上 下
34 / 37

34 サッカーその5

しおりを挟む
 こうしてクレバナさんとロリッチさんとは別行動をし始め、俺は俺で頑張る。
 リキュア王女様の村長就任までは、まだおそらく時間がある。というわけで、先にサッカー選手達等へのお金の支払いや、今月使えるだけのお金の確認等を行うことにした。
「ううう。金貨の数が多い。とっ君。ソセイル達、手伝ってー」
「イエスマスター」
「あとバトソンも、引っ張ってくるー」
 バトソンも屋敷のお金を管理しているので、最低でも呼ばなくてはならないだろう。
 ひとまず、宝物庫の金貨が五千枚はあるところまで数えて、まだ金貨の山が残っているのを見て軽く戦慄しつつ、ここで切り上げ予算を組む。
 丁度月末を迎えたので、お城、商業ギルド、冒険者ギルドから届けられた領収書とお金の山も確認する。その初回売り上げも足した金額から、レイドや一般人への給料等を引いて、余った金額を予算とする。
来月からは、この純利益から予算を組まなければならないだろうな。屋敷のお金を減らすのは、今回限りにしておこう。バトソンら屋敷の使用人に払うお金は別に計算しているし、たくわえも少しはあった方が良いはずだからな。いや、まだ少しどころか、いっぱいあるけど。それはそれ、これはこれ。ということで。
 ついでに、一度死んだ騎士様方を生き返らせた報酬として、膨大な額が記載された領収書と共に金貨の山が送られてきたが、そちらは全部送り返し、王国の方で使ってもらうようにと一言添える。俺は使者の蘇生でお金儲けをしないというのが第一のルールだったし、そのお金はあくまで王国内で集められたお金。なので王国で慈善事業等に使っていただきたい。
 そういった予算から、バウコン帝国から移住する予定の人達の当面の生活費、レイドサークルの開業費等も考え、ざっくりとお金を分けつつ、適当な考えで残った金額を、今月の予算とする。
 この予算内で、更に別件で人を雇ったりするだろうから、これからは慎重にお金を使わないと。ああ、奴隷達を買った値段っていくらだったっけ。領収書どこへやったかな。
「あー、この感じだと、予算は結構あるような、やっぱり足りないような」
「マスター。一度、村や城と定期連絡をとる伝令等を雇った方が良いかもしれません。いつもマスターの予定で動いているので、情報は自然に集まるようにしておいた方がよいかと」
 とっ君がそう言う。
「ああ、そうだね。いつも俺の予定で事をすすめているし、事前にアポイントメントをとったりするのも良いかも。むしろそれが当然か。よし。それじゃあ重要な要件を除いて、俺が訪問する際は先に使者を出すことにしよう」
「それでしたら、使いの者はアムヌにやらせますか?」
 バトソンがそう提案する。
「いや、アムヌは屋敷内の仕事があるでしょ。やっぱり使者はしっかり雇いたい。最低二人か。いや、馬車も使わせたら、もっと人手が必要かな?」
「一応当屋敷にも馬車はありますが、それはサバク様専用の馬車と、もう一台は雑事用の馬車ですので、使者用として使うにはどちらも不適当ですからね。確かに必要でしょう」
「ああそれと、これからは口頭だけでなく、大事な要件を紙に書いて保存できるようにもしたいから、大量の紙も必要か」
「代筆が必要なら、私がいたしましょう。後は正式な王主印が必要ですね。デザインはいかがいたしましょう?」
「ありがとう、とっ君。印鑑のデザインかあ。普通に札瓜の印鑑でいいんじゃない?」
「それだとシンプルすぎる気がしますが」
「最近のハンコみたく、囲う丸枠の途切れ方が違うとか、そんな感じの判別で大丈夫だよ、きっと。ハンコは、ハンコ屋に頼めばいいかな?」
「確かに、専門の職人がいます」
「じゃあ、その人に頼むとして。あとは、給料をサッカー選手や管理人に届けないと。給料はそれぞれ一人分ずつ、袋ごとに分けた方がいいだろうな」
