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35 サッカーその6
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24 サッカー前のあれこれ
リキュア王女様がファルコン町の視察をなさると言った翌日。リキュア王女様がファルコン町にお引越しにきた。
ああ、ファルコン町は村じゃなくて町になったよ。そういえば大きかったもんね。リキュア王女様、ファルコン町を好きになってくれたらいいなあ。
と思っている場合じゃない。ひとまず俺は、今日と明日までリキュア王女様のそばにいよう。もし何かあったら大変だ。リキュア王女様のファルコン町の町長就任。それを安全に見守らなければならない。
「リキュア王女様、ようこそファルコン町へ!」
「あ、サバク様。わざわざご足労ありがとうございます。それに、このように立派なお屋敷も街並みも、ご用意してくださりありがとうございます。ここなら、大勢の方を幸せに迎えられそうです!」
リキュア王女様が引っ越ししたのは、一番サッカー場に近い屋敷。もし町に偉い人がやって来たら歓迎するために、皆がいくつか建てておいてくれたらしい。皆に感謝だ。
そこに騎士、使用人、馬車が何人、何台も集まり、屋敷内に荷物を入れていく。どうやら本格的にお引越しのようだ。
「そういえば、騎士12人も町に引っ越すとおっしゃっていましたよね。屋敷の数は少ないですが、大丈夫そうですか?」
「はい。騎士達は民家でも平気です。寝泊まりできれば十分でしょう。私の場合は、いくらか見栄えも必要かと思いますが」
「そうですか。町長としての仕事先はどうしますか?」
「このお屋敷内で十分です。在宅勤務というやつで。では、早速何かしないと」
「そんな、リキュア王女様はまだここへ来たばかりです。少しはおくつろぎください」
「あ、サバク様。今の私は、リキュア町長です。王女ではなく、町長と呼んでください」
「はい。町長」
「はい!」
皆が屋敷に家具類を置いていく中、俺はリキュア町長の笑顔を見て、ちょっとほっこりする。
「さて。それでは町長としての仕事を始めましょう。まず、町長のやることといえば。それは、サバク様の銅像作りです!」
「いえ、それはやめてください」
「では、金の像作りです!」
「絶対やめてください」
「ですが、サバク様の町ですよ。像くらいあっても良いと思いますが」
「そんなことされても、誰も喜びませんから。それより町長は、何をされたいのですか。まずはそれを形にしてください」
「それは、サバク様の像作り」
「それ以外で」
「では、皆さんが喜んでもらえるような町にしたいです!」
「それは良いですね。具体的な案は、思いつきますか?」
「そうですね。例えば、果物祭り」
「果物?」
「流石に聖水まで配るとはいいませんが、先日サバク様から王都の皆に贈られた果物の山は、皆喜んだと聞きました。私はそのサバク様のレジェンドを、この町で続けたいと思います」
「そうですか。それはありがたいです」
「せめて年に一度は、町の皆が全員食べられる、それこそ山ほど無料で食べられる記念日。終戦記念、及び王主国建国記念日があったらいいな。と思います」
「いいですね。その日付の名前は遠慮したいですが、催しはぜひやりましょう。それこそ俺が理想とする平和の一ページですよ!」
なんだか、俺よりリキュア王女様の方が平和活動にむいてるな。それを国規模でなく町規模でやるなら、皆の力を借りれば全然できるだろうし、荒野だってまだ広い。そういう夢のような日だって、あっていいんだ。
「では、早速皆に頼んで、町の外に果樹園を作ってもらいます」
「あら、町の中でも良いのではないですか?」
「町並みはこのままで、石壁を新しく広げてもらった方が良いと思うんです。住宅エリアと果樹園エリアを分けておきましょう」
「ですがそれだとしても、果樹園はもう既に町の外にあるので、そこから取ればいいのでは?」
「向こうの果樹園はお城の兵士や商業ギルドの人達に、取りに行ってもよいと言ってあります。これから作るのは、町だけの果樹園です。きっとそれを作れば町の人達は、誰だって果物を手にすることができます。今王都ではそこまで果物が出回っていないので、まずはこの町から皆に届けられればいいと思います」
「あら、そうだったのですか」
「はい。そうだったのです。町長、町で採れる果物は何がいいですか?」
「え、えっと、ではまずリンゴを」
「はい。わかりました。まずリンゴですね」
「で、ですが。今のままでは、ただサバク様達のお手をわずらっているだけのような気もします。果樹園作りをやるとしても、私にも何かお手伝いさせてください」
「わかりました。では、明日皆を呼んで、皆に果樹園を作ってもらいます。町長は、その様子を俺と一緒に見学しましょう」
「け、見学だけですか?」
「そうすれば、きっと皆に任せるだけで全て安心だと、思えるようになりますよ」
「そ、そうですか」
「それより、リンゴの他に何かありますか。今の内にリクエストを考えておきましょう」
「はい。果物は、いっぱい種類があった方が良いですものね。思いつく限り考えます!」
こうして俺とリキュア王女様は、仲良く果物の名前を言い合った。
そんなことをしながら時を過ごし、やがて昼になる。
「リキュア王女様、もとい町長。そろそろお昼ごはんの時間だと思うので、屋敷に戻りますね」
「はい。わかりました」
俺はリキュア王女様に一言言ってから、ウェルカムドアで屋敷に戻った。
「サバク様、お帰りなさいませ」
「ただいま、バトソン」
「サバク様。サバク様宛にお荷物が届いております」
「うん。何?」
「なんでも、サッカーボールとか」
「おお、ついに完成したか!」
俺はひとまず、食事より先にサッカーボールを見ることにした。
サッカーボールを見て、触って、庭で軽くけってみて、とっ君とパスしあって、その大きさ、重さ、弾み具合が、ほとんどサッカーボールであることを確かめる。
