しばらくは俺と一緒に行動。皆は引き続き、この村のことを頼む」
「イエスマスター!」
「見たところ、村の出来具合は順調だね」
「はい。人はいませんが、完全放置で勝手に増える家畜も放ちましたし、住人も生み出しました。まだ王国や帝国から民を受け入れなくとも、村としての最低限の機能は果たせます。形としては、もう村は完成しました!」
 サルンキー君がそう説明してくれた。
「うん。皆、ありがとう。ん、住人?」
 ちょっと待てよ。
「住人を生み出したって、今言わなかった?」
「イエスマスター。早速確かめますか?」
「う、うん。一応、確認したい」
「ではそこまで、ウェルカムドアを使って行きましょう。マスター、我らの誰かを、ウェルカムドアにお変えください」
「わかった。でも、その前に実験だ。皆、いや、ナミウルフ。俺と少し距離をとって。今からクリーチャーを交換した時、どこに呼び出したクリーチャーが現れるか実験したい!」
「イエスマスター!」
 ナミウルフの協力も得られ、俺とナミウルフはある程度離れる。
「じゃあ、いくよ。ナミウルフを、ウェルカムドアと交換!」
 次の瞬間、ナミウルフが消え、俺の目の前にウェルカムドアが現れた。
「ウェルカーム」
「なるほど。クリーチャーを交換する時は、離れているクリーチャーも消すことができて、現れるクリーチャーは決まって俺の目の前なのか。憶えておこう」
「ウェルカーム」
「それじゃあ、ウェルカムドア。俺をこの村の住人らしき人物のところへ案内してくれ」
「ウェルカーム」
「ああ、お待ちくださいサバクさん。その前に、帝国にサバクさんの蘇生が上手くいったことを報告したいのですが」
「ああ、はい。では先にどうぞ」
「申し訳ございません。一分ほどですみますので、つなげてください」
「わかった。というわけで、ウェルカムドア。やっぱり先に帝国の城へつなげてくれ」
「ウェルカーム」
 ウェルカムドアはすぐに扉を開いた。本当に優秀だ。皆。
「ありがとう、ウェルカムドア」
 こうして、まずはクレバナさんの移動を行い、すぐに戻ってきてもらう。そして、次が例の村の住人の所だ。
「ではウェルカムドア。改めて、この村の住人のところへ案内してくれ」
「ウェルカーム」
 今度こそ俺が移動すると、くぐった先は、村のどこかにある、放牧スペースだった。
 緑色の羊と牛が、よく伸びた草を食べている。そしてそんな動物達の間に浮いている、緑髪、茶色髪、水色髪の、子供達?
 サイズとしては、赤ちゃんくらいのような。そんな存在。きっと男女が、数人。動物達を観察したり、乗ったり飛び移ったりして、遊んでいる。
 彼らは、一体?
「なんだ、これは」
「どうやら、私達はまたサバクさんの奇跡を見ているようですね」
 ロリッチさんとクレバナさんも、驚いている。
「マスター、彼らは精霊です」
 俺の疑問に、とっ君が答えてくれた。
「精霊?」
「はい。昨日の内に、皆が生み出したのです。人の姿をして、それぞれが属性魔法を使う。スイホやキリ等の存在とほぼ同じですね。今はあんな姿をしていますが、成長したら頼もしくなりますよ」
「なるほど」
「あー」
「あーあー」
 精霊達は俺を見つけると、集まって寄ってきた。
「あー、皆。俺は沙漠。よろしく。皆、どうかこの村のこと、お願いね!」
「あい!」
「あい、あい!」
 精霊達はうなずき合い、任せろとばかりに拳を上げる。
 その姿は頼りなかったが、しかし皆が生んだ存在だ。大きな力を秘めているのだろう。俺はその可能性を信じよう。
 その後、折角なので馬車に乗って俺、クレバナさん、ロリッチさんが村の全容を確認し、王国や帝国の人達が移住しても問題ない状態であると確認した。
 そして、村作りがひと段落したクリーチャーの皆は、また前の果樹園作り、サッカー場のサポートに戻った。

 翌日、俺達はまた城に行って、死者の蘇生を再開させる。
 今日は昨日よりも、生き返らない人が多かった。その差はわずかだったが、残された人たちのことを思うと、少し気になる。やっぱり一日でも送れると、その分蘇生が難しくなるのだろうか?
 いや、ソセイル達を無理に働かせるのはよくない。ここは毎日百人までを貫いてもらおう。
 生き返った騎士達が身に着ける衣服は、今日はもう既に準備してあった。
 そしてルム教の人達の姿は、もうなかった。まあ、いない方が気が軽いか。
 そして今日もソセイル達の蘇生が終わると、ヨーミンに言われた。
「ああ、うっかりしてました。サバク様。今日はまだ、城内にいらしてください。なんでも、リキュア王女様がお話があるとのことです」
「リキュア王女様が?」
 なんだろう。結婚とかの話なら、ちょっと遠慮したいんだけど、本当になんだろう。
「わかった。ロイヤルスイートルームにいればいい?」
「はい。そのようになさってください」
 ということで、俺はロイヤルスイートルームでリキュア王女様を待った。
 そして、リキュア王女様が来た。
 ただ、いつものきらびやかなドレス姿ではなく、どこかの制服のような、動きやすそうな服を着ていた。
「サバク様。この度は私のような者のために時間をとっていただき、真にありがとうございます」
「そんな。リキュア王女様に頼まれたら、何よりも王女様を優先しますよ。それで、お話とは一体、なんですか?」
「はい。実は、サバク様は荒野に果樹園、サッカー場だけではなく、村も作っているとお聞きしました」
「はい。その通りです」
「ではその村、よろしければぜひ私に運営等を一任してくださいませんか?」
「はい?」
「私もサバク様のお役に立ちたいのです。私は王主国で初めての村、その村長になりたいと申し上げます」
「え、えええええええ!」
 そ、村長?