「その手間でしたら、アムヌやアビス達が行います。ああ、ですが、サッカー選手等には前回の休日を迎えた際に、先に一週間分の給料を与えていましたから、その分月給から引いておきませんと」
「ああ、計算のし直しか。いや、今月の給料分を一週間分減らせばいいのか」
 いろいろとお金のことを片付けている内に、なんだかんだと昼過ぎになった。
「ああ、なんだか頭がつかれた。皆、ここまでありがとう。後は計算書類を参考に、お金を分けるだけだ。しかしこの作業は大変だ。これは来月になるまでに、会計係を雇った方がいいかな」
「そうですね。屋敷の者達の分だけなら俺でもなんとかできますが、サッカー場の資金までとなると。それぞれサッカーの運営チーム、警備隊の運営チームを結成した方がいいかもしれません」
「だよな。ああ、人員不足が後を絶たない。せめてもの救いは、予算があることか」
「王国、帝国からのサポートがあれば、それらの仕事もいくぶんか楽になるでしょう。マスター、ここは一刻も早く頼ってみては?」
「ああ、そうだね。頼むだけ頼んでみよう。人手って大事だ。いや、待てよ。人手かあ。よし、今度用意ができたら、試してみるか」
 俺、疲れ切った頭の中で、一筋の光明を見出す。もしかしたら、人手、特に会計等の頭脳労働に関してはなんとかなるかも。今度の機会に試してみよう。
「ああ、とにかく休憩。エットーに甘いものを頼んでみよう。皆もバトソンも、一緒にどう?」
「ええ、ぜひ」
 皆満場一致で、食堂で甘味を摂取し、頭脳労働の疲れをいやす。
 自宅に料理人が控えているって、幸せだな。

 私はロリッチ、ビーナ。帝国の子爵にして、現在はサバクさんの補佐を任されている。
 本日、私はサバクさんに、結構な無茶ぶりを言い渡された。
「帝国から移住してくる人達のサポートと、レイドサークルの運営を任せる。か。口で言うのは簡単だが、実際ではとてつもない量の仕事だな」
 サバクさんは私に何ができると思っているのだろう。そのような面倒なこと、一人でホイホイできるわけがなかろう。
 しかも、今の私には優秀な部下がいない。いや、同僚ならいるが。クレバナ、グンシー。今の所彼女しか、頼れる味方はいない。
「さて。では、どうするか、クレバナ」
 屋敷内、今月の予算を渡されたところで、私は同僚に訊く。今の所、私にはこれからの予定が全く思いつかない。なのであまり深く考えず、クレバナに頼る。
「そうですね。まずは、帝国からの移住の件を解決してしまいましょう。何、作業自体は面倒ですが、方法はシンプルです。第一に、村の詳細を明らかにする。そこで村への移住可能数と、どのような生活、仕事ができるかの確認。更に生活に足りないものがないかの確認。それができれば、後は移住する村を地図にし、後日移住してきた帝国民に一家族一軒ずつ住居に割り振っていけばいいのです。ひとまずはそれで、帝国移住者の件は完了です」
「なるほどな。帝国民にちゃんと家があるかの確認と、その後の仕事の有無の確認か。確かにそれさえできれば、移住はできる。よし。ならばそれを先にこなしてしまおう」
「はい。では、ロリッチ。先に紙とペン等を用意し、それから村までの馬車を手配しましょう」
「ああ、そうだな」
 私とクレバナは早速屋敷を出て、まずは貴族街の商業ギルドへ向かった。商業ギルドに行けば紙とペンはあるだろうし、そこで馬車の貸し出しも行っているはずだ。だから、まずは商業ギルドへ。間違いない。
貴族が歩いて移動など馬鹿にされているにも程があるが、屋敷にはサバクさん専用の馬車と、ただ荷運びをするだけの粗末な馬車しかないので、ここはメイドに使いを申し付ける。もちろん紙とインク代、それと馬車のレンタル代をしっかりと持たせてだ。足りなかったら戻って来た後に更に払う予定。
馬車のレンタルは一か月ほど。明日以降もサバクさんのウェルカムドアを利用できるとは限らないからな。