「うん。これがあれば、きっと皆がもっとサッカーできるぞ。早速サッカー場に届けよう」
「イエスマスター。しかし、食事を先に取らなくてよろしいのですか?」
「そんなのはあとあと。早い方がいいでしょ」
すぐにサッカー場へ行き、各チームにボールを届ける。
男一般チーム、男レイドチーム、女一般チーム、女レイドチームに各二個。余った二個は、予備に置いておこう。
「今日中に皆にけってもらって、評価が良ければ追加のボールを用意してもらおう」
「イエスマスター。ボール職人の名前は、ボールと一緒に運ばれてきました。ウェルカムドアでその者の元へ行ってもいいでしょう」
「そうだね。とっ君」
サッカーボールが届いたうれしさそのままに、お昼ごはんを食べに行く。そしてその後リキュア町長のことを思い出し、慌てて町長宅へと戻った。
「町長、再び戻ってまいりました。相変わらず、屋敷や町にご不満な点はございませんか?」
「あ、サバク様。いいえ、ご不満だなんて、とんでもない。とてもステキなところですよ。それより、私達の他にも、もう住人をこちらに移住させてもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ。ですが、移住者数はほどほどにお願いします。これからどんどん、バウコン帝国の方々が移住してくるかもしれないので」
「ええ、わかりました。ではこちらは、最低限の人数だけ移住を募集します。既に建っている家も、勝手に使っても?」
「ええ。かまいません。ですが、使っている家は町長の方で把握していただきたく思います。更に住んでいる家や店には、看板、表札の取り付け義務を徹底させてください。もちろん町長の家も、わかりやすく表札などをつけてください」
「はい。わかりました。それがこの町の第二のルールですね」
「はい。ところで、第一は、ああ、果物の日ですか?」
「いいえ、第一のルールは、サバク様のお言葉は絶対。です」
「やめてくださいそれは」
「そういえば、サバク様。少しお昼ごはんが長かったように思えましたが、もしや何かありましたでしょうか?」
「ああ、はい。実は、サッカーに使うサッカーボールが、先程届いたのです。ついうれしくなって、先にサッカーチームの皆に配ってしまいました」
「まあ、そうだったのですか。そういえば町にはサッカーもありましたね。私より先に町に来た方々がやられているサッカー、とっても興味あります。そうです、今のうちに見ておきましょう!」
「はあ、サッカーをですか?」
「はい。よろしいですか?」
「わかりました。では、サッカー場に案内しましょう」
ウェルカムドアに頼んで、サッカー会場、観客席の一番奥、高い位置に瞬間移動してもらう。ちなみにサッカー場は、既に二つとも芝生、白いラインに木製のゴール仕様となっている。
サッカー場では、二組の女性チームが練習をしていた。両チームとも、コートを半分ずつ使い、サッカーボールをゴールに入れようとする攻撃側と、それを阻止する防御側とに分かれている。
「わあ、広い!」
リキュア王女様はサッカー場を見て、まずそう言った。
「このサッカー場に、観客が一万人入る予定です」
「こんなにも広い場所で、サッカーを行うのですね。そしてあれが、サッカーですか」
リキュア王女様は階段をおりていって、サッカー場へと近づく。そうしている内に、火属性の皆がサッカーチームの練習を止め、こちら側へと集合させた。
「お前たち、マスターがおこしだ。まず挨拶!」
カメトル君が凄く大きな声量で恥ずかしいことを言っている。反対側のネツウルフの方も同じ感じだ。
「王主様、よくぞおこしくださいました!」
そして皆、俺を見つけると声をそろえて頭を下げる。
俺、こんなこと強要した覚えないんだけどなあ。
ひとまず手を振りながら、リキュア王女様と共に近づいた。
「皆、出迎えありがとう。今日は、リキュア王女様をつれてきたよ。皆の練習風景をご覧になられに来てくれたんだ!」
「サバク様。今の私は町長です」
「あ、はい。あと、リキュア王女様はこの町の町長になった。皆、よろしく頼む!」
「よろしくお願いします、町長王女様!」
皆、変な挨拶をした。
「ただの町長で結構ですー!」
リキュア王女様が叫ぶ。
「それより皆、サッカーボールの調子はどうだ?」
「はい。このボール凄く良いです。硬いから、今まで以上によくとぶんです。これが本当のサッカーなんですね!」
サッカー選手の一言に、皆うなずく。そうか、今まで以上か。それは良かった。
「ありがとう。それじゃあ、その調子でもっと練習してくれ。俺と町長は、一通り見学したら戻る!」
「はい!」
「お前ら、聞いたな。マスターと町長が見学なさってくださる。恥ずかしい姿は見せるなよ。全力でやれ!」
「はい!」
ネツウルフの発破が凄い。
そして皆、全員駆け足で練習に戻った。
「サバク様。よろしければ、ここでサッカーのルールについて教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。といっても、簡単ですよ。大体のことを言うと、けって相手のゴールにボールを入れるだけです」
その後、俺の説明を聞いたリキュア王女様は、だんだんとサッカーの観戦に熱を入れていった。
「あ、その調子、その調子です。あっ、良い、良い!」
「がんばって、がんばってください。もう少し、そう、そこ。きゃっ、やったあっ、そうです、そのまま、一気に!」
「惜しいっ、あっ、でもまだ、まだです、まだ続いてる。あ、ほら、またチャンスが、くる、きた、きたっ、そこです、そこー!」
ちょっとリキュア王女様の応援ボイスが俺をそわそわさせたけど、この気持ちは時の彼方へ流してしまおう。
そして、俺達の観戦を意識してか、かなり良い動きを見せてくれていた両チームがだんだんへばってきた。これはちょっと、これ以上俺達はお邪魔かな?
