良心市

戸浦 隆

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一、良心市

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「やっぱり足りないわ」
「もう一度、数えてみろ」
「三度も数え直したのよ」
「もう一度だ」
 テーブルの上にはコインの山が三つ。1ゼラ、5ゼラ、10ゼラの山。それをもう一度数えてみた。
「241ゼラよ、何度数えても」
 夫が数え直しても、同じだった。
「おかしいな。誰かが間違えて入れたのかな。野菜はぜんぶ売れると、250ゼラじゃないといけないのに」
 わたしたちはダミレの町のはずれに木造りの野菜棚を置いている。ひと袋、またはひと束がどれも10ゼラ。お客さんはほしいだけの野菜を買い、木造りの箱の穴に代金を入れる。町のみんなは、それを「良心市」と呼んでいる。形は不ぞろいだけれど、朝採れの野菜は新鮮だから毎日ぜんぶ売れる。
「こんなこと、初めて」
「誰だって間違うことはあるさ。10ゼラと1ゼラを間違えたんだ」
「コインの大きさだって、色だって違うのに」
「目の悪い人もいるだろうし、持ち合わせがなかったのかもな」
「そうね」
「たぶん、な」

 けれども次の日も、その次の日も箱の中のお金は241ゼラだった。そうして、こんなことが十日も続いた。
「ねえ、貼り紙したらどうかしら。『1ゼラの品はありません』って」
「よせよ。誰かが1ゼラで買ってるって知れるじゃないか」
「そうよね。まねをされても困るし」
「そうじゃない。ほかのお客さんが嫌な思いをするだろう?」
 嫌な思いはわたしたち充分してますけど、と言おうとした。
「町の人の良心を疑うことになるんだぞ」
「じゃあ、どうするの? わたし、許せないわ」
「何か事情があるんだ、きっと」
 でも、わたしの気持ちはおさまらなかった。それで、わたしはこっそり見張ることにした。夫がダミレ市場に野菜を運びに行っている間に。
 糸杉の林の陰で見ていると、おばあさんが買い物をした。立ち去ったあと、箱の中をのぞくと銀色の10ゼラが見えた。
 次に来たのは、犬を連れたおじいさん。やっぱり銀色のコインだった。
 その次に、男の子が駆けて来た。同じように野菜を取り、コインを入れる。立ち去ったあと、箱の中をのぞくと銅のコインが一枚見えた。
 1ゼラだわ!
    
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