しかし、サバクさんはなんて良い移動手段を持っているのだ。あのウェルカムドアとやら、私用はもちろん、軍事目的でも役に立つぞ。内心ではうらやましい限りだ。
 屋敷でゆったりメイドのお使いを待ち、無事馬車が来たら、クレバナと共に馬車に乗って、ファルコン村へと向かう。村の門番には、顔パスで通させる。きっといつもサバクさんの後ろに控えていたから、それが効いたのだろう。毎日まじめに仕事をしていたかいがあった。
 村を見る前に、警備員宿舎に寄り、水属性の者をつかまえ、村を案内してもらう。主に移住可能なエリアを教わる。すると、馬車に乗りながら説明を聞いている内に、この村がとんでもなく広いことがわかった。
 現在村の受け入れ可能人数は、二千人以上。これはもはや村という規模ではない。町だ。
「ファルコン村ではなく、ファルコン町ではないのか?」
「そうなのですか?」
「普通、人が千人以上暮らしていれば、そこは町です」
「そうですか。ではファルコン町ということにしましょう。後でマスターにそう言っておきます」
 そして、村の民家は南北に広がり、大通りの道から外れた小道に連なっていた。どうも大通りには、店扱いの建物が並んでいるらしい。
 民家、店の内装もしっかりとチェックしたが、全く問題がない。むしろ、一般人が住むにしては贅沢な広さがある。ベッドやテーブル、広い庭に風呂場、更に二階すらも完備。井戸も一家に一個ある。後は生活面がしっかりしているなら、庶民の多くがここに住みたくなるだろう。
「こちらの計画では、大通りに店なみ。その後ろの小道に家屋を並べて建てたというイメージです」
「それだと店が多すぎるのではないか?」
「店が開いてなくてもいいのです。店を開くチャンスがあれば、そこを使いたいと思う人も出てくるでしょうし、余っていても必要な店が必要な数営業できる状態でさえあれば、人の生活に支障は出ませんから」
「なるほど。それと、小道に行くと広い空き地が目立つのですが」
「そこは、未開発エリアです。移住された方の要望にそって、畑にしたり、新たな建物を建てられるようにしてあります。何分村作りは初めてなので、とっ君はそのように計画をたてました」
 地上からでは想像しづらいが、どうもこのファルコン町は魚の骨みたいな形になっているようだ。頭がサッカー場で、そこから骨が伸びるように、左右、奥に大通り、その脇道に民家、空き地となっている。
 私は早速、町を上空から見た風景を想像し、紙とペンで作図し始めた。特に、店、民家は正確に数えたいため、馬車の窓から見ながら番号をふっていく。店には△のマークをつける。
「ロリッチは絵が上手ですね」
「絵じゃなくて作図だ。まあ、これくらいのことはできる。地形の把握は戦場でも役立つしな」
「私はそういうの苦手で。ロリッチがいてくださり助かりました」
「ふん。まあ、適材適所というやつだ」
 町の端まで行ったら、なかなか頑丈そうな石壁があり、しっかり町を守っている。きっとグルリと町を囲っていることだろう。
この数日間でよくぞここまで作れたものだ。サバクさんの仲間達には畏怖の念すら覚える。流石は、陛下の世界統一の野望を止めただけのことはある。
 まあ、帝国からここへ移住したいという者がいなければ、この私達の苦労は全くの無駄なのだが。一応次の報告では、ファルコン町はなかなか住みやすそうではあると報告しておこう。
「仕事の面は。家だけあってもなかなか難儀するのではないか?」
「一応町の中心の方に、広々とした放牧地帯を用意しました。基本はそこの家畜を売り、それで生計をたててもらいたいと思っています。他に欲しいものがあれば、村長、いえ、町長となられるリキュア様にご要望いたします」
「なるほど。つまり、もうほとんど町を機能させる準備ができているわけか」
「何か欲しい物がある時、どうやって手に入れるのですか?」
