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第一部 翠河の国の姫、押しが強すぎる
第七話 シャルウィダンス?
舞踏会というものは、何度参列しても慣れない。
大広間の高い天井に反響する音楽。人々の騒めき。熱気。
ただ、美しく着飾った姫君に不埒な行いをする者が現れないか、見張り続ける。
麗しい翠瑤姫のお姿を、誰憚ることなく目に焼き付けることができる、それだけが密かな喜びだった。
その夜も、鮮やかな青のドレスを身に纏った姫君が、華のように踊る様を見つめていた。
「我が騎士、千隼よ。私と踊っていただけますか?」
「我が君のご命令とあらば」
「……命令でなければ、踊らぬと申すのか」
姫の眉が曇り、お心を痛めさせてしまったのだけは理解した。
あの時、私はなんとお答えすれば良かったのだろうか。
***
今日の体育は男女合同だった。
内容は、近づいている体育祭の地獄イベント、フォークダンスの練習だ。
「某、ダンスは苦手でござる」
誠は、まだサムライキャラを止めていないようだ。
だが、ダンスが苦手なのは俺も同じ。しかも女子と手を繋ぐとか、陰キャの俺達にはハードルが高い。
いやむしろ、触らないように微妙に手を浮かされる辱めを受けることが分かり切っている。
この世は地獄だ。
「フォークダンスなんか、簡単だろ。ステップも単純だし」
「陽キャで現役ダンス部の智哉が言っても説得力はない。ダンスが簡単か否かは、この際、問題じゃないんだ。そこのところを智哉は理解していない」
「……陽キャとか、ダンス部とかは関係ないだろ?」
しまった、本音が口からこぼれ出ていた。
男女別に並べられ、体育教師が人数を数えていく。
そして、爆弾が投下された。
「男子の方が、人数が多いな。一人女子役をやってもらおうか」
一部のメンツが騒ぎ出した。そりゃそうだろう。合法的に女子と手を繋げる機会を、逃したくはないだろう。
だが生憎、俺にはそんな機会は回ってこない。
ジャンケンで決める流れになる前に、立候補すべきだろう。そう、俺が決断した時だった。
「あ、俺が女子役やりまーす!」
軽い調子で手を挙げたのは、よりにもよって智哉だった。
一部の女子から悲鳴が上がる。なんてことをしてくれたんだ、こいつ。
「じゃあ、周藤は女子の後ろに並んで。男女で二列になって輪を作れ!」
教師も止めてくれればいいものを、さっさと進行を始めてしまった。女子に恨まれるぞ。
古臭いCDプレーヤーから音楽が流れだし、フォークダンスが始まった。
幸い、うちのクラスの女子は俺を人間扱いしてくれて、触れるのは指先だけだったが、ちゃんと手を繋いでダンスをしてくれた。
一人を除いては。
堤怜桜。ギャルの皮を被ったガキ大将。レオキング。
「あんた今、失礼なこと考えてんでしょ」
ゴミムシを見るような目で見てくる、幼少期からの昔馴染みだ。
「郁朗、あんた智哉くんと交代しなよ。するべき。いや、しろって」
「俺に命令するな。智哉に言えや」
「言えたら苦労しないっての! せっかく合法的に王子様に触れるチャンスだったのに!」
「触れるって、他に言い方」
女子も考えることは同じか。
クラス一のイケメン、智哉は女子の間で不可侵の王子様扱いを受けているらしい。
だからこその、抜け駆けでなく手を繋げる機会が無くなったことに、一部の女子は嘆いていると。
「俺を恨むのは筋違いだろ」
「郁朗頼みなのが、腹立つっての!」
ツインテールでビンタされ、ダンスのペア交代となった。
前方で女子役をやっている智哉は、楽しんでいるようで笑っている。相手の男子も、まんざらでもない表情をしていた。
胸のあたりが騒ついた。何かを思い出しそうな、そんなモヤモヤが渦巻いている。
あと三人。あと二人。あと一人。
次は、智哉がペアとなる番が来た。
