良心市

戸浦 隆

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二、1ゼラのコイン

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 男の子の後を追いかけた。
 角を曲がり町に入ったとき、突然大きな音が聞こえた。
 ガチャン! 何か器の割れる音。
 最初の路地だった。思わず立ち止まり、路地の奥をのぞき込んだ。
「この子は、何てことするの!」
 女のキンキンする声が耳に飛び込んで来た。
「ごめんなさい!」
 今度は、男の子の声。ひょっとしたら……。
 路地の一番奥のそまつな家の中で、また音がした。パチン!
 窓の外からのぞくと、ひどくやせた女の人が部屋の真ん中に立っている。その側に、頬を手でおさえた男の子がうなだれていた。
 あの男の子だ!
「こんなことをするなんて、あなたは!」
 肩をふるわせながら、女の人は涙声で言った。
「1ゼラで、野菜がこんなに買えるはずないじゃないの!」
「でも、母さん………」
「言いわけは、よしなさい!」
 パチン! と、また男の子の頬で音が鳴った。

 わたしはドアを開け、中に飛び込んだ。
「奥さん、たたくのは勘弁してあげなさい」
 母親が、おどろいた顔をしてふり向いた。
「あなたは?」
「わたしは町はずれに野菜を出している農家のものです。いったいどうしたの?」
「申しわけありません。この子が取り返しのつかないことをいたしました」
 母親は両手を合わせたまま、くずれるように突っぷした。
 わたしは母親を抱き起こし、部屋の隅のベッドに坐らせて話を聞いた。
 父親は事故で亡くなり、自分は無理がたたって寝込んでいると言う。十日ほど前から、この子に小銭を持たせ野菜を買いに行かせているのだと。母親は、床のくだけた貯金箱を指さした。
「あの中には1ゼラのコインしか入れてなかったんです。この子は1ゼラのコイン一つで、おたくの野菜を買って来てたんです。足りないお金は、いずれお返しします。どうか、どうか許して下さい」
「そうじゃないのよ、奥さん」
 わたしは優しく母親の背をなでた。
「この子とね、約束したんです」
「え?」
「野菜は1ゼラでいいって」
「それはいけません。それでは泥棒も同じです」
「そうね。だから、足りない9ゼラ分をうちの畑で働いてもらうことにしたんです」

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