「自分達で王都へ買い物に行くか、もしくは町長か、ご意見係を配置して利用し、そちらにご用を集めた後、定期的に王都へ買い出しに行くという予定です。やがて店が町にやってくれば、そういった問題も解消されると思います」
「ふむ。そう聞いたら、ひとまず問題はないように聞こえるな。後は、それを任せるだけの人手か」
「それは町長になられるリキュア様に頼ればよいかと。もしくは、クレバナとロリッチは、マスターに町の一切を任されたのですよね。であるならば、その件はお二人に一任します」
「別にそういうわけではないが。どうする、クレバナ?」
「商業ギルドに任せましょう。そもそも、冒険者ギルドと商業ギルドはどこでも必要です。帝国から移住者が現れる前には、そういった用意もしてもらいます」
「そうだな。では、すぐにギルドと約束をとりつけよう。そういった費用の方は、交渉で全て向こう持ちにさせるか」
「そうですね。こちらで費用を投じて後で私達の予算や給金が減るのは困りますから、ギルド方に積極的に動いてもらいましょう」
 どうやら、町への移住の件はもう解決できそうだ。後は、レイドサークルとやらの開業についてだが。
 こっちも、私では具体的な案が出てこない。まあ、クレバナが出来るのなら全て任せていいだろう。頼むぞ、クレバナ。
 ひとまず私は、町の作図と、正確な受け入れ可能人数を算出することに集中した。

 後日。町への移住案の確認を終えた私達は、その片手間に各ギルドへ町への出店を要請し、その後、クレバナの部屋で次の課題である、レイドサークルの開業準備を進めた。
 が、しかし。こちらは上手くいかない。もちろん私はさっぱりお手上げ状態だが、頼みのクレバナも頭を抱えて悩んでいた。
「ただでさえレイドを貸し出してお金を得ようとしても、その料金は一般人並みに取るわけにはいかないのです。そこにレイド体制の管理費を上乗せしたら、絶対にお金が足りません。土台無理な話です!」
「つまり、通常にお金を稼ぐ方法では無理ということか?」
「いいえ。レイドの給料を最低にして、レイドのレンタル料を通常と同じにすれば、どうにかレイドサークルを運営することができます。しかし、それを整える予算は高額が必要ですし、管理体制を整えるのにも時間がかかります。時間はともかく、予算。そしてレンタル料。それが問題です」
「レンタル料はともかく、予算はサバクさんに言えばどうにかなるのではないか?」
「あの屋敷の財産を出し渋っているサバクさんが、予算として大金をいきなり用意せよと伝えても、すぐに動いてくれるかはわかりません。それに、仮に予算をクリアしても、運営が赤字続きならやっていけません。まあ、その分の負担をサバクさんが出してくれるのなら、運営するだけは可能ですが」
「ううむ。一応その意見を提言してもよいだろう。利益の出ない仕事をやれというのも問題ではあるが、私達の仕事は利益を出すことでもないからな。まあ、もっともそう報告するのは最後の手段として、何か解決策が思いつければよいのだが」
「個人的な意見ですが、やはりレイドサークルという体制に無理があります。奴隷はあくまで罪人です。それを一般人と同列にしようとするのがありえません。きっと周囲から反対の声も出るでしょう」
「まったくだ。だが、一応これが今の私達の仕事だ。できるだけ考慮しよう」
「失礼します」
 この時、部屋にバトソンがやって来た。
「なんだ、執事。急用か?」
「ええ。あなた方に伝えなければと思いまして、お伺いしました。サッカーと、レイドサークルの事についてです」
「言ってみろ」
「サッカーの二チームは、元奴隷、もといレイドで集められたチームです。ですので、今回はこちらで給料をお出ししましたが、次回からはそちらで給与を与えた方が良いと思いまして。確認にきました」
「レイドのチームか。確かにレイドならば、私達が対応しなければならないだろうな」
 サバクさんから頼まれてしまった手前、な。
