良心市

戸浦 隆

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三、ウソとホント

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 とっさについたウソだった。
 でも、母親は少しほっとしたようだった。
「違うんだよ、母さん」
 男の子が母親とわたしに真っ直ぐな目を向けた。
「ぼくが持って行ったのは、10ゼラのコインなんだ。1ゼラじゃない」
「何を言ってるの、この子は」
「ホントだって」
「見てみなさい、床の上を」
 床には、こわれた貯金箱と1ゼラのコインが散らばっている。
「どこに10ゼラのコインがあるというの」
「ぼくだって1ゼラで野菜が買えないことぐらい知ってるよ。でも、貯金箱から出て来たのは10ゼラのコインだったんだ」
 母親がよろよろと立ち上がり、男の子のところへ行こうとした。
「待って」
 母親を坐らせ、男の子にたずねた。
「どういうことなのか、分かるように説明してくれる?」
「母さんが病気して、それでぼくが買いものに行くことになったんだ。家にお金がなくなったので、貯金箱のお金を使うことにした。うちでは1ゼラのコインがあると、貯金箱に入れることにしてる。だから1ゼラを10枚持って行けばいいと思って、貯金箱から出すと……」
「10ゼラのコインが出て来たのね」
「うん。母さんは10ゼラのコインも入れてたんだって思ったよ、最初は」

「最初は?」
「でもね、出て来るのは10ゼラのコインだけなんだ。1ゼラのコインは一度だって出て来なかった。母さんが、どうして1ゼラしか入れてないって言ったのか分からないけど」
「きょうも?」
「うん。きょうも」
 男の子が、ウソを言っているとは思えない。
 じゃあ、さっき料金箱の中に入っていた銅のコインはいったい……。それに、床に散らばっているこの銅のコインはいったい……。
 母親とわたしは、キツネにつままれたように顔を見合わせた。
「ウソは言ってないでしょうね」
 母親は、きつい調子で男の子に確かめた。
「ぼく、ウソは言わないよ。だって、いつも母さんにそう言われてるから。だけど10ゼラじゃなかったんでしょ、ぼくの入れたお金」
 男の子は、とても不安そうな目をしていた。
 この子の前で、ウソはつけない。わたしは、男の子の目と自分の目が同じ高さになるように腰をかがめた。
「そう、不思議なことだけれどね」
「じゃあ、ぼくはどうしたら……」
「あなたにお願いがあるの」
「何ですか?」

「さっき、わたし思わずウソをついてしまったの。悪いことだけれどね。それで、わたしのついたウソをウソでなくしてほしいの」
「ぼくが畑で働くってこと?」
「そうしてくれると、ウソがウソでなくなるでしょう? わたしもウソつきにはならないし、お母さんも喜んでくれると思うの」
「いいよ。ぼくも、ぼくの払ったお金が10ゼラじゃないと嫌だから」
「明日から来てくれる?」
「何時に行けばいい?」
「夜明け前に。たぶん9ゼラ以上の仕事になるんじゃないかしら。もちろん、余分に働いた分はお給料として払うわ。早いけれど、起きられる?」
「大丈夫です」
「朝ごはんは畑仕事が済んでから。夫とわたしと三人で、いっしょに食べましょう。そのあと、野菜を市場に持って行くの。途中で野菜棚に野菜を置いたら、あなたの仕事はおしまい。お母さんの朝ごはんは、それからで間に合うでしょう?」
 男の子はうなずいた。
 男の子の頭を軽くポンポンとたたくと、わたしは立ち上がった。
 母親は何度もお礼を言いながら、何度もわたしに頭を下げた。
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