「リキュア王女様。そろそろ戻りましょう」
「はい。そうですね、サバク様。あ、サバク様、今私のこと、リキュア王女って言いましたね?」
「ああ、はい」
「ダメですよ。私のことは、ちょ、う、ちょ、う。いいですね?」
「はい。わかりました。町長」
「ふふ。では行きましょう。皆さま、その調子で頑張ってください!」
俺とリキュア王女様は屋敷に戻る。
「ふう。楽しかった。サッカーってシンプルなのに、奥深いスポーツですね。練習の中にも、見ごたえがたっくさんありました」
「気に入っていただけて何よりです。これなら、初試合も上手くいくかな?」
「はい。それはもう。絶対皆さん熱中します。流石サバク様です!」
「俺はほとんど何もしてないよ」
「またまたご謙遜を。ところで、サバク様。まだ見ておかないといけないところは、何かございますでしょうか?」
「そうですねえ。あ、精霊とはもうお会いになられました?」
「精霊、ですか?」
「はい。丁度いいので、挨拶しておきましょう。ウェルカムドア、精霊達のところまで案内して」
「ウェルカーム」
こうして俺達は、次に精霊達の元まで行った。
精霊達は今日も、放牧地帯で羊や牛とたわむれていた。
「あ、にんげんだー!」
「にんげんだ、にんげんだー!」
精霊達が俺達の方へ飛んでくる。ていうか、あいつら普通に喋れてるし、少し大きくなってる?
成長速いな。
「こんにちは。俺は沙漠。こっちは町長。今日は、精霊達に挨拶にきたよ」
俺がそう言うと、精霊達は手をあげて喜んだ。
「こんにちはー!」
「あいさつだ、あいさつだー!」
「ようこそ、おれたちのらくえんへー!」
精霊達は皆元気だ。良かった。あ、よく見たら火の精霊っぽい赤いのも増えている。
「初めまして。私はリキュア、オーデ、エライノ。この町の町長となりました。以後、よろしくお願いします」
「ちょうちょー?」
「ちょうちょうってむしかー?」
「おれしってる、ちょうちょうってはねがあるんだぞー。ヒラヒラとぶんだー!」
「ふふふ。残念ですが、私はそのちょうちょではありません。このファルコン町の、一番偉い人。で、町長です。皆さん、よろしくお願いしますね?」
「えらいのかー?」
「おれたちよりえらいのかー?」
「え、えっと、どうでしょう」
リキュア王女様は困っている。よし、ここはなんとか俺がとりなそう。
「君達。町長は君達よりも偉い。だから、町長の言葉をちゃんと聞くように」
「えらい、のか」
「このにんげんつよいぞ。おれたちじゃかてない。さからわないほうがよさそうだ」
「おかあさんおとうさんたちなら、かてるのに」
「君達。なんでもかんでも強さで比較するな。大事なのは心だ。この町をずっと平和に、安心して暮らせるようにしたいという心。心を合わせれば、力なんかに負けない!」
「うそだー!」
精霊達にそろって言われた。
「そこは感心しろよー!」
「ウェルカーム」
「だっておまえちょうつよいだろー。なんだってちからでいうこときかせられるだろー」
「つよいやつにそんなこといわれても、じっかんわかなーい!」
「わかなーい!」
「こ、こいつらっ」
まだ小さいからって、斜めに世の中見やがって!
「サバク様。ここは私にお任せを。ごほん。皆さん。どんな話し合いも、まずは互いに歩み寄るところからです。この町を今以上に良くするために、私達に力を貸してください。どうか、お願いします!」
「いいよー!」
「おねえちゃんはやさしそうだから、いいよー!」
「すこしはきょうりょくしてあげるー!」
お、おまえら。
俺の時もそんくらい素直でいろよ。
「ありがとうございます。サバク様。私、精霊さん達と仲良くなれました!」
「え、あ、うん」
ここでリキュア王女様に感謝されると、俺としては毒気を抜かれてしまう。
「それでおねえさん。いったいなににちからをかしてほしいんだー?」
「ほしいんだー?」
「そうですね。それでは一度、私以外の者達とも仲良くなっていただけますか?」
「いいよー!」
「いいやつらならいいよー!」
「ありがとうございます!」
こうして、俺達と精霊達は、ウェルカムドアで一瞬で屋敷まで行って、騎士やメイド達と挨拶して、話をして、何かわちゃくちゃ楽しんだ。
そうしている間に、土の精霊は石や土を生み出し、水の精霊は水を生み出し、木の精霊は植物を生み出し、火の精霊は火を生み出すことが発覚したりして。
結構慌ただしくも楽しい、午後のひと時になった。
夕方、三属性の皆が集まって来る。
俺は彼らに言った。
「皆。リキュア王女様はこの度この町の町長となられたが、どうやらまた、たくさんのフルーツをご所望のようだ。年に一回は果物を無料で食べられる、素晴らしい日を作りたいらしい。よって、俺は町の北側か西側に、新たな、町専用の果樹園を作りたいと思った」
「イエスマスター!」
「その際、町長は自分達も手伝いたいと言ってくれたので、君達の仕事っぷりを一度見てもらうことにした。これで、少なくとも今は、果樹園作りは俺達にやらせた方が早いし効率が良いと、理解してくださることだろう」
「イエスマスター!」
「ということで、今日はもう休んで、皆。明日からは、午前中から果樹園作りをまたやってもらいたい。重労働だろうが、頼んだぞ!」
「イエスマスター!」
「マスター、一ついいでしょうか」
「なんだいとっ君」
「町用の果樹園なら、北側へ広くやるよりも、西側へ、城への道を作りながらやってよいかもしれません。もしよろしければ、今回も私が指揮、監督してもよろしいでしょうか?」
「うん。とっ君に任せる」
「ありがとうございます」
「それでは皆。今日はお仕事終了。ご苦労様でした!」
「イエスマスター!」
翌日。皆が果樹園作りを開始したところを、リキュア王女様や騎士の方々が見届けたところを見届けると、俺はなんとなくすがすがしい気持ちになった。
「た、確かに皆さんに果樹園を作ってもらえると、ひどくありがたいかもしれません」
「ご理解いただけて、何よりです」
これでまたいっぱい収穫できるぞ。果物。