「はい。それともう一つ。もしレイドサークルの予算が必要でしたら、サバク様を訊ねる前に、お城の蘇生担当の者と相談した方がいいかもしれません」
「蘇生担当というと、ああ、蘇生の代金としてもらうはずだった金か!」
「その額の大きさによっては、きっとレイドサークルを運営するのに十分な予算となりますね。これは丁度いいです。早速、そこから費用をぶんどりましょう!」
 私とクレバナは考えを一致させると、うなずきあった。
「早速城へ向かうぞ!」

 馬車に乗って城へ行く。蘇生担当の者に用があると言うと、時間をかけてヨーミンが現れた。
 なお、ここはいつものロイヤルスイートルームではなく、ただの待合室だ。そこに扱いの差があるが、今は仕方ない。どうせ都合をとりつけるだけだ。金の用意さえできれば、すぐに出て行く。
「クレバナさん、ロリッチさん。今回はどういったご要件でしょうか?」
「蘇生の費用として集めているお金の使い道についてご相談にまいりました。そのお金、ぜひレイドサークルの運営費としてお使いいただけませんか?」
「レイドサークル、ですか。申し訳ありません。そのようなものについて、私は一切知りません。よろしければ、具体的なことを教えていただけないでしょうか?」
「ああ、いいぞ。わかりやすくいえば、奴隷の労働組合だ。まず王主国で開業する予定だが、王国と共同でも問題ないはず。サバクさんは奴隷をレイドと改めて、一般人とそん色ない生活を送らせたいらしい」
 私達は、レイドサークルについて、知りうる限り教えた。
 更にクレバナは、追加でレイドサークルを運営するための人数、土地の必要性。更にそれらにかかる費用を説明する。
 すると、ヨーミンは一度うなずいてから答えた。
「その予算は私の手には負えない金額です。一度上の方とご相談してもよろしいでしょうか?」
「蘇生の費用はヨーミンが管理しているのではないのか?」
「一応はそうですが、そのお金は本来サバク様に納めるお金でありまして、同時に王国のお金でもありますから。勝手に大金を動かしたとなれば、後でどのような非難を浴びるかわかりません」
「何を言っておる。サバクさんの考えをもとにした、世界平和の活動だぞ。決して勝手な出費ではない!」
「わかりました。また日を改めて、お伺いしましょう。幸い、私達は今のところ、毎日のように午前の間、使者の蘇生の時間に会うことができます。今回の話の結果は、またその時にでも聞きます」
「クレバナ、お前はそれでいいのか!」
「ロリッチ。レイドサークルの開業に必要な金は膨大です。ただ待つだけで得られるのなら、ここは待とうではありませんか。ねえ、ヨーミン」
「そ、その件について、真摯に検討いたします」
「ふむ。まあ、いい。それでは、用はそれだけだ。ああそれと、これはそちらの仕事ではないが、レイドサークルに最初にレイドとして登録する、奴隷の候補もよければ考えてほしい。奴隷は奴隷商で売られているだけではないだろう。特に貴族の下で従事しているやつらが少なからずいるはずだ。そのリストを作成するためにも、協力してほしい」
「はっ。了解いたしました」
「その奴隷達の中でも、まずは特に優秀で言う事を聞く者達を採用したいと思います」
「はっ。了解いたしました」
「話し合うことは、このくらいですか。では、ロリッチ。行きましょう。これから不動産屋を巡って、レイドサークルの王国支部にできそうな物件を見ておきましょう」
「うむ。そうだな。それも必要だ」
 こうして私達は、レイドサークルの予算の捻出を半ば確定させながら、予算の次に必要な場所の選定を行う。
 そうしている内に夜になり、ひとまず屋敷に帰って夕食を食べてから、一応サバクさんに予算の都合を報告してから、明日また新たに仕事を進めることにした。

 サバクさんに報告した結果。
