水玉とカタツムリ

戸浦 隆

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三、名前

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「『カギュウ』とは、『虫の渦』に『牛』と書く。背に渦巻きの貝がらを乗せ、頭にツノが生えている姿形からついた名前だ。すなわちオレは、『蝸牛』にして『でんでんむし』というわけだ」
「名前って、おもしろいね」
「おもしろいだけじゃない。名前は自分が何ものかを教えるものなのさ。それを取り違えると、トンチンカンな昔話みたいなことになる」
「どうやったら、ボクの名前は見つかるの? ボクには脚も羽も頭もないのに」
「オレにもないさ。頭だって胴の一部だ」
「ボクにはツノもカラもない。チョウが探すような彼女もいない」
「お前はクモの脚やチョウの羽やアリのような頭がほしいのか? オレのようなツノやカラがほしいのか?」
「そうじゃないけど……」
「ふむ」と言うと、カタツムリはツノをゆっくり動かしあたりを見回した。
「とって置きのものを見せてやろう」
 カタツムリはのそりと動き出し、葉っぱから枝へ移る。
 そこには、もういっぴきカタツムリがいた。
 近づいたカタツムリの顔から、白く細長いものがにょきにょきと出て来た。
 カタツムリはそれを、なんと相手の体に突き刺したのだ。
「あっ!」
 ボクはびっくりして、ぶるんとふるえた。
「これは『レンシ』という『恋の矢』だ。この矢を通してオレは仲間の力をもらう。その力で、オレはオレの中にいる彼女と子を作る」
 カタツムリとカタツムリがからみ合い、やがて離れた。
「形にとらわれるな。みんなそれぞれ生きれるように、それぞれ違う。自分と違うからって嫌ったり、うらやむことはない。自分と違うからこそ自分がわかる。自分がわかれば、どのみんなも大切だとわかる」

 雨が降って来た。ボクのまわりに、たくさんのボクが出来る。
 カタツムリがツノを振った。
「また会おう。自分を粗末に扱うな。自分が愛せるような自分になれ。その時にはお前にふさわしい名前がついているだろう」
「ありがとう」
 カタツムリに手を振ろうとしたけれど、ボクには手がない。それで手の代わりに、体をのばした。
 すると、すぐとなりのもうひとつのボクに触れた。つるん、とボクらはひとつになった。
 あれ? ボクは大きくなったぞ。
 それからボクは、もうひとつのボクとひとつになった。
 あれれ? また大きくなったぞ。
 そうしてボクは、また別のひとつとひとつになった。大きくなったボクは葉っぱをすべり落ちる。ボクはその先のボクとひとつになった。
 ボクは小さな流れになる。
 ボクはあちこちから集まる流れとひとつになった。ボクはたくさんのボクとつながり大きくなった。
 これからボクは、どんなボクになるんだろう。そうしてボクには、どんな名前がついているんだろう。

       ── 了 ──
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