果樹園作り開始から、すぐに果物の収穫を始めるというぶっ壊れたスケジュールっぷり。
皆の力って偉大だなあ。って思っていると、用意された馬車、台車がすぐにいっぱいになった。
「今はもう、これ以上果物を収穫できません。しかし、収穫してしまった果物もどうしましょう。そのままにしておいては腐ってしまいます」
山となったリンゴを見て、そう呟くリキュア王女様。そこで、俺がビシッと親指を見せた。
「では、食べる分を除いて、後は全部ジャムにしましょう。きっと美味しいですよ」
「ジャムですか。それはいいですね!」
「他に何か別の用途もないか考えましょう」
パッと思いついた結果、りんごジュースも作ってみることにした。
どちらも上手く保管できれば、長期保存可能だ。皆やる気になる。
商業ギルドからタルをもらったり、大きな鍋を用意したり、いろいろやった。リンゴをそのまま食べたりもした。うさぎさんの形に切ったりもした。
「まあ、可愛らしい」
「そういえば、エットーも果物をカットしてアートを作っていたな。そういう文化をこの町に定着させても、いいかもしれませんね」
リキュア王女様も、ジャム作りに挑戦。リンゴは元が甘いので、ただ煮詰めるだけ。しかしその単純労働も大変だ。
「ふう。ジャム一つを作るのに、こんなに大変なんですね。この苦労を知ることも、この町で得られる大事な経験の一つです」
「そう言ってくれると助かります、町長」
皆で作業して、時間を過ごして、その内日が暮れる。
パッと見た感じ、リキュア王女様の町長生活は、なんとかやっていけそうな感じだ。元々危険もないつもりだったが、何よりリキュア王女様のテンションが一向に下がらないという点が俺を安心させてくれる。
よし。明日から俺も、王主生活再開頑張ろう。
俺は今日も、日が暮れるまで働いた仲間達と共に、ウェルカムドアで屋敷へ瞬間移動した。
「サバク様。特注のハンコが届きました」
「あ、バトソン。ありがとう」
ということは、明日は町長に、町長の認可証渡しだな。
同日。サッカー寮、警備員宿舎、町内の騎士の家等にて。
「リキュア王女様から大量のジャムとリンゴジュースをもらったぞ!」
「イエーイ!」
「ジャム美味しい!」
「いつものパンと違う。これは革命だ!」
「ジュースも美味しい!」
「新鮮な甘さが喉にどんどん流れ込んでくるぞ!」
「でも、リンゴづくしだと飽きるな」
「飽きてもいい。リキュア王女様のお気持ちが味わえるんだ。俺はもっと食うぞ!」
「ふざけるな。ジャムやジュースはともかく、パンのおかわりはないぞ!」
「じゃあジャムとジュースだけでいい。とにかく食うぞー!」
その夜は、町中どこもそんな感じだった。
ソセイルを創造してから、十日経った。
「よし。どんな物も作ってくれる、モノウームを創造しよう」
「イエスマスター。無属性のモノウームを創造しました」
「よし。というわけで、サルンキー君、ネズット君。申し訳ないが、モノウームと変わってくれ」
「イエスマスター!」
「二人共。良い返事ありがとう。けど、まずは城に行くか。たぶんそこが一番安全だろう」
俺はウェルカムドアを利用して、久しぶりに金属性の皆がいる場所へと向かった。
ドアを通って城まで来ると、そこにまだ城はできていなかった。
というか、なんかきれいな紫色一色の、あれ。確かウムオリハルコンだよね。その砦? があって、それを金属性の皆が拡張していた。
そして金属性の皆が俺に気づいて、集まって来る。
「どうしました、マスター!」
「何か、ご用でしょうか?」
「ああ、別に大した用じゃないんだ。今日から、新しいクリーチャーを召喚しようと思って。それより、今皆が作ってるのは城なんだよね?」
「イエスマスター!」
「100%ウムオリハルコンの城です。完成にはあと五年はかかると思います」
「す、凄い壮大な計画だね」
それは時間がかかりすぎるのでは。いや、城を作るんなら、五年くらい普通か?
「まあ、皆、ほどほどに。飽きたら戻ってきてもいいからね?」
「いいえ、必ず完成させてみせます!」
「そ、そう。それじゃあ、頑張って。あ、そうだ。皆。丁度いいから、皆もここで新クリーチャーの力を見ておかない?」
「イエスマスター!」
金属性の皆が集まりきったところで、俺はモノウームを召喚することにした。
「サルンキー君とネズット君を、モノウームに交換。特に、一人のモノウームは特大召喚だ!」
すると、サルンキー君とネズット君が消え、かわりに俺の想像通りに、コタツサイズの電卓みたいな形をしたロボットと、工場サイズの同型機が現れる。
「お呼びでしょうか、マスター」
モノウームが二人同時に喋る。電卓でいう画面がある場所に顔があり、そこに声が出るスピーカーもついていた。
「モノウーム。お前たちのなんでも生み出せる力を、俺に貸してくれ。まず、小さいモノウーム。試しに一冊、サッカーのルールブックを作ってくれ。大きいモノウームは、移動に便利なオスプレイを作ってくれ」
ルールブックは、王都の人達にサッカーのルールを広めるための物。オスプレイはウェルカムドアを使わない皆のための移動手段だ。以前テレビで見たことある、ヘリのように離着陸が可能な、輸送機があると便利だと思ったんだよね。
「イエスマスター」
「マスター。サッカーのルールブックのイメージを要求します。今のままでも作成は可能ですが、マスターの理想を追求するために、これをかぶってイメージしてください」
大モノウームはうなずいたが、小モノウームは画面よりも上の側面から、機械の帽子にケーブルがついたものを取り出す。
「わ、わかったけど、モノウーム。この帽子、変な電波とか出ない?」
「マスター。大丈夫。人体に害はありません」
「では、かわりに私がイメージを提供しましょうか?」
とっ君がここで現れてそう言ってくれたが、俺はここで決意を固めた。
「いいや。とっ君にやらせるまでもない。モノウームもこう言ってくれてることだし、ここは俺がやろう」
「わかりました」
消えるとっ君。俺は小モノウームの帽子をかぶる。
そして、イメージ!