「王国での蘇生代をレイドサークルの運営費用に回すのはいい。けど、レイドが労働した時に得る金額を一般人よりも低く設定してはダメだ。許可できない」
 書斎でサバクさんにそう言われた。
「どうしてです。労働力はレイドとはいえ、元奴隷ですよ。一般人とほぼ変わらない料金にしてしまっては、国民から反感を買いますし、そもそも誰も雇ってくれません」
「そうだそうだ」
 クレバナの意見に賛同する。私も同じことを言おうと思っていたんだ。
「これは奴隷をレイドとして部分的に自由を開放し、差別を無くそうという政策だ。労働力として期待された時、一般人と料金に差が出るというのは許せない。そもそもの目的としても間違っている」
「そう言われても、奴隷は奴隷だろう。奴隷は安いから使われるのだ。その利点が消えれば、たちまち魅力を失う」
「それじゃあレイドを、労働力の貸し出しとして考えなければいい。これはあくまで一案だけど、レイドをレイド単独の社会として成り立たせる。他者へ労働力として提供することを本業とするのではなく、レイドサークルという事業内で戦力にし、生活させよう」
「そう言われましても、具体的な働き方のプランがなければ形にできません」
「そうだそうだ」
 クレバナの意見に賛同する。私も同じことを言おうと思っていたんだ。
「あと、これはもう一つの案だけど、レイドを雇用してくれた人、企業に、特典として物資を提供するというのはどうだ?」
「と、おっしゃられますと、具体的には?」
「俺が前いた世界には、ふるさと納税というプランがあった。例えばレイドサークルに一定額支払った者に、果物や聖水をプレゼントするんだ。そうすれば特典を頼りに、レイドサークルを利用する人が出てくると思う」
「なるほど。得点を餌にして客を増やすわけですか。確かに質の高い果物や聖水が無料で手に入るなら、それ欲しさにレイドを雇う者が増えるかもしれません。それらの特典は元値もかかっていませんし」
「ふむ。わかった。そこまで言うなら、まずは試してみるか。サバクさん、とにかくレイドサークルの予算の都合については、話したぞ。とにかくここはオーケーでよいな?」
「はい」
「では、私達からは以上です。今日のところは、もうお仕事時間を終了としましょう」
 クレバナがそう言うと、その時、何もないところからとっ君が現れた。
 サバクさんの仲間達は相変わらず神出鬼没で対応に困る。どうせなら最初から普通にいてほしいものだ。
「待ちなさい、二人共。レイドサークルの件ですが、一つ頼みがあります」
「はい、なんでしょうか」
「レイド用の制服を用意してもらいたいのです」
「制服?」
「はい。一目でレイドと分かれば、何かと都合が良いでしょう。色は、一般の青、元奴隷、つまり前科持ちの赤、重罪人の黒の三パターンが良いかと思われます。制服の特徴は色以外同じでもかまいません。万が一何かの都合で制服が着れない場合は、首や腕に同色のスカーフを巻くということで」
「待ってください。レイドは一般人も採用できるのですか?」
 クレバナが問う。そうだそうだ。
「ああ。レイドは奴隷解放運動でもあるけど、その実態はただの労働組合だからな。一般人のレイドとしての登録も受け付ける」
 サバクさんがそう言った。なんと。
「そうですか。では、もし何人かのレイドを雇用したいという者がいれば、一人は一般人も交えた方が良いかもしれませんね。場合によれば、その人がリーダーということで」
「まあ、それは状況に応じてだろうけどね。最初に一般人をレイドに引き入れてもいいけど、差別は色だけにしようね。何度も言うようだけど、これはあくまで奴隷解放運動だから」
 一通り話を済ませた私達は、書斎から出て呟く。
「ひとまず、レイドの一般人も募集しよう。そして、そいつらが上手く元奴隷とつきあえる工夫、いや、教育等も考えないとな」
「そうですね」
 どうやらレイドサークルの課題は、まだまだ多そうだ。
しおりを挟む

処理中です...