上 下
12 / 17

番外編 ~きよみの母親 搬送と意識~

しおりを挟む
 九月の末、急病に倒れて救急搬送されたきよみの母は搬送先の病院で行った検査で外傷性くも膜下出血という診断を下された。
 急を要する外科的治療が必要だと言われ、手術室へ運び込まれる母を心配そうに見送るきよみと彼女のそばに寄り添うたける。
 二人は、心の底から母親の容態を心配していた。
 特にたけるは幼くして両親を亡くしており、初対面ながらもきよみの母親の事をある意味肉親のような存在に思っていた。
 この件が無かったとしても、どこかのタイミングで挨拶で顔合わせをすることになるわけなのだが、最悪な顔合わせとなってしまうなとたけるは思いつつも、兎に角きよみの母親の快復を祈っていた。
 きよみの母親が手術室に入り、時計の針がおよそ一時間と少し経った頃、手術室から執刀医が出てきた。

「先生、母は……」
「落ち着いて聞いてください」

 先生の表情はかなり硬い。二人はその表情を見て同じく表情を硬くした。

「我々でお母様の治療は力の限り行いました──」

 かなり口ごもりながらも先生は説明を始めた。
 患部を手術で治療を行った先生。ひとまずは輸血で体内血液を補充しながら“動脈瘤クリッピング術”という処置法で患部の出血を止め、脳内にある血液をドレーンにて吸液し、手術を終えた。
 しかし、倒れてからかなりの時間が経過していたことで、きよみの母親の容体はかなり悪いとのことだった。
 きよみとたけるはその説明を受け、顔面蒼白になる。
 病状は安定しており、そこからあとは回復をするのを祈るしかない、と執刀医は語る。
 そして、看護師から移動先へ案内してもらい、二人はベッドで寝そべっている母親の姿を目にする。
 左腕には点滴が通っており、頭には包帯が巻かれていた。
 二人はベッドのそばに用意された椅子に座り、きよみは母の手を握り、涙を流す。その姿をただ見つめるたける──。
 その日、きよみは母のいる病室で眠ることにした。
 そしてたけるは親族ではないという事で、すぐに帰ることになってしまった。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

 手術を終えたきよみの母は混在する意識の中、走馬灯に似た何かを見ていた。
 夫と過ごした日々、そこから産まれた娘。可愛がる娘との楽しい日々。
 娘を遺して、夫の元へ行くわけにはいかない。生きなければ。娘が結婚し、子供にも恵まれ、幸せになるその日まで──。

       ☆☆☆ ★★★ ☆☆☆

・手術時間など術中の参考資料
……地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立循環器脳脊髄センター“くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)”
しおりを挟む

処理中です...