「私と、踊ってくれませんか?」
急な衝動で、口をついて出た言葉だった。
それを聞いた智哉は、一瞬驚いたように呆けて、次の瞬間には笑っていた。
「喜んで」
こういうのを極上の笑顔って言うんだろうか。できれば俺じゃなくて、意中の女子に見せてやってくれ。
大広間の高い天井に反響する音楽。人々の騒めき。熱気。
ただ、美しく着飾った姫君に不埒な行いをする者が現れないか、見張り続ける。
麗しい翠瑤姫のお姿を、誰憚ることなく目に焼き付けることができる、それだけが密かな喜びだった。
その夜も、鮮やかな青のドレスを身に纏った姫君が、華のように踊る様を見つめていた。
「我が騎士、千隼よ。私と踊っていただけますか?」
「我が君のご命令とあらば」
「……命令でなければ、踊らぬと申すのか」
姫の眉が曇り、お心を痛めさせてしまったのだけは理解した。
あの時、私はなんとお答えすれば良かったのだろうか。
***
今日の体育は男女合同だった。
内容は、近づいている体育祭の地獄イベント、フォークダンスの練習だ。
「某、ダンスは苦手でござる」
誠は、まだサムライキャラを止めていないようだ。
だが、ダンスが苦手なのは俺も同じ。しかも女子と手を繋ぐとか、陰キャの俺達にはハードルが高い。
いやむしろ、触らないように微妙に手を浮かされる辱めを受けることが分かり切っている。
この世は地獄だ。
「フォークダンスなんか、簡単だろ。ステップも単純だし」
「陽キャで現役ダンス部の智哉が言っても説得力はない。ダンスが簡単か否かは、この際、問題じゃないんだ。そこのところを智哉は理解していない」
「……陽キャとか、ダンス部とかは関係ないだろ?」
しまった、本音が口からこぼれ出ていた。
男女別に並べられ、体育教師が人数を数えていく。
そして、爆弾が投下された。
「男子の方が、人数が多いな。一人女子役をやってもらおうか」
一部のメンツが騒ぎ出した。そりゃそうだろう。合法的に女子と手を繋げる機会を、逃したくはないだろう。
だが生憎、俺にはそんな機会は回ってこない。
ジャンケンで決める流れになる前に、立候補すべきだろう。そう、俺が決断した時だった。
「あ、俺が女子役やりまーす!」
軽い調子で手を挙げたのは、よりにもよって智哉だった。
一部の女子から悲鳴が上がる。なんてことをしてくれたんだ、こいつ。
「じゃあ、周藤は女子の後ろに並んで。男女で二列になって輪を作れ!」
教師も止めてくれればいいものを、さっさと進行を始めてしまった。女子に恨まれるぞ。
古臭いCDプレーヤーから音楽が流れだし、フォークダンスが始まった。
幸い、うちのクラスの女子は俺を人間扱いしてくれて、触れるのは指先だけだったが、ちゃんと手を繋いでダンスをしてくれた。
一人を除いては。
堤怜桜。ギャルの皮を被ったガキ大将。レオキング。
「あんた今、失礼なこと考えてんでしょ」
ゴミムシを見るような目で見てくる、幼少期からの昔馴染みだ。
「郁朗、あんた智哉くんと交代しなよ。するべき。いや、しろって」
「俺に命令するな。智哉に言えや」
「言えたら苦労しないっての! せっかく合法的に王子様に触れるチャンスだったのに!」
「触れるって、他に言い方」
女子も考えることは同じか。
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だからこその、抜け駆けでなく手を繋げる機会が無くなったことに、一部の女子は嘆いていると。
「俺を恨むのは筋違いだろ」
「郁朗頼みなのが、腹立つっての!」
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急な衝動で、口をついて出た言葉だった。
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