「サッカーのルールブック、できろー!」
「オーケーマスター。マスターのイメージを受け取りました。これよりルールブックを作成します」
ブーン。チーン。モノウームから音が出ると、画面の下位置にある穴からルールブックが一冊出てきた。それを電卓のボタンを叩くあたりのところがベルトコンベアになって動き、現物を俺の前まで持ってくる。
どうやら完成したみたいだ。そして作成スピードが速い。
「ありがとう、モノウーム」
そして大モノウームの方も、オスプレイができたみたいだ。
リキュア王女様がファルコン町の視察をなさると言った翌日。リキュア王女様がファルコン町にお引越しにきた。
ああ、ファルコン町は村じゃなくて町になったよ。そういえば大きかったもんね。リキュア王女様、ファルコン町を好きになってくれたらいいなあ。
と思っている場合じゃない。ひとまず俺は、今日と明日までリキュア王女様のそばにいよう。もし何かあったら大変だ。リキュア王女様のファルコン町の町長就任。それを安全に見守らなければならない。
「リキュア王女様、ようこそファルコン町へ!」
「あ、サバク様。わざわざご足労ありがとうございます。それに、このように立派なお屋敷も街並みも、ご用意してくださりありがとうございます。ここなら、大勢の方を幸せに迎えられそうです!」
リキュア王女様が引っ越ししたのは、一番サッカー場に近い屋敷。もし町に偉い人がやって来たら歓迎するために、皆がいくつか建てておいてくれたらしい。皆に感謝だ。
そこに騎士、使用人、馬車が何人、何台も集まり、屋敷内に荷物を入れていく。どうやら本格的にお引越しのようだ。
「そういえば、騎士12人も町に引っ越すとおっしゃっていましたよね。屋敷の数は少ないですが、大丈夫そうですか?」
「はい。騎士達は民家でも平気です。寝泊まりできれば十分でしょう。私の場合は、いくらか見栄えも必要かと思いますが」
「そうですか。町長としての仕事先はどうしますか?」
「このお屋敷内で十分です。在宅勤務というやつで。では、早速何かしないと」
「そんな、リキュア王女様はまだここへ来たばかりです。少しはおくつろぎください」
「あ、サバク様。今の私は、リキュア町長です。王女ではなく、町長と呼んでください」
「はい。町長」
「はい!」
皆が屋敷に家具類を置いていく中、俺はリキュア町長の笑顔を見て、ちょっとほっこりする。
「さて。それでは町長としての仕事を始めましょう。まず、町長のやることといえば。それは、サバク様の銅像作りです!」
「いえ、それはやめてください」
「では、金の像作りです!」
「絶対やめてください」
「ですが、サバク様の町ですよ。像くらいあっても良いと思いますが」
「そんなことされても、誰も喜びませんから。それより町長は、何をされたいのですか。まずはそれを形にしてください」
「それは、サバク様の像作り」
「それ以外で」
「では、皆さんが喜んでもらえるような町にしたいです!」
「それは良いですね。具体的な案は、思いつきますか?」
「そうですね。例えば、果物祭り」
「果物?」
「流石に聖水まで配るとはいいませんが、先日サバク様から王都の皆に贈られた果物の山は、皆喜んだと聞きました。私はそのサバク様のレジェンドを、この町で続けたいと思います」
「そうですか。それはありがたいです」
「せめて年に一度は、町の皆が全員食べられる、それこそ山ほど無料で食べられる記念日。終戦記念、及び王主国建国記念日があったらいいな。と思います」
「いいですね。その日付の名前は遠慮したいですが、催しはぜひやりましょう。それこそ俺が理想とする平和の一ページですよ!」
なんだか、俺よりリキュア王女様の方が平和活動にむいてるな。それを国規模でなく町規模でやるなら、皆の力を借りれば全然できるだろうし、荒野だってまだ広い。そういう夢のような日だって、あっていいんだ。
「では、早速皆に頼んで、町の外に果樹園を作ってもらいます」
「あら、町の中でも良いのではないですか?」
「町並みはこのままで、石壁を新しく広げてもらった方が良いと思うんです。住宅エリアと果樹園エリアを分けておきましょう」
「ですがそれだとしても、果樹園はもう既に町の外にあるので、そこから取ればいいのでは?」
「向こうの果樹園はお城の兵士や商業ギルドの人達に、取りに行ってもよいと言ってあります。これから作るのは、町だけの果樹園です。きっとそれを作れば町の人達は、誰だって果物を手にすることができます。今王都ではそこまで果物が出回っていないので、まずはこの町から皆に届けられればいいと思います」
「あら、そうだったのですか」
「はい。そうだったのです。町長、町で採れる果物は何がいいですか?」
「え、えっと、ではまずリンゴを」
「はい。わかりました。まずリンゴですね」
「で、ですが。今のままでは、ただサバク様達のお手をわずらっているだけのような気もします。果樹園作りをやるとしても、私にも何かお手伝いさせてください」
「わかりました。では、明日皆を呼んで、皆に果樹園を作ってもらいます。町長は、その様子を俺と一緒に見学しましょう」
「け、見学だけですか?」
「そうすれば、きっと皆に任せるだけで全て安心だと、思えるようになりますよ」
「そ、そうですか」
「それより、リンゴの他に何かありますか。今の内にリクエストを考えておきましょう」
「はい。果物は、いっぱい種類があった方が良いですものね。思いつく限り考えます!」
こうして俺とリキュア王女様は、仲良く果物の名前を言い合った。
そんなことをしながら時を過ごし、やがて昼になる。
「リキュア王女様、もとい町長。そろそろお昼ごはんの時間だと思うので、屋敷に戻りますね」
「はい。わかりました」
俺はリキュア王女様に一言言ってから、ウェルカムドアで屋敷に戻った。
「サバク様、お帰りなさいませ」
「ただいま、バトソン」
「サバク様。サバク様宛にお荷物が届いております」
「うん。何?」
「なんでも、サッカーボールとか」
「おお、ついに完成したか!」
俺はひとまず、食事より先にサッカーボールを見ることにした。
サッカーボールを見て、触って、庭で軽くけってみて、とっ君とパスしあって、その大きさ、重さ、弾み具合が、ほとんどサッカーボールであることを確かめる。
「うん。これがあれば、きっと皆がもっとサッカーできるぞ。早速サッカー場に届けよう」
「イエスマスター。しかし、食事を先に取らなくてよろしいのですか?」
「そんなのはあとあと。早い方がいいでしょ」
すぐにサッカー場へ行き、各チームにボールを届ける。
男一般チーム、男レイドチーム、女一般チーム、女レイドチームに各二個。余った二個は、予備に置いておこう。
「今日中に皆にけってもらって、評価が良ければ追加のボールを用意してもらおう」
