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第一部 翠河の国の姫、押しが強すぎる
第二話 昼休み、陥落
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その国の一の姫は、黒曜石を思わせる漆黒の髪、水を湛えたごとき翠玉の瞳から、翠瑶姫と呼ばれた。
風にも手折られそうな繊細な姿とは裏腹に、侍従が手を焼くお転婆だと知ったのは、初めての御目見えからすぐのことだった。
「お前は私の物です。私だけの言うことを聞きなさい」
そんな理不尽な命令にも従ってしまうほど、崇敬の念を抱くのも早かった。
***
「町上、学食行こうぜ」
「……俺、弁当だから」
昼休みに入るなり、後ろの席から周藤智哉が声をかけてくる。
すっかり忘れていたが、こいつの席は俺の真後ろだ。
授業中も、何かとちょっかいをかけてくるので面倒くさい。
俺は前世で何か悪いことでもしたんだろうか。
……したんだろうな。最近見る夢の内容を思い出す限りは。
「じゃあ、学食で弁当を食べよう」
「席が少ないから、弁当組が入るのは肩身が狭いんだよ。それに、先約があるから」
「そっか、残念だ」
思ったより大人しく、周藤は教室を出て行った。ただ、その横顔は何か企んでいるようにも見えたのは気のせいだろうか。
鞄から弁当を取り出して、窓際の席へ向かう。
前髪の長い、眼鏡の男子生徒が待っていた。
俺は毎日、陰キャ友達の高橋誠と最近のゲームや漫画の情報交換をしながら弁当を食べている。
この平和で有意義な時間を、いくら前世の縁があろうとも壊させる訳にはいかない。
「郁朗氏、最近なんかやたら周藤に絡まれてるよな。何かしたのか?」
「知らねーよ。何もしてねーよ」
少なくとも、現世では。ちょっと思い出してない振りをして、あしらっているだけだ。
「ところで、これはネットで関係者らしきアカウントがポロリした情報なんだが、あの『ドラエピ』の新作が出るらしいぞ」
ファンタジーRPGのビッグタイトル『ドラゴンズ・エピック』の名前が、誠の口から漏れ出る。頭痛が痛い。
「悪い、誠氏。ファンタジーはしばらく思い出したくない」
ファンタジー異世界を連想させるものは、全て前世の記憶に繋がっていく。
全部思い出してしまえば、今の平穏な生活が一変してしまう。そんな気がする。
誠は怪訝な顔をしていたが、こちらの意を汲んでくれて、アクションゲームと格闘漫画の話をして盛り上がって昼休みは終わった。
翌日の昼休み。
弁当片手に、周藤が真っ直ぐ俺と誠のところにやって来た。
「今日は弁当なんだ。一緒に食べても良いかな?」
良いかも何も、既に椅子を持ってきて座っている。行動が早い。
断る文言を考えたが、何も出てこない。困ったことに、俺も誠もコミュ障陰キャだ。そんな語彙は持ち合わせていない。
「……どうぞ」
誠が折れた。一縷の望みをかけたが、ダメだったか。
机を2つくっ付けて、3人で弁当を広げた。
普通の弁当箱に茶色い系のおかずの割合の多い、ザ男子高校生の弁当の俺と誠に対して、周藤の弁当はサンドイッチだった。
「それ、足りるのか?」
思わず聞いてしまった俺は馬鹿だろう。
「これしか作れなかったんだ」
照れる様子もイケメンだ。何食ったらこんな生き物が生まれるんだろうか。
「それ、自分で作ったの?」
誠が尋ねて、自然と会話は弁当の話題になっていった。
「うちは親が共働きで朝早いから、学食か自分で弁当作るかの二択だ」
「へえー。うちはお母さ……お袋がパートで、朝は余裕があるから作ってくれるんだ」
まずい。誠が周藤の人当たりの良さに馴染み始めている。このままでは、なし崩し的に昼休みの憩いの時に周藤が入り込んでしまう。
「町上のとこは?」
「俺のとこも誠と大体同じだ。冷蔵庫にお袋の作ったおかずが入ってるから、弁当箱に適当に詰めてきてる」
やばい。俺も馴染み始めた。何を呑気に弁当談義をしているんだ。
「サンドイッチだけで足りないなら、スープも付けたらどうだ? スープジャーにインスタントスープを入れて持ってくるだけでも一品増えるだろ」
この辺は姉の受け売りだ。
………………いや。
何を真面目にアドバイスなんてしてるんだ?
