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二、カギュウ
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カタツムリは、親切にボクにつき合ってくれた。
「では、話してやろう。まずは、この二つのツノだ。オレの目はその先についてる」
「クモやチョウやアリとは違うんだね」
「そうさ、みんな違うのさ。それにこのツノ、なくしてもまた生えて来る」
「ええ? すごい!」
「アゴに、もう二つツノがあるだろう。これはエサを見つけるためのもの」
「それぞれ働きがあるんだね」
「それから背中のカラ。こいつは便利だぞ。あぶない時は中にもぐり込める」
ボクにはツノも、カラもない。クモのような脚もチョウのような羽も、アリのような固い頭も。
「ツノの先も、背に負うカラも丸い。つまり『固いツブリ』を持つ」
「だから『カタツムリ』か」
「それからオレは『マイマイツブリ』とも呼ばれている。カラが『巻き巻きで丸い』からな。名前はほかにもあるぞ」
「名前が? いくつも?」
そうだ、ボクには名前もないんだ。
「名前って、大切なもの?」
「ああ、大切だとも」
カタツムリは、ずうっとずうっとむかしの話をしてくれた。
殿様が、家来に命令した。
「『カギュウ』を取ってまいれ」
「カギュウ、でございますか?」
「食すと不老不死となる、と書物にある」
「それはどのようなものでございましょう」
「土から生じヤブに棲む、とあるな」
「はてさて、それだけではわかりません」
「頭が黒く腰に貝をつけている」
「黒い頭に腰に貝、でございますな」
「頭にはツノが生えている、とも」
「頭にツノ? 見たことも聞いたこともございません」
「見つけて来なければ、お前の首はないものと思え!」
家来は恐れ、あわてて探しに出かけた。
いくつもの町村を過ぎ、いく人もの人々に聞き、いく山川を越えた。
けれども、なお見つからない。とうとうある谷に分け入ったところで力つき、ヤブの中に倒れ込んだ。
すると、大きな声がした。
「誰だ! オレの昼寝のジャマするやつは!」
見ると、みょうな姿をした者がにらんでいる。頭に黒いズキンをかぶり、腰にホラ貝をぶらさげて。
黒い頭に腰に貝……◦これだ! ああ、やっとめぐり会えた!
だが待てよ。ツノはいったいどこにある?
「お前さま、名は『カギュウ』とは申しませんか? ツノはどこにございましょう」
このみょうな姿をした者、じつは山伏。家来のカン違いをおもしろがり、からかってやれと思った。
「さてさてツノはどこにある?」
家来は山伏のまわりを、ぐるぐる回りながら歌いはやした。
「雨風も吹かぬにツノ出さぬとは、カラ打ち割るぞ。カラ打ち割るぞ」
山伏は家来の後ろについて、ぐるぐる回りながら踊りはやした。
「出む出む虫むし。出む出む虫」
山伏が両手の人差し指を頭にかざしながら、「出よ出よ虫よ」と歌うのである。
家来は、確かにこれは「カギュウ」に相違ないと思い込んだ。
こうして家来は意気ようようと胸を張り、山伏とともに国へ戻った。
家来は殿様の前に山伏を連れ出した。
「何じゃ、これは。山伏ではないか!」
「ええ? 『カギュウ』ではございませんのか?」
山伏は、ガハハと笑った。
「殿様よ。『カギュウ』とは、ほらこれじゃ」
山伏が取り出したのは、葉の上に乗ったカタツムリ。
「楽しませてもらった礼に、これを進ぜよう」
殿様は「カギュウ」を調理させ、さっそく食べることにした。食べると、じきに殿様は死んでしまったという。
「では、話してやろう。まずは、この二つのツノだ。オレの目はその先についてる」
「クモやチョウやアリとは違うんだね」
「そうさ、みんな違うのさ。それにこのツノ、なくしてもまた生えて来る」
「ええ? すごい!」
「アゴに、もう二つツノがあるだろう。これはエサを見つけるためのもの」
「それぞれ働きがあるんだね」
「それから背中のカラ。こいつは便利だぞ。あぶない時は中にもぐり込める」
ボクにはツノも、カラもない。クモのような脚もチョウのような羽も、アリのような固い頭も。
「ツノの先も、背に負うカラも丸い。つまり『固いツブリ』を持つ」
「だから『カタツムリ』か」
「それからオレは『マイマイツブリ』とも呼ばれている。カラが『巻き巻きで丸い』からな。名前はほかにもあるぞ」
「名前が? いくつも?」
そうだ、ボクには名前もないんだ。
「名前って、大切なもの?」
「ああ、大切だとも」
カタツムリは、ずうっとずうっとむかしの話をしてくれた。
殿様が、家来に命令した。
「『カギュウ』を取ってまいれ」
「カギュウ、でございますか?」
「食すと不老不死となる、と書物にある」
「それはどのようなものでございましょう」
「土から生じヤブに棲む、とあるな」
「はてさて、それだけではわかりません」
「頭が黒く腰に貝をつけている」
「黒い頭に腰に貝、でございますな」
「頭にはツノが生えている、とも」
「頭にツノ? 見たことも聞いたこともございません」
「見つけて来なければ、お前の首はないものと思え!」
家来は恐れ、あわてて探しに出かけた。
いくつもの町村を過ぎ、いく人もの人々に聞き、いく山川を越えた。
けれども、なお見つからない。とうとうある谷に分け入ったところで力つき、ヤブの中に倒れ込んだ。
すると、大きな声がした。
「誰だ! オレの昼寝のジャマするやつは!」
見ると、みょうな姿をした者がにらんでいる。頭に黒いズキンをかぶり、腰にホラ貝をぶらさげて。
黒い頭に腰に貝……◦これだ! ああ、やっとめぐり会えた!
だが待てよ。ツノはいったいどこにある?
「お前さま、名は『カギュウ』とは申しませんか? ツノはどこにございましょう」
このみょうな姿をした者、じつは山伏。家来のカン違いをおもしろがり、からかってやれと思った。
「さてさてツノはどこにある?」
家来は山伏のまわりを、ぐるぐる回りながら歌いはやした。
「雨風も吹かぬにツノ出さぬとは、カラ打ち割るぞ。カラ打ち割るぞ」
山伏は家来の後ろについて、ぐるぐる回りながら踊りはやした。
「出む出む虫むし。出む出む虫」
山伏が両手の人差し指を頭にかざしながら、「出よ出よ虫よ」と歌うのである。
家来は、確かにこれは「カギュウ」に相違ないと思い込んだ。
こうして家来は意気ようようと胸を張り、山伏とともに国へ戻った。
家来は殿様の前に山伏を連れ出した。
「何じゃ、これは。山伏ではないか!」
「ええ? 『カギュウ』ではございませんのか?」
山伏は、ガハハと笑った。
「殿様よ。『カギュウ』とは、ほらこれじゃ」
山伏が取り出したのは、葉の上に乗ったカタツムリ。
「楽しませてもらった礼に、これを進ぜよう」
殿様は「カギュウ」を調理させ、さっそく食べることにした。食べると、じきに殿様は死んでしまったという。
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