「イエスマスター。ボール職人の名前は、ボールと一緒に運ばれてきました。ウェルカムドアでその者の元へ行ってもいいでしょう」
「そうだね。とっ君」
サッカーボールが届いたうれしさそのままに、お昼ごはんを食べに行く。そしてその後リキュア町長のことを思い出し、慌てて町長宅へと戻った。
「町長、再び戻ってまいりました。相変わらず、屋敷や町にご不満な点はございませんか?」
「あ、サバク様。いいえ、ご不満だなんて、とんでもない。とてもステキなところですよ。それより、私達の他にも、もう住人をこちらに移住させてもよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんよ。ですが、移住者数はほどほどにお願いします。これからどんどん、バウコン帝国の方々が移住してくるかもしれないので」
「ええ、わかりました。ではこちらは、最低限の人数だけ移住を募集します。既に建っている家も、勝手に使っても?」
「ええ。かまいません。ですが、使っている家は町長の方で把握していただきたく思います。更に住んでいる家や店には、看板、表札の取り付け義務を徹底させてください。もちろん町長の家も、わかりやすく表札などをつけてください」
「はい。わかりました。それがこの町の第二のルールですね」
「はい。ところで、第一は、ああ、果物の日ですか?」
「いいえ、第一のルールは、サバク様のお言葉は絶対。です」
「やめてくださいそれは」
「そういえば、サバク様。少しお昼ごはんが長かったように思えましたが、もしや何かありましたでしょうか?」
「ああ、はい。実は、サッカーに使うサッカーボールが、先程届いたのです。ついうれしくなって、先にサッカーチームの皆に配ってしまいました」
「まあ、そうだったのですか。そういえば町にはサッカーもありましたね。私より先に町に来た方々がやられているサッカー、とっても興味あります。そうです、今のうちに見ておきましょう!」
「はあ、サッカーをですか?」
「はい。よろしいですか?」
「わかりました。では、サッカー場に案内しましょう」
ウェルカムドアに頼んで、サッカー会場、観客席の一番奥、高い位置に瞬間移動してもらう。ちなみにサッカー場は、既に二つとも芝生、白いラインに木製のゴール仕様となっている。
サッカー場では、二組の女性チームが練習をしていた。両チームとも、コートを半分ずつ使い、サッカーボールをゴールに入れようとする攻撃側と、それを阻止する防御側とに分かれている。
「わあ、広い!」
リキュア王女様はサッカー場を見て、まずそう言った。
「このサッカー場に、観客が一万人入る予定です」
「こんなにも広い場所で、サッカーを行うのですね。そしてあれが、サッカーですか」
リキュア王女様は階段をおりていって、サッカー場へと近づく。そうしている内に、火属性の皆がサッカーチームの練習を止め、こちら側へと集合させた。
「お前たち、マスターがおこしだ。まず挨拶!」
カメトル君が凄く大きな声量で恥ずかしいことを言っている。反対側のネツウルフの方も同じ感じだ。
「王主様、よくぞおこしくださいました!」
そして皆、俺を見つけると声をそろえて頭を下げる。
俺、こんなこと強要した覚えないんだけどなあ。
ひとまず手を振りながら、リキュア王女様と共に近づいた。
「皆、出迎えありがとう。今日は、リキュア王女様をつれてきたよ。皆の練習風景をご覧になられに来てくれたんだ!」
「サバク様。今の私は町長です」
「あ、はい。あと、リキュア王女様はこの町の町長になった。皆、よろしく頼む!」
「よろしくお願いします、町長王女様!」
皆、変な挨拶をした。
「ただの町長で結構ですー!」
リキュア王女様が叫ぶ。
「それより皆、サッカーボールの調子はどうだ?」
「はい。このボール凄く良いです。硬いから、今まで以上によくとぶんです。これが本当のサッカーなんですね!」
サッカー選手の一言に、皆うなずく。そうか、今まで以上か。それは良かった。
「ありがとう。それじゃあ、その調子でもっと練習してくれ。俺と町長は、一通り見学したら戻る!」
「はい!」
「お前ら、聞いたな。マスターと町長が見学なさってくださる。恥ずかしい姿は見せるなよ。全力でやれ!」
「はい!」
ネツウルフの発破が凄い。
そして皆、全員駆け足で練習に戻った。
「サバク様。よろしければ、ここでサッカーのルールについて教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。といっても、簡単ですよ。大体のことを言うと、けって相手のゴールにボールを入れるだけです」
その後、俺の説明を聞いたリキュア王女様は、だんだんとサッカーの観戦に熱を入れていった。
「あ、その調子、その調子です。あっ、良い、良い!」
「がんばって、がんばってください。もう少し、そう、そこ。きゃっ、やったあっ、そうです、そのまま、一気に!」
「惜しいっ、あっ、でもまだ、まだです、まだ続いてる。あ、ほら、またチャンスが、くる、きた、きたっ、そこです、そこー!」
ちょっとリキュア王女様の応援ボイスが俺をそわそわさせたけど、この気持ちは時の彼方へ流してしまおう。
そして、俺達の観戦を意識してか、かなり良い動きを見せてくれていた両チームがだんだんへばってきた。これはちょっと、これ以上俺達はお邪魔かな?
「リキュア王女様。そろそろ戻りましょう」
「はい。そうですね、サバク様。あ、サバク様、今私のこと、リキュア王女って言いましたね?」
「ああ、はい」
「ダメですよ。私のことは、ちょ、う、ちょ、う。いいですね?」
「はい。わかりました。町長」
「ふふ。では行きましょう。皆さま、その調子で頑張ってください!」
俺とリキュア王女様は屋敷に戻る。
「ふう。楽しかった。サッカーってシンプルなのに、奥深いスポーツですね。練習の中にも、見ごたえがたっくさんありました」
「気に入っていただけて何よりです。これなら、初試合も上手くいくかな?」
「はい。それはもう。絶対皆さん熱中します。流石サバク様です!」
「俺はほとんど何もしてないよ」
「またまたご謙遜を。ところで、サバク様。まだ見ておかないといけないところは、何かございますでしょうか?」
「そうですねえ。あ、精霊とはもうお会いになられました?」
「精霊、ですか?」
「はい。丁度いいので、挨拶しておきましょう。ウェルカムドア、精霊達のところまで案内して」
「ウェルカーム」
こうして俺達は、次に精霊達の元まで行った。
精霊達は今日も、放牧地帯で羊や牛とたわむれていた。
「あ、にんげんだー!」
「にんげんだ、にんげんだー!」
精霊達が俺達の方へ飛んでくる。ていうか、あいつら普通に喋れてるし、少し大きくなってる?
