悲恋の騎士と姫が転生したら男子高校生だったんだが、姫は俺を落とす気満々だ

つぐみもり

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第一部 翠河の国の姫、押しが強すぎる

番外編②  夢の人

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 いつの頃からか、夢に赤毛の青年が登場するようになっていた。
 健康的に日焼けした肌。鮮やかな髪の色は燃え盛る炎のようで、反対に瞳は落ち着いた夜の海の群青色。お伽話の兵士のような、かっちりとした服を着て、背筋を真っ直ぐに伸ばして立っている。
 彼は、若者らしくない、しかつめらしい表情で「姫様」と、俺を呼んだ。
 どういう訳か、夢の中の俺は「お姫様」らしい。
 最初は戸惑ったが、何度も呼ばれるうちに慣れた。
 夢の中の青年は、腰に剣を下げているので、剣士か兵士か。馬に乗っている時もあったので、騎士なのかもしれない。いつも難しい顔をして、姫のそばにいて、守ってくれていた。
 多分、前世の記憶なんだろう。自然とそう思えた。
 何度も夢を見ているうちに、姫の心が流れ込んできた。
 姫は、この赤毛の青年のことが好きで好きでたまらない。でも、身分差と立場があるから言えない。言ってはならないのだ。

 現実の俺は、他人よりちょっと顔と運動神経が良いらしい。不本意ながら、男女問わずモテた。
 なんとなく始めたダンスが性に合ったようで、そこでももてはやされた。影で「智哉ともやくんは王子様」と呼ばれていると知った時、笑ってしまった。俺は「王子様」じゃなくて「お姫様」なんだから。

 どうやら「王子様」の俺は、みんなの共有物らしい。モテる割には、告白されたのなんて片手で数えるほどだ。
 呼び出されて「好きです」と言われても、不思議そうに笑っているだけで、みんな何かを納得して離れていった。それを好都合だと思えるほどには、俺は悪い奴だったと思う。
 でも、誰に好かれても響かない。俺は――姫は、赤毛の青年が好きなのだから。
 いつからか、現実の中でも彼の面影を探すようになっていた。何百回と夢に見ても、まだ名前さえ分からなかったのに、我ながら重症だと思う。

 そんな日々の中、彼に出会ったのは、高校受験の試験会場だった。
 彼は色白で細くて、背は高いわりに猫背で、周りを見ないように俯いて参考書を読んでいる。赤毛の青年とは全然似ていないのに、それでも見てすぐに彼だと分かった。不意にこちらを向いた時、一瞬目が合った。その眼差しが、彼と同じだった。

『お前の名前は?』
『……千隼ちはやと申します』
『千隼、良い名前ね。今日からお前は私の物になりなさい』
『それから、私のことは翠瑶すいようと呼びなさい』
 
 そうだ、彼の名前は千隼だ。夢の中のお伽話の青年が、急に存在感を持って迫ってきた。
 鼓動が速くなって、顔に血が昇った。一緒に来た友人たちが心配するほど、俺は興奮していた。見つけたんだ。これを運命と言わずに、何と言うのだろうか。ダンス部の活動が活発で有名な高校で、進められて進学を決めただけだったのに。
 その後の記憶は曖昧だけど、合格していたので、ちゃんと試験は受けられたのだと思う。落ちていたら、せっかくの出会いが台無しだ。
 合格発表でも、彼の姿を見つけた。友人の輪を離れ、そっと背後に近づくと、耳を澄ませた。一緒に来ていたらしき若い女性に「イクオ」と呼ばれていた。また目が合わないかと、じっと見つめていたが、空振りに終わった。
 それから俺は、彼を目で追いかけるようになった。我ながらおかしいと思う。ここまでくると病気だ。ひどい執着だ。
 運命は味方して同じクラスになったので、出欠確認で「町上郁朗まちがみいくお」というフルネームはすぐに分かった。
 気がつくと、いつもじっと郁朗を見ていた。仲のいい友達は誰か、得意な教科は、好きな物は、些細なことを何でも知りたくなった。最初の席替えの時、適当に理由をつけて郁朗の後ろの席と交換した。配布物を配る時、目が合わないかと期待していた。
 すぐに声をかけなかったのは、夢の中の千隼の態度にあった。千隼もきっと姫の事を好きなのに、それを口に出すことは生涯なかった。だから、押せ押せで行けば逃げられる可能性がある。そこだけは慎重にしていた。

 チャンスは、意外と早くやってきた。ある朝、郁朗が俺を見て顔色を変え、逃げ出した。思い出したんだ。
 待っているだけだった姫。だけど俺は、今度こそ逃がさない。今度こそ、私の騎士を手に入れる。
 きっかけは作ったのに、なかなか距離は縮まなかった。それでも、無かったことにしないで対応してくれる、それが嬉しかった。ただ、郁朗は千隼の生まれ変わりだけど、違う人間だ。
 色白で細くて背が高くて猫背で俯き加減で、千隼に全然似ていない。でも、郁朗自身にも惹かれている自分に、いつからか気付き始めていた。俺のことを「王子様」じゃなくて「周藤智哉」として、ちゃんと見てくれてる郁朗のことを、俺は好きになり始めていた。
 前世の姫じゃなくて、俺自身を好きになって欲しいと思い始めていた。
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