 そんな役職、考えたこともなかった!
「で、でもリキュア王女様、いいんですか?」
「はい。私に二言はありません!」
「いえ、そういうわけじゃなくて。城は、今までの生活は。リキュア王女様はそれらを両立できますか?」
「いえ。私は今までの華やかな生活を全て捨てて、サバク様の村へと移り住みます!」
 なんと。
 なんとおおお。
「そ、それを王様は、了承されたのですか?」
「はい。うれし涙を見せながら認めてくださいました」
 王女様。それ絶対うれし涙じゃないよ。
「いや、でも、村長かあ。確かに必要な気もするけど、でもだからといってリキュア王女様が努めなくても」
「私では不満だとおっしゃるのですか?」
「いいえ、その逆です。リキュア王女様では、十分すぎると言っているのです。この場合任せるのは、逆に失礼になるかと」
「いいえ、私村長がいいです。村長やりたいです。まだ他にも候補はいないのでしょう。なら今のうちに村長になっておきたいです。最初の頃荒野でお会いした十二人の騎士達も補佐としてつきますから、どうかお認めください!」
 そう言われ、リキュア王女様に頭を下げられてしまう。
「うーん。わかった。そこまで言うなら、リキュア王女様に任せます。でも、リキュア王女様、村長の役目は、思う以上に大変かもしれない。だから、くれぐれも無理はしないように。何かあったら、すぐに俺や周りを頼ってください。いいですね?」
「はい。承知いたしました!」
「それではリキュア王女様を、荒野の村の村長として任命します。クリーチャーの皆にも伝えておきます」
「はい。それでは早速、私が任せられる村に行ってみたいと思います!」
「あ、あの、リキュア王女様。そんなに急がなくてもいいですよ。村はまだ、出来たばかりですし」
「いいえ、善は急げ。早く役目を全うしたいのです。お引越しとはいかないまでも、視察くらいはしておきませんと!」
「わ、わかりました。では、村にはそのように伝えておきます」
「あ、ところでサバク様。村の名前はどうするのですか?」
「え、あー」
 どうしよう。ええと、バウコン帝国の人達の移住のために作って、けど、先にアッファルト王国のリキュア王女様に管理を任せる村だから。
「ファルコン村、というのはどうでしょう?」
「ファルコン村、ですか。なかなかかっこいいですね!」
「ありがとうございます、リキュア王女様」
「では私、ファルコン村を視察しますね!」
「はい。それではよろしくお願いします」
 大変なことになった。
 いや、いつも大変だけど、今日は特に大変だ!
「それじゃあ俺は、一足先にウェルカムドアで村の皆に伝えてきます。あ、リキュア王女様もご一緒しますか?」
「いいえ。そのお誘いは大変ありがたいのですが、私は馬車に乗って村の外からじっくりと視察させていただきます。ご厚意感謝いたします、サバク様」
「わかりました。では、リキュア王女様。お話しがこれで終わりなら、俺はここで失礼いたします」
「はい。またのちほど。サバク様」
 俺はウェルカムドアで警備員宿舎に行き、まずは警備員たちにリキュア王女様の来訪予定を知らせる。
 そして水属性の皆にも伝えて、火属性の皆にも伝える。
 そして一息ついた時、とっ君に言われた。
「マスター。リキュア様を村長になされるなら、事前に村長だと認める署名や、証等を用意した方が良いのではないでしょうか?」
「えっ」
「更に後回しにされておりますが、レイドサークルについての明確なルールや、最初に行う規模、その予算等も明らかにしておくべきでしょう」
「た、確かにそうだ。こういう時、どうすれば。とっ君、頼める?」
「イエスマスター。しかし、他に適任もいます」
「というと?」
「マスターの補佐、クレバナとロリッチに任せるという手です」
 そう言われて俺はすぐに、クレバナさんとロリッチさんを見た。
「な、なんですか、サバクさん?」
「な、なんだ、サバクさん?」
「二人共、頼む。補佐として、レイドサークル、あとバウコン帝国の国民がこちらに移住した時のその体制等を、考えて書面に残してくれ。俺の補佐として!」
「え、ええ?」
「い、今までそんな仕事なかっただろう!」
「でも俺一人でやると大変だから。頼む、俺もちゃんと確認するし、他のことだってするから!」
「他の事とは?」
「リキュア王女様の村での住居の確認とか、今までの利益を確認しての、予算の算出とか」
「ま、まあ、大事な事ではありますね」
「だが突然言われて上手く仕事をこなせというのは、かなり無茶な話だぞ!」
「ロリッチさん。そういうことは帝国で慣れませんでしたか?」
「私は現場主義の戦士だったし、頭脳労働は全て金で有能なやつを雇ってやらせていたのだ。正直一人では先が見えん!」
「はあ。仕方ありませんね。ではロリッチ。頼まれた仕事は、私達がコンビを組んでこなしましょう。二人で一つずつ仕事をこなしていくのです」
「う、うむう。クレバナに言われたら、そうするしかないか。仕方あるまい」
「というわけで、二人共頼んだ。ああ、お金が必要だったら、必要経費として用意するから、その都度言ってね!」
 こうして、俺達の生活は更に忙しくなった。
 でも、少しずつ王主国が出来始めている。これで、本当に王主国に皆が住めるようになれば。その時は、やったかいがあったかもしれない。
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