成長速いな。
「こんにちは。俺は沙漠。こっちは町長。今日は、精霊達に挨拶にきたよ」
俺がそう言うと、精霊達は手をあげて喜んだ。
「こんにちはー!」
「あいさつだ、あいさつだー!」
「ようこそ、おれたちのらくえんへー!」
精霊達は皆元気だ。良かった。あ、よく見たら火の精霊っぽい赤いのも増えている。
「初めまして。私はリキュア、オーデ、エライノ。この町の町長となりました。以後、よろしくお願いします」
「ちょうちょー?」
「ちょうちょうってむしかー?」
「おれしってる、ちょうちょうってはねがあるんだぞー。ヒラヒラとぶんだー!」
「ふふふ。残念ですが、私はそのちょうちょではありません。このファルコン町の、一番偉い人。で、町長です。皆さん、よろしくお願いしますね?」
「えらいのかー?」
「おれたちよりえらいのかー?」
「え、えっと、どうでしょう」
リキュア王女様は困っている。よし、ここはなんとか俺がとりなそう。
「君達。町長は君達よりも偉い。だから、町長の言葉をちゃんと聞くように」
「えらい、のか」
「このにんげんつよいぞ。おれたちじゃかてない。さからわないほうがよさそうだ」
「おかあさんおとうさんたちなら、かてるのに」
「君達。なんでもかんでも強さで比較するな。大事なのは心だ。この町をずっと平和に、安心して暮らせるようにしたいという心。心を合わせれば、力なんかに負けない!」
「うそだー!」
精霊達にそろって言われた。
「そこは感心しろよー!」
「ウェルカーム」
「だっておまえちょうつよいだろー。なんだってちからでいうこときかせられるだろー」
「つよいやつにそんなこといわれても、じっかんわかなーい!」
「わかなーい!」
「こ、こいつらっ」
まだ小さいからって、斜めに世の中見やがって!
「サバク様。ここは私にお任せを。ごほん。皆さん。どんな話し合いも、まずは互いに歩み寄るところからです。この町を今以上に良くするために、私達に力を貸してください。どうか、お願いします!」
「いいよー!」
「おねえちゃんはやさしそうだから、いいよー!」
「すこしはきょうりょくしてあげるー!」
お、おまえら。
俺の時もそんくらい素直でいろよ。
「ありがとうございます。サバク様。私、精霊さん達と仲良くなれました!」
「え、あ、うん」
ここでリキュア王女様に感謝されると、俺としては毒気を抜かれてしまう。
「それでおねえさん。いったいなににちからをかしてほしいんだー?」
「ほしいんだー?」
「そうですね。それでは一度、私以外の者達とも仲良くなっていただけますか?」
「いいよー!」
「いいやつらならいいよー!」
「ありがとうございます!」
こうして、俺達と精霊達は、ウェルカムドアで一瞬で屋敷まで行って、騎士やメイド達と挨拶して、話をして、何かわちゃくちゃ楽しんだ。
そうしている間に、土の精霊は石や土を生み出し、水の精霊は水を生み出し、木の精霊は植物を生み出し、火の精霊は火を生み出すことが発覚したりして。
結構慌ただしくも楽しい、午後のひと時になった。
夕方、三属性の皆が集まって来る。
俺は彼らに言った。
「皆。リキュア王女様はこの度この町の町長となられたが、どうやらまた、たくさんのフルーツをご所望のようだ。年に一回は果物を無料で食べられる、素晴らしい日を作りたいらしい。よって、俺は町の北側か西側に、新たな、町専用の果樹園を作りたいと思った」
「イエスマスター!」
「その際、町長は自分達も手伝いたいと言ってくれたので、君達の仕事っぷりを一度見てもらうことにした。これで、少なくとも今は、果樹園作りは俺達にやらせた方が早いし効率が良いと、理解してくださることだろう」
「イエスマスター!」
「ということで、今日はもう休んで、皆。明日からは、午前中から果樹園作りをまたやってもらいたい。重労働だろうが、頼んだぞ!」
「イエスマスター!」
「マスター、一ついいでしょうか」
「なんだいとっ君」
「町用の果樹園なら、北側へ広くやるよりも、西側へ、城への道を作りながらやってよいかもしれません。もしよろしければ、今回も私が指揮、監督してもよろしいでしょうか?」
「うん。とっ君に任せる」
「ありがとうございます」
「それでは皆。今日はお仕事終了。ご苦労様でした!」
「イエスマスター!」
翌日。皆が果樹園作りを開始したところを、リキュア王女様や騎士の方々が見届けたところを見届けると、俺はなんとなくすがすがしい気持ちになった。
「た、確かに皆さんに果樹園を作ってもらえると、ひどくありがたいかもしれません」
「ご理解いただけて、何よりです」
これでまたいっぱい収穫できるぞ。果物。
果樹園作り開始から、すぐに果物の収穫を始めるというぶっ壊れたスケジュールっぷり。
皆の力って偉大だなあ。って思っていると、用意された馬車、台車がすぐにいっぱいになった。
「今はもう、これ以上果物を収穫できません。しかし、収穫してしまった果物もどうしましょう。そのままにしておいては腐ってしまいます」
山となったリンゴを見て、そう呟くリキュア王女様。そこで、俺がビシッと親指を見せた。
「では、食べる分を除いて、後は全部ジャムにしましょう。きっと美味しいですよ」
「ジャムですか。それはいいですね!」
「他に何か別の用途もないか考えましょう」
パッと思いついた結果、りんごジュースも作ってみることにした。
どちらも上手く保管できれば、長期保存可能だ。皆やる気になる。
商業ギルドからタルをもらったり、大きな鍋を用意したり、いろいろやった。リンゴをそのまま食べたりもした。うさぎさんの形に切ったりもした。
「まあ、可愛らしい」