周藤が俺を見る目付きが変わってきたぞ。
そんな熱い目で見るな。怖い。
「流石、町上だな」
幻聴が聞こえた。
風にも手折られそうな繊細な姿とは裏腹に、侍従が手を焼くお転婆だと知ったのは、初めての御目見えからすぐのことだった。
「お前は私の物です。私だけの言うことを聞きなさい」
そんな理不尽な命令にも従ってしまうほど、崇敬の念を抱くのも早かった。
***
「町上、学食行こうぜ」
「……俺、弁当だから」
昼休みに入るなり、後ろの席から周藤智哉が声をかけてくる。
すっかり忘れていたが、こいつの席は俺の真後ろだ。
授業中も、何かとちょっかいをかけてくるので面倒くさい。
俺は前世で何か悪いことでもしたんだろうか。
……したんだろうな。最近見る夢の内容を思い出す限りは。
「じゃあ、学食で弁当を食べよう」
「席が少ないから、弁当組が入るのは肩身が狭いんだよ。それに、先約があるから」
「そっか、残念だ」
思ったより大人しく、周藤は教室を出て行った。ただ、その横顔は何か企んでいるようにも見えたのは気のせいだろうか。
鞄から弁当を取り出して、窓際の席へ向かう。
前髪の長い、眼鏡の男子生徒が待っていた。
俺は毎日、陰キャ友達の高橋誠と最近のゲームや漫画の情報交換をしながら弁当を食べている。
この平和で有意義な時間を、いくら前世の縁があろうとも壊させる訳にはいかない。
「郁朗氏、最近なんかやたら周藤に絡まれてるよな。何かしたのか?」
「知らねーよ。何もしてねーよ」
少なくとも、現世では。ちょっと思い出してない振りをして、あしらっているだけだ。
「ところで、これはネットで関係者らしきアカウントがポロリした情報なんだが、あの『ドラエピ』の新作が出るらしいぞ」
ファンタジーRPGのビッグタイトル『ドラゴンズ・エピック』の名前が、誠の口から漏れ出る。頭痛が痛い。
「悪い、誠氏。ファンタジーはしばらく思い出したくない」
ファンタジー異世界を連想させるものは、全て前世の記憶に繋がっていく。
全部思い出してしまえば、今の平穏な生活が一変してしまう。そんな気がする。
誠は怪訝な顔をしていたが、こちらの意を汲んでくれて、アクションゲームと格闘漫画の話をして盛り上がって昼休みは終わった。
翌日の昼休み。
弁当片手に、周藤が真っ直ぐ俺と誠のところにやって来た。
「今日は弁当なんだ。一緒に食べても良いかな?」
良いかも何も、既に椅子を持ってきて座っている。行動が早い。
断る文言を考えたが、何も出てこない。困ったことに、俺も誠もコミュ障陰キャだ。そんな語彙は持ち合わせていない。
「……どうぞ」
誠が折れた。一縷の望みをかけたが、ダメだったか。
机を2つくっ付けて、3人で弁当を広げた。
普通の弁当箱に茶色い系のおかずの割合の多い、ザ男子高校生の弁当の俺と誠に対して、周藤の弁当はサンドイッチだった。
「それ、足りるのか?」
思わず聞いてしまった俺は馬鹿だろう。
「これしか作れなかったんだ」
照れる様子もイケメンだ。何食ったらこんな生き物が生まれるんだろうか。
「それ、自分で作ったの?」
誠が尋ねて、自然と会話は弁当の話題になっていった。
「うちは親が共働きで朝早いから、学食か自分で弁当作るかの二択だ」
「へえー。うちはお母さ……お袋がパートで、朝は余裕があるから作ってくれるんだ」
まずい。誠が周藤の人当たりの良さに馴染み始めている。このままでは、なし崩し的に昼休みの憩いの時に周藤が入り込んでしまう。
「町上のとこは?」
「俺のとこも誠と大体同じだ。冷蔵庫にお袋の作ったおかずが入ってるから、弁当箱に適当に詰めてきてる」
やばい。俺も馴染み始めた。何を呑気に弁当談義をしているんだ。
「サンドイッチだけで足りないなら、スープも付けたらどうだ? スープジャーにインスタントスープを入れて持ってくるだけでも一品増えるだろ」
この辺は姉の受け売りだ。
………………いや。
何を真面目にアドバイスなんてしてるんだ?
周藤が俺を見る目付きが変わってきたぞ。
そんな熱い目で見るな。怖い。
「流石、町上だな」
幻聴が聞こえた。
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