神に捨てられた異世界で

syoui

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鏡に写るのは

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    曰く、その者には幾つもの名前じんかくがあった。故に殺し、故に愛し、故に憎み、故に敬い、故に軽蔑し、故に迫害し、故に救済し、故に滅ぼした。
曰く、その者にはという。




変な夢を見た気がする。でもよくは覚えてない。知らない部屋で明良はベッドの上で横たわっていた。少し頭痛がする。どうしてこうなったか、よく思い出せない…
ガチャ、と扉の開く音がした。
「おや、起きたのか。体の方は大丈夫かい?一応処置はしたけど、あれだけ派手にふっ飛ばされたからなぁ…」
明良がぽかんとした顔でニコラスを見ていると察してくれたのか、
「あぁ、何があったかわかってないようだね、あれは君が…」
ー四時間前ー
    ニコラスと明良が自己紹介を終えた時に、屋敷の門の方から声がした。
「少し待っててくれ。」
ニコラスは明良にそう言うと門の方へと向かった。しばらく待っているとニコラスが誰かを連れて戻ってきた。一緒に歩いてきたのはとても顔のバランスが整った赤毛の美少女だった。
「待たせて悪かったねアキラ、紹介するよ。この子は…」
ニコラスの隣にいた美少女は明良を見るなり、整った顔を思いっきり歪めると、
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そう叫びながら明良に殴りかかってきた。その後はされるがままである。いきなりのことで反応できなかった明良は一通り殴られた後、投げ飛ばされてそのまま失神した。
「…というわけで今に至る訳だけど、」
「つまり、理由もわからずに一方的にボコられたと。...あの、さっきからニコラの後ろにいる子怖いからなんとかしてくれないかな...」
ニコラスの後ろでは明良をボコボコにした張本人である少女がえげつない顔で明良を睨みつけている。
「ほら、お前もちゃんとアキラに謝るんだ。じゃないと、この屋敷に入れなくするぞ?」
ニコラスに言われて少女は渋々口を開く。
「うぅ、わかったわよ…謝ればいいんでしょ!」
どうやら謝ってくれるようだ。
「ドーモスイマセンデシター」
前言撤回、棒読みである。正直腹立つが、文句言ったら次こそオダブツになってしまいそうだからもう何も言わないでおく。
「なんであんなことしたんだ?」
そうそうなんで殴られたんだよ、とニコラスに心の中で同調する。
「だって、こいつが悪いんだもん…」
俺何もしてないんだが?
「おい、アキラとお前初対面のはずだろう?」
「………ぃ」
すると少女は俯き聞き取れないほど小さい声で何かを呟いた。
「すまないが、聞き取れなかった。もう一度言ってくれないか?」
「言えない…」
少女は相変わらず小さい声で返答する。
さっきとは違い随分と体を縮こませている。
「言えないとはどういう事だい?」
「私にもわからない!でも、こいつは生かしてはおけないって、それだけは覚えてるの。」
要領を得ない返答に、ニコラスは考え込むような仕草をとる。その場に静寂が訪れる。
この状況、明良には何も出来なかった。少しでも何かしたら、死ぬ。今すぐこの場から逃げ出せと、生存本能が訴えかけている。
「もしかして、お前占いを見たのか?」
ニコラスの言葉に少女はビクッと反応する。
「そ、そうよ…見たわよ占い。」
「…ん?あぁそうか。アキラにはチンプンカンプンだよね。」
上手く状況が理解できない明良にニコラスは占いについて説明してくれた。
「なるほど…つまり、占いで未来を見るかわりに見た内容は断片的にしか覚えていられないということか…」
ふと見るとまた少女がこちらを睨みつけている。
喋ることすらお気に召さないようだ。
「そういう事だ。つまり、占いで君に関する未来を見たのだろう。だからこいつ…そういえばまだ名前を教えてなかったね。」
「嫌よ~!こいつなんかに名前教えるの!」
少女は一転駄々っ子のようにジタバタと抵抗するもニコラスの方が体が大きいために抵抗虚しく押さえつけられ、明良の前に立たされてしまう。それでも一瞬の隙をついて部屋のスミに逃げていった。
「しょうがない、僕から紹介しよう。彼女はアルシア。アルシア・アリクスだ。ちなみにさっきの僕の予想はあっているか?」
ニコラスは振り返ってアルシアに問いかける。
「そうよ、占いの結果はほとんど覚えてないわ。でも、そいつを殺さなければならない、そう思ったことは覚えてるわ。」
「せめて、明確な根拠を持って殺して欲しいんだが。いや、もちろん殺さないで欲しいんだけど...」
あまりにも不服であるが、悲しきかな。先刻抵抗もできずに一方的に殴られた明良は、アルシアと殴り合いで勝てるビジョンが一切見えなかった。なので、
「とりあえず謝るので、許してください!」
とりあえず謝る。これが明良が悲しい学生生活の中で辿り着いた、とにかく生き残るための方法である。
明良の行動が予想外だったのか、アルシアも驚いているようだ。
「ま、まぁそこまで言うなら許してあげなくもないけど。それに何があったのかなんて覚えてないしね...」
なら最初から殴りかからないでほしい。
「まぁ、一応仲直りしたことだし…そういえば彼のことをアルシアに紹介してなかったね。彼は...」
「大田明良。よろしく。」
無難な自己紹介になってしまったが、明良にはこれ以上言えることがない。言えることとすれば…
「聞いてくれアルシア。アキラは異世界からやってきた異世界人なんだ!!!」
しまった。明良はそう思った。異世界出身であることについて、結局何も説明できていない。
「ごめんさい、私少し聞き間違いをしてしまったみたいだから、もう一回だけ言って貰える?」
アルシアが眉間に皺を寄せ再度ニコラスに聞き返す。
「異世界から来たらしいんだよ!アキラは!!!」
まずい、どんどんテンションが上がっていくニコラスを、何とか止めなければこのままは...
「聞くけど、異世界ってのは…」
「別の世界ってことだ!」
ニコラスのテンションはどんどん高くなる一方である。アルシアは大きくため息を吐くと明良の方を向く。
「あんた、これ本当なの?」
アルシアの質問に、明良はしどろもどろになる。
「えっと、その...」
本当のことを言おうにも、どのように伝えればいいか明良には分からなかった。
「あと10秒で答えなさい。ちなみに、嘘をついたら殺すわ。」
そうこうしているうちに、痺れを切らしたアルシアが迫ってくる。
「ホントウデス...」
明良はアルシアの圧に押し負けそう答えた。
アルシアしばらく明良を見つめる。そして考え込むように頭に手を当てる。
「ニコラス、こいつやっぱやっちゃいましょう。」
アルシアは顔を上げると、そう言って腰に差していたサーベルを引き抜いた。
流石に刃物は洒落にならない。そう思い明良はニコラスに助けを求めるが...
「すまない、先端恐怖症なんだ!」
そういうとアルシアから距離を取った。
あとのことは言わずもがな、ベッドから飛び起き、屋敷中を逃げ回る明良を、サーベルを振り回しながら追い回すアルシアとその遠く後ろを着いて回るニコラス。
アルシアがみた未来を明良が知るのは、もう少し先の話である。
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