「そういえば、エットーも果物をカットしてアートを作っていたな。そういう文化をこの町に定着させても、いいかもしれませんね」
リキュア王女様も、ジャム作りに挑戦。リンゴは元が甘いので、ただ煮詰めるだけ。しかしその単純労働も大変だ。
「ふう。ジャム一つを作るのに、こんなに大変なんですね。この苦労を知ることも、この町で得られる大事な経験の一つです」
「そう言ってくれると助かります、町長」
皆で作業して、時間を過ごして、その内日が暮れる。
パッと見た感じ、リキュア王女様の町長生活は、なんとかやっていけそうな感じだ。元々危険もないつもりだったが、何よりリキュア王女様のテンションが一向に下がらないという点が俺を安心させてくれる。
よし。明日から俺も、王主生活再開頑張ろう。
俺は今日も、日が暮れるまで働いた仲間達と共に、ウェルカムドアで屋敷へ瞬間移動した。
「サバク様。特注のハンコが届きました」
「あ、バトソン。ありがとう」
ということは、明日は町長に、町長の認可証渡しだな。
同日。サッカー寮、警備員宿舎、町内の騎士の家等にて。
「リキュア王女様から大量のジャムとリンゴジュースをもらったぞ!」
「イエーイ!」
「ジャム美味しい!」
「いつものパンと違う。これは革命だ!」
「ジュースも美味しい!」
「新鮮な甘さが喉にどんどん流れ込んでくるぞ!」
「でも、リンゴづくしだと飽きるな」
「飽きてもいい。リキュア王女様のお気持ちが味わえるんだ。俺はもっと食うぞ!」
「ふざけるな。ジャムやジュースはともかく、パンのおかわりはないぞ!」
「じゃあジャムとジュースだけでいい。とにかく食うぞー!」
その夜は、町中どこもそんな感じだった。
ソセイルを創造してから、十日経った。
「よし。どんな物も作ってくれる、モノウームを創造しよう」
「イエスマスター。無属性のモノウームを創造しました」
「よし。というわけで、サルンキー君、ネズット君。申し訳ないが、モノウームと変わってくれ」
「イエスマスター!」
「二人共。良い返事ありがとう。けど、まずは城に行くか。たぶんそこが一番安全だろう」
俺はウェルカムドアを利用して、久しぶりに金属性の皆がいる場所へと向かった。
ドアを通って城まで来ると、そこにまだ城はできていなかった。
というか、なんかきれいな紫色一色の、あれ。確かウムオリハルコンだよね。その砦? があって、それを金属性の皆が拡張していた。
そして金属性の皆が俺に気づいて、集まって来る。
「どうしました、マスター!」
「何か、ご用でしょうか?」
「ああ、別に大した用じゃないんだ。今日から、新しいクリーチャーを召喚しようと思って。それより、今皆が作ってるのは城なんだよね?」
「イエスマスター!」
「100%ウムオリハルコンの城です。完成にはあと五年はかかると思います」
「す、凄い壮大な計画だね」
それは時間がかかりすぎるのでは。いや、城を作るんなら、五年くらい普通か?
「まあ、皆、ほどほどに。飽きたら戻ってきてもいいからね?」
「いいえ、必ず完成させてみせます!」
「そ、そう。それじゃあ、頑張って。あ、そうだ。皆。丁度いいから、皆もここで新クリーチャーの力を見ておかない?」
「イエスマスター!」
金属性の皆が集まりきったところで、俺はモノウームを召喚することにした。
「サルンキー君とネズット君を、モノウームに交換。特に、一人のモノウームは特大召喚だ!」
すると、サルンキー君とネズット君が消え、かわりに俺の想像通りに、コタツサイズの電卓みたいな形をしたロボットと、工場サイズの同型機が現れる。
「お呼びでしょうか、マスター」
モノウームが二人同時に喋る。電卓でいう画面がある場所に顔があり、そこに声が出るスピーカーもついていた。
「モノウーム。お前たちのなんでも生み出せる力を、俺に貸してくれ。まず、小さいモノウーム。試しに一冊、サッカーのルールブックを作ってくれ。大きいモノウームは、移動に便利なオスプレイを作ってくれ」
ルールブックは、王都の人達にサッカーのルールを広めるための物。オスプレイはウェルカムドアを使わない皆のための移動手段だ。以前テレビで見たことある、ヘリのように離着陸が可能な、輸送機があると便利だと思ったんだよね。
「イエスマスター」
「マスター。サッカーのルールブックのイメージを要求します。今のままでも作成は可能ですが、マスターの理想を追求するために、これをかぶってイメージしてください」
大モノウームはうなずいたが、小モノウームは画面よりも上の側面から、機械の帽子にケーブルがついたものを取り出す。
「わ、わかったけど、モノウーム。この帽子、変な電波とか出ない?」
「マスター。大丈夫。人体に害はありません」
「では、かわりに私がイメージを提供しましょうか?」
とっ君がここで現れてそう言ってくれたが、俺はここで決意を固めた。
「いいや。とっ君にやらせるまでもない。モノウームもこう言ってくれてることだし、ここは俺がやろう」
「わかりました」
消えるとっ君。俺は小モノウームの帽子をかぶる。
そして、イメージ!
「サッカーのルールブック、できろー!」
「オーケーマスター。マスターのイメージを受け取りました。これよりルールブックを作成します」
ブーン。チーン。モノウームから音が出ると、画面の下位置にある穴からルールブックが一冊出てきた。それを電卓のボタンを叩くあたりのところがベルトコンベアになって動き、現物を俺の前まで持ってくる。
どうやら完成したみたいだ。そして作成スピードが速い。
「ありがとう、モノウーム」
そして大モノウームの方も、オスプレイができたみたいだ。
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