君じゃないキミと覆面少女

雨宮零

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きっかけはサイレンの音

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春は……めんどくさい。
クラス替えがあって、そのせいで去年まで作り上げてきた私の立場をはじめから作り直さなければ行けなくて、なりたくない陽キャラの子達と友達にならなくちゃいけなくて……
青春なんて、地獄だ。
でも、人一倍好かれたいと思ってる私にとってはやめることが出来ない。
自業自得だ。
今だって、体育の移動で誰と行くか必死で探してた。幸い、ぼっちにならずにグランドまで行けたけど。
こんな自分を見て常々思う。くだらなすぎる。

グラウンドには、まだ4月中旬だと言うのに、すっかり緑色になった桜の木が曇の空の下で静かに揺れていた。
花を落とした木には、華やかさなんてものなく、誰も見ている人はいなかった。
寂しそうだな、なんて、ふと思ってはすぐに忘れた。

「美津はさ、50メートル走、去年何秒だったの?」
一緒に歩いていた理沙がさりげなく聞いてきた。きっと、今のうちにリサーチしておきたいんだろう。私の方が早かったら同じグループにならないように。私の方が遅かったら同じグループになれるようにと。
「8秒4、かな。」
「まぁ普通って感じだね。私は7秒9だったよー!」
誰もあんたのタイムなんか聞いてないのに自ら言うとか……。自慢ですか、そうですか。
「すごいね!早く走れるってうらやま―。」
だが、あえて本心ではないことを口に出す。こんなこともう慣れっこだ。
「ありがとっ!じゃあさ、同じグルなろ?」
当たり……。心の中で呟いた。少しにやけてしまう。
「いよいよ!理沙と一緒は心強いわ」
「なんでよ―。」
そこまで大げさに大きな声出さなくてもいいのに。耳がキンキンする。
うるさいな。

はじめに男子がソフトボールで、女子が50メートル走の測定をするとこになった。
背の順で並んで、私と理沙は同じグループになれるように順番を入れ替えてもらう。見ると、ほかの陽キャラ達も、同じことをしていた。陰キャラ達は嫌な目つきで私達を睨んでくる。
当たり前のことだ。

私たちの順番になる。膝をつきスタートの合図を待っていた。
「よーい!ピーッ!!」
旗が勢いよく上がり、笛の音と同時に走り始める。
どうやら私が最初にゴールしたらしい。理沙の方を見る。息を整えながら、手に膝をついている。あとでなんか言われそうだな、なんて思ったら少し鳥肌が立った。陽キャラの女子は怒らせると怖い。
「……美津、速いね。」
まだ整っていない息で笑いかけてくる。だが、その目は笑っていなかった。
「なんでだろ―。部活のおかげかな?」
その目をそらして空に目線をやった。
あいにく、まだ空は厚い雲で覆われていた。
「美津って美術部だよね?」
「うん。まあなんにせよ、記録が上がってよかった!今年こそはA評価行けるかなあ。」
はやく戻ろ、と付け足してスタート位置の方へと歩き始める。理沙は何か納得いかないような顔をして私を見つめていた。
「やっぱりA評価取らないとね―。」
なんて言って理沙は苦笑いしていた。

異変というのは、なんの前触れもなくいきなりやってきた。
男子と交代し、ソフトボールの測定をしていた時、50メートル走の方でざわついているのに気づいたのだ。
「なんだろうね。って雨宮くん倒れてるよ?!」
ソフトも同じペアでやっていた理沙の指さす方向を見てみる。だが、あまり良く見えない。
「雨宮くんって?」
「ほら!同じクラスの!雨宮零!」
その名前に、私の心臓が大きく波打った。
雨宮零……私の元友達。中学上がってから全く話さなくなった人。
そして彼が倒れている。
私は無意識に彼の方向へと走って行った。
友達でもないのに。ただ、何となく。
「ちょ、ちょっと美津??」
引き留めようとしていた理沙もすぐに私の後についてきた。きっとほかの女子達も異変に気づいて向かっていたからだろう。
近くまで行くとよく見える。
校舎の方へ急いで走っていく先生。携帯を必死につかんでつかえながら話す先生。
「……右足の太ももの骨が、飛び出しているんです!!」
通り過ぎる途中、そう耳に飛び込んできた。
こんな時ベテランの体育教師なら冷静に行動するのだろうけど、こういう日に限っておらず、今年入ってきた新人ばかりだった。

零の周りは無数の男子達で囲まれていた。その隙間を通るようにして中へと入っていく。
零の赤くなった苦しそうな顔が見える。
足は……右足の膝が、へこんでいた。
いや、正確にはへこんでいたのではない。先生の言う通り、太ももの骨が突き出ているのだ。心臓がまた大きく波打った。少し、頭の中が混乱していた。私は、たくさんの心配の声が上がる中、1人だけ唖然として零の姿を見続けていた。

サイレンの音が近づいてくるのがわかる。その音で目が覚めたような気がした。脳が一時的に思考停止していたみたいだ。
救急車がグランドを入ってくる。音だけでわかった。
それにほっとしたのか、零のそばについていたものの何も出来なかった先生と、応急処置を行っていた保健の先生がやっと顔を上げた。
「授業は中止だ!校舎に戻りなさい!」
本来もっと早く言うべき言葉を、小太りの先生が言う。すっかり忘れてたって顔だ。
何故かこの場から離れたくない自分がいたが、理沙に手を引っ張られて、ようやくその場から離れた。だが、校舎に向かって走っているときでも、零のことが気がかりでチラチラと後ろを見た。
すると、零の瞳がこちらを向いたような気がした。その彼は何故か、私に向かって笑っていたように見えた。その笑顔に、無意識に頬が緩んだ。
痛いなら痛そうな顔をしていればいいのに。バカはどっちだよ。
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