ショウタ君の卒業式

戸浦 隆

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三、ショウタくんの卒業式

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 何かわけがあって、授業に出られなかったり学校の小屋に住んだりしてるんだ。そうしてショウタくんは、自分のことをみんなに知ってほしいんだ。まゆ毛は剃ったんじゃないこと。「けど」や「だから」がきらいなこと。自分のお母さんと思っている先生がいることも。
「電気」
 ショウタくんが、ぼそっと言った。
「え?」
「つけたくなる」
「明かりを?」
「こんなうすく曇った日は、特に」
「どこの?」
「学校中の」
「明かり全部?」
 ショウタくんの眼がうなずく。
「使ってない教室に明かりがついてたら、先生が消すよ」
「消されたら、またつける」
「イタチごっこだね」
「明るい方がいいだろ」
「まあね」
「それに、きょうは特別な日だ」
「そうだ、卒業式だ。ボクらの」
 ショウタくんの眼が、うれしそうに細くなった。
 その時、チャイムが鳴った。
「全員、体育館に集まるように」と、校内放送が流れた。
「やるか」
 ショウタくんが立ち上がる。
 ボクも何だかやってみたくなった。
 体育館に生徒たちが集まり、整列を始めてる。
 ショウタくんとボクは、こっそり校舎へ向かった。どの教室も、誰もいないし明かりもついていない。
 ボクらは手分けして学校中の明かりをつけることにした。一階と二階はボクが、三階と四階はショウタくんが。
 ショウタくんが、ものすごいスピードで階段を駆け上がる。ボクも片っぱしから教室のスイッチを入れた。おっと、トイレを忘れるところだった。二階の音楽室や理科室の明かりも忘れずに。
 やってるうちに、ワクワクして来た。
 全部つけ終わって、階段に向かった。ショウタくんが降りて来るはずだ。
 しばらく待った。でも、降りて来ない。どうしたんだろう……。

 ボクは階段をのぼった。二階と三階の間にある踊り場に立った時だ。
「卒業、おめでとおう!」
 屋上から、ショウタくんの大きな声が聞こえた。ボクは三階の廊下の窓を見上げた。窓の外を、ショウタくんの体が花びらが舞うようにゆっくりと落ちてゆく。顔いっぱいの笑顔で。
「ショウタくん!」
 ボクは階段をいっきに駆け降りた。二段、三段跳び越して。
 ショウタくん、大丈夫だろうか。気が気じゃなかった。
 校庭に出た。ショウタくんの姿が、無い!
 え? そんなはず……。確かに見たんだ、ショウタくんが落ちてゆくのを。
 校長先生が体育館から出て来た。
「ショウタくんが来ていないのよ。どこ?」
「それが……」
「いなくなったの? だから言ったじゃないの。側に貼り付いていてって」
 屋上から飛び降りた、なんて言えなかった。どこにもショウタくんがいないんだから。
 ひょっとしたら、小屋に戻ってるかも。ボクは駆け出した。
 校長先生が、気が狂ったようにボクの後をついて来る。
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