幕末・浪漫千香 〜どんな時代でも、幸せになれる〜

秋藤冨美

文字の大きさ
80 / 95
国が揺らぐ

声をかけても

しおりを挟む
   その翌日からどこか藤堂の様子がおかしくなった。

「あ。平助お早う。 」

「お早う。 」

挨拶をしても、その口振りと表情は淡々としていて。以前なら、優しく微笑んでくれていたのに。

「どしたん?何か嫌なことでもあった? 」

「いいや別に。 」

「え。平助!まっ...。 」

そう言って素通りしていってしまった。声をかけても、振り返ることはなく。何かあったのだろうか。自分では力になれないのだろうか。寂しいな、とそんな考えが千香の頭の中を巡った。













   「ありゃあ、流石にあからさまだよな。沖田さんに言われてあんな風に千香に接しちまうって。でも俺より、沖田さんの方が千香を大切にしてくれるかもしれねえ。...ああ、でも千香は訳を知らないんだったか。 」

巡察の支度をしながらぶつぶつと呟いていると。不意に背後に気配を感じた。バッと背後を振り返ると。

「...森宮か。どうかしたか。 」

千香の曾祖父だという森宮峻三が居た。こう、改めて見てみると何処と無く纏っている雰囲気が似ている気がする。厄介だな、と思いつつも千香相手ではないのだからとしっかりと面を合わせて話そうと思い直し。

「藤堂先生、原田先生がお呼びです。 」

「原田さんが。そうか分かった。 」

峻三にそう言葉を返し、藤堂は原田の部屋へと向かった。しかし、背後から足音が聞こえる。

「どうして着いてくるんだ?もう用は済んだだろう。 」

一度立ち止まり、背後を振り返った。すると、峻三はしゅんとした表情を見せ。

「原田先生が、私も同席する様仰ったのです。不快に感じられたのならば、申し訳ありません。先程伝えておけばこの様なことにはなりませんでしたよね...。 」

またも、峻三の顔が千香と重なって見えて藤堂は思わず目を擦った。

「い、いや。そんなに謝るな。良いんだ。森宮は悪くない。それにお前は原田さんと同隊だし仲が良いのだから、同席を許されてもおかしくはない。 」

「...はい。 」

意識すればするほど、峻三と千香が重なって見え。藤堂は小さく溜め息を吐いてから、再び原田の部屋へと向かい始めた。




















   「おう、平助。来たか。 」

障子を開けると、原田がにやりと笑い胡座をかいていた。原田がこういう顔をしているときは、何かしら厄介ごとを持ちかけられるときだということをこれまでの経験から学んでいたので、藤堂は顔を歪めながら部屋に入った。丁度原田と向かい合う形に腰を下ろすと、背後で峻三が障子を閉め、藤堂の少し背後に腰を下ろした。しかしすぐさま、

「峻三。お前もうちょっと近いとこに来とってくれ。俺が上手いこと話せんかったときに、いつでも補佐出来る様にしとってや。 」

と峻三を近くに寄る様声をかけ、峻三も恐る恐る膝を進めた。

「今、伊予のお国言葉は聞きたくないなあ。 」

ぽつり、と藤堂が零すが原田は聞き取れなかった様で、何か言うたか?と尋ねてきたので、いいや何もと首を振った。

「平助、お前をここに呼んだのには理由がある。何でか分かるか? 」

「先程森宮からここへ来る様聞かされて来たもんで、皆目見当もつきやせん。 」

「ううむ。ほうか。こりゃ、俺が説明するにはよいよやねこい。峻三、お前言うてくれんだろか。 」

「私が言うたら違う意味でやねこい話やとは思いますけど、分かりました。 」

峻三は気まずいのか、言葉を発するのを恐れているのか何とも形容し難い表情を浮かべながら、藤堂の方へ向き直った。

「藤堂先生。近頃千香さんとどうですか。 」

峻三は本来ならば見ることもなかった曽孫の恋路に関わるのが、不思議で仕方なかった。何故こんなことにと未だに納得がいかない。

「どう、って。上手くいってるけど。 」

「嘘言うなや。今喧嘩しとろう。千香のこと避けよったの、見たぞ。 」

少し身を引いていた原田が、膝を進めて藤堂との距離を詰めた。

「本当だって。というか、原田さんが俺を呼んだのって様子を探るため? 」

「ほうよ。近頃千香が心から笑ってない様に見えて。ほやけん、もしかしたらと思て。 」

原田は少し前のめりになって、藤堂に迫った。藤堂はそれに仰け反りながらも、眉を下げた。

「原田さんにまで心配されるとは...。俺もまだまだ、だな。 」

藤堂はくしゃり、と笑った。

「原田さんにまで、って言うところが気に食わん。俺言うとくけど、嫁さんもろとるけんな。お前より不甲斐無くてたまるか! 」

原田は藤堂の言葉に鼻息を荒くして、踏ん反り返っている。それを諫めようと、峻三は至極冷静に声をかけた。

「原田先生。今はそんな話しよる場合ですか。千香さんと沖田さんのこと聞くんでしょう。 」

「あ、ああ。ほうじゃ。...実はな、平助。昨日、千香が朝餉を総司の部屋に持っていったとき、ずっと聞き耳をたてとったんじゃ。ほんなら、どうじゃ。お前は叱られるわ、総司は千香を奪うとか言うし。どうにも居ても立っても居られん様になってしもて、お前をこの部屋に呼んだんじゃ。 」

峻三の言葉に我を取り戻した原田は、藤堂をここへ呼んだ経緯を話し始めた。要は、沖田は床に伏していてこれから千香と過ごす時間が増えるだろうから、そんな風にしているとあっという間に千香を取られるぞという忠告と心配をしているらしい。

「...そこまでしっかり心配してくれているとは思いませんでした。とても有り難いです。...だけど、俺は沖田さんと一緒に居ることで千香が幸せなら、良いんです。 」

「平助。...お前、一体何言よんぞ! 」

原田は思わず藤堂の肩を掴んだ。違う、そうじゃない。お前が言う言葉はそうじゃないだろう、と。

「沖田さんに言われたんです。俺は千香の優しさに甘えているって。いつも心を律せない俺を、千香は受け止めてくれます。時には、千香の気持ちを確かめないときも、あります。それで俺、こんなんじゃ千香を幸せに出来ないって思いだしたんです。縛り付けちゃあ、いけないなって。良い機会だと思うんです。だから。 」

原田の肩に乗った手を優しく下ろして、姿勢を正し。

「千香を沖田さんに、幸せにしてもらおうと思います。 」

一点の曇りもない藤堂の表情とまさかの展開に、原田と峻三は息を飲むしかなかった。
































※よいよ・・・とても
※やねこい・・・面倒な、気難しい
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...